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【ドイツの子育て・教育事情~ベルリンの場合】 第32回 ギムナジウムへの進学(3)~理数系以外の特色ある学校の見学とまとめ

要旨:

前回につづき、見学したギムナジウムについてレポートする。体験授業・説明会に参加したバイリンガル校(英独語または露独語コース)は、ベルリンでもトップクラスの学校。だが、女子率が高く、息子はガールズパワーに圧倒された模様。一方、「のみ込みの早い子どもたち(Schnelllerner)」向けクラスを設置している学校の説明会では、全科目を反復学習なしに10年生までに終わらせる、という文字通りスピード学習を行うとのこと。また、ギムナジウムにおいては、各校で重点科目は異なっても、授業合計時間は小学校と同じであり、放課後クラブの存在、男女共学、という点も共通している。そして成績が振るわない場合は、小学校に戻ることができることも共通点である。

Keywords:
ドイツ、ベルリン、ギムナジウム、体験授業、バイリンガル校、「のみ込みの早い子どもたち(Schnelllerner)」向けクラス、シュリットディトリッヒ桃子

前回は、ベルリンの公立ギムナジウム理数系科目重視校3校のご紹介をしました。今回は見学したバイリンガル校と「のみ込みの早い子どもたち(Schnelllerner)」向けクラスを設置している学校のご紹介をしたいと思います。

バイリンガル校(独英語・独露語)

1909年に創立されたこの学校は、なんと大学進学の資格試験であるアビトゥア *1取得率100%!アビトゥア平均点も1.9とベルリンでもトップクラスの学校です。バイリンガルといっても、英語・ドイツ語コースと、ロシア語・ドイツ語コースに分かれており、5年生からの募集人数は各コース1クラス(30人)ずつ、合計2クラス分60人とのことでした。

ちなみに、公表されているこの学校の統計によると、非ドイツ人比率が50%を超えており、不思議に思っていたのですが、その多くはロシア語コース在籍のロシア人とのこと。というのも、東ベルリンという場所柄、この地区には多くのロシア人が住んでいるからだそうです。

英語が好きで得意な息子は、このバイリンガル校に非常に興味を示したので、昨年12月に開催された体験授業兼説明会に参加してきました。こちらも前回の記事で記述したA校同様、事前予約が必要でした。自宅からは、路面電車に乗って通学することとなり、約30分で学校に到着する場所です。

しかし、当日朝、路面電車の駅まで歩いてみると、人通りの少ない木が生い茂った暗い場所を突っ切って行くのが心細く、特に朝7時台でも真っ暗の冬場の通学は、子ども一人では危ないかも?と思いました。さらに、よりによってこの日は、路面電車が事故で途中から止まってしまい、急遽、歩いて学校まで行くことに・・・始業時間には間に合いましたが、この時点で、親子ともども、このギムナジウムに毎日通うのは大変かもしれないね、と少し後ろ向きな気持ちになってしまいました。

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(左)12月の朝8時頃の路面電車の駅までの道:真っ暗です
(右)初めて習ったロシア語のプリント
     

さて、無事に学校に到着すると、建物はリノベーションされたばかりで、非常にきれいでモダンな印象を受けました。先生も熱心そうで、こちらの質問にも丁寧に答えて下さいました。しかし、在校生および体験クラスに参加する小学生は、全体的に女子が多い印象を受けました。

この日体験できるクラスは午前中2時間のみで、子どもたちがそれぞれ選択できるシステムになっていました。いよいよ体験授業の始まり!という時間になると、英語とロシア語を選択した息子は在校生に連れられて、教室に移動していきましたが、この学校の在校生たちも下級生の面倒を見るのは慣れている様子。先生の説明によると、下級生の宿題は放課後に9年生(日本でいう中学3年生)が見ることになっているそうです。

体験授業が終わると、親子を交えた説明会が行われました。ここで驚いたのが、保護者からの質問よりも、今しがた授業を受けてきた児童、特に女の子からの質問が多かったこと!「やはり、女の子は同年代の男の子に比べてしっかりしているのかしら」と思い、息子に話を聞くと「体験授業は楽しかったよ。初めてロシア語を学べたのも面白かった。でも、1クラス(30人)中、4人しか男の子がいなかったんだ。だから、ぼく、この学校に入ったら、お友達ができないよ」とガールズパワーに圧倒されていた様子でした。先生によると、在校生の約7割は女子とのこと。前回記した理数系重視のB校とは対照的です。

入学試験に関しては、バイリンガル校では実施されず、校長先生および教員との面接(20分間)と4年生前期の成績および調査書(第30回記事参照)で合否が決まるとのこと。理数系重視校のように筆記テストがないのは正直気が楽でしたし、施設や先生方の熱意は素晴らしいと思いました。が、男女比率や通学路を考慮に入れると、ここは候補外かな、という思いを強くして、帰路につきました。

「のみ込みの早い子どもたち」向けクラスを設置している学校

最後にご紹介するのは、Schnelllerner (schnell=早い、Lerner=学習者)という、のみ込みの早い子どもたち向けクラスを設置しているギムナジウムです。我が家から徒歩20分程のところにある1908年に創立された学校の説明会に行ってきました。

このギムナジウムは、ベルリン動物公園の創立者の名前をとってつけられただけあって、フォーカスは生物学とのこと。学内にも小動物園を設けていたり、環境問題にも積極的に取り組むプロジェクトを行っているようです。しかし、この進度の速いクラスのカリキュラムの最大の特徴は、10年生までにすべての履修科目を終わらせ、11、12年生でアビトゥアの勉強を行うことです。通常のギムナジウムでは、11年生まで履修科目を学習しているところも多いようですから、これは文字通りかなり速い進度です。

さらに、このクラスでは、重点科目は特になく、すべての科目を偏りなく学習します。生徒たちは1回の授業で各学習項目を理解・吸収することが前提となっているので、先生が何度も同じ項目を繰り返し教えることはしない、とのこと。従って、生徒たちは全ての教科をかなりのスピードで学習しなければならないこととなるそうです。5年生からの募集人員は、2クラス60人で、卒業までクラス替えはない、とのことでした。

この「のみ込みの早い子どもたち」クラスを設置している学校はベルリン市内に7校ありますが、入学試験は、理数系重視校など他のギムナジウムよりも1か月以上早い1月下旬に一斉に試験が行われます。試験内容はIQテストと同様とのことでしたが、この試験に合格することができなかった場合は、2月から始まる他のギムナジウムに出願することも可能です。

説明会にてこれらの情報を入手したものの、この学校は、決してのみ込みが早いとはいえない息子向きではない、というのが正直な感想でした。結局、家族で話し合って、この学校は受験しないことにしました。

見学したギムナジウムにおける共通点

以上、前回からギムナジウム5校についてお伝えしてきましたが、見学した全ての学校に共通した点もあります。まず、どの学校にもAG(Arbeitsgemeinschaften)といわれる放課後のクラブ活動が存在しています。その内容は学校によって多少異なるものの、音楽やスポーツ、コンピューター、チェスなど多岐にわたります。学童保育の代わりになるこれらの活動により、10年生まで子どもたちは少なくとも午後4時まで学校で安全に過ごすことができるとのこと。ちなみに、小学校の学童保育とギムナジウムのAGとの違いは、前者では毎月料金が発生していたのに対し、後者は基本的に無料のところが多いということです。(クラブによっては、有料のものもあるそうです)

また、授業時間数に関してはベルリン市で決められており、ギムナジウムでも小学校でも、義務教育期間である5年生の授業時間は同じ30時間/週、6年生は31時間/週となっています。その時間内で、例えば算数の時間数に関しては、小学校では週5時間のところを、理数系科目重視のギムナジウムでは週6時間設けているなど、科目ごとの時間数を調節している模様です。

さらに、男女比率の違いはあるものの、男女共学であることも、全ての公立ギムナジウムに共通しています。

最後の共通点は、入学後、どうしてもギムナジウムの授業についていけなかったり、成績が著しく振るわない場合は、通常の小学校に戻ることができるということです。しかし、説明によると、特に理数系重視校の場合、テスト選抜を経て入学することもあり、実際にはそのような子どもはほとんどいない、とのことでした。

重点科目の異なる5校を見学して

以上、前回から見学したギムナジウム5校のご紹介をしてきましたが、まず重要なのは、通学時間に通学路をチェックし、10歳児が一人で通学できるかどうか判断すること、そして、学校に直接出向いて、施設や在校生を観察し、質問があれば先生方に直接聞いてみることだと思います。

子どもにとっては、特に体験授業が有意義だったようです。実際に在校生と一緒に授業を受け、彼らや先生たちとコミュニケーションをとる機会を得ることにより、ギムナジウムでの生活に対する具体的なイメージをもつことができ、この学校に近い将来通いたいかどうか、という判断ができたからです。また、男女比などは統計で知るのと、実際に学校で感じるのではインパクトが全然違うと言っていました。ですから、可能であれば、体験授業を受けてみることをお勧めします。


  • *1 アビトゥアとはいわゆる「大学進学のための資格試験」で、主にギムナジウムでは12年生で受験します。この試験は一生のうち二回までしか受ける事ができませんが、合格すれば「大学進学の資格」を得ることができます。大学進学の際は、この資格とギムナジウムでの成績の点数を組み合わせた点数(最高点1.0から最低点4.0まで)によって、学校を選んで進学することとなります(日本のような大学入試はありません)。この「組み合わせ点数」の全国平均は約2.4で、例えば、ドイツの医学部入学には、この「組み合わせ点数」が1.0~1.2の範囲でないと難しい、と一般的にいわれています。
筆者プロフィール
シュリットディトリッヒ 桃子

カリフォルニア大学デービス校大学院修了(言語学修士)。慶應義塾大学総合政策学部卒業。英語教師、通訳・翻訳家、大学講師を経て、㈱ベネッセコーポレーション入社。2011年8月退社、以来ドイツ・ベルリン在住。
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