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誰一人取り残さない「こどもまんなか社会」の実現を目指す「こども家庭庁」 その8:「5歳児健康診査(5歳児健診)」の創設と適切なフォローアップ体制について

要旨:

2023年12月の国会で、「母子保健医療対策総合支援事業」に関する補正予算が可決され、その中に「5歳児健診」の創設が含まれた。「5歳児健診」は、幼児期において幼児の言語の理解能力や社会性が高まり、発達障害がいが認知される時期であり、保健、医療、福祉による対応の有無が、その後の成長・発達に影響を及ぼす時期である5歳児に対して健康診査を行い、こどもの特性を早期に発見し、特性に合わせた適切な支援を行うとともに、生活習慣、その他育児に関する指導を行い、幼児の健康の保持及び増進を図ることを目的としている。市区町村では多職種による集団健診や保育園等に訪問して行うことが想定されている。健診後の「こどもまんなか」のフォローアップ体制が重要で、特に首長部局の保健・福祉・保育等の部門、児童発達支援センター等と教育委員会の連携が求められる。

キーワード:

母子保健、5歳児健診、発達障害、児童発達支援センター、発達障害者支援センター
2023年度補正予算において新たに創設された「5歳児健康診査(5歳児健診)」

2023年12月の国会で、「母子保健医療対策総合支援事業」に関する補正予算が可決され、その中には「5歳児健康診査(以下5歳児健診)」の創設が含まれています。

そして、2023年12月28日付で、各自治体宛てに、こども家庭庁成育局長からこのことに関する「通知」が発出され、「5歳児健診」の実施要項や、実施に必要な健康診査問診票等についても「事務連絡」として送付されています。さらに、2024年3月には、「5歳児健診」の実施に当たり自治体が参考とするために、「5歳児健康診査マニュアル」が作成されています。

母子保健法の第一条には「この法律は、母性並びに乳児及び幼児の健康の保持及び増進を図るため、母子保健に関する原理を明らかにするとともに、母性並びに乳児及び幼児に対する保健指導、健康診査、医療その他の措置を講じ、もつて国民保健の向上に寄与することを目的とする」と記されています。

したがって、「健康診査」は乳児及び幼児の健康の保持及び増進を図るために講じる措置の1つであり、先のこども家庭局長からの通知*1には、「5歳児健診」は、「幼児期において幼児の言語の理解能力や社会性が高まり、発達障害が認知される時期であり、保健、医療、福祉による対応の有無が、その後の成長・発達に影響を及ぼす時期である5歳児に対して健康診査を行い、こどもの特性を早期に発見し、特性に合わせた適切な支援を行うとともに、生活習慣、その他育児に関する指導を行い、もって幼児の健康の保持及び増進を図ることを目的とする」と書かれています。

「5歳児健診」で行う項目は、①身体発育状況、②栄養状態、③精神発達の状況、④言語障害の有無、⑤育児上問題となる事項の確認(生活習慣の自立、社会性の発達、しつけ、食事、事故等)、⑥その他の疾病及び異常の有無、の6項目です。

特に、「5歳児健診」の特徴は、個人の成長や発達を診察するだけでなく、集団における立ち振る舞いを評価して、社会的な発達の状況を把握することにあります。これは発達障害等の早期発見、スクリーニングにつながるだけでなく、遊びや人間関係の豊かさ、こどもと家族の地域社会とのつながりなど健康の社会的決定要因を把握することにもつながります。そこで、「5歳児健診」においては、養育環境や経済的困窮、社会的支援などのこどもの健康の社会的決定要因における保護因子(プラスに働く要素)とリスク因子(マイナスに働く要素)を見極めて、これらの因子に対する保健指導と子育て支援を行うことが期待されています。

「5歳児健康診査マニュアル」が示している内容

「5歳児健康診査マニュアル」*2は、こども家庭科学研究費補助金成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業「身体的・精神的・社会的(biopsychosocial)に乳幼児・学童・思春期の健やかな成長・発達をポピュレーションアプローチで切れ目なく支援するための社会実装化研究」(研究代表者:永光 信一郎))において作成されたものです。

マニュアルでは、「5歳児健診の重要なポイント」として、「精神発達の状況」「言語障害の有無」「社会性の発達」などを挙げています。重篤な先天性の身体的疾患については、多くは「3歳児健診」までに指摘されていると考えられますが、「5歳児健診」では集団生活を営む上で必要な社会性の発達や自己統制などの行動面の発達を評価することが重要となることから、発達の評価により指摘される疾患としては、①注意欠如多動症、②自閉スペクトラム症、③知的発達症(軽度~境界域)、④場面緘黙症、⑤吃音、⑥機能性構音障害などをあげています。

こうして、「5歳児健診」を受診することで、集団生活を送る上で求められる社会性や調和的な行動を確認し、これらについての所見が認められる場合や保護者に何らかの心配がある場合には、専門相談を活用することができます。必要に応じてその後の医療、福祉、教育などのフォローアップにつなげることで、課題となる行動の改善につなげ、環境を調整することで社会生活への適応をスムーズにすることになります。

このように、「5歳児健診」には主として、情緒、社会性の発達状況や育児環境の課題等に対する気づきの場としての役割があることから、何らかの課題が発見された場合には、こどもや家族の状態に応じた多職種による支援を開始し、就学に向けて必要な準備を進めていくことが目指されます。この目的を果たすためには、医師のみによる「個別健診方式」ではなく、多職種による「集団健診方式」が推奨されています。

「集団健診」の場合、市区町村の保健センター等で行うことが一般的であるとともに、医師、保健師、心理担当職員等がチームを組んで保育所・幼稚園・認定こども園等を巡回する巡回方式などを組み合わせて実施する事例もあります。「5歳児健診」の事例の類型についても、こども家庭庁で示されています*3

「5歳児健診」を実施する市区町村においては、このマニュアルを参考にして、「5歳児健診」を実施するための地域の実情に応じた体制整備に努めることが求められますし、都道府県においては、5歳児健診の実施体制の整備に係る広域的な調整の実施が求められます。

5歳児健診の実施に求められる保健、医療、福祉、教育の各分野における地域のフォローアップ体制

「こどもまんなか」の視点に立った総合的な健診の実施と共に、こどもの状況を踏まえつつ、保護者の心配を軽減することも重要です。マニュアルには、「5歳児健診」の実施に向けた準備及び体制について、健診における診察内容の詳細、専門相談の具体例に加え、保健・医療・福祉・教育の連携による地域のフォローアップ体制について記載されています。

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資料1:5歳児健診フォローアップ体制イメージ
出典:こども家庭庁(https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/ce28e632-7504-4f83-86e7-7e0706090e3f/5a476375/20231122_councils_shingikai_seiiku_iryou_tWs1V94m_07.pdf)(参照 2024-09-27)

資料1に示されているように、「5歳児健診」の実施に当たっては、健診を実施する体制整備に留まらない、保健、医療、福祉、教育の各分野における地域のフォローアップ体制の整備及び分野間の連携体制が必要です。

地域のフォローアップ体制については、2024年3月29日に、「5歳児健康診査の実施に当たって求められる地域のフォローアップ体制等の整備について」という「通知」が発出されています。この「通知」は、こども家庭庁成育局保育政策課長、保育政策課認可外保育施設担当室長、成育基盤企画課長、母子保健課長、支援局障害児支援課長に加えて、文部科学省初等中等教育局幼児教育課長、特別支援教育課長、健康教育・食育課長、さらに、厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部精神・障害保健課長、障害福祉課長、保険局医療課長というように三省庁の課長が連名で発出しています*4

「5歳児健診」は市区町村の首長部局の母子保健担当部門が実施するものですので、市区町村の首長部局と保育所等との連携がなされると、教育委員会や小学校等への円滑な申し送りにつながる効果があります。「5歳児健診」が創設される前は、5歳児健診を行っている自治体は多くなかったので、6歳児が教育委員会による「就学時健診」を受けるまで、3歳児健診から期間があいていました。就学時健診で何らかの課題が発見されることになった場合には、保健・福祉部門による対応のタイミングが遅いことが問題提起されていました。特別な配慮が必要なこどもに対しては、何よりも「早期発見・早期支援」が有用であり、そうすることによって、保護者の課題への気づきやこどもの生活への適応が向上する可能性が指摘されていました。「5歳児健診」の実施により学童期の不登校発生数が減少したという研究結果もあるとのことですが、直接的な因果関係については丁寧な検証が必要でもあります。

また、「児童発達支援センター」とは、主に障害のある未就学児で、身体の障害、知的障害、発達障害を含む精神障害のある子ども、上肢か下肢または体幹機能に障害がある子ども、児童相談所や市町村保健センター、医師等によって療育の必要性が認められたこどもを対象に、総合的な支援を行う療育支援施設です。そこで、「5歳児健診」に「児童発達支援センター」の職員等が参画できる場合には、療育を利用するための具体的な手続き、実際の療育の方法、そこで期待される効果などを保護者にその場で説明することができます。

こうして、「5歳児健診」を含む乳幼児健診等の機会を通じた、「児童発達支援センター」による早期の発達支援の取組が期待できます。療育を開始した後は、保護者、療育担当者、保育所等、かかりつけ医が連携することで、こどもへの支援が強化されます。

また、「5歳児健診」で発達障害等を踏まえた支援が必要であると判断されたこどもについては、「児童発達支援センター」とともに、都道府県や指定都市に設置されている「発達障害者支援センター」による適切な時期の適切な支援につなげる必要があります。

そして、「5歳児健診」を受けたこどもたちの状況に則した適切な支援が早期化することによって、就学前に課題が少しでも克服されることが大切です。また、就学前の情報が教育委員会に適切に伝達されることによって、こどもの就学後の生活への適応が円滑に進むための支援が期待されます。

このように、「5歳児健診」の創設には、健診後の地域における「こどもまんなか」の総合的なフォローアップ体制の整備が重要であり、多職種の連携が不可欠です。未就学の時期から就学後に向けて、適切で円滑なこどもたちの育ちと学びの保障が継続されますように、創設された「5歳児健診」の機会を活かしていくことが期待されます。


注記:

筆者プロフィール
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清原 慶子(きよはら・けいこ)

慶應義塾大学大学院修了後、東京工科大学メディア学部長等を経て、2003年4月~2019年4月まで東京都三鷹市長を務め、『自治基本条例』等を制定し、「コミュニティ・スクールを基盤とした小中一貫教育」「妊婦全員面接」「産後ケア」を創始するなど「民学産公官の協働のまちづくり」を推進。内閣府:「子ども子育て会議」・「少子化克服戦略会議」委員、厚生労働省:「社会保障審議会少子化対策特別部会」委員、全国市長会:「子ども子育て施策担当副会長」等を歴任。現在は杏林大学客員教授、こども家庭庁参与、総務省行政評価局アドバイザー・統計委員会委員、文部科学省中央教育審議会・いじめ防止対策協議会委員などを務め、「こどもまんなか」「住民本位」「国と自治体の連携」等による国及び自治体の行政の推進に向けて参画している。
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