早いもので娘は13歳になり、2024年から高校生になりました。ニュージーランドでは、学年の数え方が5歳から始まる小学校1年生から13年生までと連続していくので、娘は学年で言えば9年生になります。高校入試はなく、私立の学校に行くような一部の子どももいますが、基本的には住んでいる地域の子どもたちがみんな同じ高校に進学します。そのため、娘も小学校(プライマリー・スクール)から居住区にある中学校(インターミディエート・スクール)に進学し、その中学校から8割ほどのメンバーが変わらないような状態で高校に進学しました。そのようなことが影響してか、娘に限ったことではなく、今でも子どもたちの交友関係の一番の基盤は小学校なのかな、という印象をもちます。2割ほどが中学校の違う生徒である理由は、高校の学区が多少広いこともあり、隣接する中学校から進学してくるような生徒が一定数いること、またわずかですが、抽選のような形で学区外から入学可能であることにもよります。
高校と言っても、ニュージーランドの場合、同じ高校の中で高校生前期(ジュニア:9年生と10年生)と高校生後期(シニア:11年生、12年生、13年生)に分かれており、娘の高校の場合には制服の色味も少し異なっていたり形も多少違っていたりと、ジュニアとシニアはしっかりと区別されています。ジュニアは日本の中学2年生、3年生、シニアが日本の高校1-3年生に相当すると考えるとしっくりときます。ジュニアでは第二外国語の選択や芸術科目の選択ができる程度ですが、シニアになると進学や進路の方向性が強く反映されて、カリキュラムも自分で選択していくものが多くなっていきます。ジュニアの期間はシニアへの準備段階と捉えられているようで、評価に使われる用語などもシニアと統一されており、移行がスムーズにいくように配慮されているように感じます。
高校に入って一番大きく変わったことは、科目ごとに先生が異なることです。科目も細かく、英語、数学、社会科、理科(この時間内に化学・物理・生物を経験)、言語(娘はフランス語を選択しましたが日本語なども選択できます)、体育、マオリ語、パフォーミング・アーツ(音楽・ダンス・演劇)と分かれています。日本の高校でよくある形と違うのは、科目ごとに違う先生がクラスを訪れるのではなく、毎回全ての荷物を持って先生のいるクラスを巡ることです。ロッカーなどに荷物を置くこともなく、朝持って行った荷物一式をそのまま持って各教室を巡っているそうです。入学当初は、この制度に慣れずに次のクラスが分からなくなり、迷ってしまうこともあるそうです。娘によれば、お世話係のシニアの生徒たちが気を配ってくれており、「迷っているような生徒には声をかけてくれて、正しいクラスの場所まで連れて行ってくれた」という話でした。
また各科目のクラスとは別に「フォーム・クラス」というものがあります。こちらは登校すると出欠などをとってくれるクラスで、高校前期と高校後期の併せて5学年の生徒で30名ほどがひとつのクラスになっており、上下の関係が築けるようになっています。入学当初は13年生(日本の高校3年生相当)のお姉さんたちが2人、新しく入ってきた9年生(日本の中学2年生相当)の生徒たち5名ほどとカードゲームをしたりして学校に馴染むようにお世話をしてくれていたようでした。日本のイメージで考えると、このフォーム・クラスの先生が担任の先生に相当して、進路などの相談もするのだろうかと思うかもしれませんが、あくまでも毎朝、出欠をとって20分ほどの時間を受けもってくれている先生という感じのようです。娘の場合も、とても良いフォーム・ティーチャーだと喜んではいるものの、あくまでも「フォーム・クラスの先生」であり、いわゆる日本の「担任の先生」という心理的な距離感とは違うように見受けます。過ごし方はそれぞれの先生にもよるようですが、娘のフォーム・クラスでは、みんなでゲームをしたり動画を観たりして過ごしているのだそうです。またこのフォーム・クラスは高校に在籍している5年間は変わらないため、学年が上がると後輩もでき、また違う感覚が生まれるのかもしれません。娘も最高学年の13年生になった時には、下の子たちのお世話ができるくらい成長していると良いなと思います。朝のフォーム・クラスの時間が終わると、授業が行われる教室に荷物を持って各々散っていくようです。
このような高校生活での保護者面談ですが、その方式も面白いものでした。保護者面談の日にちが予め決められており、保護者はこの日に全科目の先生とお会いする時間を予約することができます。面談時間は1人5分です。保護者面談の予約はインターネット上で行うのですが、何月何日何時に予約開始という連絡が来ており、その時間に接続すると見る見るうちに予約枠が埋まっていきました。特に数学や理科、語学などは予約枠が早く埋まっていきました。一度目の保護者面談の際には、私も事前に娘から聞いていた履修科目と各科目の先生の名前をメモしておいて、決められた時間にアクセスし、5分の間隔をあけて全科目の先生の予約を取りました。そのため面談の全所要時間は2時間を超えたと記憶しています。二度目の保護者面談の際には慣れていたこともあり、娘がその時に会いたいと思う科目の先生に絞って予約をとり、1時間程度で終わりました。その時に履修していない先生であっても、予約を取ろうと思えば取ることができたので、しばらくお会いしていなかった音楽の先生にも予約を取りました。このような柔軟な方式が可能なのは、この予約システムがウェブ上だからだと思います。面談の内容は、あくまでも各科目の先生がその科目についての現状とアドバイスをするという形で、良くも悪くも該当科目に取り組むその子の姿勢や成果だけについて話してくれて、客観的な印象をもちました。娘なりに先生方と関係を築き、学習している様子に安堵しました。
このような形で娘は新しい高校生活を送っており、1年目は充実する形で終えることができました。ニュージーランドでは、居住区の高校に進学し、その途中である16歳で義務教育期間を終えることから、今後の数年間で様々な進路をとる同級生たちが途中から高校に来なくなったりすることもあるようです。また、高校の中で選択できる科目も多岐にわたるので、学校での経験もまた多岐にわたるのだろうと思います。受験がなく、ほぼ全ての地域の多様なニーズの生徒が入学する高校はどのように運営されているのだろうかと思っていましたが、自身の進路や興味に沿った科目の選択と、フォーム・クラスのような、周囲の生徒たちとの関係を広く築けるあり方、自由度の高い面談のあり方などが良い具合にバランスをとっているように感じています。シニアになれば、高校生活は自ら作り上げていく側面が大きくなるかもしれません。日本とは異なる高校生活の様子を、またレポートしていくことができればと思っています。
- *1 フォーム・クラス:登校したら朝一番最初に行くクラスで、30名ほどの生徒が所属する。20-30分ほど過ごし、学校の連絡事項や出席をとる。各学年5-6名ずつ、5学年が所属し、学年を縦断した関係を築くことができる。
東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。幅広い分野の資格試験作成に携わっている。7歳違いの2児(日本生まれの長女とニュージーランド生まれの長男)の子育て中。2012年4月よりニュージーランド・オークランド在住。