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【ニュージーランド子育て便り】 第4回 子ども専用の歯科医院

要旨:

ニュージーランドには、子どもが18歳の誕生日を迎えるまで無料で歯科医療をうけることのできる制度がある。この制度に登録した子どもは、学校に併設されている子ども専用の歯科医院でデンタルセラピストから基本的な歯科医療を受ける。デンタルセラピストは子どもが少しでもリラックスできるような治療を心がけているようである。

前回の医療に関連し、今回はニュージーランド(以下、NZ)の子どもの歯科治療について紹介したいと思います*1。オークランドにはARDS(Auckland Regional Dental Service)というサービスがあり、18歳の誕生日を迎えるまで歯科医療を無料で提供してもらえます*2。15歳程度までの子どもたちは、School Dental Clinic(子ども専用の歯科医院)でデンタルセラピストから検診や治療が受けられます*3。School Dental Clinicは学校に併設されている歯科医院です。また、デンタルセラピストは、歯科医とは少し異なるようです。歯のクリーニングや食生活の指導などの予防治療、レントゲン撮影や局所麻酔などを含む治療ができます。デンタルセラピストの範囲内に収まらないような症状の場合は、ARDS提携の歯科医療者(主に歯科医)を紹介してくれるようです。定義や役割を考えると日本でいう地域の保健士の歯科医療版という感じがします。

この制度は、GP(ホームドクター)に「住んでいる学区にあるプライマリースクール(小学校)で1年に1回、無料で歯科検診ができるから、電話してから行くといいですよ。」と教えてもらって知りました。その際、私がイメージしたのは日本の小学校の保健室のようなところで口の中をチェックしてくれる程度のものでした。実際に行ってみると確かに学校の敷地に建ってはいましたが、学校の建物とは独立しており予想以上にしっかりとした歯科医院でした。その上、歯科検診のみではなく治療もしてくれるとのことで驚きました。なお、私たちの学区にあたるプライマリースクールにはSchool Dental Clinicはありませんでした。そのため家に比較的近いインターミディエートスクール(中学校)に併設されている歯科医院を予約して受診しました。調べてみると全ての学校に常設されているのではなく、常設の歯科医院がない学校には定期的に移動歯科医院(Mobile Dental Clinicという歯科治療設備の整った車)が来るところや、近隣のARDS提携の歯科医療者(主に歯科医)で診てもらう方法もあるようです。

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学校の駐車場に建つ歯科医院
(左側のグレーの壁の建物が校舎 中央から右側の赤い壁の建物が歯科医院)

娘の歯科検診の予約時間に歯科医院に到着し、はじめにARDSへの登録手続きをしました。登録内容は住所などの基本情報に加えて、ARDSで提供する治療に関する同意事項でした。同意すべきことは、今後の治療に関して保護者の許可を取らずに行う可能性がある治療内容(レントゲン撮影、クリーニング、シーラント、フッ素塗布)についてでした。受付担当者に「必ずしも同意する必要はないですよ。」と言われました。NZでは患者の権利が非常に尊重されています。ここで提示した意思表示も、いつでも変えることができるとも書かれていました。

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待合室

しばらく待合室で待っていると、優しそうなデンタルセラピストが笑顔で娘を呼びにきました。待合室は、誰でも入れるようになっていましたが、診察室へと続くドアには厳重な鍵がかかっていました。案内されて奥に入ると個室の診察室が3室ほどあり、別の診察室では5歳くらいの男の子が治療中でした。

私たちは診察室に案内され、まず日頃の歯磨き習慣や食生活について聞かれました。診察台に座った後、娘は「サングラス、どれにする?これにしようか?」とピンクのサングラスをかけてもらいました。娘は口を開けようと張り切っていたところへサングラスをかけられて少し戸惑っていましたが、デンタルセラピストはとにかく笑顔で子どもにたくさん話しかけてくれます。「サングラスが似合うね。サングラスかけたことある?」サングラスは子どもの視界を遮ることや歯だけに意識がいかないようにすることで、恐怖心を抑えることが目的のようです*4。そして「この椅子、動くのよ!試してみる?」と椅子を後ろに倒していきます。娘は緊張した表情でしたが、泣くこともなく言いなりでした。口の中に入れる小さな鏡を娘に見せて「これ鏡だよ。これ口の中に入れるよ。あー。」というと娘も「あー。」と大きな口を開けていました。デンタルセラピストは、緊張気味の子どもの扱いに慣れていますし、見守る親の気持ちもよくわかっているようです。終始感心している私に「これが私たちの仕事だから」とにっこり笑って答えてくれました。

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サングラスをかけて診察

終わると両手の甲にご褒美のシールを貼ってもらい、褒められ通しで歯科検診は終わりました。今回は歯に問題がなかったため、次回の歯科検診はまた1年後に連絡をもらえるそうです。なお、歯科検診や治療の記録はARDSに保存されるとのことでしたが、特に検診結果の記録などはもらいませんでした。

設備が子ども専用であるだけでなく、受付担当者もデンタルセラピストも子どもと親への理解が行き届いており、とても居心地の良い時間が過ごせました。無料で居心地の良い歯科医院ともなれば、子どもの虫歯が増えてしまうのではと思う方がいるかもしれません。しかし、検診や治療記録が保存されているところに今後長期にわたって通うと思うと、気楽に行き放題という気持ちにはなりません。加えて歯科治療費は18歳以上になると全額私費負担になります。この私費治療の料金は日本と比較にならないほど高額です*5。子どもの頃から歯の管理を身につけ、大人になってからは自己管理するべきということだと理解しています。


  • *1 外国人の場合にはVISAの種類によって事情が異なるようです。私たち夫婦が所持しているのは長期の就労VISAなので、NZ人、永住権所持者と同等の処遇です。
  • *2 オークランドのみではなく、NZ全土の各地域に同様のサービスがあります。無料の治療の中には歯列矯正治療は含まれません。
  • *3 高校生から18歳の誕生日までは、ARDS提携の歯科医療者(主に歯科医)から無料の検診や治療を受けることができます。働いている場合でも18歳になるまで補助を受けることができます。
  • *4 このデンタルセラピストは、このように言っていましたが、歯にあてる光や治療で飛び散る水などから物理的に目を守ることも目的のようです。大人の歯科治療でも、サングラスをかけます。2015年5月追記
  • *5 私自身は1年に1回の検診と2回のクリーニングで400NZドル(1NZドル=77.27円)程度という歯科医が提供する割安コースに入りました。クリーニングだけでも150NZドル程度、歯の詰め物がとれて再度同じものを被せる処置だけで150NZドル程度、虫歯治療ともなれば更に高額になります。
筆者プロフィール
村田 佳奈子

お茶の水女子大学卒業、東京大学大学院修士課程修了(教育学)。資格・試験関連事業に従事。退社後、2012年4月~ニュージーランド(オークランド)在住。
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