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第1回-⑥「第1回日中韓調査結果についての考察」(4)

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【読者参加型共同研究「日本、中国と韓国、何がどう違う?」】
第1回-⑥「第1回日中韓調査結果についての考察」(4)

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◎【読者参加型共同研究「日本、中国と韓国、何がどう違う?」】もくじ


姜英敏からの応答(訳:山本登志哉)

山本先生の感想を読んで、私は二つの点が意外でした。一つ目は、私が山本先生に親戚の家に泊まることを提案した当時、たったそれだけのことが、これほど深い印象を与えるとは思いもしませんでしたし、自分では全く気づかないうちに危うく「相当特殊な関係で特殊な条件」を作ってしまうところだったんですね。二つ目は、制度的な救済の問題が山本先生の視野の中で相互扶助の範疇に入っていたことです。


(1)「共有」の境界線を判断する能力

私が山本先生に親戚の家に泊まるように提案したとき、山本先生から見ると「勝手に」と見えたかもしれませんが、実際には決してそうではありません。「家を共有すること(少なくとも私に鍵を渡されたとき)」は、私とこの親戚の間での暗黙の了解になります。そういう暗黙の了解についての判断があって、初めて私は「勝手に」、自分の家と同じようにその共有物を山本先生に貸して泊めてあげることが出来るのです。暗黙の了解は、中国的な「共有」関係が成立する前提で、自分と親戚や友だち間の「共有関係」がどの程度深まっていて、どのような行動をとることが適当なのかを的確に判断することは、中国では円満な人間関係を維持する上での重要な能力です。ですから、私は授業で学生に「自分に親友がいたとして、困ったときにその親友にお金を借りられる人は手を挙げて」と学生たちに言うと、考えた後で手を挙げる人もあり、挙げない人もありました。でもまず友だちに電話をしてお金を貸してくれるかどうかを確かめてから手を挙げる学生は一人もいませんでした。そのことからも分かるように、学生たちの頭の中にはみんなそのような「暗黙の了解」があるのです。その暗黙の了解によって、私はその場で山本先生に家を貸す提案が出来たわけですし、山本先生の知り合いも、友だちがいない状況でその友だちの本を別の人に貸せたのです。この暗黙の了解を上手に理解できるかどうかは、中国では社会的発達の重要な指標になります。それでもし暗黙の了解についての感覚にズレがあると、不愉快なことが起こり得ますし、場合によっては関係が壊れることもあります。先に書いた中国人留学生のメイさんは、まさに百合さんとのお金の貸し借りを巡る暗黙の了解関係が異なったために、二人の関係にひびが入ってしまったのです。


(2)制度的扶助と人間関係の中の互助

私の議論では、社会制度という要素については一切考えず、人間関係に議論を限定して話を進めました。山本先生は今回中国と日本の違いを論ずるときに、日本の制度的扶助を中国の個人間の互助と比較しましたが、この点はお互いの理論的な立場に違いがあるかもしれません。

私が社会制度については除外して考えたのは、「中国人の間で財産を<共有>し、助け合わなければならないのは、社会制度が整っておらず、人々が助け合うときには制度に頼れないからだ」というような結論の出し方を、注意深く避けたかったからです。私が以前中日の学生間で対話を組織したとき、やはり日本の学生が「お金を借りたいなら、どうして金融機関に借りないんですか?中国には少額のお金を貸す金融機関がないからですか?」と尋ねていました。

けれども、そういう言い方が成り立つなら、香港や台湾といった社会制度が整った地域に於いては、人間関係の性質が変わって、人々はもう「狭くて深い」人間関係の図式をもはや作らないようになるのでしょうか?少なくとも現在の文学や映画作品で見る限りは、やはりそうではないように見えます。

果たして私たちは制度という要素を含め、改めて議論の内容を組み立て直すべきなのかどうか、考えてみる必要を感じました。

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筆者プロフィール

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山本 登志哉(日本:心理学)

教育学博士。子どもとお金研究会代表。日本質的心理学会元理事・編集委員。法と心理学会元常任理事・編集委員長。1959年青森県生まれ。呉服屋の丁稚を経て京都大学文学部・同大学院で心理学専攻。奈良女子大学在職時に文部省長期在外研究員として北京師範大学に滞在。コミュニケーションのズレに関心。近著に「ディスコミュニケーションの心理学:ズレを生きる私たち」(高木光太郎と共編:東大出版会)


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姜英敏 Jiang Yingmin(中国:教育学)

教育学博士。北京師範大学国際比較教育研究所副研究員、副教授。1988年~1992年に北京師範大学教育学部を卒業。1992~1994年、遼寧省朝鮮族師範学校の教師を経て、北京師範大学国際と比較教育研究所で修士号、博士号を取得し、当所の講師として務め、現在は副教授として研究・教育に携わっている。在学期間中、1997年~1999年日本鳴門教育大学に留学。また2003年~2005年はポスドクとして、日本の筑波大学に留学し、研究活動を行い、さらに中央大学や早稲田大学、青山学院大学の教員と積極的に日中の学生間の交流授業を進めてきた。日本と韓国、中国を行き来して、実際の授業を観察した道徳教育の国際共同比較研究。

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