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【誰一人取り残さない「こどもまんなか社会」の実現を目指す「こども家庭庁」】その10: こども政策に関する国と地方の協議の場〜こども政策の最前線は自治体〜

要旨:

「地方分権」とは、政治・行政において統治権を中央政府から地方政府に部分的、あるいは全面的に移管する事を意味するものである。法律に基づく「国と地方の協議の場」では、内閣総理大臣はじめ関係閣僚と地方六団体(全国知事会・全国市長会・全国町村会・全国都道府県議長会・全国市議会議長会・全国町村議長会)代表による協議が年に数回ずつ開催されている。こども政策については、こども家庭庁設立前の準備会合を経て、「こども政策に関する国と地方の協議の場」が設置され、こども政策担当大臣等政務とこども家庭庁長官はじめ幹部と、地方三団体(全国知事会・全国市長会・全国町村会)の会長・こども政策担当首長との各年度2回ずつの会議が開催されている。各会議では、こども政策に関する率直な意見交換が行われ、政策への反映が図られている。

キーワード:

地方分権、国と地方の協議の場、こどもまんなか
「地方分権」の推進と法定の「国と地方の協議の場」の設置と開催の状況

「地方分権」とは、政治・行政において統治権を中央政府から地方政府に部分的、あるいは全面的に移管する事を意味するもので、対義語は中央集権です。「地方分権改革」については、これまで、「地方分権改革推進委員会」が2006年制定の「地方分権改革推進法」に基づいて2007年に発足し、2010年に廃止されています。その地方分権改革推進委員会が出した4次にわたる勧告*1や2014年に導入した「提案募集方式」による取組等を踏まえて、「地方分権一括法」(第1次~第14次)が成立しました。

そして、第1次から第13次までの「地方分権一括法」は、地域の自主性及び自立性を高めるための改革を総合的に推進するため、国から地方公共団体又は都道府県から市町村への事務・権限の移譲や、地方公共団体への義務付け・枠付けの緩和等を行っています。たとえば、戸籍の事業は法律では国の事務とされていますが、実際には身近な基礎自治体(市区町村)で、戸籍に関する届け出や謄本等の取得ができるようになっています。しかしながら、当初は、国から市区町村に委任された「機関委任事務」とされていましたが、1999年の「地方分権一括法」により「機関委任事務」は廃止され、その後は自治体の事務である「法定受託事務」とされています*2

そして、2011年4月28日に「国と地方の協議の場に関する法律」が成立し、地方自治に影響を及ぼす国の政策の企画及び立案並びに実施について、国と地方が協議を行う「国と地方の協議の場」について定められ、同法に基づき「国と地方の協議の場」が開催されています*3

最初の会議は2011年6月に「国と地方の協議の場(2011年度第1回)」として開催され、その後、各年度平均して3回から4回程度開催されています。

直近の「国と地方の協議の場(2024年度第3回)」は、2024年12月17日(火)に官邸会議室で開催され、下記の方々が出席されました(肩書は開催当時)。

「国」からの出席者
石破茂内閣総理大臣
林芳正内閣官房長官(議長)
村上誠一郎総務大臣(議長代行)
伊東良孝内閣府特命担当大臣(地方創生・新しい地方経済・生活環境創生)
斎藤洋明財務副大臣(代理)
鈴木馨祐法務大臣
福岡資麿厚生労働大臣
三原じゅん子内閣府特命担当大臣(こども政策・少子化対策・若者活躍・男女共同参画)
滝波宏文農林水産副大臣(代理)

「地方」からの出席者(「地方六団体」から)
村井嘉浩全国知事会会長(副議長)
山本徹全国都道府県議会議長会会長
松井一實全国市長会会長
坊恭寿全国市議会議長会会長
吉田隆行全国町村会会長
渡部孝樹全国町村議会議長会会長

協議事項は「令和7年度予算編成及び地方財政対策について」であり、意見交換の中で、少子化対策担当の三原じゅん子内閣府特命担当大臣は、「こども・子育て政策の強化は、国と地方が車の両輪となって取り組んでいくべきであり、全国一律で行うべき施策、地域の実情に応じた独自の施策の双方が重要です。引き続き、総務省等とも連携し、全国どの地域でも、こども・子育て政策の強化が図られるよう、しっかりと取り組んでまいります」と発言しています。

また、地方団体からも地域の実情に応じた少子化対策や、こども・子育て支援の優良事例の横展開や、少子化対策や子育て支援施策等への財政力の違いや人材不足などにより都市部と格差が生じているものもあることから全国一律の施策として、国の責任と財源において必要な財政措置を講じることを求める発言をしています*4

「こども基本法」の理念に基づく「こども政策に関する国と地方の協議の場」設置の意義

2021年12月21日に閣議決定された『こども政策の新たな推進体制に関する基本方針』には、「こどもまんなか社会を目指すこども家庭庁の基本姿勢」として、①こどもの視点、子育て当事者の視点、②地方自治体との連携強化、③NPOをはじめとする市民社会との積極的な対話・連携・協働、の3項目が明示されています。

そして、「②地方自治体との連携強化」については、「こども政策の具体的な実施を中心的に担っているのは地方自治体であり、地方自治体の取組状況を把握し、取組を促進するための必要な支援等を行うとともに、現場のニーズを踏まえた地方自治体の先進的な取組を横展開し、必要に応じて制度化していく。また、地方自治体との人事交流を推進する、地方自治体との定期的な協議の場をきめ細かく設けるなどにより、地域の実情を踏まえつつ、国と地方公共団体の視点を共有しながら政策を推進していく」とされています*5

『こども基本法』の【第5条】には、「地方公共団体は、基本理念にのっとり、こども施策に関し、国及び他の地方公共団体との連携を図りつつ、その区域内におけるこどもの状況に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する」と「地方公共団体の責務」が規定されています。【第10条】には「都道府県は、こども大綱を勘案して、当該都道府県におけるこども施策についての計画(以下この条において「都道府県こども計画」という。)を定めるよう努めるものとする」との「都道府県こども計画、市町村こども計画の策定(努力義務)」が規定されています。【第11条】には、「国及び地方公共団体は、こども施策を策定し、実施し、及び評価するに当たっては、当該こども施策の対象となるこども又はこどもを養育する者その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講ずるものとする」と、「こども等の意見の反映」の義務が規定されています*6

この「地方公共団体」とは、地方自治法に基づく普通地方公共団体及び特別地方公共団体を指し、議会や執行機関のほか、法律の定めるところにより置かれる委員会(例:教育委員会)や、法律又は条例の定めるところにより置かれる附属機関が含まれると解されます。

また、議員立法による「こども基本法」と同時に国会で審議された「こども家庭庁設置法」が公布された日に、当時のこども政策担当の野田聖子内閣府特命担当大臣は、「全国の自治体の首長の皆様」に対し、資料1のような「こどもまんなか社会の実現に向けて」と題するメッセージを発出されました。

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資料1*7

その中に次のような文章があります。

「こども政策の推進は国だけでできるものではありません。こども政策の具体の実施を担っていただいているのは地方自治体であり、国と地方自治体の連携が必要不可欠です。地方自治体では、日々こども、若者、子育ての当事者や支援者の声を聴き、支援の重要な担い手であるNPO等をはじめとする様々な民間団体等と連携・協働する中で、現場のニーズを踏まえた新たな取組が生まれており、それらは地方創生にも資する取組です。国は、基本となるこども政策の理念、方向性を明確に打ち出すとともに、こうした地方自治体の先進的な取組の共有を図り、横展開を進め、必要に応じて制度化していくことが求められていると考えます。私は、こども政策の推進については、国と地方自治体が車の両輪となり、現状と課題を共有し、それぞれの役割を十全に果たしていく必要があると思います。こうした連携・協働の基盤を構築するために、今後、今まで以上に地方自治体の皆様の御意見を伺い、対話を重ねながら、国、地方自治体の双方向の情報発信と共有、人事の交流、定期的な協議の場等の実現について具体的に検討してまいります」

ここに明記されている「定期的な協議の場」が「こども政策に関する国と地方の協議の場」として設置されているのです。

「こども政策に関する国と地方の協議の場」

こうして、こども家庭庁を事務局として設置されたのが、「こども政策に関する国と地方の協議の場」です。これは、こども政策の検討にあたっては、国と地方が連携を強化し、車の両輪となって実施していくことが重要であることから、政府と地方三団体(全国知事会・全国市長会・全国町村会)の長等との率直な意見交換を行うことにより、今後のこども施策の推進を図るために設置されたのです*8

まず、こども家庭庁が設立される前の2023年1月24日の夕刻に、「こども政策に関する国と地方の協議の場の準備会合」がハイブリッド方式で開催され、下記の方々が出席しました(肩書は開催当時)。

「全国知事会」から
平井伸治鳥取県知事(全国知事会長)
三日月大造滋賀県知事(次世代育成支援対策PTリーダー)

「全国市長会」から
立谷秀淸相馬市長(全国市長会長)
吉田信解本庄市長(社会文教委員会委員長)

「全国町村会」から
荒木泰臣嘉島町長(全国町村会長)
木野隆之輪之内町長(行政委員会委員長)

「国」から
小倉將信こども政策担当大臣
和田義明内閣府副大臣
自見はなこ内閣府大臣政務官
簗和生文部科学副大臣
伊藤孝江文部科学大臣政務官

上記の方々が参加するとともに、こども家庭庁設立準備室の渡辺由美子室長(現在のこども家庭庁長官)、内閣府・文部科学省・厚生労働省の担当幹部職員が出席し、私もこども家庭庁設立準備室の政策参与として参加しました。

その時の議事概要には、国からの発言として「『自治体と国とが連携して進めていく』ということは、『当事者目線であるということ』、『NPOなど民間団体の皆様と協働してこども政策を行うこと』と並んでこども政策の新たな推進体制に関する基本方針の三本柱のうちの一つであり、『自治体と国との協議の場を設けてことを進めていく』ための準備会合が行われたということは大変意義深いこと」であり、「本準備会合をキックオフとして、自治体と国とがこども政策をしっかりと前に進める、そういった機運を盛り上げていきたい」とともに、「全国知事会、全国市長会、全国町村会が、地方、あるいは地域の住民を代表して行政に取り組んでいらっしゃる立場から、共通した問題意識を多くお持ちであるので、国と地方の協議の場を通した地方の皆様同士の横連携も重要となると考える」と記述されています*9

そして、こども家庭庁設立後の2023年5月10日開催の第1回を皮切りに、これまで各年度2回ずつの4回の会議が開催されています。

毎回、「こども政策に関する意見交換」が行われており、2023年度第1回は、「こども・子育て政策強化について(試案)」及び「こども政策DXの推進について」が、2023年度第2回は、「こども大綱(中間整理)」についての意見交換が行われました。2024年度第1回は、「子ども・子育て支援法等一部改正法成立を受けた今後の流れ」及び「自治体こども計画の策定」について議題とされました。

直近の2025年度第1回は2025年4月24日にハイブリッド方式で開催され、下記の方々の出席がありました。

「全国知事会」から
村井嘉浩宮城県知事(全国知事会長)
三日月大造滋賀県知事(子ども・子育て政策推進本部長)代理の岸本織江滋賀県副知事

「全国市長会」から
松井一實広島県広島市長(全国市長会長)
都竹淳也岐阜県飛騨市長(社会文教委員会委員長)

「全国町村会」から
吉田隆行広島県坂町長(全国町村会長)代理の古口達也栃木県茂木町長

「国」から
三原じゅん子内閣府特命担当大臣
辻󠄀清人内閣府副大臣
友納理緒内閣府大臣政務官
金城泰邦文部科学省大臣政務官
鰐淵洋子厚生労働副大臣

こども家庭庁からは渡辺由美子長官はじめ各局長及び資料説明担当課長が出席し、中村英正官房長が司会を担当し、私も参与として出席しました。

今回は次の3つのテーマについて、こども家庭庁の担当者から課題や政策の概要について説明をした後、地方三団体及び国の出席者で1時間半にわたる意見交換が行われました。

①「こどもまんなか実行計画」について

本計画は国が策定するこどもに関する計画であり、2025年度は「こども未来戦略加速化プラン」の本格実施の年であり、こども・子育て施策の拡充策を実行に移す年であることから、自治体との対話に基づく策定が望まれます。

三原大臣からは、特に困難に直面するこども・若者への支援、質の高い育ちの環境の提供、少子化対策などをしっかり進めていきたいと共に、その際にはこども・若者の意見をこれまで以上にしっかりと聴き、EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング。証拠に基づく政策立案)や丁寧な情報発信を推進しながら、こども施策のバージョンアップを図りたいとの決意が表明されました。

長官官房・中原茂仁参事官(総合政策担当)による説明の後、自治体からは、個別施策の着実な実行のために、さらにきめ細かい自治体との対話の必要性が提起されるとともに、特に最近の物価高や人財不足の深刻な状況などへの理解と対応が求められました。

②「こどもの自殺対策」について

本テーマについては、昨年の小中高生の年間自殺者数が500人を超える過去最多となったことを踏まえての具体的な意見交換が行われました。

三原大臣はこの数の多さは痛恨の極みと話し、先月、県としてこどもの自殺対策に取り組んでいる長野県の生徒・学校関係者から、抱える不安や悩み、それらの相談対応などを聴いたことを紹介されました。

現在、「自殺対策基本法」の改正法案が国会で議論されており、改正案にはこどもの自殺対策として自治体との連携に関する事項が盛り込まれていることもあり、国では、都道府県・政令指定都市に「こども・若者の自殺危機対応チーム」の設置等を国からも10/10の(全額)補助で推進しようとしています。

支援局総務課・山下護課長の説明の後、村井知事からは「自死」の用語の使用の意義が、都竹市長からはこどもの自殺の適切な要因分析の必要性が指摘され、松井市長からは「被爆自治体の市長としても生命の大切さをしっかりと伝えていくことの必要性」が提起されました。このテーマについては比較的多くの時間を割いた意見交換が行われ、こどもの自殺は、様々な要因が関係することもあり、「自殺未遂」の事例についても丁寧に分析することが大切との認識も共有され、こどもたちの命を守る取組みの難しさとともに予防対策強化の必要性が確認されました。

③「こども・若者の居場所づくり」について

成育局成育環境課・安里賀奈子課長は、2023年12月に「こどもの居場所づくりに関する指針」の閣議決定を踏まえて、学童期のこどもの居場所については、昨年12月に「放課後児童対策パッケージ2025」を策定し、放課後児童クラブの受け皿整備等を推進しているなどについて説明しました。

その後、村井知事、都竹市長から、特に小学生の「朝の居場所の確保が重要」との問題提起がありました。これは、三原大臣が冒頭の挨拶で、重視しているとされたもので、共働き世帯の更なる増加が見込まれる中、国としても、自治体としても、「朝の居場所」への対応が共通課題であることが認識されました。

1時間半にわたる、こどもの視点に立った、国と地方の建設的で、活発な意見交換の後に、三原大臣は、「三団体の皆様から率直で貴重なご意見を、じっくりと、直接聴くことができて、大変有意義でした。今後も、定期的に意見交換を行うことで、さらに、国と地方の連携を強化していきたいと思います」と決意を述べられました。地方三団体の皆様も、今後の課題はありつつも、真剣な意見交換の時間を比較的長くもて、課題の共有を図れたご様子であり、和気あいあいと笑顔で会場を後にされました*10

このように、地方分権の推進のために「国と地方の協議の場に関する法律」に基づく「国と地方の協議の場」が設置されていることに加えて、特に「こども政策に関する国と地方の協議の場」が設置され、協議が継続されていることは大変に有意義です。また同時に、こども家庭庁長官官房総務課地方連携室が窓口となり、指定都市市長会、中核市市長会、都道府県議会議長会、市議会議長会、町村議会議長会など他の地方団体の会議にも、こども政策についての報告に出向いています。また、地方六団体の皆様は、こども家庭庁や内閣府を訪問して、こども政策担当大臣・副大臣・大臣政務官や長官・官房長・局長等を訪問されての要請や提言などをされています。私も同席することがありますが、各地方団体との対話の機会は大変意義深く感じます。

そして、こども家庭庁では、各自治体向けに、予算や補正予算の概要、自治体こども計画や各政策に関するオンライン説明会を適時に開催しています。また、都道府県・市区町村から約60名の自治体職員が交流人事でこども家庭庁職員として働いており、その過程で、自治体現場の声を伝え、反映しています。

こども政策の最前線は自治体であることから、こども家庭庁では「こども政策に関する国と地方の協議の場」をはじめとする自治体と国との対話の機会をもつように努めています。自治体においても、こども政策・行政サービスの現場としての実態や提言を折々にこども家庭庁に提起しています。このように、国と自治体の相互の緊密な連携による「こどもまんなか」の取組みの推進は引き続き不可欠と考えます。

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2025年4月24日開催 こども政策に関する国と地方の協議の場の様子


注記:

筆者プロフィール
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清原 慶子(きよはら・けいこ)

慶應義塾大学大学院修了後、東京工科大学メディア学部長等を経て、2003年4月~2019年4月まで東京都三鷹市長を務め、『自治基本条例』等を制定し、「コミュニティ・スクールを基盤とした小中一貫教育」「妊婦全員面接」「産後ケア」を創始するなど「民学産公官の協働のまちづくり」を推進。内閣府:「子ども子育て会議」・「少子化克服戦略会議」委員、厚生労働省:「社会保障審議会少子化対策特別部会」委員、全国市長会:「子ども子育て施策担当副会長」等を歴任。現在は杏林大学客員教授、こども家庭庁参与、総務省行政評価局アドバイザー・統計委員会委員、文部科学省中央教育審議会・いじめ防止対策協議会委員などを務め、「こどもまんなか」「住民本位」「国と自治体の連携」等による国及び自治体の行政の推進に向けて参画している。
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