学習障害(LD)とは|発達障害におけるADHD、ASD、LDの診断基準、年齢別の症状と対応

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学習障害(LD)とは

学習障害とは、英語の名称(Learning Disorder)を訳したもので、単語の頭文字をとってLDとも呼ばれます。知的障害がないのに、言葉の読み書きや計算、図形理解など特定の領域が苦手な状態を指します。それ以外の理解力やコミュニケーションなどは問題ないことが多いです。本人もがんばって取り組んでいるのに思うようにできないため、自信をなくしたり、努力が足りないと誤解されてしまったりするケースもあります。LDのうち大多数を占めるのは、読み書きに困難を生まれつきもつ「ディスレクシア(読み書き障害)」という障害です。ディスレクシアの中でも、音読が不得意、文字を正しく書けない、読み書きはできるが計算問題が極端に苦手、計算は得意でも文章題を解くのが苦手など、特性は様々です。

中枢神経系に何らかの機能障害があることが原因とされますが、国や研究者によって概念や分類が統一されていません。また、ADHDやASDなどとの併存障害が多く、個人差が大きい半面、医学的な診断法や治療法、心理的・教育的な訓練法がまだ十分には確立していない状況です。

学習障害(LD)の診断基準:どのように診断するか

LDの診断は、年齢に関係なく、世界共通で使用されている診断基準(DSM-5など)をもとに行われます。DSM-5では「(限局性)学習障害」と呼んでいます。

「読み:読字障害」「書き:書字表出障害」「計算:算数障害」の症状が一つ以上、6か月以上続いている場合にLDの可能性を疑います。そのうえで、「読み書きや計算がどのように苦手なのか」だけでなく「他の疾患がないか」や「他の発達障害と併発していないか」などや、生まれてからどのように生活してきたか(成育歴)なども調べ、それらの結果を踏まえて医師が総合的に診断します。

DSM-5によるLDの診断基準

A. 教育的対応を行っても改善しない、少なくとも6ヶ月以上持続する以下に示す1つ以上の症状によって示される学習困難や学力低下が存在すること。

(1)不正確あるいは努力を要しながらゆっくりした文字読み(例:単語の音読が不確か、あるいは口ごもりながらゆっくり読む。頻繁に当てずっぽうな読み方をし、発語に苦労する)

(2)読んだ言葉の意味を理解することが困難(例:単語は正しく読めても読んだ言葉の繋がり、言葉同士の関連や、深い意味を理解することが困難)

(3)文字を書くことが困難(例:母音や子音の文字を余分に付け加えたり、省略したりする。あるいは別のものに置き換える)(訳者注:なお、これは英語の場合)

(4)文章を書くことが困難(例:いくつも文法や句読点の付け方を間違える。段落の切り方が不適切、表現が明瞭さを欠く)

(5)数字の意味や数字に対応する物や事実の理解、計算を身につけることが困難(例:数字やそれが示している大きさや程度、関連性の理解が困難。一桁の足し算をするときに他の子どものように数の記憶を使うのではなく、指を使って計算する。計算の途中で分からなくなってしまって他の方法に切り替えてしまう)

(6)数学的推論の困難(例:定量的な問題を解くために数学的概念や事実の当てはめ、あるいは数学的方法を援用することが極めて困難)

B. 上記の症状によって、学力は本人の暦年齢より著明に低下しており、そのために学業や就業上、あるいは日常生活の活動で重大な支障が生じている。こうした支障は、対象となる個人に対して行われる標準化された評定尺度による評定や臨床的アセスメントで確認される。対象者が17歳以上の場合には、学習困難についての総合的な記録を標準的な評定の代用とすることができる。

C. 学習困難は就学年齢のうちに始まるが、要求される学力が本人の能力を超えるまで顕在化しないことがある(例:時間制限のある試験を受けたとき。締め切りまでの期間が短い読書課題や長いレポート課題、過重な学習課題)

D. こうした学習困難は、知的障害や、視覚・聴覚障害、あるいは精神疾患、神経疾患、心理・社会的な逆境環境、学習課題を説明する言語習得の不十分、あるいは教育課題の不十分さ、では説明できない。

〔American Psychiatric Association: Specific Learning Disorder. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. 5th ed, American Psychiatric Publishing, 2013より榊原洋一訳〕

年齢別の症状とかかわり方

■乳幼児期(0~5歳くらい)

症状

文字の読み書きや計算などは本来、就学後に学ぶことになっています。したがって読み書き障害や計算障害の症状が明らかとなるのは、学童期以降となります。ただし、日本でも就学前にひらがな、カタカナを指導されている幼児は、実際には多く、その中で文字の読み間違いが多かったり、なかなか文字が覚えられないことで保護者が気づくことがあります。計算に関しても数の概念獲得が遅れ、一桁の数がイメージできにくい状態が見られます。

かかわり方

言語は当然のことながら、出生後の言語環境に大きく影響されます。出生後、各国の言語音を習得した上で、その言語音を綴る文字との対応付けを習得します。文字でも例えば「さ」と「き」のように一見似ている文字の違いを習得させ、言語音との一致を覚えていくようにします。音素を主体とするアルファベット言語とは異なり、日本語のひらがな・カタカナは音節文字(正確にはモーラ文字)なので、音韻獲得は比較的習得しやすいです。この時期に、しっかりした音韻(モーラ)※1認識を学習させることが重要です。かるた遊びなどを通じて、単語の頭の音と文字との一致を学習させるなど、遊びながら言語音の認知(専門用語では音韻意識)を高めることが重要です。「ぞうさん」のような日本の童謡は音韻を認知するには最適であり、まずは50音をここから学ぶことも良いと思われます。

■学童期(5歳~13歳くらい)

症状

就学前後には、漢字と言う形態素文字を学ぶ中で、読み間違いが一層増えてきます。簡単な文章を読む際にも、文字の読み間違いや読み飛ばしが明らかとなります。書字では比較的音節構造と文字を綴る規則が分かりやすい日本語では、正書法※2を学びます。この中で、拗音、撥音、長音などのやや例外的な記載法を学ぶ際に、習得が遅れたりします。漢字は訓読みと音読みの2種類を有する点で、中国語と異なります。また、ひらがなやカタカナでは見られなかった読み間違いも、漢字ではより明らかとなる傾向があります。この点は書字で一層顕著となり、偏と旁のバランスが悪かったり、ノートのマス目に入らないような字を書いたりします。教師により、漢字書字にあたって、試験で正当とされないことがあり、結果的に点数が低く評価されがちです。計算に関しては、桁の概念が習得できない児童が就学期に目立ってくることがあります。桁が大きくなると、口頭で言われた数を数字に置き換えることが困難な子もいます。簡単な足し算、引き算は数量をイメージできず、指で数えたりすることも見られます。筆算では、繰り上がりや繰り下がり操作ができず、計算間違いが見られます。

かかわり方

漢字かな交じりの文章を読む際には、文章を手でなぞったり、下に定規を当てるなどして、読む位置をより確実にしながら読むことを心がけます。この際は音読を心がけ、常に語音と文字との対応付けをすることが必要です。また単語などをまとまりとしてとらえる(専門的にはチャンク機能といいます)ことも指導していきます。また本人が文章を目で追いながら、同時に保護者などが読み聞かせしてあげることも有効です。書字に関しては、枠にマス目を入れたノートを使ったりして、偏と旁のバランスを改善することが良いです。またできるだけ太めの鉛筆を用いて、書く操作がしやすいものを活用します。書字を学ぶ上では、運動覚※3を活用することが重要であり、大きめの字を書ける習字なども通じて文字を楽しく学ばせることも一法です。日本で計算を学ぶには九九の学習は必須であり、この習得は繰り返し学ぶしかありません。筆算に関しては、数字の記載がずれないような工夫が必要です(上記指示におけるマス目を入れたノートなど)。義務教育の課程では、上記学習障害が疑われる児童には、通級指導教室などでのより個別の児童に沿った教育プログラムを作成してもらうことも一法です。

■青年期・成人期(13歳くらい以降)

症状

この時期に症状として顕著となるのは、英語の読み書きです。一般的に英語は音節構造と綴りが日本語ほど規則的でなく、ひらがな、カタカナ、漢字などで見られなかった読み書きの困難さについても、英語学習で明らかとなることがあります。単語レベルでの読み間違いに加え、英文の読みでは読み間違いや読み飛ばしに加え、読みに時間がかかることがあります。なお、漢字読み書き障害への支援が不十分な場合、青年期になっても小学校1年レベルの漢字書字に困難を示すことがあります。一方、青年期では、文章を読んで、それを数量化あるいは計算式に当てはめることができないことも多く見られます。これには、読みの問題、計算障害、書字障害などが関係し、数学的推論の弱さとして現れます。

かかわり方

英語圏では読み書き障害が10%弱あることを念頭に、外国語として学ぶ日本人にも多く見受けられる英語での読み書き障害をまずは教員が認識することが重要です。日本語は欧米での音素文字だけではない、ひらがな・カタカナの音節文字と漢字と言う形態素―音節文字を併用する世界でもユニークな書字体系を有する点を認識し、どの文字体系での読み書き障害かを判定しながら教育支援をすることが求められます。この意味では、小学校でのひらがな読みの延長であるローマ字学習とはまったく異なる音韻学習が英語では必要であることを認識し、教員側が指導することが重要です。文字の観点では、アルファベット、単語、英文のどのレベルでの読み障害かを判定した上での対応が必要です。書字に関しても同様であり、文字のどのレベルでの障害かを判定し、そのレベルに沿った個別支援計画を作成することが望ましいです。算数障害に関しては、特に計算メカニズムの習得に弱さがあると思われる数量の増減をイメージさせ、何度も取り組みを繰り返すことにより、自動的に計算能力をつけるようにする必要があります。その上で、演算記号と数の組み合わせを憶えていきます。代数計算は象徴としての記号処理能力であり、その意味では文字理解と学習基盤を同じにしていることを理解しながらかかわるようにします。


*1 モーラとは、音韻論上の音の長さの分節単位で、「拍」とも呼ばれます。かな文字1字が1拍となるので、例えば「車」は、「く・る・ま」で3モーラになります。
*2 正書法とは、話し言葉を文字に綴る規則です。
*3 運動覚とは、運動にともなう身体の位置、方向、平衡感覚などを統合した感覚です。

監修

杉田 克生 (すぎた・かつお)
医学博士。千葉市療育センター長。千葉大学子どものこころの発達教育研究センター特任教授。小児科医。専門は小児神経学、発達神経学特に自閉スペクトラム症、注意欠陥多動性障害、限局性学習障害などの神経発達症。趣味は読書、旅行。主な著書:「神経発達症児童への包括的治療教育プログラムガイドブック」第4版(千葉大学子どものこころの発達教育研究センター)、「英語読字障害支援ガイドブック第2版」(千葉大学子どものこころの発達教育研究センター)、「神経学用語語源対話」(千葉大学子どものこころの発達教育研究センター)、「欧州医学史探訪」(千葉大学子どものこころの発達教育研究センター)など。

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