近年、ニュージーランドでも気候変動を肌身で感じることが多く、豪雨災害のニュースを聞くことが増えました。オークランドの通常の気候は、夏季はあまり雨が降らず、4月から半年間雨の多い季節が続くといったものです。移住してきた2012年4月頃を思い返すと、霧のようなふわーっとした雨が降ったりやんだりする様子が強く印象に残っています。建物や排水システムは、明らかに日本のものよりも弱い雨を想定しているように思います。ところが、最近は季節を問わず、一気に叩きつけるように降る雨が増えているように感じます。2023年は特にそれが顕著で、1月だけで年間降水量の半分に迫る勢いの雨が降り、1月27日には100年に1度の豪雨災害に見舞われました。その後、息つく間もなく2月初めにサイクロンが上陸、再度広範囲で浸水被害が起きました。近年の気候変動を受け、ニュージーランドにおいても、こうした大規模な豪雨の頻度が増すとも言われています。
この被害により、インフラや家屋の被害に加え、学校も被害を受けたところが多くありました。1週間ほど夏休み明けが伸び、新学年のスタートが遅れました。日本では耐震性がしっかりとした鉄筋コンクリート建ての学校が避難所になっていることも多いと思いますが、ニュージーランドの場合には、比較的住居に適さない土地に一階建ての木造校舎の学校が建てられていることも少なくありません。特にグラウンド部分は土地が低く、校舎の浸水被害も相次いでいました。我が家の近所の学校も、多くが校舎の一部に被害を受けており、娘の教室では換気口から雨が吹き込み、かなりの量の書類が被害を受けたこともありました。二度の豪雨ともに、最も雨の強かった時間帯が深夜から早朝にかけてだったため、子どもたちが学校にいる間に被害に遭うことはありませんでしたが、多くの学校が被害に遭っており、少し心配に感じた出来事でもありました。
またこの時期、浸水被害後に子どもにどのように接するか、ということに関して様々な情報が流れてきましたが*1、全く知らないことばかりであったことに気づかされました。まず、子どもに浸水被害後に手伝いをさせてはいけないということも初めて知りました。あふれ出て流れた水には汚水や危険な物質が含まれている可能性もあるため、協力してお手伝いということではなく、大人のみが安全な装備をして掃除をする方が良いそうです。言われていることは分かりますが、学校が休校の中、子どもを安全な場所に避難させておきながら、大人が現場で掃除をするということは、実際の被害に遭うとなかなか難しいことなのではないかと感じました。その他、未開封であっても流れてきた水に触れた可能性のある食べ物、おしゃぶりや哺乳瓶の乳首などのプラスチック類は安全に消毒する術がないので捨てる必要があり、そうした水に触れた可能性のある家庭菜園で育てていた野菜や果物などを食べることも安全ではないそうです。
また、この災害後、オークランド市では、洪水レジリエンスとして、洪水のリスク啓発、安全性の向上、財産へのダメージの軽減を目指すプログラムも試行されています。72回にも及ぶ地域の啓発活動が実施されたり、ボランティアにより清掃がなされたり、地域の安全な水場を確保するために植樹が行われるといったことがなされてきました。その他にも、国家緊急事態管理局とオークランド緊急事態管理局の補助により、同年の10月頃には、天候災害に対処する子ども向けの絵本ができました*2。この絵本のストーリーは4種類あり、英語・マオリ語版、英語・サモア語版、英語・ヒンズー語版、英語・中国語版と、それぞれの異なるストーリーが書かれています。4か国語に翻訳されているだけではなく、マオリ語のストーリーにはマオリの神話が登場したり、サモア語のストーリーにはサモアの文化が登場するなど、文化面も多様に取り入れられています。マオリのストーリーに出てくる神話の登場人物は、我が家の子どもたちにもなじみのあるもののようでした。どのストーリーも、最後は少し温かみのあるハッピーエンドで終わっています。
同市の洪水レジリエンス部門長もこれらの絵本の完成時には「7歳から12歳頃の子どもたちは、災害について学び自分自身や家族を守るための方法について学ぶには良い年齢です。ただ、その方法は簡単ではなく、怖がらせるのではなく情報を与えることが大切」というコメントを寄せていました*3。とても良い絵本のように思いますが、この本を学校で勉強したことがあるのかどうか我が家の子どもたちに確認したところ、そのような記憶はないようで、授業では必ずしも取り上げられていないことも分かります。
我が家では、この災害後、もし家族がお互いに離れている時に災害に遭ったらどこで落ち合うかを決めました。100年に一度と言われるような災害は遭わないに越したことはありませんが、天候による災害が増えているように感じられる昨今、災害に遭ってしまった場合には、身を守ったり家屋を守るなどして、子どもたちへの影響を最小限に抑えることができればと願っています。
- *1 日本語で緊急事態に備えての案内を読むことができます。
https://ja.getready.govt.nz/ - *2 絵本の詳細はこちらに案内があります。
https://www.aucklandemergencymanagement.govt.nz/get-prepared/get-kids-ready/you-ready-storybooks/ - *3 絵本が出来上がったときのニュースです。
https://ourauckland.aucklandcouncil.govt.nz/news/2023/10/aem-books/
東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。幅広い分野の資格試験作成に携わっている。7歳違いの2児(日本生まれの長女とニュージーランド生まれの長男)の子育て中。2012年4月よりニュージーランド・オークランド在住。