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【ニュージーランド子育て便り】 第3回 子どもの医療事情

要旨:

ニュージーランドでは、あらゆる体調不良はホームドクターであるGPに診てもらい、GPの判断で必要に応じて紹介状を書いてもらい、専門医に診てもらう仕組みになっている。6歳未満の子どもの医療費は基本的には無料である。子どもの風邪の治療では、日本よりも処方される薬が少ないように思う。

ニュージーランド(以下、NZ)に来た当初から、子どもの医療事情*1は母親である私にとって最も知りたい情報の一つでした。NZで子どもがお世話になるのは、GP(General Practitioner)、専門医(Specialist)、小児救急という3つが主です。風邪や予防接種の際にはGPに診てもらいます。GPで専門医の治療が必要だとされると紹介状を書いてもらえます。紹介状なしで直接専門医を訪ねることはできません。小児救急は怪我や時間外の急病などの時に直接行くことができます。なおGPは子ども専用ではなく、あらゆる年代の人を診ている総合内科医といったところです。大人も子どももホームドクター(家庭医)として1つの診療所を登録しており、常に登録した診療所に勤めるGPに診てもらいます。また、例えば旅行先で医療を受けたとしても全ての医療情報はホームドクターに集約されます。ホームドクターを変更すると過去の医療情報も全て移動されます。

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街中にある診療所(GP)の外観

NZには国民健康保険の制度がありません。そのため医療費補助は全て税金で賄われます。6歳未満の子どもの医療費は基本的に無料になり*2、予防接種も全て無料です*3

娘が最初にGPに行ったのは鼻水がたくさん出続けている日でした。「子どもには鼻水はよくあることです。耳も炎症がないので薬は要りません。1週間くらいしたら治るでしょう。」という診断でした。日本では同じような症状でも様々な薬が処方されていました。NZではGPで子どもの鼻水や咳の薬が出るようなことはなく、高熱が出た時用に解熱鎮痛剤が処方される程度のようで、軽い風邪ではGPに行かない人が多いようです。抗生物質が処方されることも非常に稀とのことです。確かに娘の鼻風邪は薬がなくても1週間ほどで治ってしまいました。次に同じような鼻風邪をひいたときには、私もGPに連れていきませんでした。日本では娘が少しでも体調不良になると周りの人にも何かと「病院に連れて行った?」と聞かれました。NZに来てからは風邪でGPに行っても仕方ないと思うことが多くなり、1週間のんびりすごして回復を待つことが増えました。(もちろん娘が成長したことやNZの気候は寒暖の差が穏やかで風邪が重症化しにくいということも重なっていると思います。)

GPに2回目に行ったのは予防接種の時です。日本にいた時もそうですが予防接種は親の私も緊張します。海外で初めてとなれば、分からないことも多いのでなおのことです。しかも日本と接種リストが異なるため不足が多く、この日は4本の同時接種になってしまいました。まず個室に案内され娘をオムツだけの状態にして、娘と向き合ってしっかり抱っこする体勢でしばらく待つように言われた後、2人の看護師が入ってきました。すると1人の看護師がシャボン玉をふーっと吹いて、個室はシャボン玉でいっぱいになりました。NZでは病院でシャボン玉というのは普通のことなのかもしれませんが、私も娘も見慣れない光景に茫然としてしまいました。そうこうしているうちに「はじめます」と看護師2人から両腕に一気に、続いて両足に一気に注射されました。娘はもちろん大泣きでした。注射が終わるとすぐにまた1人の看護師がシャボン玉を吹きました。「もう終わりましたよ。」という意味のシャボン玉だと思いますが、娘は大泣きでシャボン玉に喜ぶどころではありません。私も内心「シャボン玉はもう結構です」と思いながらも、大声で泣いて暴れる娘を抱くので精いっぱいでどうすることもできないまま、シャボン玉が舞う中で、もう1人の看護師から事後反応や院内待機の説明を受けました。その15分後に腫れなどがないかをチェックされ終わりました。通常ここのGPではご褒美にロリーポップ(棒付きの飴)がもらえますが、娘は飴をなめたことがないので私が断ってしまいました。

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NZに来て以来8ヶ月で処方された薬は2種類のみ
解熱剤(左)と抗ヒスタミン剤(右)

オークランドには小児専門病院のStarshipがあります。先日、娘は蕎麦アレルギーでこの病院の救急にかかってしまいました。近所の韓国食材店で偶然手に入った蕎麦を夕飯に食べさせたら、途端に身体中に発疹が出てきてしまったのです。救急に行く前に電話した窓口でも病院でも「蕎麦って何?」という質問を何度もされてしまい、非常にもどかしい思いをしました。数日前に少量食べさせてみて大丈夫だったので、この日はたくさん食べさせてしまいました。アレルギー反応が強く出やすい異国の物を食べさせたことを少し反省しました。結局、連れて行った救急で経過観察をしてもらい、数時間すると湿疹がひいたので無事帰宅しました。

ちなみに、この小児救急医も診察をしながらシャボン玉をふいて娘とコミュニケーションをとっていました。私が医師に会ってすぐに「何時に何を食べてどういう反応が出て...」と必死に説明しているのに、医師が対照的にリラックスした様子で娘に笑顔でふーっとシャボン玉を吹いているので、私は気が散って仕方なく苦笑いするしかありませんでした。考えてみると日本で医師の時間を無駄にしないよう必要な情報を手短に話す癖がついていたのかもしれません。娘と一緒にシャボン玉を眺めて、親子ともに落ち着いてからゆっくり話すくらいでよかったのでしょう。後日、同じ病院で精密検査を受けることになった際は別の医師でしたが、初めに医師がおもちゃや血圧測定器で娘と簡単に遊んでくれ少し打ち解けた後に、私も焦らずに医師と話しました。この日、娘はこの医師が大好きになったようで、診察が終わっても「先生と(血圧測定器で)もっと遊ぶ。帰るのやだ。」と泣いて駄々をこねました。

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小児病院の救急待合室の一角

子どもの医療事情を考えると日本と比べて一長一短だと思います。日本では紹介状を用意しなくても自由にどこの病院(特に専門医)にでも行くことができたのは良かったと思います。GPとの関係は良好ですが、それでも医療情報が集約されてしまうのは若干の抵抗感があります。また、NZでも6歳になるまでは負担額が少ないですが、大人の医療に関しては負担額が大きく*4、家族の医療費を総合的に考えると安いとは言えない気がします。一方でNZに来た当初、医療英語に不慣れなため短い時間で質問することもできずに望まない治療をされたらどうしようという漠然とした不安がありましたが*5、日本と比べても非常に丁寧に患者の話や希望を聞こうとしてもらえるので、今はそういった心配はありません。病院に通う頻度が減ったことと、娘に薬を飲ませることが減ったことについては本当によかったと思っています。NZに来て病院に対する意識はだいぶ変わりましたが、娘に元気に育って欲しいと思う気持ちは日本にいた時と変わりません。


  • *1 NZでは外国人の医療事情や医療費の扱いはVISAの種類によって異なります。私たち夫婦が所持しているのは長期の就労VISAなので、NZ人、永住権所持者と同等の処遇です。逆に短期の就労VISA、その他のVISAでは、長くNZに滞在していても事情が異なるようです。
  • *2 補助額に限度があるようです。我が家のGPは診察料金が高めのようで20NZドル(2013年2月のレートで1NZドル=約78円)の自己負担になっています。
  • *3 予防接種リストの参考情報です。6種混合の予防接種などで、総合的な接種回数が日本に比べて少なくなっています。
  • *4 大人のGPの診察料は70NZドル前後(ホームドクターとして登録手続きをすると3ヶ月後から少し安くなります)、専門医は簡単な診察だけでも100NZドルを超す高額になります。外傷に関してはACC(The Accident Compensation Corporation)という制度があり、基本的に誰もが無料で治療を受けることができます。外傷以外では公立病院で専門的な治療を受ける場合は無料か低額のようですが、待ち時間が長く、中には年単位で待たされるケースもあるそうです。一方、私立病院は待ち時間は短縮できますが、全て私費治療となり高額になります。いざという時に公立病院がどこまで頼りになるのか不透明なためか、多くの人が保険会社の医療保険に入っています。
  • *5 英語を十分に理解できない場合、医療通訳を無料でつけることができます。
筆者プロフィール
村田 佳奈子

お茶の水女子大学卒業、東京大学大学院修士課程修了(教育学)。資格・試験関連事業に従事。退社後、2012年4月~ニュージーランド(オークランド)在住。
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