CRNではすべての子どものウェルビーイングのために、多様な特性や背景をもつすべての子どもが自分らしく生活し学ぶことができるように、様々な研究と情報発信に取り組んでいます。
そのような中で、CRNでは「発達障害」と言われている子どもたちが、その特性を活かして、自分らしい学びを実現するにはどうしたらよいかを考え、インクルーシブな社会をつくっていくことに貢献したいと考えました。現在、発達障害に関する情報が多く発信され、理解も進みつつあります。その一方で、一般に流布している情報の中には誤解に基づくものや、あいまいな言葉で語られているものも多いのが現状です。そこでCRNでは、小児医学や臨床心理学、発達心理学、教育学などの各領域の専門家とともに、学問的な見地から正確な情報を届けてまいりたいと思います。
「わが子が発達障害かもしれない」と感じる保護者の方々にも、「自分が受けもつ児童生徒が発達障害かもしれない」と感じる保育者や先生方にも伝わるように分かりやすい表現や伝え方を心がけていきます。そして、専門家と多くの保護者、保育者・先生方とをつなげるネットワークをつくっていくことを目指して、このコーナーを開設いたします。
目次
- ●はじめに 発達障害とは
- ●タイプ・年齢別の症状やかかわり方
- ●診断方法
- ●よくある誤解 ①発達障害という診断名がある?
- ●発達障害の診断名について
②親の育て方が原因で発達障害になる?
③グレーゾーンは発達障害の一種?~発達障害に関するあいまいな言葉たち~
はじめに 発達障害とは
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発達障害とは、生まれつきの認知や行動の特徴によって、対人関係やコミュニケーション、行動や感情のコントロール、学業などに大きな困難を伴う状態のことです。正確には、「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥・多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」と定義されています。具体的な診断名としては、ADHD(注意欠如多動症、または注意欠陥多動性障害)、ASD(自閉スペクトラム症)、そしてLD(学習障害)、などが代表的です。2022年の文部科学省の調査によると、「学習面又は行動面で著しい困難を示す」とされた小中学生の割合は、8.8%、高校生は2.2%でした。
出典:文部科学省「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果(令和4年)について」
タイプ・年齢別の症状やかかわり方
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■注意欠如多動症(ADHD)
- ●ADHDとは
- ●ADHDの診断基準 ●ADHDの症状と対応・治療
- 乳幼児期 学童期 青年期・成人期
診断方法
発達障害かどうかの診断は医師が行います。診断を受けるためには、医療機関で精神科や小児科の診察を受ける必要があります。ただし、発達障害に関する相談やサポートは、地域の発達障害者支援センターや福祉センター、大学の学生相談室など、医療機関以外の場所で受けることができます。中には、発達障害とは診断されていないが障害の疑いがあるという状態でも利用できるサポートもあります。
診断によく使われるのは、DSM-5という、米国精神医学会(APA)が出版している精神疾患の診断基準・診断分類基準です。複数の典型的な症状の項目が列挙されていて、あてはまる項目の数が一定の数以上であることが診断の根拠になります。本人や家族等からの情報、知能検査なども参考にして判断します。
よくある誤解
よくある誤解①:発達障害という診断名がある?
「発達障害」という特定の診断名(病名)はありません。発達障害とは、注意欠如多動症(ADHD)、自閉スペクトラム症(ASD)、そして学習障害(LD)、という3つの代表的な障害の総称だからです。また、ADHDのみ、LDのみなど、単独で症状が見られることもある一方、ADHDとLD両方の診断基準を満たすなど、複数の診断名が併存する場合があります。
よくある誤解②:親の育て方が原因で発達障害になる?
発達障害の特徴に「生得的である」点があります。生得的とは、生まれてから後の原因によって生じるのではなく、簡単に表現すると「生まれつき」という意味です。発達障害は、複数の遺伝子の特定の組み合わせが発達に関連していることが多くの医学的研究によって明らかになっています。ですから、乳幼児期の家庭環境や親の養育態度自体が原因で発達障害になることはありません。
よくある誤解③:「グレーゾーン」は発達障害の一種?~発達障害に関するあいまいな言葉たち~
最近、発達障害とは言わずに、「グレーゾーン」「発達障害もどき」「発達の凸凹」などと表現するケースが見られます。「グレーゾーン」と「発達障害もどき」「発達の凸凹」は、いずれも発達障害の診断の基準は満たさない(診断に必要な症状の種類や程度が不十分な)状態に対してつけられた厳密な定義のない名称です。発達障害ではないのですが、発達障害の一部であるように使われ、混乱のもとになっています。
発達障害に含まれる3つの障害(ADHD、ASD、LD)にはそれぞれ明確な診断基準があります。しかし、一部の医師や保護者の判断によって、「グレーゾーン」「発達障害もどき」「発達の凸凹」といった、正しい診断結果を誤解させるような名前が独り歩きしてしまっているのです。これらの名称は正確な診断名ではなく、対応する治療方法も分かっていません。
発達障害の診断名について
発達障害の診断名について読者からの問い合わせがありましたので、その変遷と現状を説明します。アメリカ精神医学会が発行する精神疾患の診断基準集「DSM」は、60年以上にわたり定期的に改訂され、現在は第5版(DSM-5)が使用されています。診断基準の改訂に伴い、診断名も変更されています。
日本での発達障害の認知が広がったのは1990年以降で、注意欠陥多動性障害、広汎性発達障害、学習障害などの診断名も広まりました。DSM-5-TRの診断基準の日本語訳は、「障害」を「症」に置き換える意見が強くなり、それが反映されています。しかし、医学界全体の意見ではありません。本ウェブサイトでは、記事執筆者の考えを尊重し、診断名の表記が統一されていないことがあります。
詳細は、所長ブログ「発達障害の診断名について」をご参照ください。
監修者
榊原 洋一(さかきはら よういち)
医学博士。CRN所長。お茶の水女子大学名誉教授、ベネッセ教育総合研究所常任顧問、日本子ども学会理事長。小児科医。
神尾 陽子(かみお ようこ)
医学博士。神尾陽子クリニック院長。お茶の水女子大学人間発達教育科学研究所客員教授。児童精神科医。
杉田 克生(すぎた かつお)
医学博士。千葉市療育センター長。千葉大学子どものこころの発達教育研究センター特任教授。小児科医。
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