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【ドイツの子育て・保育事情~ベルリンの場合】 第11回 ドイツの予防接種

要旨:

日独では子どもの予防接種項目が異なる。4歳児検診で未接種の予防接種を指摘され、髄膜炎菌C型のワクチンを接種することになった息子。ご褒美作戦で心の準備はできていたように見えたが、実際に小児科に足を運ぶと、誕生日を迎えてからのお兄ちゃんの心得を全て忘れたかの如く、全身を使って拒否。看護師、医師と3人がかりでなんとか接種を終えた。4歳といってもまだまだ成長途中。これからも心身の健やかな成長を見守っていきたい。

先日息子が4歳の誕生日を迎えた頃、「4歳児検診受診のお知らせ」が送られてきました。早速、かかりつけの小児科に予約を入れ、検診に行ったところ「息子さんはドイツでの予防接種がまだ全て終わっていませんね」との指摘を受けました。

ドイツと日本では接種するものが異なるので、ドイツで推奨されていて未接種のものは昨年夏の渡独後から少しずつ打ってきていました。ただ、昨年の冬には長いこと風邪をひいてしまったり、暖かくなって風邪が治ると小児科に行く機会もなくなったりで予防接種のことはすっかり忘れていたので、今回の検診で指摘して頂いたのは良かったです。

今回、息子は髄膜炎菌C型の接種をすることになりました。これはドイツでは通常、2歳前後で接種するらしいのですが、中東、アフリカで流行ることがあり、それらの地域の人の行き来が盛んなドイツでは推奨されている模様。この「推奨」というのは、ドイツでは予防接種は個人の責任で行うもので、日本のように義務ではないからです。この「個人の責任」というのがいかにもドイツらしいですね。

ただ実際には、入園、入学時に健康診断書とともに予防接種の証明書の提出を求められることが多く、推奨リストの予防接種も全て無料ですので、接種している子どもがほとんどのようです。

ちなみに、ドイツで推奨されていて日本で義務付けられていないのは、B型肝炎、Hib*1、MMR(はしか、おたふくかぜ、風疹の3種混合ワクチン)、水痘、肺炎球菌、髄膜炎菌C型です。

反対に日本での接種が義務付けられているBCGと日本脳炎は、ドイツでは推奨リストに入っていません。渡独後、初めての診察で息子の腕にBCGの跡を見つけた小児科医は「ドイツではBCGは中止していますが、日本では行っているのですね」と驚いておっしゃっていました。さらに、ポリオは経口ではなく注射です*2。息子が経口で接種済みとのことを伝えると、これまた「え?!日本では経口なの?ドイツでは注射ですよ」と驚かれました。予防接種に関しては日本国内でも色々な考え方があるようですが、所変われば、とはまさにこのことでした。

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紅葉が始まった街路樹

さて、渡独後の息子の予防接種は言葉の不安もあり、いつも夫に連れて行ってもらっていましたが、今回はどうしても都合がつかず、初めて私が連れて行くことになりました。

若干の不安を抱えながら迎えた接種当日の朝食時、いつものようにその日の予定を話していた時のことです。

私:今日は保育園の後、グミベアのお医者さんに行くからね。
(いつも診察後にグミベアをもらえるのでこう呼んでいる)
息子:なんで?
私:(真顔で)最近ね、熱が沢山出て、頭がとっても痛くなっちゃう病気が流行っているんだって。そんな病気にかかるの嫌でしょ?だから、グミベアの先生に注射してもらうの。そうすると、病気にならないからね。
息子:(顔が急にひきつって)え、チクって注射するの?
私:うん、でもすぐ終わるよ。
息子:やーだー!!ぼく、チクって痛いの嫌い!!
私:でも注射しなかったら、もっと頭とか体とか痛くなっちゃうよ。
息子:・・・
私:それに頑張ったら、先生にグミベアもらえるし、受付のお姉さんからもプレッツェルスティック (プリッツに似たスティック状のお菓子)もらえるかもよ。
息子:そうかな?
私:うん、ちゃんと注射受けることできたら、ママもご褒美あげるよ。それで帰りに公園で大好きなピクニックしよう!
息子:ママのご褒美は何?
私:それは頑張った時までのお楽しみ!でも、とってもいいもの。日本からのものよ!
息子:そっか。わかった!

ご褒美作戦でひとまず心の準備はOK!登園時もいつもと変わらず元気でした。

しかし、夕方になり保育園にお迎えに行くと、既におじけづいていて言葉少なげな息子。それでも道中、小児科に到着するまでずっと、「ぼく頑張って、グミベアとポッキーとママのお楽しみご褒美をピクニックして食べるの」と小声で自分に言い聞かすように言っています。

健気な息子よ、頑張れ、ママがついているから大丈夫よ!

と、こちらも胸がキュンとなる思いでしたが、一歩診察室に入ると、そんな感傷モードは吹っ飛ぶことになりました。

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レゴランドのキリンにて

優しい看護師のお姉さんの「では、長袖とズボンを脱いでね」という指示に「やーだー!Nein!(No! の意味)」と断固拒否の姿勢。私も「脱がないと体重測れないからね」と抱きしめて、脱ぐのを手伝おうとしましたが「やーだー!さむーいー!」と暴れ出しました。

看護師さんもあらら、という感じで「もう○○(息子の名前)はお兄ちゃんだよね?大丈夫だよ、怖がらなくても」と言ってくれましたが、当の本人は全く聞く耳持たず、相変わらず拒否モード。

といっても、ドイツの看護師さんは一緒に脱衣を手伝ってくれるわけではないので(それは親の仕事なのです)、電子カルテのPCの前に座ってひたすら待っています。

仕方なく私一人で5分ほど格闘していると、暴れた拍子に息子は足をベッドにぶつけ、さらに泣き声はヒートアップしてしまいました。

さすがに私も堪忍袋の緒が切れて「もうそんなんじゃ、グミベアもご褒美もなしよ!」と一言。すると、一瞬の間をおいて力を抜いてくれました。その隙に、超速で長袖シャツ、ズボンと靴を脱がせることに成功!すかさず看護師さんが「じゃあ、その体重計に乗ってね」というと、今度も素直に乗ってくれました。

「ああ、よかった~!」と既に汗だくの私はほっとしましたが、残念ながら、それはつかの間の静寂だったのです。

いよいよ先生が診察室に入ってきて「さてと、今日は予防接種だったわね」と挨拶がてら話しかけてくると、全身硬直状態の息子。診察ベッドの上で、先生が一通りの診察をしている間も私にしがみついています。

「じゃあ、行きますか」と先生が注射部位である息子の太ももをチェックしようとした瞬間、Tシャツとパンツ一丁の4歳児は17キロもある全身の力を振り絞って、ベッドの上で大暴れ!そのじゃじゃ馬並みのパワーに「お母さん、両手を押さえて!!」ととっさの先生の声!

私が息子の両手を押さえている間、看護師さんが両足を押さえ、まな板の上の「カエル」状態の息子です。「やだー!やだー!Nein、Nein!」と日本語とドイツ語を入れ混ぜながら泣きわめいていますが、大人二人に抑えられ動くことはできません。その隙に、先生が針を刺すと同時に「ギャー!」とさらに大きな叫び声を上げました。すぐに注射は終わりましたが、絆創膏を貼ってもらっている間も「いたいよー!」と泣きじゃくっています。

先生は「もう終わったから大丈夫よ」と彼の背中をさすりながら優しく話しかけてくれましたが、心なしかあきれている様子。私の肩にも手を置いて「ゆっくりしていっていいからね」とねぎらいの言葉をかけてくれました。この先生は普段は忙しくクールな方なので、こんな風にいたわってくれるとは、よほど、息子の暴れっぷりに驚いたのか、全身汗だくの母親を見て思わず同情してしまったのでしょうか?

ともあれ、無事に接種終了ということで、先生からグミベアを、受付ではプレッツェルスティックを頂き、少し落ち着いた息子。小児科から一歩出るとすぐに目の前の公園に向かい「ママー、ピクニックしよう!ぼく頑張ったから、ご褒美もちょうだい!」とすっかり元気になりました。その切り替えの早さにはいつも驚きますが、疲労困憊した私も一緒にご褒美のおせんべいとチョコレートを食べて一息つきました。

後に心配した夫が電話をかけてきましたが、事の顛末を話すと大笑い。確かに、絵面だけ想像するとこの上ない笑い話ですが、実際に対応するとなると、本当に一仕事です。4歳の誕生日を迎え、最近は少しずつお兄ちゃんになっていると感じることも多かったのですが、やはりまだ4歳。今後の成長をじっくり見守っていきたいと思います。予防接種に関しては、今回の接種で未接種項目はB型肝炎だけになりましたが、次回はパパに行ってもらいたいというのが本音でした。

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読書の秋ですね

*1. ヒブ(インフルエンザ菌b型;冬場に流行するインフルエンザとは関係ありません)による感染症で、乳幼児の細菌性髄膜炎など重い病気の原因となります。WHOの声明もあり多くの国で予防接種が導入されましたが日本では遅れていました。2007年1月に厚労省が認可、2008年12月に発売され任意接種が始まりました。2011年、死亡例を検討するため一時見合わせがありましたが再開されています。任意接種ですが、接種費用の補助金を出している自治体もあります。(編集部)
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/

*2. 「生ワクチン」は、まれにポリオにかかったときと同じ症状が出ることがあるため、不活化ポリオワクチンの導入が求められていました。
単独の不活化ポリオワクチンの定期接種(皮下注射)は、2012年9月から、ジフテリア・百日せき・破傷風・不活化ポリオワクチン(DPT-IPV)の定期接種は、11月からの導入に向けて準備が進められているようです。(編集部)
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/polio/dl/leaflet_120510.pdf

参考文献
外務省ウェブページ
http://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/medi/europe/germany.html

筆者プロフィール
シュリットディトリッヒ 桃子

カリフォルニア大学デービス校大学院修了(言語学修士)。
慶應義塾大学総合政策学部卒業。
英語教師、通訳・翻訳家、大学講師を経て、㈱ベネッセコーポレーション入社。2011年8月退社、以来ドイツ・ベルリン在住。
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