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【データで語る日本の教育と子ども】 第1回 ほとんどの子どもが行う謎の活動「部活動BUKATSUDOU

木村 治生(CRN主席研究員)

2018年9月14日掲載

このコーナーでは、日本の子ども、保護者、教員などを対象にした調査の結果をもとに、今の教育の現状や課題について考えます。日本では、2000年代の半ばから、エビデンスに基づく教育実践や政策評価が重視されるようになってきました。そのため、データは多く蓄積されるようになっています。しかし、それらが海外に発信されているかというと、まだまだ不十分です。そこで、英語サイトや中国語サイトとも連動して、海外の研究者や実践家に向けて、日本の状況(その良いところや課題など)が理解できるデータを紹介していこうと思います。このコーナーでは、その内容をリライトしています。海外向けに書くので、できるだけわかりやすく。それでも、日本の方が読んで「へ~」と思う内容を加えるようにしたいと思います。どんな連載になるかはお楽しみ。

記念すべき第1回は、「部活動」を取り上げます。日本人にとっては誰もが知っている活動ですが、海外の人にとっては「謎」も多くあります。それでは、部活動の現状と課題について、概観したいと思います。

世界一忙しい、日本の教員

まずは、教員の仕事の状況について、お話ししましょう。今、日本では、教員が忙しすぎることが社会問題になっています。実際に、中学校教員を対象にしたOECDの国際教員指導環境調査(TALIS:Teaching and Learning International Survey)によると、日本の教員の仕事の時間は、調査に参加した34の国と地域のなかでダントツに長いという結果が出ています。1週間の仕事の時間は、参加国平均だと38.3時間。週休2日と考えて1日8時間弱です。ところが、日本の教員は週に53.9時間、1日に換算すると11時間弱も働いています。これは平均なので、もっと長く働いている教員も珍しくありません。日本の学校では、夜9時や10時になっても職員室の明かりがついています。教員が休日出勤することも頻繁にあります。ベネッセ教育総合研究所が行っている調査では、中学校の先生の7割が「ほぼ毎週」休日出勤をしていると回答しています。

では、何が教員を忙しくさせているのでしょうか。要因は大きく2つあります。下の表をご覧ください。

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この表は、TALISで調べられた教員の勤務時間を示しています。これを見ると、日本の教員は、「学校運営業務への参画」「一般的事務業務」が多いことが分かります。日本の学校は、業務の種類によって職種が分化していません。このため、教員は、生徒の学習を指導するだけでなく、学校の運営に関わる多くの種類の仕事を担います。そうした事務業務が多いことが、教員を忙しくさせる要因の一つです。

もう一つは、「課外活動の指導」の時間が長いことです。その週当たりの平均時間は7.7時間。調査に参加した国・地域の平均の3.7倍です。「指導(授業)」「学校内外で個人で行う授業の計画や準備」などの学習指導にかかわる時間に次いで長く、仕事時間の合計の14.3%を占めます。日本の教員のほとんどは、授業が終わった後に、スポーツや芸術・音楽などの課外活動を指導しています。そうした「部活動」の指導は、世界ではあまり一般的ではありませんが、日本では当たり前の光景です。このように、教員が学習指導以外に多くの業務を抱えていることが、日本の先生を忙しくさせる要因になっています。

部活動の参加状況

それでは、日本の子どもたちは、「部活動」にどれくらい参加しているのでしょうか。図表1は、部活動の参加率を示しています。これを見ると、中学生で8割、高校生で7割が部活動に参加しています。男子に運動部、女子に文化部が多いのが特徴です。中学校3年生や高校3年生の比率が低いのは、受験によって部活動を引退する生徒がいるためと考えられます。ほとんど、というと言い過ぎかもしれませんが、多くの生徒が学校で放課後に部活動をしています。

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活動の頻度はどうでしょうか。図表は省略しますが、活動日数は半数以上が週に6~7日、活動時間は1日2~3時間が平均です。週当たりでは14時間ほど活動しており、休日も含めてほぼ毎日のように部活動があるのが一般的です。それは、あくまで生徒の自主的な活動であり、参加するかどうかは自由です。また、日本の法律では公立学校の教員に対して勤務時間外の業務を命じてはならない決まりになっています。そのため、指導する義務が教員にあるわけでもありません。このように、「やる必要がない」活動に、多くの学校はかなりの時間をかけて、熱心に取り組んでいるといえます。

部活動が育てる力

学校で部活動が行われていることには、多くの利点があります。その一つは、機会の平等です。これだけ多様な経験を、全国の生徒に一律に提供できているのは、それ自体がすごいことです。

部活動は、たいていの地域では中学校から始まります。このため、小学生のうちは、多くの家庭が有償の民間サービスを利用します。ベネッセ教育総合研究所が東京大学と共同で行った調査では、小学生の約8割が習い事としてスポーツや芸術・音楽などの活動をしています。しかし、習い事は費用がかかるので、どれくらい活動するかは家庭の経済的な要因に左右されます。また、習い事の種類によっては地域差もあり、都市部の子どもの方が有利です。ところが、部活動は、全国どの中学校・高校でも行われていて、費用もほとんどかかりません。家庭の社会経済的な要因による影響を受けずに、誰もが活動の機会を享受できる仕組みになっています。

生徒が平等に参加できること以外にも、利点はあります。それは、社会情動的スキルを育んでいることです。部活動は、中等教育のもっとも成長する時期に、好きなことに集中して取り組みます。もちろん、何に取り組むかによって、磨かれる技能は異なるでしょう。ですが、同じ目標をもつ仲間とともに、その達成に向けて努力することは、取り組む競技や種目を超えて社会で生きるうえで必要となる資質・能力をたくさん育てていると想像できます。日本では、企業が学生を採用する際に、運動部出身者を優遇する傾向があると言われています。これは、彼らが礼儀正しさや忍耐強さ、周囲と協力してタスクを遂行する力に優れていると信じられているからでもあります。OECDは、目標達成、他者との協働、感情のコントロールなど、個人の成功や社会進歩を促進するうえで重要とされる力を「社会情動的スキル」と呼んでいます(経済協力開発機構[OECD]編著『社会情動的スキル―学びに向かう力』明石書店、2018年)。部活動は、教育課程外で、それらの資質・力を育む場になっています。

われわれの調査でも、そのことが一部、証明されています。部活動に参加している生徒は交友関係が広く、その関係も密接であることが分かっています。また、下の図表2は、得意なこと・苦手なことについての回答を部活動に参加しているかどうかで分けて示したものです。これを見ると、部活動の参加者において複数の項目で「得意」の数値が高いことがわかります。とくに運動部の参加者は、「自分で決めて行動する」「自分の考えをみんなの前で発表する」「リーダーとしてグループをひっぱる」「グループがまとまるように協力する」などの行動で、得意と考える割合が有意に高い傾向がありました。とはいえ、部活動がどのような力を育てているかについては、まだ十分なエビデンスがありません。これから研究を積み重ねていく必要があります。

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最大の問題は「過剰さ」

このように、多くの利点のある部活動ですが、最大の問題はその過剰さにあります。部活動は本来、教育課程外の自主的な活動です。ですから、やりたい生徒が、やれる範囲で活動すればよいはずです。ところが、生徒に部活動が楽しいかどうかをたずねた結果では、9割が「楽しい」と答えているものの、1割は「楽しくない」と答えました。友だち関係を壊さないように、辛くても部活動を続けている生徒がいます。また、生徒の半数は「部活動の回数が多くて大変だ」と感じています(図表3)。教育的な効果が高いことから、部活動の加入を強制にしている学校もあります。強制にはしていなくても、「部活動はやるのが当たり前」という雰囲気が、学校にはあります。

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部活動の指導は、教員にとっても負荷が重いものです。本来、それは業務外なのですが、引き受けるのが「当たり前」と考えられています。どれだけ部活動を指導しても、給与が変わるわけではありません。ですが、誰かがそれを指導する必要があります。教員は、いわば「善意」でそれを引き受けています。

教員にとって部活動は、アンビバレントな存在です。調査のなかで部活動に対する意見をたずねてみると、約半数が部活動を学校の教育活動の一環としてとらえ、積極的にかかわりたいと回答しています。多くの教員は、部活動を通して人間的に成長する生徒を見て、教育的な意義を強く感じています。その一方で、あまりに業務量が多いことに閉口もしています。帰宅時間が遅く、休日もゆっくり休めないようでは、家事や育児にも支障が出ます。教員の8割が、外部の指導員を増やすことに賛成していて、もっと負荷を軽減すべきだと考えています。

部活動の「これから」

これだけ過剰で、生徒や教員が負担に感じているのに、なぜ部活動を減らすことができないのでしょうか。部活動を研究する識者は、「自主的」であるがゆえに活動が加熱しやすいと指摘しています(中澤篤史『そろそろ、部活のこれからを話しませんか―未来のための部活講義』大月書店、2017年、内田良『ブラック部活動―子どもと先生の苦しみに向き合う』東洋館出版社、2017年)。学校の中で教科の授業時間は、「強制的」に決まっています。ですから、たとえば「国語の授業を倍にしよう」ということにはなりません。しかし、部活動は「自主的」であるがゆえに、もっとうまくなるために、もっと強くなるために、活動を増やしがちになるというのです。「チームにとって良い」と思われることが決まると、個人にとって大変でも反対しづらくなります。このような状況に一定の歯止めを設けるため、2018年3月にスポーツ庁は、運動部の活動について休養日の設定や活動時間の制限などを提言したガイドラインを発表しました(「運動部活動のあり方に関する総合的なガイドライン」)。運動に関しては、スポーツ医学の観点から過剰な活動による弊害(怪我の心配など)も示されています。

教員の働き方改革も急務です。学校で部活動を行うことには多くのメリットがありますが、そこにかかるコストをすべて教員の「善意」に負わせるのは過酷です。部活動のよいところを損なわない程度に活動の総量を減らす。そのうえで、外部指導員を雇用し、教員以外も部活動に関わるようにする。そのために公的予算を確保したり、家庭も応分の負担をするなどして、教員の勤務が過剰にならないようにする制度設計が必要だと考えます。この点でも、文部科学省は、部活動指導員を雇用するための予算の増額をする方針です。一気に解決するほど十分とはいえませんが、現状を少しずつ改善していくしかありません。

部活動の指導は教員の業務ではないのですから、地域スポーツや民間サービスにその機能を移管するといった案も十分に考えられます。しかし、現状ではその受け皿は十分にありません。学校外で行うとしたら、家庭や地域による格差も懸念されます。部活動が生み出している価値を、すぐに学校外で再現できるのかも疑問です。生徒同士や教員との人間関係に大きな意味をもっており、学校教育全体にプラスの効果をもたらしているという面も無視できません。今の学校中心のやり方をベースにしつつ、制度を改善していくのが良いのではないかと考えます。

とはいえ、改善が難しい実態があるのも事実です。部活動は「学校の名誉」を背負っていたり、私立学校では有力な「宣伝」材料として使われていたりします。生徒にとっても、推薦入試のように「選抜」に関わるケースもあります。保護者も、「勝利」や「入賞」を期待します。それでもなお、それぞれの部活動が、活動を通して何を目指すのかを吟味して、その目標の達成を最低限のコストで実現する方法を考える必要があるのではないでしょうか。


●より詳しいデータや解説をお読みになりたい方は、ベネッセ教育総合研究所のサイトで、部活動について論考しているので、そちらを参照してください。
「部活動の役割を考える」
https://berd.benesse.jp/special/datachild/comment.php

筆者プロフィール

Haruo_Kimura.jpg 木村 治生

CRN主席研究員、ベネッセ教育総合研究所主席研究員。
ベネッセコーポレーション入社後、子ども(乳幼児~大学生)、保護者、教員を対象とした意識や実態の調査研究、学習のあり方についての研究、教育市場(産業)の調査などを担当。文部科学省や経済産業省、総務省から委託を受けた調査研究にも数多く携わる。東京大学客員准教授(2007年、2014~16年)、追手門学院大学客員研究員(2018年~)、横浜創英大学非常勤講師(2018年~)、文部科学省「中高生を中心とした子供の生活習慣づくりに関する検討委員会」委員(2013年)、「中高生を中心とした生活習慣マネジメント・サポート事業」における選定委員会委員(2017年)、光り輝く「教育立県ちば」を実現する有識者会議委員(2014年)、富山県学力向上対策検討会議アドバイザー(2014年)、草加市子ども教育連携推進委員会専門部会委員(2014年~)など。専門は社会調査、教育社会学。
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