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論文・レポート

海外留学を断念する前に、ぜひ知っておきたい大切な情報:米国大学の国際交流室職員の視点より- パート1

リチャード H. ポーター(テキサス工科大学国際交流室・留学生サービスセンター長)

2018年10月12日掲載

要旨:

国際化は、日本において、国と民間セクターの優先事項として位置づけられている。このため、国際化に関する数多くの大規模な取り組みが、日本の学校教育のプログラムの中で行われてきた。この施策の一部として、日本の生徒や学生たちの海外留学奨励がある。今回の記事では、日本人学生の海外留学の動向について、私自身の個人的な経験―日本の大学で英語教育者として勤務したことと米国の大学で国際教育に長らく携わったことを含めて論述する。また先行研究に基づき、日本人学生にとってなぜ長期の海外留学が困難であるのか、その障壁について説明したい。次回と次々回の記事では、日本人学生が米国の大学機関で学位を取得する際に、障壁として考えられる二つの点について、私自身の経験や先行研究の知見に基づいて具体的なアドバイスを提供する。
English
はじめに

今から約30年前、私はクルーズ船でビデオカメラマンとして働き、日本からシンガポールまで、アジアの多くの国を訪問する機会があった。その時印象的だったのは、アジアにおける日本の存在感と影響力であった。どの国を訪問しても、路地やお店で日本の製品が売られ、日本製品が宣伝されていた。当時、日本は経済的にアジアの中でも突出して他国を上回っているという印象を受けた。その後、私はTESOL(第二言語としての英語教育)の資格と教育学の修士号を取得し、日本で英語講師として約6年間働いた。これは1992年のバブル崩壊直後のことであった。1998年に米国に帰国して以来、米国の大学の国際交流室の職員として勤務し、20年以上になる。

私は仕事上、アジアを訪れる機会が多いが、最近のアジアで見る景色は1989年に見たものからは劇的に変化している。日本の商品や広告の他に、中国、韓国、台湾の経済産業の影響力が明らかに見て取れる。一般の人が見ても、地域経済の状況に劇的な変化が起こっていることは明らかである。この私の過去の経験により、グローバル化の劇的な変化がさらに浮き彫りになって感じられる。最近の日本政府と民間セクターの国際化への取り組みは、これらの変化に対する対応であると考えられる。

国の国際化への取り組み

近年、国と民間セクターは「グローバル人材の育成」を緊急課題として捉えている。グローバル人材の不足は、世界経済における日本の立ち位置と地政学的な位置づけに重要な影響を与えていると思われる。そこで競争の激しいグローバルな環境に立ち向かっていける人材を育成することが今後ますます必要になってくる。国と民間セクターは、日本社会、特に日本の学校制度が、ますます競争が激しく複雑になっていくグローバルビジネスと政治の世界を突き進んでいけるような人材を十分に育てていないという懸念を抱いている。このような人的資源がなければ、これからの複雑につながりあったグローバルな課題を乗り越えたり、そうしたチャンスを活用することが難しいと考えられる。

これらの課題への対応策として、日本政府と民間が協同し、国際化を念頭に置いた教育プログラムへの資金を提供するという大々的な施策を行ってきた(Huang、2015)。そのような取り組みの最優先目標は、よりグローバルな人材を育成することである(MEXT、2016)。過去10年間に日本で実施された国際化施策として、以下のものが挙げられる。

  • 小学校から始まる英語教育
  • グローバル30とグローバル30プラス
  • 留学への参加を促進するための奨学金プログラム(トビタテ!留学JAPAN奨学金)
  • スーパーグローバル大学創成支援事業

スーパーグローバル大学創成支援は、海外から日本の大学への質の高い学生、学者、教員の増員を援助することで、選ばれた大学の国際的な地位を高めることを目的としている。その他のプログラム、トビタテ!留学JAPAN奨学金やグローバル30プラスは、日本の学生たちがもっと海外留学することを奨励するために構想されたプログラムである。このような取り組みは、グローバルな人材を成する上で、海外留学が重要な経験であることを認識していることを示すものである(Asaoka&Yano、2009)。また過去20年間にわたり学位取得をともなうような長期の海外留学に参加している日本人学生の数が減少していることにも対応している。

日本政府や民間企業によるこのような施策は、海外留学の減少をマスメディアが若者の「内向き志向」として報道したことと関連していると言われている(太田, 2013)。これからの国際化社会の中では、日本人若者の内向き志向に歯止めをかけるためには、留学に伴う金銭的な負担を政府や民間企業が肩代わりすることが必要になるというコンセンサスが得られている。この内向き志向という言葉は、比較的安全で安心な日本の地を離れ、リスクや苦難に耐えることに対して躊躇する、という風にも説明できる。しかし、実際日本人の若者が内向き志向でこのようなリスクや困難を避けているというより、むしろ日本で得られる機会があるにもかかわらず、わざわざ海外に留学するメリットを感じておらず、帰国して得られる評価に対して懐疑的であるという風にも解釈されている(British Council, Education Intelligence、2014; 太田、2013)。

日本人学生の海外留学動向

1992年には、米国内の留学生の内訳では日本人学生の数が、最も多かった。その後、米国で勉強する日本人学生数は約60%以上減少した。その反面、米国の国際教育研究所(IEE)の報告書、オープン・ドアーズ・レポート(IIE、2017)によると、米国で学んでいるアジアの他の国からの学生数は増加傾向にある。特に中国と韓国の留学生が劇的に増加している。今では、日本は米国における留学生数の順位として8番目までに落ちたことが示されている(IIE、2017)。その他のデータでは、全世界における日本人留学生の数は最近増加していることが示されているが、これは主に短期間のプログラムに参加する学生数が増加していることを反映している(Porter, Edmond, & Ota, 2018; Smith,2016)。

また世界中で自国外で勉強している学生の人数は過去20年間で劇的に増加していることが報告されている。ユネスコ(2016年)の最近の報告によると、2000年以来、自国以外の国で勉強している学生数は78%増加しており、米国は引き続きこれらの学生の最も多い受け入れ先となっている。日本は、この世界的な動向に対し、逆の傾向を示しており、世界の中で浮き上がっているように思われる。

日本人学生の海外留学を増やすことの重要性

日本の企業はますますグローバル化している。そのため、長期の海外留学プログラムに参加した学生を優先的に雇うことは非常に大切であると考えられる。こういう筋書きがあれば、海外留学に投資する学生が評価されることにつながる。しかし、海外留学から帰国した学生たちへの受け入れ態勢が整っている日本企業は多いと言えず、このような単純な筋書きが受け入れられていないと考えられる。日本企業の文化は、グローバル化を前面に押し出してはいるものの、帰国した学生たちが留学で得た新しい習慣や見方を受け入れているとは言いにくい。海外留学に対する企業の考え方を変えることが明らかに有利であることが分かっていても、日本の企業は依然として変革が難しいと捉えている(Tabuchi、2012)。会社にとって最善であるはずの考え方と、慣習的な従来の考え方の間で生じる葛藤を身をもって経験しているのは海外から帰国した留学生であり、この葛藤の中で勝ち残れるとは限らない。

現在のグローバルな環境において、日本では競争力を身につけなければ、成功することができないだろう。このグローバルな環境で競争するということは、世界的に認められる有能なリーダーを政府と民間セクターのために輩出する必要がある。学生側のこのコスト面に関するリスクは依然として残っているものの、グローバルな能力を身につけた学生の将来的なメリットは相当なものであると考えられる。留学することに決めた学生から、よくある質問が次の二つである。一つ目の質問は、海外留学の種類であり、短期プログラム、長期交換プログラム、学位プログラムのどれを選択するかである。 二つ目の質問は、留学プログラムに参加する上での障壁をいかに克服するかである。これらの障壁は、留学プログラムのタイプによって異なってくる。短期留学プログラムは、障壁とリスクがより少ないと考えられる。長期留学プログラムは障壁とリスクがより大きくなるものの、学生と社会の双方にとって、グローバルな人材育成という面で、よりインパクトのある有益な成果をもたらすと考えられる。

海外留学の障壁

2016年、私は在京のアメリカ大使館よりTeamUp Micro-Grants (チームアップ・マイクログラント) という助成金を受けた。これは、米国と日本の大学間のパートナーシップの発展を促進するために作られたものである。私はこの機会により、日本の大学を訪問し、幾つかの大学と新しいパートナーシップを形成する機会を得た。この訪問の経験と私自身の米国大学の国際センターでの勤務経験、さらに海外留学に関する最近の研究を概観し、長期留学を目指す日本人学生の障壁をどのように克服できるかについて、次回以降のレポートで提言したい。日本人の海外留学を困難にしている要因として、次の点が挙げられている(小林, 2011, Lassegard、2013、Ota, 2011, 横田&小林, 2013など)。

  • 経済的負担
  • 英語の能力不足
  • 海外留学への興味と意欲の欠如。
  • 大学卒業の遅れ
  • 就職のタイミングを逃してしまう恐れ(同級生より卒業が遅れ、就職活動の波に乗り遅れる不安)
  • 留学先の国の安全に対する懸念。

次回とその次の記事では、経済的負担、英語によるコミュニケーション能力の不足、という2つの障壁について、私の米国大学の国際センターでの勤務経験と日本の大学での英語教員としての経験に基づいて助言と提案を行いたい。これらのレポートにより、日本人学生の海外留学増加に少しでもつながることを心より願っている。

訳:ポーター倫子 (ワシントン州立大学人間発達学部講師)


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筆者プロフィール

Richard_Porter.jpg リチャード ポーター
約25年間、米国の大学で国際教育に携わり、現在はテキサス工科大学留学生及び外国人研究員支援課室長。TESOL(第二言語としての英語を教える)の資格をもっていたこともあり、1993年より6年間日本に在住、その間私立短期大学で英語講師として勤務。近年は、日本人の海外留学をテーマに研究を行っており、このテーマで書いた論文で博士号を取得。2016年には、在日米国大使館よりチームアップ・プロジェクトの助成金を受けたほか、韓国および台湾にてフルブライト国際教育職員プログラムに参加。
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