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【ドイツの子育て・教育事情~ベルリンの場合】 第33回 ギムナジウムへの進学(4)~志望校決定から入試まで

要旨:

ギムナジウムへの進学シリーズ最終回。学校見学を全て終えた私たちは、息子の志望校選択を尊重した。しかし、過去の入試問題は公表されておらず、テスト対策の施し様がなかった。試しにインターネットで見つけた算数の問題を解かせてみたが、多くの項目でつまずいてしまう始末。さらに、なんとテスト直前に発熱!当日も完治しないまま、テスト会場に向かったが、受験者は定員の倍近くであることが判明。結果は2か月以上もたたないと発表されないこともあり、受験後、我が家では受験の話題はほとんど上がらなかった。結果は吉と出たが、情報入手が困難な当地で受験がようやく終わり、家族全員ほっとしている。

Keywords:
ドイツ、ベルリン、ギムナジウム、テスト、面接、出願、アビトゥア、シュリットディトリッヒ桃子
息子の選択

前回お伝えしたように、めぼしをつけた学校の見学を全て終えた私たちは、理数系重視校3校に的を絞ったものの、第一希望をどこにするかは出願ギリギリまで迷いました。というのも、第30回「ギムナジウムへの進学~5年生から?それとも7年生まで待つ?」でお伝えしたように、願書には第三希望校まで書くことができますが、どのギムナジウムも定員以上の応募があるため、第一希望が不合格だと、5年生からの進学は実質無理だと言われているからです。

私たちは第31回「ギムナジウムへの進学(2)~志望校の選択肢と理数系重点校の見学」で記したB校の雰囲気がとても気に入りましたが、2クラス60人と他校よりも多い受け入れ数にも関わらず、見学した理数系3校の中でレベルも人気も一番高い印象を受けました。しかし、だからといってA校、C校に確実に入れるかというと、そういうわけでもないようでした。というのは、A校、C校の定員は1クラス30人のみと少なく、こちらもB校同様に毎年定員を上回る募集があるからです。

興味のあったギムナジウムの見学を終了し、既に合否の50%に関わる4年生前期の成績と調査書(Förderprognose)は小学校の担任の先生から頂いていましたが、第30回で記したように、そもそも4年生で受験する子どもたちは、Aレベルの成績でないと小学校からGoサインが出ないので、結局は理数系ギムナジウムの選考基準の50%を占める筆記テストで決まるのではないか、というのが私たちの憶測でした。

家族で散々悩みましたが、最後は「志願者数やテストの内容は毎年異なり、どの学校だったら入学できる、という確実な要素はありません。従って、最終的には『ここに行きたい!』という子どもの感覚に従った方が良いです」というギムナジウムの先生の言葉に従いました。結果、息子は現在通っている小学校の近くにあるA校を第一希望校として選び、そんな彼の意志を私たち夫婦は尊重しました。

志望校決定の理由を聞いてみると「体験授業が面白かった」ことと、「自宅から近いから」の二点を挙げていました。通学に関しては前回の記事でも述べたように、5年生から進学するとなると、「一人で通学できる範囲」という学校の立地条件も重要ポイントになってきますが、特に、極端に日が短い時期が続く秋冬の数か月は、登下校時真っ暗ですし、昨今の欧州の治安事情を鑑みると、交通手段、通学路も含めて慎重に検討することが必要になります。

ギムナジウムの先生によると、通学時間は30分以内が理想とされているようでしたが、自宅から徒歩10分で通えるA校でしたら、今とほとんど朝のスケジュールは変わりませんし、放課後には小学校の友達とも今と同じように遊べるので、この選択は間違っていなかったと思います。

早朝面接に面食らった出願

とはいっても、制度上は第三希望校まで最大三校の出願が可能なことから、第一希望A校、第二希望B校、第三希望C校で出願することにしました。2月の初旬に小学校から、4年の前期の成績と調査書(Förderprognose)を3通ずつ取り寄せ、同月下旬に各ギムナジウムに直接書類を持参して出願します。出願期間に関しては、各校の説明会で配布された書類に明記されていました。

第一希望のA校の出願に際しては、「出願日時のアポイントメントをとること、そして簡単な面接を行うので親子で出願に行くこと」という二点が求められていました。そこで、まずは出願アポをとるべく電話をしてみると「2月●日の朝7時15分までに秘書室まで親子で来てください」とのこと!つまり、平日の朝、小学校の授業が始まる前に面接を行う、ということです。ドイツでは始業時間が早い傾向がありますが、入試面接が朝とは大変驚きました。

出願当日は少し早起きをして、緊張した面持ちでランドセルを背負った息子とA校に足を運ぶと、既に秘書室では多くの人が働いています。私たちは到着すると、すぐに小部屋に通されました。そこで、秘書と思われる男性に息子は「本校が第一希望なんだね。君はこの学校に入学したいんだね?」と聞かれました。聞かれた本人は「はい」と一言返すだけ。面接といっても大げさなものではなく、あくまでも本人の意思確認だった印象を受けました。

その後は、私が家族全員の出身地や国籍などの個人情報を書類に記入している間に、秘書の方が、成績表や調査書のデータを理数系重視校出願ポイントに換算する(算数の成績は3倍、ドイツ語は2倍、残りの2教科は1倍で計算する)など、A校の出願フォーマットに書き写して、出願作業は終了。所要時間は20分ほどでしょうか。その間、息子はご褒美にグミベアを頂き、喜んでいました。こうして無事に手続きが終わり、小学校の始業時間にも余裕で間に合い(何せ、信号を渡るだけですから!)、親子でほっと胸をなでおろしました。

ちなみに、服装については日本のように形式ばったものではなく、親子で普段着で訪れましたが、秘書の方もジーンズにシャツというカジュアルな服装でした。

「過去問はなし!」のテスト対策

さて、全ての必要書類を提出し安堵したのも、つかの間、次は理数系校の入学テストです。こちらに関しては、第30回で述べたように、合否の50%を占めるにも関わらず、過去問題は非公表で毎年変わるため、ギムナジウムの先生がおっしゃっていたように準備のしようがありませんでした。わかっていることは、試験は3月上旬に一斉に行われ、時間は50分、場所は第一希望の学校、内容は算数および理科の記述問題、ということだけです。

しかし、テスト当日まで何の準備もしないのもなんだか不安、ということで、4年生前半で習った算数および理科の復習作業に取り組むことにしました。しかし、ここで問題が・・・。

まず、息子の学校では児童は教科書やワークブック一式を学校に置きっぱなしなので、どこまで学習したのかが全くわかりません。(毎日ランドセルに入れるのは、筆記用具とお弁当と水筒だけなのです)せめて教科書だけでも持って帰ってくるように言っても、忘れること数日・・・業を煮やした私は、インターネットで見つけたドイツの小学4年生向けの標準的な算数の教材をざっとプリントアウトして、息子に解かせようとしました。

しかし、学級崩壊の影響なのか、ドイツ国内でも最下位レベルというベルリンの土地柄なのか、息子のクラスでは進度が国内の標準的な4年生クラスよりもかなり遅いらしく、多くの項目でつまずいてしまう始末です。そういえば、息子のクラスでは、一桁および二桁の掛け算テストを毎週、1年以上行っているにも関わらず、未だに落第点を取っている子が20人中5人もいる、という事実を思い出したのもこの瞬間です。

これではまずい!と焦った私たち夫婦は、その日から一日1ページでもよいから、息子に問題を解かせるようにし、少しでも理解度を高めようとしました。サッカー練習や日本語補習校の宿題で疲れ切っている息子を励ましながら、隙間時間を生かし、スケジュール調整を行うなど、まさに家族一丸となっての入試対策でした。

テスト直前にまさかの・・・

そうこうしているうちに、あっという間に3月に入りました。3月といえば、ドイツでは毎年インフルエンザが流行するシーズンです。息子のかかりつけの小児科では「子どもは風邪をひいて体力をつけていくもの」という方針なので、これまで余程の理由がない限り、インフルエンザの予防接種は受けさせてもらえませんでしたが、今年は受験生であるという事情を説明して、2月に接種してもらいました。その他はいつもどおり、早寝を心掛け、温かいものを食卓に並べていました。

健康面での準備は万全!と思っていたのですが、いよいよ明後日テスト本番!という日になって小学校から「息子さんが発熱して辛そうです。迎えに来てください」とお呼び出しが・・・その日の朝は元気だったので、驚いて学校に駆けつけると、教室には39度の高熱でぐったりした息子がいました。結局、帰宅と同時にベッドに直行、そのまま寝込んでしまいました。

テスト前日となる翌日も、熱は38度台から下がらず、食欲もありません。かろうじて、スポーツドリンクを口にする以外は、ずっと眠り続ける息子を目にし、「明日のテストは無理かもね。ギムナジウムは7年生からかな」と私たち夫婦は少しあきらめモードに入っていました。

そして迎えたテスト当日。熱は37度台まで下がりましたが、食欲は完全に戻ってはおらず、床に臥せ続けていたこともあり、ぼーっとした様子です。本人に受験できるかどうか聞いてみると、「せっかくこれまで準備してきたんだから、一応、行ってみるよ」と言います。その「頑張りたい」という気持ちを無駄にはしたくなかったので「じゃあ、行くだけ行ってみようか」と、テスト会場の第一希望A校へ足を運びました。この時ほど、学校が近所でよかった!と思ったことはありませんでした。

テスト会場へ到着すると、学校のロビーに受験者と受験教室が張り出されており、多くの子どもたちとその家族が掲示板を取り巻いていました。その人の多さに圧倒されながら、息子の名前と受験教室を見つけて、その部屋まで送り届けます。ここまで来たら、本人の力に任せるしかありません。祈るような気持ちで教室を後にし、再びロビーで掲示板をチェックしてみると、定員の倍近くの出願があったことがわかりました。

なんとも言えない気持ちで、50分のテストが終わる頃、お迎えにいくと、少しがっかりした面持ちの息子が。やはり頭がフル回転しなかったようで「問題のドイツ語の意味がよくわからなかった」とつぶやいていました。「終わったことを、どうこういっても仕方がないし、風邪ひいちゃった状態でよく頑張ったよ!」と励まし、家路につきました。

結果が出るのは約3か月後

体調がすぐれなくとも頑張った子どものために、すぐに結果が知りたいところですが、合否発表はなんと約3か月も先の5月末です。日本では、中学受験当日に合否が発表される学校もあるとのことでしたので、なんともうらやましいことだと思いました。

しかし、逆にこれだけの期間があることから、息子も私たちも「気をもんでも仕方がない、合格したらラッキー!」くらいの気持ちでいることができました。ですから、試験後、家族の中でギムナジウムの話がのぼることはほとんどなく、すっかり日常の忙しさに追われる日々に戻ると、忘れてしまうことも多々ありました。時々、進路の話になると「7年生からだとこういう学校もあるみたいだよ」と、既に2年先のことを見据えた内容となっていました。それゆえ、5月末に我が家全員宛に郵送されてきた書類を開けた時、息子本人の第一声は「えー、信じられない!」でした。

かくして、昨年10月から続いてきた我が家の「ギムナジウム戦争」は終わり、息子は晴れて今秋からギムナジウム生になることが決まりました!その日は、お手製ちらし寿司でお祝いした後、近所のジェラート屋さんに出向き、いつもはシングルのところを、本人希望のダブルコーンをご褒美として注文してあげました。

振り返り

今回の経験で一番大変だったことは、入試問題などを含めた入試全般に関する情報を入手することでしょうか。日本では、学校情報から過去問や合格へのヒントなど、様々な情報が巷にあふれており、模擬試験なども頻繁に行われていると思いますが、当地では、そのようなことはありません。また、"Nachhilfe"という塾のようなものはあるものの、進学用というよりは、学校の勉強についていけない子どもをフォローする個別指導のようなものです。

さらに、学校の生徒総数など基本的な情報はウェブで公表されているものの、肝心の募集人数や合格率、ボーダーラインなどの情報などは、説明会で直接ギムナジウムの先生に聞かないとわかりませんでした。さらに、過去問題も公表されていませんから、どうやって対策を立ててよいのか、まさに五里霧中といった状態でした。この点に関しては、毎年、各校への志願者数やテスト内容が変わるから仕方がない、とギムナジウムの先生はおっしゃっていました。

これは個人的な見解ですが、当地では7年生からのギムナジウム進学率の方が圧倒的に高く、受け入れている学校数自体も多いため、ほとんどの子どもは第三希望までのどこかの学校に入学することができる一方で、5年生からのギムナジウム進学率は8%と低く *、たとえ今回志望校に入学できなくても、そのまま小学校に残り、2年後に再び進学のチャンスがあることが5年生時点での公開されている入試情報が少ない原因の一つではないかと察します。

さらに、ベルリン出身の夫の話によると、「僕が子どもの頃は、大学進学を望み、それに見合った学力があると判断された生徒はクラスで2-3人しかいなかったし、彼らはそのまま近所のギムナジウムに進学することが多かった。どのギムナジウムでも目標とするアビトゥア(大学進学のための資格試験)の取得に向けて勉強するだけだったから」とのこと。こういった歴史的背景も影響しているのかもしれません。

しかし、息子は5年生からの進学を強く希望していたので、入試情報の少なさに関しては、親として非常に歯がゆく感じた点でした。

そんな中で、興味のある学校に直接出向いて、教師や生徒の声を聞けたことは、非常に有意義でした。そして、結局のところ、9年間ギムナジウムに通わなければならないのは子どもですから、やはり最終的には、彼の直感や意志を尊重するのが大切、と思いました。

どこに住んでいても、子どもにできる限りの教育を受けさせてあげたい、と思うのは親の常かもしれません。今シリーズの記事が、日本のみならずドイツやベルリン在住の親御さんたちに少しでも役に立てば幸いです。


筆者プロフィール
シュリットディトリッヒ 桃子

カリフォルニア大学デービス校大学院修了(言語学修士)。慶應義塾大学総合政策学部卒業。英語教師、通訳・翻訳家、大学講師を経て、㈱ベネッセコーポレーション入社。2011年8月退社、以来ドイツ・ベルリン在住。
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