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【誰一人取り残さない「こどもまんなか社会」の実現を目指す「こども家庭庁」】その9:「こどもまんなか」の視点で乳幼児の育ちを支える「こども誰でも通園制度」について

要旨:

「こども誰でも通園制度」とは、全てのこどもの育ちを応援し、こどもの良質な成育環境を整備するとともに、全ての子育て家庭に対して、多様な働き方やライフスタイルにかかわらない形での支援を強化するため、0歳6カ月から3歳未満のこどもについて、現行の幼児教育・保育給付に加え、月一定時間までの利用可能枠の中で、就労要件を問わず時間単位等で柔軟に利用できる新たな通園給付である。2025年度に子ども・子育て支援法に基づく地域子ども・子育て支援事業として制度化し、2026年度から同法に基づく新たな給付として全国の自治体において実施される。そこで、試行している事業者や自治体及び有識者による検討会を設置して、その具体的な実施に向けて、人員配置・設備運営、認可手続、利用方式等の検討が進められており、2024年12月に一定のとりまとめがなされているので、その概要を紹介する。

キーワード:

こども誰でも通園制度、こども未来戦略、こども基本法、子ども子育て支援法
こども誰でも通園制度の理念と概要

政府は2023年12月22日、『こども未来戦略』を閣議決定しました。その中で、「こども誰でも通園制度」については、「全てのこどもの育ちを応援し、こどもの良質な成育環境を整備するとともに、全ての子育て家庭に対して、多様な働き方やライフスタイルにかかわらない形での支援を強化するため、現行の幼児教育・保育給付に加え、月一定時間までの利用可能枠の中で、就労要件を問わず時間単位等で柔軟に利用できる新たな通園給付」であり、「2025年度に子ども・子育て支援法に基づく地域子ども・子育て支援事業として制度化し、(中略)2026年度から子ども・子育て支援法に基づく新たな給付として全国の自治体において『こども誰でも通園制度(仮称)』を実施できるよう、所要の法案を次期通常国会に提出する」と記載されています*1

本制度は保護者の「就労要件を問わず時間単位等で柔軟に利用できる新たな通園給付」とされていることに意義があります。すなわち、「保護者の都合」ではなく、「こどもまんなか」の視点に立って、こどもにとって有意義な保育の保障をしようとする制度です。

report_02_329_01.png 資料1 出典:こども家庭庁(https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/71c2c6c6-efb3-452e-8d82-8273b281bac4/95f7f74a/20240705_councils_kodomo_seisaku_kyougi_71c2c6c_03.pdf)(参照 2025-01-09)

資料1に示されているように、「こども誰でも通園制度」については、2024年6月に可決された『児童福祉法』において、「乳児等通園支援事業」が規定されるとともに、『子ども子育て支援法』の改正により2025年度に同法に基づく「地域子ども・子育て支援事業」として制度化され、実施自治体の増加を図った上で、2026年度から同法に基づく新たな給付事業「乳児等のための支援給付」として全国の自治体において実施することとされています*2

利用対象者は「0歳6か月から満3歳未満」のこどもで、月一定時間(10時間)までの利用可能枠の中で利用が可能とされています。本制度を導入する事業所について、市町村による認可の仕組み、指導監査・勧告等の制度を設けることが求められることから、市町村の条例制定が必要となります。

このため、2025年度からの制度化及び2026年度からの本格実施に向けて必要な論点について検討するため、こども家庭庁成育局長が学識経験者等に参集を求め、『こども誰でも通園制度の制度化、本格実施に向けた検討会』を設置しており、私はその構成員を務めています。2024年12月26日に開催された第4回検討会において、2025年度からの制度化の具体的な内容に関する『こども誰でも通園制度の制度化、本格実施に向けた検討会におけるとりまとめ』の案が審議され、決定されました*3

こども誰でも通園制度の試行の状況

2023年度には、『こども誰でも通園制度(仮称)の本格実施を見据えた試行的事業実施の在り方に関する検討会』が設置され、2023年12月25日に、制度の意義等、試行的事業実施の留意事項、その他の留意点等、制度の本格実施に向けてさらに整理が必要な事項を内容とする『中間とりまとめ』及び『こども誰でも通園制度(仮称)の試行的事業実施要綱案』が審議され、まとめられました*4

2023年度には、『保育所の空き定員等を活用した未就園児の定期的な預かりモデル事業』を実施し、2024年2月にはこども家庭庁保育政策課とEBPM推進室*5が合同で、実施事業対象家庭に利用開始前・利用開始後の2回、事業所の本事業担当保育者に事業開始後に2回のアンケート調査を実施しています。このアンケート調査では、保護者による預かりモデル事業を利用したこどものよい変化として、「こどもが新しいことに取り組む機会が増えた」(66.8%)と答える保護者が多く、また担当保育者が預かりモデル事業に対するやりがいとして多く挙げたのは、「預かりモデル事業を利用するこどもたちの成長・発達を感じることができる」(69.9%)や「ふだん保育を利用している家庭以外にも、地域の子育て支援に関わることができる」(53.1%)でした。反面、預かりモデル事業に従事することで半数以上の保育者が「事務仕事が増えた」(52.2%)と答えるとともに、預かりモデル事業の課題として、「通常保育に比べて、こどもが環境に慣れることが難しい」(73.5%)が最も多く、次に「通常保育に比べて、保育者が、日々のこどもの様子や特徴を把握することが難しい」(58.4%)が多かったことが注目されます*6

report_02_329_02.png 資料2 出典:こども家庭庁(https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/0afde15f-8760-4477-806a-ed72b6916696/c597861d/20241115_policies_hoiku_daredemo-tsuen_01.pdf)(参照 2025-01-09)

そして、2024年度に試行自治体における取組みが開始され、資料2で2024年9月30日現在の試行的事業、実施状況速報が示しているように、試行しているのは全国で118自治体であり、事業所類型は認可保育所268か所、認定こども園(幼保連携型)232か所、小規模保育所(A型)83か所をはじめとして多様であることがわかります。運営主体も、社会福祉法人345か所、学校法人182か所、公立142か所の他に、株式会社85か所、特定非営利活動法人11か所と多様性がみられます。

こども誰でも通園制度の実施に向けた諸項目

2025年度の「地域子ども・子育て支援事業の実施」に向けて、こども家庭庁において、制度に係る設備及び運営に関する基準(内閣府令)の制定がまさに、2024年度中に行われることとされています。そして、市町村においては、当該基準に基づく条例改正の手続、市町村長による制度の実施事業所の認可手続が必要となります。同時に、全国の市町村においては「子ども・子育て支援法に基づく新たな給付として、当該給付を実施する」とする旨を、『子ども・子育て支援事業計画』に盛り込むこと、「地域子ども・子育て支援事業」を実施する市町村においては、さらに当該事業を実施する旨を同計画に盛り込むことが想定されます。こうして、全国の市町村において、2026年度からの施行に向けて、こども誰でも通園制度について「量の見込み」等を含む内容が盛り込まれることになります。

そこで、本制度の実施に向けた諸項目の内容の明確化が図られています。下記に、それらの項目について紹介し、考察します。

◆利用可能時間について

試行的事業の状況や検討会での主な意見を踏まえて、「引き続き月10時間を補助基準上の上限とする」こととされます。ただし、「各市町村においてそれぞれの実情に応じて補助の対象となる月10時間を超えて、こども誰でも通園制度を実施することは妨げない」こととされています。大規模な都市自治体でも、小規模の町村でも、「公正で平等な誰でも通園制度」が実現し地域格差を生まないために、自治体と事業者の協働による取組みが地域の実情に応じて進むことが期待されます。

◆人員配置・設備運営基準等について

対象施設については、試行実態において多様な主体の参画がみられます。そこで、対象施設は限定しないこととされています。私は、公立私立を含めて幼稚園での実施の拡充をはじめ、こどもに身近で、それぞれのこどもの特性に応じた保育を実践してきた多様な主体の参画が有意義と考えます。

◆対象となるこどもについて

「0歳6か月から3歳未満のこども」とすることについては、検討会では「6か月までが大事」と「0歳6か月未満も含める方向性を」との意見がありました。私はこの月齢については確かにこどもの育ちにとって保護者以外の保育の意義はあると思いますが、この期間については「伴走型相談支援事業*7」が実施されていることや、安全配慮上の懸念を踏まえて0歳6か月から満3歳未満とすることに一定の理由があると受け止めます。

むしろ、私が積極的に提案したいのは、「6か月未満のこどもに対する様々な取組を活性化させるべき」だということです。「伴走型相談支援事業」を三鷹市長当時に開始した経験がある私としては、相談後の伴走の仕組みの整備が重要と考えます。相談後の適切な支援の受け皿をつくらなければいけません。例えば、三鷹市では「産後ケア」事業にも力を入れましたが、現在、こども家庭庁成育局母子保健課が支援しながら国立成育医療研究センターを事務局として、医師会、小児科医会、助産師会、看護師会等が【産後ケア事業多職種連携協議会】を組織してくださっています。

「こども誰でも通園制度」の本格実施に向けた取組みを契機に、「伴走型相談支援事業」「産後ケア事業」「子育てひろば」等の地域の子育て支援の資源を「妊娠期から2歳児までの地域における総合的なこども子育て支援体制の整備」として活性化していくチャンスにしなければいけないと考えます*8

◆認可手続について

市町村における施設の認可手続については、家庭的保育事業等における認可手続と同様に、設備運営基準への適合状況等に照らし、実施可能かどうか丁寧に確認の上、認可を行うこととして、市町村の事務負担を鑑み、法令に反しない範囲で手続を簡素化できる方策として、市町村において参考としていただける内容を【事務連絡】として示すことになっています。

◆利用方式について

こども、保護者ともにニーズは様々であることを含めて、実施方式を選択したり、組み合わせたりして実施することを可能として、利用方式については法令上規定しないこととされています。その内容については、【手引】に示すとされています。たとえば、こどもに合う事業所を見つけるまでの利用や、里帰り出産におけるきょうだい児の利用等について、定期的でない柔軟な利用方式の例として示すことが想定されています。

◆実施方法について

一般型、余裕活用型を法令上位置づけた上で、「通園」を基本とする制度であるが、保育所等で過ごすことや、医療的ケア児や障害児が想定される外出することが難しい状態にあるこどもに対応するために、こどもの居宅へ保育従事者を派遣することについては運用上認めることとされています。

◆人員配置について

「こどもの安全」が確保されることを前提とした上で、一時預かり事業と同様の人員配置基準とするとともに、通常の保育や一時預かり事業との相違があることを踏まえ、2026年度の本格実施に向けて、従事者に対する必要な研修の内容や実施方法の検討を進めることとしています。私は、有資格者はもちろん必要だと思いますが、有資格者の存在のみが必ずしも「保育の質」を保証していない例もあるので、しっかりと有資格者の資質を支え、その有資格者を支援する人材の資質を高める研修が重要だと考えます。これについては、事業所の皆様のこれまでの経験が活きますので、各団体と一緒になって有効な研修内容や実施方法をぜひ具体化していただければと思います。

◆設備の基準について

試行的事業を実施する事業所類型が多様であることや、試行的事業から制度化に当たって円滑に移行していく必要性を踏まえ、一時預かり事業と同様の設備基準を定めることとしています。

◆安定的な運営の確保について

2025年度の制度化にあたっては、必要な保育人材を確保し、しっかりと運営できるものとなるよう設定する方向で検討するとともに、こどもの年齢ごとに関わり方に特徴や留意点があることを踏まえ、利用するこどもの年齢に応じた1時間当たりの補助単価を設定することとしています。その上で、医療的ケア児・障害児・要支援家庭のこどもの受入れに係る加算措置については実施することとしています。

『こども誰でも通園制度の実施にあたっての手引』の作成と『総合支援システム』

「手引」については、本制度について、こどもの成長の観点から、保護者・保育者・事業者、それぞれにとっての意義についての説明に始まり、その意義を実現するための自治体の役割について説明することとしています。その上で、制度の概要について詳細に説明するとともに、事業実施の留意事項と個人情報保護等のその他の留意点について説明しようとするものです。私は、試行している事業所と自治体と国の協働で「手引」をつくることを期待しています。

また、「こども誰でも通園制度」の創設に向けて、こども家庭庁においてシステム基盤を整備し、各地方公共団体・施設・利用者が利用できるようにすることにより、制度の円滑な利用や、コスト・運用の効率化を図る「総合支援システム」についての取組みが進んでいます。これは、何よりも「保育現場の事業者の皆様や自治体の皆様の負担軽減」と「保護者の皆様の負担軽減」をかなえるための取組みです*9

機能として、①利用者が簡単に予約できること(予約管理)、②事業者がこどもの情報を把握したり、市町村が利用状況を確認できること(データ管理)、③事業者から市町村への請求を容易にできること(請求書発行)、の3つを中心に構築されようとしています。

これまでの【保育】制度は、保護者の就労を要件としてきたところを、『こども基本法』の理念である【こどもまんなか】の理念に基づくとともに、社会全体でこどもの育ちと子育てを支えるための制度として、「こども誰でも通園制度」は構想されています。

毎月の一定時間については、保護者の就労要件を問わずに利用可能の制度であり、良質な成育環境を全てのこどもに保障しようとするものです。こどもの視点に立つとき、こどもの育ちに適した環境、家庭とは異なる経験、家族以外の人と関わる機会は有意義です。こどもにとっては専門人材のみならず、同じ年頃のこどもたちとの様々な経験が有効であり、社会情緒的な発達への効果的な影響など成長発達に資する豊かな経験とともに、保護者とこどもの関係性への効果も指摘されています。

今こそ、「こども誰でも通園制度」の周知と、その有意義な利活用が必要です。

2025年3月に、自治体・事業者や検討会委員の意見を反映した「こども誰でも通園制度の実施に関する手引」がまとめられています*10


注記:

筆者プロフィール
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清原 慶子(きよはら・けいこ)

慶應義塾大学大学院修了後、東京工科大学メディア学部長等を経て、2003年4月~2019年4月まで東京都三鷹市長を務め、『自治基本条例』等を制定し、「コミュニティ・スクールを基盤とした小中一貫教育」「妊婦全員面接」「産後ケア」を創始するなど「民学産公官の協働のまちづくり」を推進。内閣府:「子ども子育て会議」・「少子化克服戦略会議」委員、厚生労働省:「社会保障審議会少子化対策特別部会」委員、全国市長会:「子ども子育て施策担当副会長」等を歴任。現在は杏林大学客員教授、こども家庭庁参与、総務省行政評価局アドバイザー・統計委員会委員、文部科学省中央教育審議会・いじめ防止対策協議会委員などを務め、「こどもまんなか」「住民本位」「国と自治体の連携」等による国及び自治体の行政の推進に向けて参画している。
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