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【ドイツの子育て・教育事情~ベルリンの場合】 第61回 クラス解散と受験生活の始まり~アビトゥアの仕組みと対策

要旨:

10年生まで6年間一緒に過ごしてきた、クラスメートや担任の先生とお別れし、11年生からはいよいよアビトゥア(大学入学資格取得の試験)に向けた本格的な準備が始まった。アビトゥアはテスト一発勝負ではなく、11~12年生の授業の成績やテストもカウントされることから、ドイツでの受験生活は11年生から始まると言っていいだろう。日本のように大学受験予備校や塾は存在しないが、ギムナジウムでは、最後の大きなテストに向けて生徒に準備させてくれる。本稿では、ベルリンにおけるアビトゥアの仕組みや評価基準、授業や模擬試験の内容などを、実例を挙げて記す。

キーワード:

ドイツ、ベルリン、ギムナジウム、アビトゥア、重点コース(Leistungskurs)、一般教養科目としての役割を果たすコース(Grundkurs)、クラウズア(Klausur)、大学受験、シュリットディトリッヒ桃子
6年間一緒に過ごした仲間との別れ

5年生でギムナジウムに入学して以来、息子は6年間ずっと同じクラスメートや担任・副担任の先生と過ごしてきました。しかし、日本の高校2年生にあたる11年生からはオーベアシュトゥフェ (Oberstufe:直訳すると「上のレベル」)に進級し、授業はドイツ語や体育などの一部の必修科目を除き、ほとんど選択科目となります。(選択科目に関しては、「第58回 高校生で大学レベルの勉強?! ~アビトゥアに向けた授業科目の選択」 参照)。そのため、10年生修了時にクラスは解散となり、夏休み前には最後のクラス旅行として、息子たちはオーストリア・ウィーンとスロバキア・ブラチスラバへ1週間滞在してきました。

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ウィーン・ホーフブルク宮殿と本場のウィンナーシュニッツェル(息子撮影)

そして、10年生最後の登校日には、入学式同様、保護者や家族が招待され、講堂で「成績表授与式」が行われました。その位置づけは、日本の感覚だと中学校の卒業式に近いかもしれません。

4クラスあった10年生の担任・副担任の先生たちが、それぞれの思い出や生徒たちへの思いを述べ、校長先生がアビトゥア(大学入学資格取得の試験)に向けて激励の言葉を送ります。その後、生徒は一人ひとり名前を呼ばれて、壇上で成績表と一輪のバラの花を受け取り、その都度、大きな拍手が送られました。

6年ぶりに講堂を訪れた私は、まず、大きく成長した生徒たちに圧倒されてしまいました。男子は背がぐんと伸び、ヒゲを蓄えている人も多く、保護者とほぼ同じ背格好の人も少なくありません。女子もお化粧や服装の助けもあって、こちらもすっかり大人の様相。5年生だったかわいい子どもたちの面影はどこへ? と思うほどの成長ぶりでした。

クラスや担任システムはなくなったけれど......

さて、そんな「子ども時代」は終わり、夏休み明けの9月からは11年生に進級です。ギムナジウム生活も残すところあと2年。担任制も自分が所属するクラスもなくなり、ベースとなるホームルームの教室もありません。生徒は大学生のように、各々10年生の時に選択した科目ごとに教室を転々と移動する生活が始まりました。

とはいえ、全く担当の先生がいなくなった訳ではないようです。生徒は重点コース(Leistungkurse)というアビトゥア試験のメイン科目を2つ選択しなければなりませんが、そのうち1科目の先生がチューター(Tutor:連絡係のような役割)となり、学校と生徒との間に立つことになっているからです。

例えば、息子の場合、重点コースの科目は歴史と生物ですが、そのうち生物の先生が、チューターとなりました。11年生になって初めての保護者会は、この生物の先生の声がけで開催され、生物を重点科目で選択している13人の生徒の保護者全員が集まりました。

ちなみに、後日に予定されている修学旅行も、同じ重点科目を選択しているメンバーで行き、生物に関しては、11年生の終わりにアルプスに氷河観察の旅行を計画しているとのこと。一方、歴史に関しては、12年生の初めにギリシャ旅行を計画しているようです。

6段階評価からポイント制へ

さて、第58回の記事で述べたとおり、ギムナジウムでは10年生は導入段階(Einführungsphase)、11~12年生は資格段階(Qualifikationsphase)と呼ばれています。上述のとおり、11年生からの授業は必修以外は選択制となり、12年生の終わりのアビトゥア試験まで、2年間4学期の受験生活が始まりました。

その中で、これまでのシステムとの一番の違いは、成績の付け方です。小学校以来、10年生までずっと6段階評価(1が最高、6が最低)でした。それが11年生からは、0から15までのポイント制になったのです。

これは、第58回の記事で示したように、アビトゥアの点数は、第1ブロックと呼ばれる11~12年生の成績(600点)と第2ブロックと呼ばれる12年生後半に受験する5科目の試験(300点)の合計ポイント(900点)を元に、6段階評価で出されることによります。チューターの説明によると、これらのポイント付与の基準は、科目ごとに明確に決められており、絶対評価になっているとのこと。

表1をご覧いただくと分かりやすいと思いますが、例えば、テストやプレゼンテーションなどで95%の到達度を示すことができれば、15ポイント取得することができます。そして、これは今までの6段階評価をさらに細かくした1+にあたる、とのこと。アビトゥアでは、最終的な段階評価で4より下の成績(表1のオレンジ色のエリア)を取ってしまうと、不合格になってしまうので、普段のテストやプレゼンテーションでも、それ以上の成績を取る必要があります。

表1 成績とポイントの基準表
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アビトゥア試験に向けた授業の評価基準

評価基準は、教科ごとに細かく決められているようですが、ここで一番分かりやすい体育の例を示したいと思います。ちなみに、体育は11~12年生の間、ドイツ語と同様にずっと必修科目で、もちろんアビトゥア第1ブロックの成績にも含まれます。

事前に大学のシラバスのようなプリントが配布され、そこにテストや授業の日程および内容、そして成績の基準が記されていました。それによると、体育の授業では「12分走」が成績に大きく関与しているようです。これは、12分間でどれだけの距離を走ることができるか、を測るものです。

表2を見ていただくと分かりやすいと思いますが、Q1(11年生前期)、Q2(11年生後期)、Q3(12年生前期)、Q4(12年生後期)、そしてアビトゥアの5回、「12分走」を行います。そこで、例えば男子の場合、Q1で12分間に2,950メートル走ることができれば、15ポイントもらえます。これは約1キロを4分間で走らねばならず、かなりハイペースです。

表2 男子用の「12分走」評価基準(単位:メートル)*女子用は別
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そしてこの基準となる距離はQ2、Q3と時を追うごとに長くなっていき、Q4後のアビトゥア試験第2ブロック時には、Q1より250メートル長い3,200メートル走ることができなければ、15ポイントはもらえません。女子はもう少し緩い基準となっていますが、評価基準が段々厳しくなることには変わりありません。

このように、学校ではアビトゥアのために、2年間かけて準備をしていく、ということがよくお分かりいただけると思います。これは後述しますが、体育のみならず全ての科目に関して共通している事項です。

ちなみに、緑で示したところは、成績でいう2、黄色で示したところは4にあたります。先述のとおり、アビトゥア合格には4以上の成績が必要なので、体育では12分間で黄色のデータ以上の距離を走る必要がある、ということです。

普段、サッカーのトレーニングで走り込んでいるとはいえ、息子は初めての「12分走」に向けて、タイマーを使って走り込みの自主練習をしていました。この自主トレが功を奏したのか、無事に目標を達成していましたが、まさに、ドイツの教育システムは、文武両道だということを実感しました。

体育のみならず、11年生から履修する各科目は、12年生の後半に受ける第2ブロックと呼ばれるアビトゥア試験に向けた授業内容となっています。例えば、歴史の場合、1期ごとに1テーマ、計4テーマを重点的に学びます。具体的には、Q1では古代ギリシャとローマ、Q2はドイツ帝国、Q3はヒトラーの時代、Q4は分断されていた東西ドイツ時代、と各学期に学習すべきことが決められています。その中から1分野が、第2ブロックの試験に出題されるそうです。

ちなみに、アビトゥア試験の問題内容は、ドイツの16州によって異なるため、ベルリン市の場合は、市が各教科の試験問題を作成することになっています。ですから、上記の授業内容はベルリンの試験範囲であり、これは州によって異なります。

重点科目はポイント倍!

さて、第58回の記事で記したように、ドイツの大学では、日本でいうところの一般教養課程はなく、入学後すぐに専門課程に入ります。ですから、ギムナジウム11年生から、既に大学の専門研究の基礎を学ぶ重点コース(Leistungskurs)2科目と、一般教養科目としての役割を果たす基礎コース(Grundkurs)3科目のメイン5科目を履修することとなっているのです。

中でも、第1ブロックと呼ばれる11~12年生の成績においては、2科目の重点科目が重要! というのも、この2科目に関しては、最終的な点数を出す時に、クラウズア(Klausur)と呼ばれる模擬試験のような大きなテストをはじめ、全試験でのポイントが倍にしてカウントされるからです。

アビトゥア試験に向けた大きなテスト~クラウズア(Klausur)

試験に関しては、11年生からはクラウズア(Klausur)という第2ブロックの試験に向けた練習のような大きなテストが始まります。これは、各生徒が選択した主要試験科目5科目を対象に実施され、試験時間も試験本番に対応できる力をつけるため、長めに設定されています。

★重点コース(Leistungskurs)2科目に加え、全員必修科目のドイツ語の試験は135分
⇒アビトゥア試験本番では270~330分
★一般教養科目としての役割を果たすコース(Grundkurs)3科目は90分
⇒アビトゥア試験本番では210~240分

10年生までのテストは授業1コマと同じ時間90分でしたが、このクラウズア(Klausur)テストはさらに45分延びて135分とかなりの長丁場です。しかし、上記のとおり、本番では、最低でも3時間半のテストですから、2年間かけてじっくり試験に取り組む習慣をつけることは大切だと思いました。

また、このクラウズア(Klausur)はアビトゥアの筆記試験と同様に、講堂で11年生全員がそろって受験します。例えば、重点科目では、生徒は各自選択した科目のテストを受けます。息子の場合はこの日の受験科目は歴史でしたが、彼の友人は物理だったり数学だったりと、選択科目が異なっても、試験は同じ日時に同じ場所で実施されるというわけです。

120人の11年生が一斉に試験を受けた最初のクラウズア(Klausur)では、常に歩きながら目を光らせている監督の先生は5人。生徒は、広い講堂に並べられた1列ずつの机に着席する上に、隣の人は異なる科目の試験を受けるので、カンニングなどの不正行為は到底できないそうです。もちろん、カンニングが発覚した場合は、0ポイントです。

また、クラウズア(Klausur)では入場時の持ち物制限も厳しく、開始10分前には着席、スマホを入れたカバンや上着は全て講堂の前方に置き、机上に置いてよいのは万年筆と白い紙のみ。ただし、語学系のテストの場合は辞書、数学や物理などのテストの場合は計算機も、持ち込みが許されています。このことから、試験は付け焼刃では太刀打ちできず、思考力を問われるものであることがうかがえます。

ちなみに、「第34回 ギムナジウム生活の始まり」で記したように、ドイツでは小学校3年生から万年筆を使用しており、鉛筆と消しゴムは使いません。これは自分の考えの修正や変更点を明らかにするためです。

さらに、クラウズア(Klausur)が2時間目以降に実施される場合、その日は必ず1時間目から登校していなければならないとのこと。これは、生徒が家で試験直前まで勉強をするのを防ぎ、全員が同じ条件で受験するための決まりだそうです。ですから、体調が悪い場合は、この日はクラウズア(Klausur)も含めて1日お休みしなければなりません。逆に言えば、クラウズア(Klausur)の日は朝から登校していなければ、受験することはできない、ということです。

クラウズア(Klausur)の内容

この大きな模擬テストであるクラウズア(Klausur)は、重点コース(Leistungskurs)2科目の試験は1学期に2回、一般教養科目としての役割を果たすコース(Grundkurs)3科目の試験は1学期に1回、実施されます。

10月の秋休みの直前に、初めての重点科目のクラウズア(Klausur)が行われました。息子の重点科目である歴史のテストの内容は、テストの1か月ほど前に提示された古代ギリシャに関する9本の論文を事前に読みこんだ上で、試験ではそれらに対する自分の見解を明らかにすることだとか。実際のテストでは、全部で3問出題されたうち、1問は1つの論文から、残りの2問は9本の論文の内容から包括的な内容を問う問題が出たそうです。

息子の話を聞いていると、その内容はとても高校2年生のレベルとは思えず、その勉強法も、筆者がアメリカの大学院で学んでいた時と同様! さらに、ドイツには日本のように受験用の予備校や塾はありませんから、全て自分で準備するしかありません。ギムナジウムとは、大学進学予定者が、大学の専門研究の基礎を学び、準備をするための学校であることが、明らかに見てとれました。

まとめ

上述のように、アビトゥアは、テスト一発勝負ではなく、11年生、12年生の授業の成績(正式にはポイント)やクラウズア(Klausur)という大きなテストもカウントされることから、ドイツでの受験生活は11年生から始まる、といっていいと思います。授業やクラウズア(Klausur)の内容などを見ても、第2ブロックの試験に向けて、生徒に準備させる大切な2年間だということがわかりました。

授業は午後1時半に終わる日もあれば、3時半、5時に終わる日もあります。しかし、早く帰宅しても、寸暇を惜しんで自室で机に向かっている様子は、まさに受験生そのもの。さらに、息子の場合は、これまでどおり、サッカークラブも日本語補習校も続けており、週末はサッカーの試合という時間の制約があります。ですから、本人には「勉強できる時には集中しなければならない」という危機感が強いようです。保護者としては、このまま文武両道を貫いて、なんとかあと2年頑張ってもらいたい、と祈るのみです。

※連邦制をとっているドイツでは、16ある州ごとに教育制度や内容が異なるので、本稿の内容はその一例であることをご了承ください。


筆者プロフィール
シュリットディトリッヒ 桃子

カリフォルニア大学デービス校大学院修了(言語学修士)。慶應義塾大学総合政策学部卒業。英語教師、通訳・翻訳家、大学講師を経て、㈱ベネッセコーポレーション入社。2011年8月退社、以来ドイツ・ベルリン在住。
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