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【誰一人取り残さない「こどもまんなか社会」の実現を目指す「こども家庭庁」】 その11:若い世代の描くライフデザインや出会いを考えるワーキンググループ

要旨:

『こども基本法』第3条第6項の「家庭や子育てに夢を持ち、子育てに伴う喜びを実感できる社会環境を整備すること」に基づき、『こども大綱』には「若い世代の意見に真摯に耳を傾け、その視点に立って、若い世代が、自らの主体的な選択により、結婚し、こどもを産み、育てたいと望んだ場合に、それぞれの希望に応じて社会全体で若い世代を支えていくことが少子化対策の基本である」と記載されている。こうした理念に基づき設置された少子化担当大臣主宰の『若い世代の描くライフデザインや出会いを考えるワーキンググループ』の審議とそのとりまとめを反映した政策は、若者のライフデザインの必要性と自治体における結婚支援政策の充実やそれを支える結婚・出産に関する気運醸成の必要性を提起している。全国知事会・全国市長会等の自治体も少子化をめぐる諸課題の重要性を認識し、若者のライフデザインや結婚支援をめぐる政策について工夫を図っている。

キーワード

ライフデザイン、少子化、結婚支援、若者参加
少子化の進行と若者の意識を知ることの必要性

2023年の出生数は72万7,288人で、一人の女性が一生の間に出産するこどもの数に相当する合計特殊出生率は1.20と、いずれも過去最低を更新しました。第2次ベビーブーム(1971~1974年)の前年の1970年と比べて、出生数は約6割減少しています。

「少子化」については、国においても自治体においても、毎年生まれてくるこどもの数の変化の重要な要因を考えるに当たり、若年人口が構造的に年々減少していくことの影響のほかに、どれぐらいのカップルが結婚するかということや、結婚している夫婦からこどもが何人生まれるのかということが注目されています。

たとえば、2023年の婚姻件数は47万4,741組と戦後最低を更新し、1970年と比べて約5割減少(初婚同士の婚姻件数で見れば約6割減少)しています。婚姻件数の減少や未婚割合の上昇といった、いわゆる「未婚化」の進行が深刻化する少子化の大きな要因となっていることが伺えます。すなわち、1990年以降、男女ともに顕著に未婚割合が上昇し、現在は、かつてのように結婚することが当たり前の社会ではなくなっていると言えます*1

急速な少子化の進行がみられる中にあって、『こども基本法(2023年4月1日に施行)』第3条第6項には、「家庭や子育てに夢を持ち、子育てに伴う喜びを実感できる社会環境を整備すること」と定められています*2

そして、『こども基本法』に基づき制定することが求められている『こども大綱』(2023年12月22日閣議決定)において、「結婚、妊娠・出産、子育ては個人の自由な意思決定に基づくもの」であって、「多様な価値観・考え方を尊重することを大前提」としています。「(中略)その上で、若い世代の意見に真摯に耳を傾け、その視点に立って、若い世代が、自らの主体的な選択により、結婚し、こどもを産み、育てたいと望んだ場合に、それぞれの希望に応じて社会全体で若い世代を支えていくことが少子化対策の基本である」としています*3

『若い世代の描くライフデザインや出会いを考えるワーキンググループ』の設置と経過

このような問題意識に基づいて、2024年7月に、当時の内閣府特命担当大臣(こども政策 少子化対策 若者活躍 男女共同参画、孤独・孤立対策)が主宰して、『若い世代の描くライフデザインや出会いを考えるワーキンググループ』が設置されました。若者が思い描く人生設計や人との出会いを考えるに当たり、関係者からの意見を聴取し、課題について検討するためです。

構成員は12名で、松田茂樹中京大学教授等の有識者5名と大学院生・大学生を含む20代の若者7名で、加藤鮎子前大臣から三原じゅん子現大臣に引き継がれて、2025年4月までに8回の会議が開催されています*4

第1回目は2024年7月19日に開催され、その後8月に3回の会議が集中的に開催され、【中間とりまとめ】が加藤大臣に手交されました。その後、三原大臣主宰で4回、合計8回の会議が開催されました。私は、その全ての会議に陪席しています。各会議の議題は以下の通りです。

  • 【第1回:2024年7月19日】
    1. 結婚に関する現状と課題について
    2. Z世代の価値観等について
  • 【第2回:2024年8月1日】
    1. 「ライフデザイン」に取り組む意味を考える
    2. 家族留学を通じた若者のライフデザイン支援
    3. ライフデザインに係る国や自治体の取組
  • 【第3回:2024年8月8日】
    1. 官民の結婚支援について
    2. こども若者★いけんぷらす報告
  • 【第4回:2024年8月26日】
    1. ウェブアンケート調査結果(速報)
    2. 議論のまとめ(中間報告(案))
  • 【第5回:2024年11月18日】
    1. これまでの議論について
    2. 民間事業者におけるライフデザインに関する取組例について
    3. ライフデザイン支援の現状と拡充方策(各年代における情報提供等)について
  • 【第6回:2024年12月16日】
    1. 結婚に対する意識や価値観等について
    2. 若い世代への情報発信について
  • 【第7回:2025年2月17日】
    1. 共働き・共育ての実現に向けた雇用環境の整備~育児・介護休業法改正を中心に~
    2. ダイバーシティ経営と実践事例
    3. 女性活躍に向けた男女双方の意識改革・理解促進
  • 【第8回:2025年4月21日】
    1. 議論のまとめ(最終報告(案))
『若い世代の描くライフデザインや出会いを考えるワーキンググループ 議論のまとめ(中間報告)』の概要と2024年度補正予算への反映

第4回までの議論を踏まえて、2024年8月に資料1のような議論のまとめ(中間報告)が、加藤鮎子大臣に提出されています。

report_02_332_01.jpg 資料1 出典:こども家庭庁 https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/5a310876-d01c-4f68-befb-841026bec796/08eb4ef3/20240920_councils_lifedesign-wg_09.pdf(参照 2025-05-19)

「若い世代の現状認識や価値観に関する主な意見等」については、人生の選択肢について「他人や社会にとっての正解」よりも「自分なりの納得解」を大切にする傾向があること、近い世代の様々なロールモデルを知り、自分の将来の「解像度」を高めたいというニーズがあるなどの若い世代の率直な意識が汲み上げられています。

そして、「今後の取組に関する主な意見等」としては、①ライフデザイン支援、②安心して安全に利用できるマッチングアプリ・結婚相談所、③行政が提供する出会い・結婚支援サービス、④若い世代による情報発信等の課題や対応策、が提起されています*5

この中間報告を受けて、2024年度補正予算では、「若い世代のライフデザインの可能性の最大化(地域における結婚支援事業等への支援強化:地域少子化対策重点推進交付金)」が83億円、「若い世代のライフデザインの可能性の最大化(若い世代によるライフデザインに関する情報発信等)」が3億円、「若い世代のライフデザインの可能性の最大化(民間企業等と連携したライフデザイン支援)」3億円、「若い世代のライフデザインの可能性の最大化(若い世代の希望を叶える官民連携型結婚支援等の推進)」1億円が計上されています*6

『若い世代の描くライフデザインや出会いを考えるワーキンググループ 議論のまとめ(最終報告)』の概要と政策への反映

2025年5月15日、ワーキンググループの松田座長をはじめとする8名の構成員から三原じゅん子大臣に『最終報告書』が手交され、懇談が行われました*7

report_02_332_02.jpg

2025年5月15日 三原じゅん子大臣に最終報告書を手交するワーキンググループの構成員

『最終報告書』の構成は、以下の通りです。

  1. 若い世代のライフデザインや出会いを考える背景
  2. ワーキンググループ及び「議論のまとめ(最終報告)」の位置付け
  3. 若い世代のライフデザインや出会いをめぐる現状
  4. 若い世代の現状認識や価値観に関する主な意見等
    (1)恋愛・出会いについて、(2)結婚について、(3)妊娠・出産、子育てについて、(4)経済的状況等について、(5)働き方等について
  5. 今後の取組に関する主な意見等
    (1)ライフデザイン支援について、(2)マッチングアプリ・結婚相談所について、(3)行政が提供する出会い・結婚支援について、(4)若い世代による情報発信等について
  6. まとめ

report_02_332_03.png 資料2 出典:こども家庭庁 https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/5a310876-d01c-4f68-befb-841026bec796/d6568608/20250514_councils_lifedesign-wg_16.pdf(参照 2025-05-19)

資料2にまとめられている概要には、【ライフデザイン支援等の視点】として、「結婚するかしないかは自由であり、選択肢として前向きにとらえたり、希望を叶えたりするための取組であることを改めて確認したい」という記述から始まっています。そして、多様性や個性を尊重する社会だからこそ混乱し、選択しにくい状況を理解して、若者に寄り添っていく工夫の必要性を指摘しています。

【ライフデザイン支援、出会い支援等の取組の具体化に向けて】は、学校での取組拡大に向けた地域との連携、若い世代のライフデザインを応援しようとする気運醸成の必要性が指摘されています。そこで、大学等への働きかけや、企業等の経営層や管理職の理解の重要性を提起しています。さらに、ひとり親家庭で育つこどもや非正規雇用者、困難な状況にあるこども・若者がライフデザインを描けるような配慮も指摘しています。

自治体の少子化をめぐる取組みの動向

2024年11月27日、全国知事会は『地方創生・日本創造への提言』をまとめています。その提言は、「若い世代が未来に展望を描ける社会の構築に向けて、スピード感をもってどのような具体策を打ち出すかが極めて重要であり、施策の検討に当たり、地方の様々な取組みにしっかり目を向けることはもとより、人口減少対策を統括推進する司令塔の設置など、国が強いリーダーシップを発揮する体制を整備することも含め、信念と勇気をもって更に強力に施策を展開することを求め」ています。その上で、「地方の側においては、都道府県、市町村の別を問わず、固有の課題への対処は、それぞれの実情に応じて、自らの力で自律的に解決していくことを基本とし、その解決に向けた実力を自治体側がしっかり備えていくという覚悟が必要である」としています。

具体的な項目である「Ⅰ 人口減少対策を要とした地方創生の実現に向けて」の中に、「人口減少、少子化対策の根本は、若い世代が将来に明るい展望を持ち、希望する誰もが安心して結婚し、子どもを生み・育むことができるような社会経済状況を作り出していくことである」としているほか、「3 子育てと仕事と生活の調和(若い世代が将来の見通しを立てられる社会の構築)」では、「国は、地方とともに、結婚したい若者を支援する取組みを推進することや地方からの若年女性をはじめとした人口流出を防止するために、若年者の正規雇用の促進や賃金給与の向上に向けた環境整備、長時間労働などの硬直的な働き方の見直しや男性の家事・育児への参画のための男性の育児休業取得の一層の促進、女性の活躍を阻むようなアンコンシャス・バイアスの解消など、若者が結婚や妊娠・出産・子育てに希望を持てる環境の整備を図ること」を提起しています。この提言については、国の各府省に提出して意見交換をしています*8

また、全国市長会は、同時期の2024年11月14 日、理事・評議員合同会議で、『デジタル社会の推進と人口減少への対応による新たな地方創生の実現に関する決議』を決定しています。すなわち、「人口減少への対応による新たな地方創生の実現」として、「誰もがチャレンジでき、若者・女性に選ばれる地方、誰もが安心して子どもを産み育てることができる地方、多様性のある地域分散型社会づくりに向け、これまでにないような大胆な政策を打ち出し、強力に推進すること」などを提言しているのです*9

そして、都道府県や市町村による結婚支援の取組みも具体化している現状があります。


注記

筆者プロフィール
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清原 慶子(きよはら・けいこ)

慶應義塾大学大学院修了後、東京工科大学メディア学部長等を経て、2003年4月~2019年4月まで東京都三鷹市長を務め、『自治基本条例』等を制定し、「コミュニティ・スクールを基盤とした小中一貫教育」「妊婦全員面接」「産後ケア」を創始するなど「民学産公官の協働のまちづくり」を推進。内閣府:「子ども子育て会議」・「少子化克服戦略会議」委員、厚生労働省:「社会保障審議会少子化対策特別部会」委員、全国市長会:「子ども子育て施策担当副会長」等を歴任。現在は杏林大学客員教授、こども家庭庁参与、総務省行政評価局アドバイザー・統計委員会委員、文部科学省中央教育審議会・いじめ防止対策協議会委員などを務め、「こどもまんなか」「住民本位」「国と自治体の連携」等による国及び自治体の行政の推進に向けて参画している。
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