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【ドイツの子育て・教育事情~ベルリンの場合】 第57回 海外で学ぶチャンス

要旨:

ベルリンのギムナジウムでは、海外で学ぶ様々な機会が設けられている。8~10年生(日本の中2から高1)の間に、1週間から半年、長くても1年ほどの海外研修・留学をする生徒が多い。行き先は、欧州各国から、アフリカ、アメリカ、日本と幅広いが、多くの生徒が参加する1週間程度の海外研修では、語学を習得するというよりも、訪問国の文化や歴史を体験する、という意味合いが強い。

キーワード
ドイツ、ベルリン、ギムナジウム、海外研修、交換留学、短期留学、長期留学、ホームステイ、ホストファミリー、シュリットディトリッヒ桃子

ベルリンのギムナジウムにおいては、海外で学ぶ様々な機会が設けられていますが、時期的には大学進学の資格を得るための試験「アビトゥア」*1の準備が始まる前の8~10年生(日本の中2から高1)の間に行くことが薦められています。期間は1週間から半年、長くても1年ほど。また、学校によっては、海外の提携校と交換留学を行うこともあるようです。先日、息子も学校の制度を利用して、1週間ロンドンでホームステイをしてきました。本稿では、ベルリンのギムナジウムの海外研修・留学制度についてご紹介したいと思います。

あるギムナジウムの海外研修の例

息子が通うギムナジウムでは、様々な国にて研修を行っています。年によって、若干行き先は変わるようですが、今回は必修第1外国語である英語圏の国、イギリスをはじめ、必修第2外国語であるフランス語もしくはラテン語履修者向けに、フランスとイタリアが訪問国となっています。これらに加え、地理のクラスではスペインを訪れ、交換留学制度を提携しているケニアの高校とも交流をしています。いずれも期間は1~2週間程度とのことですが、どのような旅程だったのか、かいつまんでお伝えしましょう。

イギリス・ロンドン研修
少ない事前情報

こちらは、息子が2023年9月に参加した研修です。英語は第1外国語で全員が履修しなければならないため、2023年初めに当時の9年生全員を対象に、参加希望のアンケートがとられました。すると、20名の枠に対し、全4クラスほぼ全員の120名が参加希望を表明したため、くじ引きで参加者が決められました。そこで、各クラスから5名が当選、息子もその中に含まれていた、というわけです。

抽選後の2月になると、担当の先生からメールが送られてきました。そこには、以下のことが記載されていました。

  • 渡航時期は9月の第1週の予定
  • 1人あたりの費用は約520ユーロ(2023年10月現在、約82,700円。ベルリン-ロンドンのLCC航空券、英国人ホストファミリー宅の食事付き宿泊料金、旅行保険含む:研修前にまとめて指定口座に支払い)
  • 上記費用に加え、1日20ポンド(2023年10月現在、約3,650円)前後のお小遣いを各生徒で準備
  • 同行予定教員は2名

しかし、その後は特に何の連絡もなく・・・「具体的な日程はいつになるのかしら?」と思いつつ、ついに夏休みを迎えてしまいました。筆者の勤務している日本人学校では、1泊2日のベルリン市内に宿泊する林間学校でさえ、数週間前から準備を始め、保護者説明会を開き、数ページにわたるしおりを作成、配布するなど、段取りを進めるのが常ですが、現地校では、全くこれらの作業はありません。「いつからいつまで、どんな環境で、どんなアクティビティを子どもは体験してくるのだろう?」「教師の作業は日本のそれに比べたら少ないのだろうなあ」と半分ヤキモキしながら、学校からの連絡を待っていたものです。

しかし、現地で育っている息子や夫は、「ロンドンなんてベルリンのすぐ近くだし、もう幼稚園生じゃないし。パスポートと両替したポンドさえ用意しておけば、数日前にパッキングするだけでOK」と、いたってのんきです。

そして、ようやく日程確定のお知らせが来たのは、新学年が始まってからの8月下旬、既に出発まで2週間を切っていた頃でした。その後、出発のちょうど1週間前に参加者およびその保護者を対象とした説明会が開かれ、「宿泊先はロンドン中心地から地下鉄で1時間ほどの郊外であること、1つのホストファミリーに2~5名の生徒が宿泊するが、猫などのペットアレルギーや宗教対応があるため、決められたグループでは都合が悪い場合は申し出ること」といったことが伝えられました。

その後、出発数日前になって、飛行機のオンラインチェックインを行うため、パスポート情報などを事前入力しておくように、とのお達しメールが送信されてきました。ここで初めてフライトなど具体的な情報を知ることとなります。

ちなみに、これまで保育園からギムナジウムまで、現地校の合宿や修学旅行の期間はずっと1週間でしたが、日程表や持ち物などが記載されたしおりのようなものは、一度も受け取ったことはありません。特に持ち物は全て自己判断で行われ、今回もご多分に漏れず、自分で考えてパッキングすることが求められていました。

しかし、今回は荷物に関しては「LCC利用なので、無料で機内持ち込みできるサイズのもの1つに限る」と念を押されました。1週間分の着替えや身の回り品をバックパック一つに収めるのは大変だな、と思いましたが、幸い9月の欧州の気温はそんなに高くないため、頻繁に着替えをする必要もなさそうです。さらに、息子は身に着けるものへのこだわりが少ないので、比較的容易にバックパック1つに荷物をまとめることができました。また、ホストファミリーの連絡先は、出発前日にようやくメールで送られてきました。

文明の利器に助けられる

そして、いよいよ出発の日。空港へ見送りに行こうと同行しましたが、途中駅で同じ目的地に向かうクラスメートと偶然会いました。あっという間に、仲間の輪の中に入っていく子どもを見送り、しばしのお別れ。2時間で到着する同じ欧州内の国とは言え、親元を離れて海外生活を送るのは、彼にとって初めての経験ですから、いささか(私の方が)感傷的になってしまいました。

しかし、幸か不幸か、現代社会に生きる私たちは、常にWhatsapp(LINEのようなSNS)でつながっています。2時間ほどして飛行機が遅延するとわかるや否や、息子からメッセージが届きました。これを皮切りに、毎日何らかのタイミングでメッセージや写真が送られ、時にはチャット電話で元気そうな様子を伺うことができました。

ウン十年前の学生時代、筆者が初めて海外留学をした時は、日本との連絡手段は、高い費用のかかる国際電話か時間がかかる手紙のみ。家族への連絡頻度は今よりずっと限られており、ホームシックに陥ったものでしたが、現代っ子(そしてその保護者たち)は、文明の利器に助けられ、比較的安心して過ごすことができますね。

初めてのホームステイ:会話はあまりないけれど

ところで、ロンドンでのホストファミリーは、スリランカからの移民家族でした。子どもは2人いるものの、既に20歳前後で独立しており、1週間滞在中、顔を合わせることは一度もなかったそう。父親は朝早くから夜遅くまで仕事でこちらも初日に挨拶したのみ。母親がホストファミリー業を仕事としており、毎週各国からの生徒を受け入れているとのこと。それなのに、彼女はシャイな性格なのか、朝食・夕食も同席せず、従って、ほとんど言葉を交わす機会もなかったそう。これには息子もがっかりしていました。

毎日のスケジュールとしては、毎朝、朝食後7時半ごろに家を出て、ロンドン観光。夜7時に最寄りの駅にホストファミリーの母親が車で迎えに来てくれ、帰宅後、夕食。朝食はトーストとお水、夕食は冷凍ピザということで、食のお楽しみは外でのランチだったそうです。

初日には早速チャイナタウンに足を運び、麻婆豆腐を堪能。ドイツ、特にベルリンではアジアンレストランと言えば、圧倒的にベトナム料理店が多く、中華料理店はあまり見かけません。ですから、外食で麻婆豆腐を食べたのは、日本以外では初めての経験です。また、ベルリンにはベトナムセンターはあっても、チャイナタウンはありませんから、中華街を訪れるのも、日本の地元、横浜中華街訪問以来、初めてのことです。このように、初日から国際都市ロンドンを楽しんでいたようですが、2日目以降はお小遣いの兼ね合いもあり、ファストフードですませ、最終日にようやくイギリス名物フィッシュアンドチップスを食して満足、とのことでした。

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息子がロンドンから送ってくれた写真(左:チャイナタウン、右:フィッシュアンドチップス)

上述のとおり、ホストファミリーとは会話がほとんどないため、英語を話すのは買い物やレストランの時に限られていたので、英語力の向上はそんなにみられなかったそうです。しかし、スリランカという今まで馴染みのなかった国出身のホストファミリーに多少なりとも接し、スパイスの匂いにあふれる雰囲気のあるお宅に滞在する、という異文化体験はできたと言っていました。

さらに、前述のチャイナタウンをはじめ、バッキンガム宮殿やテムズ川、ウェストミンスター寺院など、ひと通りロンドン観光を満喫し、また、有名なコベントガーデンでは買い物も楽しめたとのことで、それなりに充実した滞在だった模様。無事に、満足顔で帰宅しました。

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息子がロンドンから送ってくれた写真(左:ロンドン塔、右:ビッグベン)

ラテン語履修者対象のイタリア研修

2023年3月には、8~9年生のラテン語履修者約40名が、3名の教員とイタリアを訪れました。ロンドン研修とは異なり、ラテン語を履修している該当学年の生徒であれば、抽選なしで行けたそうです。

イタリアの宿泊先はユースホステル。ナポリ、ローマといった都市部の他にも、ポンペイの発掘現場、円形闘技場などを見学し、個々の家屋や建築の特徴、当時のインフラの構造、歴史、文化などを学びました。さらに、有名なヴェスヴィオ火山にも登り、ポンペイ同様に火山爆発で失われた町、ルクラネウムも訪問。彫刻やテルマエ、神殿、そして国立考古学博物館も見学しつつ、ビーチでもくつろいだり、美味しいイタリア料理を堪能したり、アクティビティ満載の一週間だったそうです。

フランス語履修者対象:クレルモンフェラン研修

フランス語履修中で研修参加希望の9年生は、6月にベルリンからフランス中央高地に位置するクレルモンフェランという町に行ってきたそうです。こちらもロンドン行きとは異なり、抽選なしでした。

こちらは上記2つの目的地とは異なり、14時間かけて電車で行ったそうです。世界遺産でもあるピレネー山脈のふもとにあるクレルモンフェランを拠点とし、観光にいそしんだ模様。また、美食の国らしく、クロワッサンをはじめとする朝食からクレープ、マカロンなどフランスならではの美味しい食べ物も満喫し、体重が増加してしまったとか。さらに、クレルモンフェランの地元の人々や学生たちの交流の機会を通じ、彼らとの友情を育むなど、こちらも充実した8日間だったそうです。

また、このフランス・プログラムは交換留学制度をとっていて、彼らがフランスへ行く前は、フランスからの生徒が1週間ほどベルリンの生徒の家にホームステイしていたそうです。フランス研修に関しては、この他にもパリ、ナントなど、フランス国内の別の都市の学校とも交換留学協定を結んでおり、いずれもフランス語履修者が1週間程度、現地に滞在しているそうです。

地理履修者対象:バルセロナ研修

海外研修を行うのは、語学クラスだけではありません。例えば、上級地理のクラスからは16名の履修生徒全員が2名の教員とともに、2023年9月にバルセロナに1週間行ってきました。そこでは、バルセロナの地理はもちろん、歴史や経済、都市開発や観光について勉強し、ガウディの作品も鑑賞してきたそうです。

ケニア・ナイロビ留学

欧州以外にも、アフリカ・ケニアのナイロビの高校から、15名が昨年12月に2週間ベルリンに滞在、ギムナジウムにて授業を受けたそうです。この高校とは交換留学制度を提携していることから、その後、2023年9月に11年生がナイロビの高校を訪れ、約2週間滞在したそうです。ギムナジウムの学生たちは、現地の学校の寮に滞在したそうですが、トイレの水は自分でバケツに汲んで流さなければならなかったり、12名で1つしかないバスルームを共有するなど、ドイツでの生活とは異なる環境だった分、お互いに協力し、生徒間の団結力が高まったそうです。

訪れたケニアの学校は、男子部と女子部に分かれており、朝6時半から時には夜10時まで授業が行われることもあったとか。1クラス50名のケニアの生徒たちは、学習意欲が旺盛で、ドイツからの学生たちは質問攻めにあったそうです。

また、授業の合間を縫って、ナイロビ観光をしたり、国立公園を訪れ、アフリカの雄大な自然を堪能することもでき、ホストファミリーと一緒に過ごす日もあったとのこと。食べ物から、時間の感覚の違い、音楽をはじめとする文化など、多くの新しいことを学んだ、と参加者の1人は述べていました。

長期留学の例

これらの海外研修はいずれも短期間でしたが、これに加え、3か月から半年ほど(1学期)の留学をした生徒もクラスに1~2名いるそうです。その際、行き先は自分で探して決めることになります。1学期までの留学では、単位は相互の学校で認められるため、帰国後も留年扱いにはならず、元々所属していたクラスに戻ってきます。息子のクラスからも、母親がアメリカ人の生徒が半年間アメリカの高校に留学していたそうですし、他のクラスにもカナダなどやはり英語圏に半年ほど留学する人がいたそうです。

一方で、1年以上の留学は、留年扱いとなり、帰国後は1つ下の学年に所属することとなるため、息子の通う学校では、最長1学期の留学が多いそうです。

また、第3外国語で日本語を選択できる学校には、日本の学校と交換留学協定を締結しているところもあります。普段そのような現地校に通い、週1回の日本語補習校に通う生徒の中には、この制度を利用して、数か月から1年間、日本の学校に通学し、日本語力を向上させる人もいるそうです。

まとめ

息子の例を見ていても、海外研修は1週間という超短期間であることから、語学を習得するというよりも、訪問国の文化や歴史を体験する、という意味合いが強いように思えます。逆に語学を習得したい場合は、半年から1年ほどかけてじっくり留学する人が多いように見えます。

欧州の真ん中に位置するベルリンからは、欧州内の都市であれば、いずれも飛行機で1~2時間(上述のように電車での旅も可能です!)で目的地に到着できます。さらにEU内であれば入国チェックもありませんから、日本の国内旅行と同じ感覚で、お手軽に移動ができます。

一方で、日本の国内旅行であれば日本語が通じますが、EU内では国が異なれば、言語は勿論、歴史も文化も作法も異なります。ティーンエイジャーという多感な時期に、それらの違いを体感し、様々な経験を積んでいくことは、それがどんな内容であれ、将来プラスに作用することでしょう。

筆者は渡独したばかりの頃、欧州の人々の見識の広さに驚いたものでしたが、それはもしかしたらこのような教育や環境のお陰かもしれません。今後も機会があれば、子どもには積極的に外の世界を見てきてほしいと思います。


  • *1 アビトゥアとはいわゆる「大学進学のための資格試験」で、主にギムナジウムでは12年生で受験します。この試験は一生のうち2回までしか受ける事ができませんが、合格すれば「大学進学の資格」を得ることができます。

筆者プロフィール
シュリットディトリッヒ 桃子

カリフォルニア大学デービス校大学院修了(言語学修士)。慶應義塾大学総合政策学部卒業。英語教師、通訳・翻訳家、大学講師を経て、㈱ベネッセコーポレーション入社。2011年8月退社、以来ドイツ・ベルリン在住。
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