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【ドイツの子育て・教育事情~ベルリンの場合】 第59回 ドイツの子どもたちのスポーツ事情:部活との違いは?

要旨:

日本の中高校生は部活動を通してスポーツをするケースが多いようだが、AGと呼ばれるドイツの部活は概して文化系の活動が多く、活動時間も日本の部活に比べて短い。ただし、顧問は学校の教師であることは共通している。AGで提供されていないスポーツに関しては、当地の子どもたちはフェアライン(Verein)と呼ばれる非営利法人スポーツクラブで行う。これらは学校のスケジュールに連動しているため、休暇中の練習はなく、日常の練習時間も日本の部活動に比べ短い。費用は格安で、有資格指導員はボランティアであるが、地域に根差したスポーツクラブでのびのびと汗を流すことは、子どもたちの心身の成長にポジティブな影響をもたらしている。

キーワード:

ドイツ、ベルリン、シュリットディトリッヒ桃子、部活動、フェアライン、スポーツクラブ、サッカー、ブンデスリーガ、合気道

5歳からサッカーを始めた息子(【ドイツの子育て・保育事情~ベルリンの場合】 第26回参照)は、紆余曲折はあったものの、15歳になった今でもサッカーチームに所属し練習を重ねています。本記事では、当地における子どもたちのスポーツ事情について、お伝えしたいと思います。

放課後活動の日本とドイツの比較

日本の中学生、高校生は部活動を通してスポーツをするケースが多いと思います。毎日、放課後数時間の練習に加え、季節によっては、授業の前に朝練がある時期もあるでしょう。

文部科学省スポーツ庁によると、中学生の運動部の1週間の活動時間は、平日で2時間程度/日、休日で3時間前後/日。また、1週間に休養日を設けていない中学校は2割以上、週末も活動する中学校の割合は4割以上となっています*1

文化部の活動でも、4割以上が1週間に14時間を超えた活動を行っており、2割以上が21時間を超えている、とのことですから、運動系、文化系を問わず、日本の部活は活動時間が長いことがうかがえます*2

一方、ドイツの「部活」は日本のとは少し異なるようです。例えば、息子が通うギムナジウム(小5~高3の上級学校)の放課後のクラブ活動はAG(Arbeitsgemeinschaften:意味「人が集まって何かを一緒にするグループ」)と呼ばれており、コーラス、バンド、写真、歴史、演劇、コンピューター、チェスなど文化系のものが多く、スポーツはバレーボールだけです。提供されているAGの種類は、学校によって異なるそうですが、概して文化系のクラブ活動が多い模様。

そして、いずれのAGでも活動は毎日ではなく、週1回のみのものが多いようです。1回の活動時間は授業と同じ90分で、4時限目(13:45~15:15)と5時限目(15:30~17:00)の枠で行われます。ですから、自分の時間割と照らし合わせて、授業がこれらよりも早く終わる曜日に、興味のあるクラブ(AG)が行われていれば、参加する子どもが多いようです。午後5時以降、生徒は全員帰宅することなっています。

息子の場合は、ギムナジウムの小学校課程の5~6年生の頃には、歴史クラブに入っていましたが、日本の中学1年生にあたる7年生になると、その時間に授業が入ってしまったので、参加できなくなってしまいました(【ドイツの子育て・教育事情~ベルリンの場合】第34回参照)。

このように、当地での部活動は日本のそれと比べると、システムも違いますし、かなりゆるい感じがします。ただ、学校の先生が各AGの顧問を務めている点は、日本の部活と同じです。

ドイツの子どもはどこでスポーツをする?

一方、AGで提供されていないスポーツをしたい子どもたちは、どこで行うのでしょうか? それはフェアライン(Verein)と呼ばれる非営利法人の形で運営されているスポーツクラブで、子どものみならず誰でも参加できます。2023年の統計によると、ドイツ全土に約86,400のフェアラインが存在しており、その会員数は合計で約2,400万人*3。これはドイツの人口の約3分の1に相当します。ドイツ全体の7歳から14歳の男子の8割、女子の6割がこれらのフェアラインに属しているということからも、子どもたちの所属率が高いことがうかがえます*3

ベルリンには2023年時点で約2,400のフェアラインがあります*3。それぞれ各地区に根差した活動を行っており、息子もその1つに属しています。サッカーチームのみ擁するフェアラインもあれば、1つのフェアラインで複数のスポーツを提供しているところもあります。

例えば、息子が最初に所属していたフェアラインには、サッカーの他に、バレーボール、バスケットボール、ハンドボール、合気道、器械体操といった種目がありました。彼はその中のサッカーチームに属していましたが、現在はサッカーチームのみ有する別のフェアラインでプレイしています。

練習時間に関しては、種目や年齢によって異なりますが、大体、夕方から夜にかけて1時間から2時間の練習を週2~3回行うところが多いようです。息子の所属するチームのサッカー練習も、5歳のクラブ加入時では90分の練習を週2回でしたが、15歳となった今は90分の練習が週3回(+キーパーとしての特別追加練習が1時間)になっています。いずれも、試合は週末土日のどちらか1日に行われることが多いです。日本のように「部活三昧!」ということはなく、緩い感じがしますね。

子どもから大人まで、誰でも参加できるフェアライン

これらフェアラインと呼ばれるスポーツクラブは、子どもから大人まで誰でも参加できます。例えば、以前息子が所属していたフェアラインの合気道クラブは、5~8歳、8~15歳、16歳以上と3つのグループにメンバーを分け、練習をしていました。

一方で、ドイツで最も人気があるサッカーに関しては、5歳から18歳までは生まれた年ごとに1学年ずつのチーム、その上は、19歳から31歳までのチーム、32歳から39歳までのチーム、40歳以上のチームと年齢により分けられています。練習や試合はこの年齢別に分けられたチームごとに行われるので、18歳までの子どもたちが、日本の部活のように別の学年の子どもたちと一緒に練習することは、通常はありません。

ただし、15歳以上だと、ポジション別(特にゴールキーパー)に、追加練習が開催される場合もあり、その際は、大人を含む同じクラブの別の年齢の人たちと一緒に練習することもあるそうです。実際、ゴールキーパーである息子は、2つ年上の選手と成人の選手と一緒にこのキーパートレーニングを週1回受けています。普段は家族や親せきを除いては、別の年齢の人たちと交流することはありませんので、この特別練習は新鮮で、モチベーションも上がると言っています。

ちなみに、息子のサッカーチームの場合、12歳までは男女混合でしたが、女子選手は、それ以降は女子専用のチームに移っていきました。このように、中学生レベルになると、男女別のチームに分かれていくようです。

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ある地区のフェアラインのサッカーフィールド


厳しいメンバー管理

フェアラインのサッカーチームに加入を希望する場合には、氏名、生年月日、住所、国籍などを示した申込書、パスポート、そして写真が必要となります。これらの情報を元に、チームへの登録が行われます。加えて、顔写真付きの登録証が作成され、試合に参加する度に、参加メンバーリストと照らし合わせ、試合に出ているのが本当にそのメンバーなのかが確認されます。

さらに、別のチームに移る時には、保護者が署名をした退会届を提出した後、サッカーチームから「●月●日付で☓☓☓☓(氏名)は本チームを辞めました」という証明書をもらわないと、新しいフェアラインに移ることができません。これは「各プレーヤーがプレイできるのは1チームのみ」という原則に基いたものです。

さらに、後述しますが「選手の移動は半期ごと」というルールがあるので、いったんチームに所属すると、半年間はそのチームでプレイしなければならないというルールがあります。もし期の途中で他のチームに移る場合は、新しいチームの練習には参加できますが、試合に出るのは、新しい期が始まってからになります。

学校の長期休暇中に練習はなし

フェアラインのスケジュールは、学校の休みに連動しており、夏休み(6週間)、秋休み(2週間)、冬休み(1週間)、クリスマス休み(1~2週間)、イースター休み(2週間)といった休暇中には、活動はありません。日本の部活動では、長期休暇には集中的に練習をするかもしれませんが、当地では全てお休みです。

そして、費用の徴収やチーム間の異動も、学校の学期と同じく、半年ごと(秋学期と春学期ごと)に行われます。すなわち、費用は半年分まとめて収め、クラブを変わりたい場合は、例えば、秋学期中に変更届を出すと、春学期から新しいクラブのメンバーとして正式に迎えられ、試合にも出ることができるようになります。上述のように、学期途中での移動を行った場合は、練習には参加できますが、試合は次の期まで出場できません。

費用は格安! ボランティアのコーチたちと親の役割

フェアラインは上述のように、非営利団体なので、地域の人々が気軽に参加しやすいようなシステムになっています。費用はどこも大体、月々約10ユーロ(約1,600円)と格安です。従って、スポーツクラブを指導してくれるのは、ボランティアの方々ということになりますが、大体、指導員の資格をもった同じフェアラインに属している会員が多いようです。

息子のサッカーチームのコーチたちも、様々な職種につくサッカー指導員の資格をもった方々でした。練習は平日の夕方から週2~3回行われますから、仕事を早く切り上げて来るコーチも多かったです。さらに、週末は土曜か日曜のどちらかは試合で半日つぶれてしまいますから、「本当に情熱をもっていないとコーチは務まらないね」と、いつも私たちは感謝しています。

また、保育園や小学校低学年など、子どもたちの年齢が低い時は、サブコーチがつくこともありました。こちらは資格をまだもっていない、同じフェアラインの高校生以上のメンバーたちが、子どもたちのお兄ちゃんのような存在でヘルプに来てくれ、練習をサポートしてくれました。彼らもコーチと同様にボランティアです。

では、当地でスポーツをする子どもたちの親の役割は何でしょう? 子どもが小さいうちは、練習や試合に連れていくくらいでしょうか。以前は、試合後のユニフォームを、順番に全員分まとめて洗うこともありましたが、ユニフォームの紛失があったので、結局、クラブが全て引き受けてくれることになりました。10年生となった今では、1人で公共交通機関を利用して、練習にも試合にも行けますし、費用を払う以外は、保護者として特に何もすることはありません。

以前、日本の中学生の野球部員の子どもをもつ保護者の方とお話をしたときに、「毎週、試合に出向いて飲み物や設営などの準備をしたり大忙し!」という話を聞き、その負担の大きさに驚きました。

まとめ

ドイツのフェアラインの歴史は古く、中には1850年設立のものもあるとか*4。息子が最初に属したサッカークラブも1911年設立でした。このようにドイツのスポーツクラブは昔からその地域に根差し、子どもから大人まで体を動かしたい国民の健康促進の場としても、機能してきました。その中からスポーツが得意でもっと突き詰めたい子どもたちは、専門のスポーツ学校に進学したり、スカウトされてプロを目指すチームに移ったりします。

フェアラインでのスポーツ活動は、日本の部活動に比べて、練習時間は少なく緩い感じがしますが、格安料金で参加でき、地域に開かれたスポーツクラブでのびのびと汗を流すことは、心身の成長にポジティブな影響をもたらしていると思いました。

※フェアラインはドイツ全土に数多く存在しますので、本稿で取り上げた内容は、その一例であることをご了承ください。


筆者プロフィール
シュリットディトリッヒ 桃子

カリフォルニア大学デービス校大学院修了(言語学修士)。慶應義塾大学総合政策学部卒業。英語教師、通訳・翻訳家、大学講師を経て、㈱ベネッセコーポレーション入社。2011年8月退社、以来ドイツ・ベルリン在住。
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