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【ジャカルタ子育てジャーナル】 第11回 ジャカルタの医療事情

外国に住んでいると、現地でどんな医療サービスが受けられるかというのが一番気になることかもしれません。よく耳にするのは「ジャカルタに住むにあたって、健康な時はいいけれど、大病や大怪我の時にはどうしたらよいのだろう」と・・・。確かに普段生活しているときには意識していませんが、万が一のときはどうする?救急車は渋滞のなか役に立つ?医療が発達しているシンガポールに搬送してもらうしかない?など不安が募ります。特に幼い子どもをもつ親としては深刻な問題です。そこで今回はジャカルタの医療事情についてレポートします。

インドネシアの医療保険システム

2014年からインドネシアの医療保険システムが格段に良くなったと言います。BPJSという機関による新たな公的社会保障制度が開始され、以前は保険に入っていない国民が沢山いたそうなのですが、現在は国民全員の加入を義務化しています。インドネシア人に聞いたところによると、加入者は日本で言う健康保険証のようなカードが発行されるようです。所得に応じて無料又は月々数百円程度の安い値段で加入でき、無料で医療サービスが受けられるそうです。ただし、公立のクリニック又は病院に限るそうで、私立の病院では費用がかかります。仕組みとしては、病気やけがのとき、まず地域の指定された公立クリニックで受診します。その際ドクターが設備の充実した病院での受診が必要と判断すれば、私立公立問わず大きな病院への紹介状を書いてくれて大きな病院で診てもらえるそうです。

良い点としては、今までお金がなくて病院を受診するのをためらっていた人々が医療サービスを受けられる機会を得たことでしょう。大病したときの医療費は莫大なものになります。それをあきらめていた人々の希望の光になると思います。例えば、我が家のお手伝いさんが以前出産するとき緊急帝王切開になったらしいのですが、手術代を工面するために親戚に借金をしたりして大変だったと聞きました。今のシステムでは、月々の保険料さえ支払っていれば、公立の病院ではお金がかからないことになります。ただし、逆に悪い点としては、公立の病院はいつも物凄い混みようだそうで、待ち時間が長いそうです。朝行って昼過ぎまで待つのが当たり前のようなことを言っていました。それが理由で敬遠する人も多くいるそうです。

もう1点残念なところは、インドネシア人の国民性の「なんとかなるさ」精神に由来するものかもしれません。我が家のお手伝いさんはBPJSに先月加入したと言っていました。すでに始まってしばらく経つのになぜ?と尋ねると、健康で病院にはそれほどかからないので、月々1人当たり400円ほどの保険料がもったいないと思っていたと。唖然としてしまいました。大変な出産を経験したり、小さな子どももいるなか、月々の支払いがもったいないと考えるものなのかと。我が家のお手伝いさんもそういった感じなので、加入していない人はたくさんいるようです。国民全員の義務といってもなかなか浸透しないのが現状のようです。そのほか、加入しても滞納している人もいるそうです。

任意の保険

比較的経済的にゆとりのあるインドネシア人はどうするのかと言うと、民間の保険に加入しています。同じスクールに子どもを通わせているインドネシア人ママも加入していて、その保険でカバーできる病院に子どもを連れて行くと言っていました。ただし、無料というわけではなく、医療費の何十パーセントかをカバーしてくれるそうです。また、病院によって医療費の差があるそうです。日本では、出産関連や保険診療外のものはともかく、同じ診療内容なのに病院によって医療費が変わるということはないように思いますが、ジャカルタでは病院によって違います。

日本人の子どもはどこで受診している?

ジャカルタでマンションを探す際に、私たちは日本語の通じる病院から近いことを重要な条件に挙げていました。子どもが小さいと、いつ何どき何があるかわかりません。すぐに病院に連れて行くことができることは重要なポイントでした。ジャカルタの中心部には日本語診療が可能なクリニックがあります。前回の「ジャカルタでの出産」のリポートでも触れましたが、インドネシアでは外国人の医師が診療することはできません。その為診察の際は、日本人の看護師又は日本語ができるインドネシア人の看護師に通訳をお願いする、もしくは日本語を話せるインドネシア人医師に診察をお願いするという2パターンがあります。

私は後者の病院に子どもを連れて行くことが多くあります。以前日本で働いた経験のある医師で、親切なこととやはり日本語で直接やりとりできることに安心感があります。通訳を介した場合、ニュアンスがうまく伝わらなかったり、医師とのコミュニケーションがうまくいかないと感じたりすることがあります。

日本人が多く住むジャカルタの南部にも日本語サービスを提供している病院がいくつかあります。

駐在員の家族はたいてい会社経由で海外旅行保険に加入していて、その保険証を持参すれば、各プランによって設定された上限額までは個人で支払う事なく医療が受けられます。

私の失敗談ですが、ジャカルタからオーストラリアへ家族旅行に行った際、大変な目に遭いました。当時1才4ヵ月だった次男が1日に何度も痙攣をおこし、現地の病院に緊急入院することになったのです。結局4日間入院して、そのうちの1日はICUにも入り原因究明のための検査をしたり、沢山の薬を点滴したり、小さい体に沢山針を刺されていたたまれない気持ちでした。また外国ということもあり、私たち親も不安でいっぱいで眠れませんでした。原因は後々分かったのですが、稀にあるロタウイルスからくる痙攣ということでした。

次男が入院中、会社経由の海外旅行保険は補償の上限額がそれほど高くなく、しかも会社規定では、赴任地からさらに国外に旅行に行った際には、その保険は利用できないということが分かりました。これは会社によってまちまちのようです。入院しているときは幾らかかってもいいから早く良くなって欲しいと願っていたのですが、実際に延長した滞在費やレンタカー代、フライト変更にかかった費用、そして後になって何十万単位での医療費請求がきて現実として突きつけられると、個人で旅行保険などに入っておけばよかったと本当に後悔しました。

救急車事情

日本では病気や怪我で緊急を要するとき、まず初めに救急車を呼ぶことを考えます。インドネシア人に聞くと、インドネシアでももちろん救急車を呼ぶことはあるそうです。恥ずかしながらジャカルタに5年も住んでいて、私は救急車を呼ぶ電話番号を知りませんでした。役に立たないだろうと期待をしていなかったからに他なりません。普段車に乗っていて、たまに救急車を見かけることはありますが、日本のように脇に寄って救急車を先に通してあげようという様子は見られません。急ぎたいのに急げない・・・救急隊員や搬送されている人はやきもきすることでしょう。驚いたことに、救急車にはなかなか道を譲らないのにもかかわらず、すでに亡くなった人を乗せた車には道を譲っている光景を見たことがあります。運転手さんになぜか尋ねると、イスラム教では早く土葬しなければいけない決まりがあるそうで、みなそれを知っていて譲っているのだと言っていました。カルチャーショックというか、不思議な感覚でした。

なんでも治してしまう?マッサージ

ジャカルタでは代替医療として、足裏マッサージのリフレクソロジーが盛んです。あちらこちらに安いサロンがあり、出張してくれるマッサージ屋さんもたくさんいます。我が家も来てもらうことが多いのですが、足だけでなく体全体をマッサージしながら、マッサージ師が「masuk angin(マスックアンギン)」だと言います。辞書で引くと「風邪を引く」という意味が出てくるかもしれませんが、日本人が認識している風邪はこちらでは「flu(フル)」と言います。インフルエンザのように聞こえてしまいそうですが、風邪のときはこの「flu」という単語を使います。では「masuk angin」とはどういう意味かというと、「masuk」 は「入る」、「angin」は「風」という意味です。未だに真相はあやふやな感じではあるのですが、悪い気が入っている、体調がよろしくないという意味で受け取っています。要は血流が滞っているのでしょう。

さて、民間療法で体調不良の際によく行われる「kerokan」というコインマッサージがあります。これはマッサージ師に頼まなくても、夫婦間や親子、友人同士でも行われているようで、「masuk angin」の際によく行われています。やり方はコインとオイルを使って背中を強く擦ってもらうのですが、もちろんヒリヒリと痛い!でも施術してもらううちにポカポカして血行がよくなった感じがします。終わった後の背中はというと、水着は絶対に着られないような、真っ赤な線状の跡が残ります。

日本からやってきた母子手帳

なんと日本発祥の母子手帳がODAによりインドネシアでも活躍しています。日本と同じように、子どもたちの成長記録や予防接種の記録などが書けるようになっています。知人のインドネシア人ママはこれが日本発祥のものだと知りませんでしたが、日本人として、母子手帳が子どもたちの成長に一役買っていると思うと嬉しくなりました。

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政府発行の母子手帳

しかし実際の日本での母子手帳とは少し扱いが違っているようではあります。あるママは政府から支給されるものではなく、病院でもらった手帳を使っていました。それには母体の記録はなく、子どもの成長記録や予防接種記録をノートに書いているという感じでした。日本の母子手帳にも載っている成長曲線などの記載はありました。ただ、後から見直すにはちょっと見づらいなとは思います。しかし成長や予防接種の記録が残ることに意義があると考えれば、大いに役立っていることでしょう。インドネシア人にとっての母子手帳のイメージは3歳ぐらいまでの予防接種を記録するもので、日本人ほど重要性を意識していないようには思います。

政府から支給された母子手帳には日本のそれと同じように妊娠中の注意事項や離乳食、育児の注意事項など様々な記載があります。さらに活用するインドネシア人ママが増えることを願っています。


参照:外務省HP
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/hanashi/story/asia/indnesia1.html

筆者プロフィール
岸田佐代子(きしださよこ)
メーカー勤務から地方局契約アナウンサーを経て結婚と同時に夫の赴任先のアメリカ・ジョージア州へ転居。
帰国後フリーアナウンサーとしてリポーターや司会の仕事を行い、2012年夫の転勤に伴いインドネシア・ジャカルタへ渡航。現在に至る。
2児の母。趣味はテニス、ヨガ。
愛犬はトイ・プードル。
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