先日、16歳の息子は、子ども時代最後の定期健康診査のため小児科に行ってきました。ドイツでは18歳になるまでは、体調が悪い時はもちろん、健診のためにも小児科に通います。本記事では、ドイツの子どもの健康診査について、日本のシステムと比較しながらお伝えします。
日本の健康診査
日本では、乳幼児健康診査については、母子保健法により、「1歳6か月児」と「3歳児」の健康診査が義務付けられています。また、乳児期(「3~6か月頃」及び「9~11か月頃」)の健康診査についても、ほとんどの自治体で実施されています*1。しかし、それ以外のタイミングでの健診は、任意のようです。日本の母子手帳を久しぶりに見てみると、確かに6歳までは、医師が記入する健康診査のページはありましたが、7歳以降は保護者が気になった点を書き込むだけになっていました。
これは、日本では学校保健安全法により、毎年学校で健康診断を行うことが義務付けられているからだと思われます。従って、就学後の子どもたちは、小・中学校にて毎年健診を受けることとなっています*2。その検査項目も、身長・体重、視力・聴力測定から、栄養状態、目・鼻・皮膚の疾患、歯の検査、結核や心臓の異常の有無など多岐にわたっています。
ドイツの子ども健診
一方、ドイツの医療保障は、日本のように皆保険システムをとっており、月々保険料を支払います。しかし、ドイツでは国民の9割(ほとんどが会社員)が加入している公的医療保険と、残りの1割の公務員や自営業者が加入する民間の医療保険会社の2種類があります。それぞれの財源は、ほとんどが保険料で、日本の医療保険のように公費からの補助などはありません。どちらの医療保険に加入するかは各自選ぶことができます。健診に関しては、いずれの場合も、加入している医療保険会社が支払いを行います。
また、連邦制をとるドイツでは、0歳~5歳までの健康診査は、バーデン・ヴュルテンベルク州、バイエルン州、ヘッセン州では義務化されていますが、それ以外の州では、義務ではありません。しかし、義務付けられていない州においても、医療保険会社または連邦州から、受診のお知らせが来ます。それから4週間以内に小児科医に予約を入れなかった場合は、自動的に州の保健部門に通知されます*3。
ベルリンでも、全ての子どもたちが定期的に健診を受けることができるように、受診時期になるとお知らせが送られてきます。健診を受けると、その結果は小児科医によって記録され、そのデータはベルリン・シャリテ大学病院に送られ、管理されます*3。
私たちは、子どもが3歳になる直前に渡独しましたが、住所登録をすると、ほどなくして健診のお知らせがきました。その後、自分たちで小児科に予約を入れて、無事にドイツで初めての健診を終えました。
しかし、健診のお知らせを受け取ったにもかかわらず、子どもを小児科に連れていなかった場合には、ベルリン市から小児科の予約日時が指定され、受診するように通知されます。それでも、健診を受けなかった場合は、市の青少年福祉事務局スタッフが子どもの自宅を訪問し、子どもの健康に問題や危険性がないかを確認し、必要に応じてアドバイスやサポートが提供されます*3。これは、子どもの病気、育児放棄、虐待などを早期に発見し、対処できるようにするために行われているそうです。
健診の時期と内容
ドイツでは、誕生から18歳までの子どもが定期健康診査を受けます。ドイツ語では、検査は「Untersuchung:ウンターズーフング」と言いますから、その頭文字をとって、0歳~11歳までの子どもの健康診査はU**と呼ばれています(下記の表参照)。12歳以降18歳までは、ドイツ語の「青少年の健診(Jugendgesundheitsuntersuchung)」の頭文字をとってJ**と呼ばれており、J1とJ2と2回のタイミングがあります。
子ども用の健診(U**)は、乳幼児、学童期、青年期と大きく3つに分けられており、詳細は以下のとおりです。
1.乳幼児の健診*4U1 | 生後すぐ |
---|---|
U2 | 生後3~10日目 |
U3 | 生後4~5週目 |
U4 | 生後3~4ヶ月 |
U5 | 生後6~7ヵ月 |
U6 | 生後10~12ヵ月 |
U7 | 2歳 |
U7a | 3歳 |
U8 | 4歳 |
U9 | 5歳 |
生後1歳までに6回健診を受けた後は、1年に1回の頻度となっています。息子が小さい頃は、U7(21~24ヵ月)とU8(43~48ヵ月)の間が開いていたのですが、新たにU7a(3歳)というタイミングが追加されました。
U1~U9の間は、黄色い「子どもの健診手帳(Kinder-Untersuchungsheft)」が配布され、そこに各段階の健診結果が記入されます。ちょっと日本の母子手帳に似ていますが、予防接種に関しては、別の手帳があるので、この中には記録されません(予防接種に関しては「【ドイツの子育て・保育事情~ベルリンの場合】第11回ドイツの予防接種」をご参照ください)。
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健診手帳の中を見ると、検査項目は標準化されており、身長、体重、頭囲の他に、段階ごとの発達状況を検査できるようになっています。障害や病気の中には、一定の年齢になって初めて顕著になるものもあることから、その内容は、子どもたちの発達段階に合わせて慎重に調整されています。ですから、以前の検査で異常がなかったとしても、U検査の各段階に注目することが重要だと考えられています。
チェック項目の具体例としては、言語発達や社会的能力の検査、自閉症の可能性の有無、ブルックナーテストによる斜視スクリーニング、視力と聴力の検査などがあります。このようにして、発達障害や病気を、適切なタイミングで特定し、さらなる診断および治療措置を開始することができます。
例えば、息子がU8(4歳時)を受けた時は、身長、体重、頭囲測定、胸の音や視力・聴力の検査、臓器、骨格や皮膚などを含む体全体のチェックをはじめ、発音や言語理解の程度を判断するために、医師からの質問に答えたり、さらには、絵を描いたり、片足立ちをしたり、と様々な角度から発達度を診査されたのを覚えています。
先述のように、U1~U9までは、ドイツ内3州では義務、ベルリンを含むその他の義務でない州でも、実質強制的に受診することになっています。費用は全て、加入している医療保険会社が負担します。ドイツでは幼稚園は義務ではないので、このような健診がないと、6歳の小学校入学前の就学前健診まで、子どもが健康であるか、順調に発育しているかどうか、適切に育てられているかなどを、チェックする機会がありません。従って、行政、医療保険会社、医療機関が三位一体となって、子どもの健康を守るために、このようなシステムがとられています。
2.学童期の健診U10:7~8歳(7歳の誕生日~9歳になるまで)
U11:9~10歳(9歳の誕生日~11歳になるまで)
次に小学校入学以降の健診について説明します。これらの検査は、いずれの州でも法律で義務付けられているわけではありませんが、小児科医の専門団体によって明示的に推奨されており、ほとんどの医療保険会社によって費用が支払われます。U10とU11は、重要視されている12歳の健診(J1)の間隔を埋めることを目的としています*5。
この段階でも、子どもの身体的および精神的な発達が評価されます。小学校入学後は、学業面でも社会面でも成長することが重要ですが、特に就学後に明らかになることが多い、発達障害(失読症など)、運動発達障害、行動障害(ADHDなど)の検出と治療の開始が、この健診の目的となっています*5。
ちなみに、日本のように、学校に医師が来て一斉に健康診断を行う、という習慣は当地の学校にはありませんから、ドイツでの子どもの健診は保護者に委ねられている、といってよいと思います。
3.青少年の健診J1:12~14歳(12歳の誕生日~15歳になるまで)
J2:16~17歳(16歳の誕生日~18歳になるまで)
J1はU1~U9同様、上記の3州では法律で義務付けられており、それ以外の州でも、実質強制的に受けなければならない健診です。その費用は、医療保険会社が負担しています。J2に関しては、U10およびU11と同様、多くの医療保険会社が提供する任意のサービスです*4。
J1では、身長、体重、予防接種の状況の他に、血液と尿の検査も行われます。身体検査では、思春期の発達段階や内臓、筋骨格系、感覚機能の状態を明らかにします。さらに、成長期による姿勢の悪さや慢性疾患を早期に検出し、適切な治療を行うことができます。また、皮膚の問題や、拒食症や肥満などの摂食障害の可能性にも対応します。
息子がJ1を受けた時も、姿勢の悪さや痩せていることを指摘されましたが、急激に背が伸びていることやスポーツ(サッカー)を続けていることから、「しばらく様子を見ましょう」ということになりました。また、幼少期から背中にある大きなほくろについても、写真を定期的にとって、大きさや形が変わらないか、自分で記録をとるように言われました。
また、ヒトパピローマウイルス(HPV)予防接種についても説明を受けました。日本では子宮頸がん予防ワクチンとして知られているこの予防接種ですが、男性でも咽頭がんなどに罹患する可能性があることから、当地では青年も接種対象となっており、基本予防接種に含まれています*6。この予防ワクチンは思春期前に接種を完了しておくことが望ましい、とのことでしたので、健診後、予約をとって接種を済ませてきました。
ティーンエイジャーになると、自立志向の高まりもあり、親の同伴なしで健診に行く若者も多いようです。もちろん、保護者が希望する場合や特別な問題がある場合には、保護者が同行することもできますが、息子も先日、子どもの健診としては最後のJ2の検査の予約を自分でとって、一人で行ってきました。そこで、以前の検査で指摘された上述のほくろについて診察を受けた結果、皮膚科で診てもらうように、と言われたようで、その場で紹介状を書いてもらったそうです(ドイツの医療システムでは、専門医にかかる場合は、家庭医・小児科医の紹介状が必要)。このように、小児科医がずっと息子の成長を節目ごとにチェックしてくれていることは、親としても大きな安心材料です。
医療保険会社によって異なるサポート
U1~U9およびJ1の費用は、医療保険会社によってカバーされるので、子どもたちは健診を無料で受けることができます。ただし、定められた期間内に受診した場合に限ります。遅れて受診した場合は自己負担となる可能性があります。J2などその他のタイミングの健診は、医療保険会社によりますが、ほとんどの場合、カバーされるようです。
前述したように、ドイツでは日本のように、皆保険システムをとっていますが、医療保険会社は各自選ぶことができるため、U10以降は、加入している医療保険会社によって、受診手続きなどは異なってきます。ドイツの保険システムはとても複雑なので、ここでは説明を割愛しますが、どの医療保険会社に加入していても、定期健診は強く勧められており、無料であるところが多い模様です。
例えば、我が家の場合は、U10以降は、ベルリン市ではなく、加入している医療保険会社から子どもの健診に関する連絡が来ていました。健診自体は医療保険会社の負担で、受診すると、さらに、医療保険会社から保険料が戻って来るなどのサポートが受けられました。これは子どもが18歳まで続く予定です。
加えて、私たちの加入プランでは、歯医者の定期チェックを毎年受け、定期的にスポーツをしている証明があると、さらなる特典が、医療保険会社からもらえることになっています。このように、当地では、未病というコンセプトが強いため、子どもの発育の状況を確認したり、健康の問題を早期に発見するべく、積極的に定期健診を受けたり、スポーツをすることが重視されています。
まとめ
以上、ドイツにおける子どもの健診事情をお伝えしてきました。日本での子どもの健診は、乳幼児期は1歳6か月、3歳、その後は、就学後に小中学校で毎年行われています。一方、ドイツでは、0歳児~18歳になるまで14回のタイミングで健診を受けることができます。多くの場合、保護者の負担はありませんが、学校での健診はありませんから、いずれの場合も、小児科に行く必要があります。また、加入している医療保険会社によって、任意の健診内容などは異なってくるようです。
ドイツの方が、受診の自由度は高いようですが、小児科に予約をとって連れて行かなければならないので、保護者の負担は大きいです。その予約もなかなかとれないので、1ヵ月、2ヵ月先は当たり前。保護者のスケジュール管理が重要になってきます。しかし、国や自治体、医療保険会社が協力して、子どもの健康を守るために健診を18歳まで無料で実施してくれるのは、ありがたいことだと思っています。
- *1 こども家庭庁成育局母子保健課. 「乳幼児健診について」第4回こども家庭審議会成育医療等分科会 令和6年11月20日
https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/0238af12-b583-4c09-9a67-0f2f7cb19c1c/1b5db65b/20241120_councils_shingikai_seiiku_iryou_0238af12_05.pdf - *2 文部科学省. 「児童生徒等の健康診断情報の利活用について」令和元年9月11日
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000546636.pdf - *3 Berlin. "Früherkennungsuntersuchungen für Kinder" Senatsverwaltung für Wissenschaft, Gesundheit und Pflege Abteilung Gesundheit
https://www.berlin.de/sen/gesundheit/schwangerschaft-und-kindergesundheit/kindergesundheit/frueherkennungsuntersuchungen-fuer-kinder-1364825.php - *4 "Vorsorgeuntersuchungen" Kinder und Jugendarztpraxis Reinheim
https://www.kinder-und-jugendarztpraxis-reinheim.de/leistungsspektrum/vorsorgeuntersuchungen/#:~:text=Die%20J1%20ist%20gesetzlich%20vorgeschrieben,freiwillige%20Leistung%20von%20vielen%20Krankenkassen - *5 "U10-Vorsorge im Grundschulalter" Kinderaerzte im Netz
https://www.kinderaerzte-im-netz.de/vorsorge/schulkind-u10-bis-u11/u10-vorsorge-im-grundschulalter/ - *6 外務省. 「世界の医療事情 ドイツ」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/medi/europe/germany.html