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【ドイツの子育て・教育事情~ベルリンの場合】 第31回 ギムナジウムへの進学(2)~志望校の選択肢と理数系重点校の見学

要旨:

小学校4年生の息子は、小5からギムナジウムに進学する意思をみせている。学校の一般的な情報はインターネットで調べることができたが、具体的な志望校に関しては、理数系か語学系かまだ本人の意思が固まっていないようだった。そこで、さらなる情報収集のため、通学可能と思われる5校のギムナジウムの説明会、体験入学およびオープンデーに参加してきた。本稿では、理数系重点校3校の様子をお伝えする。

Keywords:
ドイツ、ベルリン、ギムナジウム、理数系重点校、説明会、体験入学、シュリットディトリッヒ桃子
小5から進学する?

前回はベルリンのギムナジウム(小5/中1~高3の学校)のシステムについて紹介しましたが、小学校4年生の子どもを抱える我が家でも、小5からの進学について悩んできました。先輩保護者たちに聞いてみると「アビトゥア(大学進学のための資格試験) *1の準備を長くできるのだから、本人のやる気と能力があるのなら、5年生からギムナジウムに進学させたほうが良い」と5年生からの進学を支持する声もある一方、「7年生から進学したほうが、進学先の選択肢が多いので、6年生までみんなと一緒に小学校でのびのび過ごして、基礎を固めた方が良い。」という声も。

当地では、「大学は学問を修める場所」という認識が強いので、「大学入学資格を得て、厳しい大学での授業についていくことができる学力をつけること」を目標としているギムナジウムに進学することは「本格的な学問の開始=子ども時代の終わり」であると考えられています。ですから、親としては、小学校は6年間通って、もう少し子ども時代をエンジョイさせてもいいような気がしていました。

しかし、一番大切なのは本人の気持ちだ、ということで、まずは息子に進学の意志の有無を聞いてみました。すると「ギムナジウムに行ったら今の友達と別れちゃうのは寂しいけど、彼らとは近所だからいつでも遊べるし、新しい友達もできると思う。それより、今の小学校で、うるさい人たちによって授業が中断されちゃうのが嫌だ。」とのこと。第23回 学級崩壊(前編)第24回 学級崩壊(後編)でお伝えしたように、息子のクラスには未だに騒いでしまう児童が複数存在しており、授業が成り立たないこともあるらしいのです。さらに「5時間授業の日でも、2時間しか授業を受けていない気がするから、時間がもったいない気がするよ」とこぼします。

このように「学びたい」という本人の希望を叶えるためにも、やはり来年から進学した方がよいのかな、と私たち夫婦の気持ちも固まってきました。では、どの学校を選んだらよいのでしょうか?

どうやって志望校を選ぶ?

まずは、ベルリンとお隣のブランデンブルグ州の全ギムナジウムの情報を網羅しているウェブサイト *2で、基本的な情報をチェックしました。ここには、市内の地区別に、各校の重点科目や、アビトゥア取得率・平均点、非ドイツ人比率などが公表されています。ちなみに、ベルリンにも私立ギムナジウムが22校存在していますが(公立は約100校)、その多くはキリスト教やユダヤ教など宗教色が強く、小規模な学校が多い模様です。ここである程度、通学可能で息子に合うと思われる学校に目星をつけ、詳細は各校のウェブサイトを参考にしました。また、小学校にギムナジウム進学に興味があることを伝えると、5年生から募集を行うギムナジウムに関する情報が掲載されたプリントをもらうことができました。

しかし、前回も記したように、ギムナジウムは学校によって重点科目が異なり、肝心な学びたい科目については、息子の意志は理数系か語学系か、まだ固まっていない様子でした。(スポーツに関しては、学校外でのサッカーを続けることで、スポーツ重点校には進学しないことにしました。)そこで、さらなる情報収集のため、通学可能と思われる5校の公立ギムナジウムの説明会、体験入学およびオープンデーに参加してきました。

本稿では、理数系重点校3校の様子をお伝えしたいと思います。

理数系ギムナジウム3校比較

下記は、見学に行った理数系校の統計をまとめたものです。

 自宅からの通学小5の募集人数8学年の合計生徒・教員数非ドイツ人率アビトゥア取得率アビトゥア平均点
A校徒歩10分30人(1クラス)約800・70人3割以下98%2.4
B校地下鉄使用30分60人(2クラス)約600・50人3割以下99%1.9
C校中距離電車(Sバーン)使用30分30人(1クラス)約800・60人2割96%2.3
*アビトゥア平均点は、1が満点、4が最低点。

3校ともMINT(Mathematik, Informatik, Naturwissenschaft, Technik:数学、情報工学、自然科学、工学)校として認定されており、これらの科目を重点的に学ぶこととなります。また、第2外国語(必須)、第3外国語(選択)はフランス語かラテン語であることも、共通しています。

では、3校の様子を個別にご紹介しましょう。

1)自宅から近く、途中で文系に変更可能なA校
1906年創立のA校は、現在通っている小学校から1ブロックしか離れておらず、自宅からも徒歩10分。小学校の入学式はこのギムナジウムの講堂で行われました。そんな馴染みのあるA校の説明会は11月下旬の平日の夜に開催され、参加者は親子合わせて70人ほどと見受けられました。

先生方の話によると、5年生入学の理数系プログラムの特徴の一つとして、地元フンボルト大学やベルリン工科大学と連携した授業やプロジェクトを行っているとのことです。しかし、A校では、7年生入学の生徒用に文系コースも設けていることから、途中で文系に変更することも可能とのこと。これなら、9歳で下した決断が、入学後、何らかの理由で変わった場合も、フレキシブルに対応できそうで、これはA校の大きな魅力だと思いました。

この説明会の翌週には一日体験入学が催され、息子が出席してきました。既に在籍する5年生のクラスに混ぜてもらうこのイベントには、事前予約が必要で、定員は小4生30人のみ、先着順の参加となります。ご近所だからか、息子と同じ小学校からも5名ほど参加しており、当日、息子に緊張した様子は全く見られませんでした。

体験授業の時間割は下記のとおりです。
1時間目音楽
2時間目生物
給食温かい肉料理をカフェテリアにて頂く
3時間目英語
4時間目物理
 

授業終了後、晴れ晴れとした表情の息子に話を聞いてみると、英語が大好きな彼は、3時間目は何度も自ら発言するほど積極的に参加した、とのこと。一方、初めて習う物理はさすがに難しく、ちんぷんかんぷんだったらしく、少し落ち込んでいた口ぶりだったので、「5年生で習う内容なのだから、今はわからなくて当たり前なんだよ」と伝えると、ほっとした様子をみせていました。

何より、クラス全員が静かに先生の話や授業内容に集中していたのが、嬉しかったようで、「楽しかった!」と何度も言っていました。確かに、送迎時、在校生を観察してみても、特に荒れた様子もなく、安心しました。

そんな楽しい体験授業だったようでしたが、実は、帰宅後、ちょっとしたハプニングが!息子が水筒をギムナジウムに忘れてきてしまったのです。しかし、その時、私は仕事中で同行できず、仕方なく、彼一人で事務室に取りに行かせることに。親子でドキドキしたのですが、ほどなくすると息子は無事、水筒を手に戻ってきました。「ここだったら一人で問題なく通えるね」と二人で確信した出来事でした。

その後、年明けの1月には、オープンデー(学校全体が開放され、在校生による各教科の発表などが行われるイベント)が開催されたので、家族3人で行ってきました。そこで、じっくりと構内施設を観察してみると、校舎は老朽化が目立ち、教室内や使用する教材は、コンピューターと接続できる電子黒板ではなく、普通の黒板だったり、伝統的かつ標準的なものだったのが印象的でした。

しかし、その一方で、11月の体験授業で英語担当だった先生が息子のことを覚えていてくれ、声をかけてくれたのは嬉しく、また、上級生のお兄さんたちが作ったドローンを飛ばして遊んだり、化学の実験に参加したりと、息子にとっても楽しいひと時だったようです。

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A校の外観

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赤キャベツの色素を用いた化学の実験に参加しました

 

2)地下鉄通学となる理数系トップ校B校
二つ目にご紹介するのは、隣の居住区にある理数系ギムナジウムB校です。この学校は1961年創立と比較的若い学校ですが、アビトゥア平均点はベルリンのトップで、著名な政治家や学者を輩出しています。数学オリンピックや様々な理数系コンペティションに入賞するなど、アカデミックな活動でも優秀な成績を収めています。ですから、この地区だけでなく、ベルリン中から成績オール1(ドイツでは1が最高、6が最低の成績です)の優秀な子どもたちが出願し、競争率が高いことで有名な学校です。だからか、体験入学はありませんでした。

そんなB校の説明会に親子3人で出かけたところ、平日にも関わらず、講堂は満員、立見も出るほどの盛況ぶりでした。ベルリンの大学と連携した授業やプロジェクトを行っていることやカリキュラムはA校と似たものでしたが、5年生からは2クラス60名募集で、7年生での受け入れは1クラス30人のみ募集、文系クラスはなしということで、ハードな理数系校という印象を受けました。だからか、男子の比率が7割以上と高く、構内を歩いていても他2校よりも明らかに女子率が低かったのが印象的です。

1月にはB校のオープンデーにも足を運びましたが、そこで驚いたのは、先生たちの熱心さ!教授のような趣を漂わせている方もいらっしゃり、見学に来た小学生の質問にも、丁寧に答えるなど、教育に真摯に取り組んでいることがわかりました。また、在校生の感じもとてもよく、非常に前向きに勉強に取り組んでいる様子がうかがえました。サイエンスの教室では、小学生と一緒に実験をしたり、算数の部屋では、一緒に数独などの問題を解いたり、とてもオープンで、下級生の扱いにも慣れている様子。聞けば、この学校では、下級生の宿題は放課後に上級生が見てくれるということ。

学校設備も素晴らしく、校内にミニ動物園があったり、ほとんどの教室では、黒板ではなく電子黒板を使用しているなど、トップ校および人気校である理由がよくわかりました。

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上級生に算数パズルを教えてもらいました
算数パズルの問題の一部
   

自宅からは地下鉄1本で通うことになりますが、30分もあれば余裕で到着できる距離です。しかし、オープンデー開催日には、工事のため地下鉄が3か月ほど直通運行されていない時期で、乗り換えが必要でした。また、学校近辺のある建物では、政治的な抗議活動をする人々がしばしば騒ぎを起こしているようで、警察と衝突している様子が何度もニュースで放映されています。私たちは学校自体には好印象をもったのですが、通学に少し不安を感じたのも事実です。

3)中距離電車通学となる音楽や語学の授業にも注力しているC校
C校は2つ隣の居住区にある1904年創立の理数系ギムナジウムです。建物は市の重要文化財に指定されているので、落書き一つない手入れの行き届いた綺麗なものでした。ベルリンでは、学校を含む街のあちこちの建物に落書きが施されているので、これは新鮮でした。こちらの説明会は1月のオープンデーの中で行われていましたので、親子3人で参加してきました。学校施設はB校と同様、新しく、モダンなものばかりで、電子黒板導入率は100%とのこと。学習環境は素晴らしいものでした。

カリキュラムについては、基本的にはA校、B校と似たようなものでしたが、学校自体は音楽や語学の授業にも力をいれており、イギリス、アメリカ、フランスなどの学校と交換留学を行っている、とのことで、この点に息子は大きな興味を示していました。男女半々とみられた在校生たちも、B校同様、面倒見がよく、こちらの質問にも積極的に答えてくれました。彼らは一様に、学ぶ意欲にあふれている印象を受けました。

このように概ね好印象をもったC校でしたが、通学に関しては、自宅からの所要時間は約40分、遅延が多い中距離電車で通うこととなります。我が家からは二つ離れた居住区ともあって、距離的には一番離れていることがネックでした。

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(左)化学教室:燃やすと物質によって炎の色が変わる実験に参加しました
(右)ラテン語教室:古代ローマ人のように羽とインクで木の皮や木製の板に文字を書く体験をしました

このように理数系重点校といっても、それぞれに雰囲気も特徴も異なるので、実際に自分たちの目で確かめてみたのは、非常に有意義なことでした。次回は、バイリンガル校と「のみ込みの早い子どもたち(Schnelllerner)」向けクラスを設置している学校のご紹介をしたいと思います。


  • *1 アビトゥアとはいわゆる「大学進学のための資格試験」で、主にギムナジウムでは12年生で受験します。この試験は一生のうち二回までしか受ける事ができませんが、合格すれば「大学進学の資格」を得ることができます。大学進学の際は、この資格とギムナジウムでの成績の点数を組み合わせた点数(最高点1.0から最低点4.0まで)によって、学校を選んで進学することとなります(日本のような大学入試はありません)。この「組み合わせ点数」の全国平均は約2.4で、例えば、ドイツの医学部入学には、この「組み合わせ点数」が1.0~1.2の範囲でないと難しい、と一般的にいわれています。
  • *2 Gymnasien in Berlin https://www.gymnasium-berlin.net/
筆者プロフィール
シュリットディトリッヒ 桃子

カリフォルニア大学デービス校大学院修了(言語学修士)。慶應義塾大学総合政策学部卒業。英語教師、通訳・翻訳家、大学講師を経て、㈱ベネッセコーポレーション入社。2011年8月退社、以来ドイツ・ベルリン在住。
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