自閉スペクトラム症(ASD)とは|発達障害におけるADHD、ASD、LDの診断基準、年齢別の症状と対応

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自閉スペクトラム症(ASD)とは

自閉スペクトラム症(ASD)は、英語の名称Autism Spectrum Disorderを訳したもので、単語の頭文字をとってASDとも呼ばれます。大きく2つの領域で深刻な問題をもっています。1つは、言葉や言葉以外の手段(表情、ジェスチャーなど)でコミュニケーションをとることが苦手、相手の気持ちが分からない、他者との人間関係が続かないなど(「社会的コミュニケーションの障害」)です。もう1つは、自分のやり方にこだわる、特定の行動や身体の動きを繰り返す、感覚過敏、特定の対象に限定した異常な関心をもつといった「限定的・反復的行動パターン」(いわゆるこだわり)がみられることです。ASDと診断される場合は、この2領域の行動特徴が日常生活を送る上で明らかに支障となるレベルにあります。

ASDの診断があっても、症状の現われ方はその人の年齢や性別、知能レベルなどで多様です。知能のレベルは重度の遅れから、優秀知能まで幅広いです。人によって要する支援の程度は異なります。そこで、それらを大きな連続帯(=スペクトラム)と捉えて「自閉スペクトラム症(ASD)」と呼ぶならわしとなっています。遺伝的な要因を主として、出生前の様々な環境要因が複雑に関わり合って発症するとされ、同じASD内でも病因は様々です。

ASDの割合は全人口の1~2%とされ、およそ4:1の割合で男児に多いと考えられてきましたが、近年は女児のケースも診断されることが増え、男女比の差は縮小傾向にあります。これらは真の発症数の増加というよりもむしろ、診断概念の変化、社会全体の気づきの高まりといった背景要因の影響が大きいという見解が一般的です。

ASDの診断基準:どのように診断するか

ASDの診断は2歳前後から可能です。言語や知能の発達が良好な場合は、診断が就学後、あるいは青年期以降となることも少なくありません。ASDのバイオマーカーは未確立であるため、行動特徴から判断します。複数場面(家庭、学校/園など、診察場面)での行動の様子から、前述の「社会的コミュニケーション領域の障害」と「限定的・反復的な行動パターン」に該当する特徴が幼児期から現在まで持続しているかどうかを判断します。

推奨される診断の手順は、ASD特有の特徴を調べるだけでなく、質問紙や親面接、本人の直接行動観察、様々な心理検査を通して、全般的な発達検査や適応行動などの包括的な評価を参考にし、その行動特徴がASD以外の知的障害などで説明できないことを確認しなくてはなりません。児童精神科医、小児科医、言語聴覚士や心理士などの多職種の資格をもつ専門家チームあるいは経験豊かな医師が診断を行うことが推奨されています。いずれか一つの検査結果をもってASDの診断を行うことはできません。

具体的な診断基準として、国際的に使用されている代表的な診断基準DSM-5-TRの項目をご紹介します。

DSM-5-TRによるASDの診断基準

A. 様々な場面における社会的コミュニケーションと社会関係の障害で、以下に掲げる特徴のすべてが現在ある、あるいは過去にあったことがある。なお、以下の例は典型的なものであり、網羅されているわけではない。

(1)社会的・情緒的相互作用の障害で、例えば異常な対人的接近があったり、通常の会話のやり取りができない。関心や情緒、愛情を他人と共有できない。社会的相互の関係を開始、応答することができない

(2)対人的やりとりにおいて使用する非言語的コミュニケーション行動の障害で、例えば貧弱な言語的あるいは非言語的コミュニケーション、異常なアイコンタクトやボディランゲージがあったり、あるいは身振り手振りの理解や使用の困難、さらには表情による感情表現や非言語コミュニケーションの完全な欠如がある

(3)対人関係の開始、維持と理解の障害のために、例えば様々な社会的場面にふさわしく行動を調整することの困難や、想像的な遊びの共有や友人を作ることの困難、友人への関心の欠如などがある

B. 制限されたあるいは反復する行動様式や関心、活動が、以下の例のうち2つ以上現在ある、あるいは過去にあったことがある。

(1)型にはまった、あるいは反復的な動きや、物の扱い方、あるいは話し方(例:単純な常動運動、おもちゃを並べること、物をぺらぺらと振ること、反響言語、決まり言葉など)

(2)同じであることへの固執 、ルーチンヘの頑ななこだわり、儀式的な言語的あるいは非言語的行動(例:小さな変化による強い苦痛、行動を移行することの困難、固い思考パターン、儀式的な挨拶、毎日同じ道筋や同じ食べ物にこだわることなど)

(3)非常に制限され、程度や対象が異常な関心(例:奇妙な対象物への強い愛着や執着、過剰なもの)

(4)感覚刺激への過敏あるいは鈍感、環境への感覚面での異常な関心(例:痛みや温度への明らかな無関心、特別な音や手触りの嫌悪、物の匂いを過剰にかいだり、触ったりすること、光や動き回ることに視覚的に幻惑されるなど)

C. 症状は初期の発達過程で見られなければならない(ただし、社会からの期待が本人の社会能力を超えるまで、十分に症状が発現しないこともある。またのちに獲得された対応方略によって隠蔽されることがある)。

D. これらの症状によって社会生活、職場、あるいは現在の生活における重要な領域において臨床的に有意な機能障害を起こしている。

E. これらの障害は知的障害や全体的な発達の遅れでは説明できない。知的障害と自閉スペクトラム症は往々にして併存し、自閉スペクトラム症と知的障害の併存症と診断されるが、社会的コミュニケーションの能力は、発達レベルから期待されるより低くなければならない。

現時点における重症度を明確にすること:重症度は、社会的コミュニケーションの困難の度合、制限された反復する行動パターンによって判断する。

〔American Psychiatric Association: Autism Spectrum Disorder. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. 5th ed-TR, American Psychiatric Publishing, 2022 より榊原洋一・神尾陽子訳〕

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年齢別の症状とかかわり方

近年はより早い段階で診断ができるようになり、療育を早い時期に始められるようになりました。症状は上記の2領域の障害が生涯を通して続きます。ここでは、乳幼児期、就学前幼児期、学童期、青年期・成人期と、発達段階別にみた症状の現われ方の特徴やかかわりのポイントなどを説明します。

■乳幼児期(1~2歳くらい)

症状

定型発達ではこの時期、社会的コミュニケーションは著しく発達します。1歳前から2歳までの間に芽生える社会的行動には、人に向けて声を発する、目が合うとほほえみ返す、親の注意を引こうとして音を立てる、名前を呼ばれてこちらをみる、人見知りをする、指さしや発声、視線を用いて自分の興味を人に伝える、いろいろな表情をする、他の子の隣で遊ぶ、誰かが悲しそうにしているとそっちを見るといったマイルストーンがあります。ASD児は、こうした定型発達児が頻繁に見せる社会的行動をほとんどしません。言葉が出ている、出ていないにかかわらず、非言語的なコミュニケーション(アイコンタクト、身振り、表情など)がないことがこの時期のASDの主な症状です。

おもちゃの扱い方に対するこだわりが強い場合には親や他の子におもちゃを触られるのをいやがり、一人遊びをしたがります。感覚過敏が強い場合には、偏食や入浴、睡眠など育児全般に手がかかることもあります。

かかわり方

まだ言語理解ができないこの時期は、子どもが見てわかりやすい環境づくり(視覚化)がとても大切です。すなわち、写真や絵、文字、具体物を使って、今、何をするのか伝える、あるいは大人がやって見せる、といったことです。

ASD児は想定外の出来事に心を乱されやすく、今していることを中断させて何かをさせようとすると激しいかんしゃくを起こすことがあります。そのような場合には、視覚的な手がかり(写真、絵、文字など)を使って見通しをもたせると、行動の切り替えがしやすくなります。

一般に園での生活は、家庭よりも流れが構造化されているので、こうした視覚的手がかりを使った構造化は、家で意識して取り入れていただくとかんしゃくは少なくなるはずです。

■就学前幼児期(3~5歳くらい)

症状

3歳以降では集団場面で過ごすことが増えてきます。定型発達では、他の子と一緒に遊ぶ、ごっこ遊びで誰かに扮し、役割は柔軟に入れ替わる、他の子と遊ぶ時にルールや順番に従うことができるようになります。ASD児は、他の子と遊びたがらず一人遊びを好む、あるいは他の子と遊ぶ場合も自分のやり方を押しつけてしまい遊びが続かない、といった仲間関係の問題が明らかになってきます。

3歳を過ぎて文章を話さないと明らかな言語の遅れです。文章を話す場合は、関心のある話題については話したら止まらないのに、会話でのやりとりは続かないのが特徴的です。こだわりが強い場合には、自分の遊びややり方を邪魔されたときに大騒ぎ(かんしゃく)して対応に困ることがあります。かんしゃくは30分くらいでおさまる場合も、何時間も続き、自傷行為や物を壊すなどの攻撃的行動に発展することもあります。

かかわり方

最近は、療育サービスを提供する場所がとても増えました。ASD児に適した療育プログラムも開発されていますが、子どもによって相性もあり、どの子にも効果のあるプログラムはありません。子どもによって支援目標は異なりますので、それに応じて適した療育プログラムを選ばなくてはなりません(実際、療育側が特定のプログラムをもっていないことも多く、この判断はとても大変な作業です)。通常は、コミュニケーションや対人行動の発達を促したり、こだわりや自傷行為、攻撃的行動などの問題行動を減らすことを目標とします。歴史のあるものでは行動的アプローチの効果が示されていて、代表的なものに応用行動分析(applied behavior analysis:ABA)があります。

療育は本来、専門家が行うものですが、家庭でも一貫したかかわりを続けられるように、親も専門家から助言を受けると助けになります。こうしたペアレントトレーニングは日常の遊びや生活の中で親子のかかわり合いを良くしたり、かんしゃくなどの行動の軽減に役に立ちます。

■学童期(6歳~13歳くらい)

症状

学校に上がると、学習だけでなく、集団が大きくなり、守らなくてはならない規則も多くなるなど環境は大きく変わります。就学前に順調に成長してきたASD児にとっても負担は大きいです。他児には自明の集団ルールがASD児には直感的にわからないため、学校生活は適切な支援がないと、戸惑うことが多いのです。学年が上がるにつれ、周囲との違和感を自覚するようになり、少しの失敗にも怯え、またいじめのターゲットになったりすることもあります。不登校となり、初めてASDと診断されることもしばしばです。

ASD特有のこだわりが「~ねばならない」という偏った考えに結びついてしまうと、何時間も同じことをやり直したり、家族にもこだわりを強要したり、余裕のない生活になってしまうこともあります。ASD児はASDの他に、ADHD、読み書き障害などの発達上の問題や、不安やうつといった精神症状を合併することが多いので、治療を要する問題が他にないか、見逃さないようにしなくてはなりません。

かかわり方

ASD症状の現われ方は一人ひとり異なります。ASDと診断された場合はその子のASD特性やその程度について学校に伝えて、その子に合った教育上の配慮をしてもらうことが大事です。知的障害があれば、特別支援学級や特別支援学校に通うことが多いですが、最近はインクルーシブ教育が浸透しており、通常学級で他の多くの定型発達児と学ばせたいと考える親の思いに応えて、対応を工夫する学校も以前よりは増えてきました。一概にどの学級がその子に合っているかはASDだけでなく、その他の行動特徴や性格も含めて総合的に判断する必要があります。学校での課題がその子に合っていなければ、無理な要求を押し付けることになり、ASD児の情緒や行動が乱れる要因となってしまいます。そうなると不登校となってしまうか、精神科で薬物治療に頼らざるをえなくなり、元も子もありません。そうならないように親や教師がその子の学業的能力に過剰な期待をしていないか、専門家の助言を得て客観的に判断しなくてはなりません。

■青年期・成人期(13歳くらい以降)

症状

定型発達の青年と比べると遅いけれども、ASDの青年も個人差はあるものの、自己意識や他者意識は芽生えてきます。一般に、ASDにおいても社会的コミュニケーションスキルは成長とともに向上しますが、社会的状況での暗黙のルールなど社会的に要求される内容はますます複雑になり、同年齢の若者との違和感に本人の自覚も出てくるので、心理的な支えの大事な時期と言えます。ASDの青年といっても、単独行動を自ら好んで選ぶとは限りません。「普通」の「友人関係」にあこがれるのですが、共感が薄いので、親しい人間関係が作ることができず、孤立感や社交不安に苦しむ人も少なくありません。仕事に就いた場合も、周囲の理解や支援がないと、複雑な社会的判断を要する作業は負担が大きく、作業の進め方にもこだわりが強く、共同作業はスムーズではありません。失敗を繰り返すうち、自信を失ったり、パニック、うつなど精神症状が苦しくなり、精神科治療が必要となるケースは多いです。そうならないためには、できるだけ早い時期から障害特性に合った教育を受け、それを通して自己理解を深められるような家族や教師のかかわりがとても大事です。

学童期には学校教師や親にもASDに気づかれないでいた人(学業成績が良い場合にそうなりがちです)が、精神的な不調をきたす場合、次の特徴がみられたら、背景にASDがあるかもしれません。

  • コミュニケーションが一方的
  • 対人関係が不器用
  • 細部にこだわる
  • 新しいことや変化への対応が苦手
  • 感覚過敏
  • 学童期に不登校歴や心理相談歴がある
  • ADHDや精神科的問題の診断を受けたことがある
  • 親しい友だちがいない
  • 対人トラブルやいじめを経験している

かかわり方

進路を考えて進学先や就職先を決めなくてはならない時期です。児童期から障害特性を念頭に親が進路を意識しながら、その人の強みを育ててきたとしたら素晴らしいことです。最近は大学にも発達障害のある学生が増えており、大学内に支援の体制を整えているところも増えています。就労は障害特性を配慮してもらえる雇用を選ぶこともできますし、就労移行支援を在学中から利用する人も多いです。ASD特有のこだわりが働く動機づけとしてポジティブに作用することもあります。

社会的常識の欠如が職場での対人トラブルの主な原因と考えられる場合は、対人技能、リラクゼーション、自己モニタリングの学習を含む小集団でのワークが有用なことがあります。集団活動を通して自分自身を客観視できることが期待できます。また成人であっても、ASD特性に応じた対応の基本(構造化や視覚化、事前準備など)を身につけると日々の負担減につながります。

親子関係が必ずしも良好とは限らないので、どのような福祉、職域、高等教育の支援サービスがあるかについて、本人に情報提供をするなど、社会的自立につながるサービス利用を周りが促します。 不安症やうつ病などがあれば、ASD特性を踏まえた精神科的治療や心理治療は助けになります。

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監修

神尾 陽子 (かみお・ようこ)
医学博士。神尾陽子クリニック院長。お茶の水女子大学人間発達教育科学研究所客員教授。児童精神科医。1983年京都大学医学部卒業。京都大学医学部附属病院精神神経科、米国コネティカット大学、九州大学人間環境学研究院、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所勤務を経て、現在に至る。趣味は旅行、ワイン。近著に『発達障害の診断と治療-ADHDとASD』(共著、 診断と治療社)がある。

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