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【ドイツの子育て・教育事情~ベルリンの場合】 第58回 高校生で大学レベルの勉強?! ~アビトゥアに向けた授業科目の選択

要旨:

ギムナジウム10~12年生は上級段階と呼ばれ、日本の高校レベルとなるが、それはアビトゥア(大学入学資格取得)への準備の始まりでもある。第1ブロックと呼ばれる11~12年生の成績と第2ブロックと呼ばれる12年生後半に受験する試験の合計ポイントを元に合否が決まる。11~12年生の授業内容は大学一般教養課程と同じレベルであるため、かなりハードであるが、それらのクラスを生徒たちは、卒業後の進路にあわせて選択しなければならない。そのため、将来の進路が決まっていない15歳の子どもたちにとっては、難しい決断となっている。

キーワード:

ドイツ、ベルリン、ギムナジウム、アビトゥア、重点コース(Leistungskurs)、選択科目、必修科目、大学進学、シュリットディトリッヒ桃子

昨年秋から息子は、ドイツの上級学校であるギムナジウム*110年生になりました。ギムナジウム10~12年生は上級段階と呼ばれ、日本でいうところの高校1~3年生となります。そこで、10月下旬の秋休み前、数日間にわたり、学校でアビトゥア(大学入学資格試験)や職業に関する説明会・ワークショップが開かれました。いよいよ高校卒業後の進路について本格的に考え、準備を始める時期が来たようです。本稿では、アビトゥアおよびその準備の第一段階となる、選択科目について記したいと思います。

※連邦制をとっているドイツでは、16ある州ごとに教育制度や内容が異なるので、本稿の内容はその一例であることをご了承ください。

アビトゥアへの道のり

息子が学校で得た情報をまとめると、下記のようになるようです。

  1. ギムナジウムでは10年生は導入段階(Einführungsphase)、11~12年生は資格段階(Qualifikationsphase)と呼ばれる。11年生からの授業は選択制となり、12年生に行われるアビトゥア試験の準備期間になる。
  2. アビトゥアの点数は、第1ブロックと呼ばれる11~12年生の成績(600点)と第2ブロックと呼ばれる12年生後半に受験する5科目の試験(300点)の合計ポイント(900点)を元に、6段階評価で出される。1が最高、6が最低点だが、小数点1位まで算出され、4以下が合格とみなされる。
  3. 第2ブロックの試験の内容は州によって異なる。
  4. 第2ブロックの試験は生涯2回まで受けられる。

アビトゥアはテストのみだと思っていましたが、実際は2部構成で、11~12年生の成績も影響を与えるとのこと。この話を聞いた時点で、私は「アビトゥアの点数に学校の成績も含まれるなら、11~12年生で履修したことをしっかりやっておけば何とかなるだろう」くらいの軽い気持ちでとらえていました。

大学レベルのコースを高校レベルで履修?!

しかし、よくよく話を聞いてみると、11~12年生の資格段階(Qualifikationsphase)の授業は、必修科目以外は自分で選択できるものの、その内容はかなりハードな模様。というのも、ドイツの大学では、日本でいうところの一般教養課程はなく、入学後すぐに専門課程に入るため、ギムナジウム11年生から、既に大学の専門研究の基礎を学び、準備をするための重点コース(Leistungskurs)と一般教養科目としての役割を果たすコース(Grundkurs)を履修するとのこと。なんと、大学レベルの授業を高校で履修するとは! ギムナジウムの教師になるには、最低でも修士課程を修めなければならず、学内には博士課程を終えられた先生もいるのですが、その理由がようやく分かりました。

また、筆者が通った日本の大学の学部では1~2年生は一般教養を学ぶ期間で比較的余裕があり、3年生になってようやく専門課程が開始されたと記憶しています。しかし、ドイツの大学は、入学直後からその道の専門家として研鑽を積む学術機関であり、そしてその大学進学への準備学校としてギムナジウムが存在していることを、今更ながら思い知らされました。

アビトゥア準備の第一段階:履修科目の選択

上述のとおり、「資格段階」となる11年生からは、いくつかの必修科目を除き、アビトゥア試験準備に向けた選択クラスのみの授業になります。その成績はアビトゥアの点数にも大きく影響してきますし、選択した履修科目を第2ブロックの試験で受験することとなるので、選択は慎重にならざるを得ません。しかし、それらのクラスを10年生になってほんの数か月しか経っていない時期に決定しなければならないということで、将来の職業や大学でどの学部に行くか決まっていない、息子を含む15歳前後の生徒たちにとっては、なかなかシビアな状況のようです。

彼らによると「好きな科目であっても、良い成績がとれない(内容がハード、先生の評価が厳しいなど)可能性があると、アビトゥアの点数にも響き、大学進学にも影響してしまうので選択に躊躇してしまう。かといって、好きではない科目を選択して、毎日履修するのは気が進まない」。各教科担当の先生も11年生にならないとわからないため、ギャンブル的要素がかなりあるようで、ああでもない、こうでもないと毎日頭を抱えている息子。帰宅後、クラスメートとのグループチャットでも、この話題で持ちきりのようです。学校内でのネットワークは勿論、別の学校の生徒に様子を聞いたり、履修科目の提出までは、まさに情報戦といった感じでした。

アビトゥアの仕組み:ベルリンの場合

ここでベルリンのアビトゥアの仕組みをもう少し詳しくご紹介したいと思います。上述のとおり、第1ブロックと第2ブロックに分かれていますが、学校から配布された書類によると、詳細は下記のとおりです。

⊚第1ブロック:11~12年次の履修科目の成績

第1ブロックでは最大600点を取得できます。ただし、アビトゥア試験の受験資格を得るためには、第1ブロックで少なくとも200点を取得していなければなりません。すなわち、成績が悪いと、第2ブロックの試験を受けることもできないということですね。

次に、試験に密接に関わってくる学校での履修科目ですが、息子の学校では下記の4つの分野に分かれています。

第1分野(言語・文学・芸術分野)
ドイツ語、英語、フランス語、ラテン語、音楽、美術、演劇、芸術セミナー、コーラス、ケンブリッジ英検、フランス語検定

第2分野(社会科学分野)
政治学、歴史、地理、心理学、哲学、ビジネス、経済、社会学、デジタル化、勉学と職業

第3分野(数理・科学・技術系)
数学、追加数学、物理、化学、生物、IT

第4分野
体育、スポーツ理論

このうち必修科目は下記のとおりです。

  • 2年間の必修科目(5科目):ドイツ語、数学、外国語1科目、体育。さらに、政治学、歴史、地理、心理学の中から1つ
  • 1年間の必修科目(2科目):演劇、音楽、美術のうち1つ。さらに歴史

ドイツ語、数学、外国語が必須なのは妥当だと思いましたが、体育も2年間必須、歴史も1年間必須というのが、勉強だけでなく健康体にも重点を置き、歴史においては第二次世界大戦を含む過去の事象をきっちりと学ぶドイツらしい教育という印象を受けました。

上記以外は選択可能な履修科目となりますが、そのルールは以下のようになります。

  1. 第1~第3分野の中からそれぞれ1科目以上を、試験科目として選択しなければならない
  2. 5つの受験科目は、11~12年生の4学期中、全学期を通して継続して履修しなければならない
  3. 自然科学(第3)分野から生物だけを選択した場合、11年生時に化学か物理を1年間履修しなければならない
  4. 11~12年生の4学期中に最低40コース履修しなければならない
  5. 1学期に履修できるのは最大10科目まで(コーラス、芸術セミナー、追加数学クラスを除く)

なかなか複雑なシステムなので、学校からは一覧表になった申請用紙が配布され、自分が選択する科目にⅩ印をつけて提出するようになっていました。1学期で1科目履修すると1コース分(X1つ分)とカウントされますので、前期と後期の通年で合計2コース(X2つ分)となります。必修科目のドイツ語、歴史、数学、体育には元からX印が印刷されており、あとは自分の興味と得意な科目をX印が最低40個になるまでチェックしていけばよい、というシステムです。しかし、なかなか決断が難しいようで、息子は何度も消しては書き直していました。

⊚第2ブロック:試験

次の第2ブロックのテストでは最大300点を取得できます。ただし、合格するためには、ここで少なくとも100点を獲得しなければなりません。試験は5科目ですが、最初の2科目の試験(第1、第2科目)は11~12年次に履修した2つの重点コース(Leistungskurs)の筆記試験で主要科目となります。

これらに加え、第3科目の筆記試験と第4科目の口頭試験の科目を選ぶこととなります。第5科目の試験は、口頭またはプレゼンテーションかレポートの形で行われます。

試験科目についてのルールは下記のとおりです。

  • 第1試験科目は、ドイツ語、外国語、数学、そして自然科学から選ばなければならない
  • 5つの試験科目のうち2科目は、ドイツ語、外国語、数学の中から選ばなければならない
  • 第1~4試験科目は10年生の時に履修した科目でなければならない
  • 音楽、美術、演劇、体育は、第1~4試験科目として1科目のみ選択可能

息子はITの授業に興味があったようですが、10年生で履修していないので、この選択肢は最初からなくなりました。

ドイツ流の進路の決め方

色々な人に相談していた息子ですが、その多くから「自分の得意で、点数を取りやすい科目を選べばよいよ」と言われたそうです。しかし、この「点数を取りやすい」というのが曲者で、上述のように先生によっても評価の甘辛が大きく異なる模様。また、「自分が学びたい科目を選べばよいよ」という意見も多くあったようですが「学びたい科目なんか、5科目もないし」とふさぎこむ息子。確かに、「5科目も積極的に学びたいと思うくらい勉強大好き!」という思春期真っ只中のティーンエージャーは少ないかもしれないなあ、と妙なところで納得してしまいました。

結局、一番腑に落ちたのは、2年前にアビトゥアを受けたばかりの息子のいとこのお兄ちゃんの意見でした。「医学部や薬学部に行きたいなら、第1、第2試験科目に生物と化学が必須だけど、そういう訳でもないなら、そんなに深刻に考えることないよ。得意な科目は好きな科目であることが多いから、それを選べばいいと思うよ。それに、アビトゥアの履修科目や試験科目が、必ずしも大学の学部選択に直結するとも限らない。僕も含めて周りの元クラスメートは、アビトゥアが終わっても、すぐに大学に行っていない人も多いし。その代わり、ギャップイヤー*2でインターンシップなどを通して様々な経験を積んでから、自分のやりたいことが発見できて、進路を決める人が多いよ、それがアビトゥアの科目とは関係なくてもね」

確かに、日本だと現役で大学受験に合格したら、高校卒業後はすぐに大学に入学することが普通かもしれませんが、ドイツでは、アビトゥアは「大学入学資格」なので、いったん合格すれば、基本的にいつでも自分の好きな時に大学に入学する時期を選ぶことができます。さらに、アビトゥアの履修科目が入学する学部と一致しないこともあることを聞いて、息子も少しリラックスできた様子。

そもそも1科目5時間にもおよぶハードな試験が終わってすぐに、専門課程で学業三昧になる大学に入学するのは、精神的に負担が大きそうです。ですから、ギャップイヤーを取って、勉強以外の様々な経験を積んだり、ゆっくり英気を養う人もかなり多いとのことで、納得しました。

さらに、理論的には大学入学資格を取ってしまえば大学入学可能となりますが、現状はギムナジウム卒業後、すんなり入学できる、というわけではないようです。というのも、最近は大学進学率が上昇傾向にあり、どこの学部も満員なので、そもそもアビトゥア取得後、すぐに入学することは困難なケースが多い状況になっています。特に、アビトゥアの点数が芳しくない場合、その傾向は顕著なようです。しかし、アビトゥアが終わってから大学入学までの時間が長ければ長い程、大学入学の優先度が上がるというのですから、少しくらいのんびりしてもよさそうです。

その後、息子も「アビトゥアが終わったら、しばらくは、大好きなおばあちゃんのいる日本に行って、アルバイトをしたり、色々な経験を積みたいな」と前向きになり、なんとか選択科目表を提出したとのこと。今は息子が学校の教科選択の方向性が決まったことに安堵すると同時に、来年から良い先生にあたることを願ってやまない私たちです。


  • *1 アビトゥアという大学入学資格を取得して総合大学への入学を希望する子どもたちが通う学校。
  • *2 ギャップイヤーなどとも呼ばれ、高校卒業後、大学入学前に海外でボランティアやインターンシップなどの活動を任意で行う。

筆者プロフィール
シュリットディトリッヒ 桃子

カリフォルニア大学デービス校大学院修了(言語学修士)。慶應義塾大学総合政策学部卒業。英語教師、通訳・翻訳家、大学講師を経て、㈱ベネッセコーポレーション入社。2011年8月退社、以来ドイツ・ベルリン在住。
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