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【仲間関係のなかで育つ子どもの社会性】 第7回 リーダーシップについて考える

要旨:

近年、子ども集団のなかでリーダー役を見つけるのが難しくなってきたという懸念から、心理学や教育学を中心に子ども期のリーダーシップに関する議論が盛んになってきている。とくに、リーダーシップをリーダーの立場からばかりでなく、集団の他のメンバーであるフォロワーの役割からも考える観点が注目されている。今回は、前編と後編の2回に分けて、子ども集団においてリーダーシップが発揮されるために、リーダーとフォロワーがどのような関係性にあるべきかについて論じた。
1.集団でのリーダーとフォロワー

昨年の暮れに総理大臣が変わり、日本は新たな体制のもとに2013年をスタートさせた。海外の主要なメディアからも揶揄されるように、ここ数年における総理大臣の交代劇はめまぐるしく、リーダーシップについて考えさせられた方も多いと思われる。リーダーシップに関する研究では、これまで政治や職場、企業間の関係など大人の社会集団を対象にして、リーダー向きの性格や能力、リーダーシップを示す具体的な行動、さらにはリーダーシップが発揮される状況について様々に議論されてきた。集団が形成されると、リーダー役が必要となるのは子ども社会も同じである。学級委員やクラブの部長といったフォーマルな集団のリーダーしかり、インフォーマルな集団での"ガキ大将"しかりである。しかし昨今では、こうしたリーダーが自発的に、あるいは自然発生的に現れなくなったという懸念があり(堺他、2011など)、学校現場を中心として、子どものリーダーシップを育てる教育が模索されている。それと同時に、子どものリーダーシップがうまく機能するように、集団のメンバー(フォロワー)がどう関わるべきかについてのフォロワーシップへの関心も高まっている。

そこで今回は、前編と後編の2回に分けて、子ども集団におけるリーダーとフォロワーの役割について、心理学の研究を紹介しながら考えてみたい。

2.リーダー向きの性格

リーダーとはどんな人かと問われたら、あなたはどのように答えるであろうか。自分が通っていた学校や所属していたクラブでの生活を振り返ってみて、生徒会長や部長であった友人のこと、あるいは自分がそうであった経験から色々と話してくれる方もいるかもしれない。なかには、歴史上の人物を引き合いに出して語る方もいるだろう。研究者たちは、リーダーの特性について、身長(Judge & Cable, 2004)や知能(Fielder, 1995; Simonton, 2006)、学業成績(Schneider et al., 2002)、性格(Judge et al., 2002)など様々な点から考えてきた。なかでも、心理学では性格に関心を向けており、個々人の性格を専門的に測定する尺度を使用して、リーダーになる人の特徴を調べてきた。例えば、ビッグ・ファイブ尺度(Costa & McCrae, 1992)と呼ばれるものでは、個人の性格を、外向性(対人関係など外界に積極的に働きかけるかどうか)、誠実性(物事に対して明確な意志や目的のもとに取り組むかどうか)、開放性(経験を広く取り入れ、物事の本質を判断する力があるかどうか)、調和性(周囲の人に同調しやすいか、それとも自主独立の道を進むほうか)、神経症傾向(精神的に不安定かどうか)の5つの特性から評価する。この尺度を用いた78の研究結果をまとめ、リーダー向きの特性を調べたところ、外向性と誠実性、開放性の高さがとくに重要であることが示された(Judge et al., 2002)。つまり、リーダーに向いているのは、普段から他者との交流に積極的で、物事にしっかりと取り組み、経験を広く取り入れ判断力のある個人というわけである。この結果は、おそらくは多くの人が素朴に感じているリーダー像と重なると思われる。しかし、こうした資質がある個人であっても、リーダー役としてメンバーに影響を与える行動ができなければ集団をまとめることはできない。

ここで、よりよいリーダーシップについて考えるために、以前に紹介した60年前の子どもたちにもう一度登場してもらおう。前回の報告 では、60年ほど前にアメリカでサマーキャンプを利用して行われた子どもの集団実験を紹介した(Sherif et al., 1988)。この実験は、3週間のあいだに、ラトラーズとイーグルスという2つの集団が形成され、対立し、それを解消する過程を観察するものであった。子どもたちは、そのキャンプで会うまでお互いに面識はなく、2つの集団もはじめの1週間は独立に活動し、お互いの存在を知らずに過ごしている。そのため、それぞれの集団にリーダーが現れるわけだが、そのリーダーシップは大きく異なっていた。例えば、イーグルスのリーダーであるクレイグ少年は、野球や綱引きの試合で負けそうになると投げだすような態度を見せたが、ラトラーズのミルズ少年は怪我をしても誰にも話さず我慢し、むしろ腕を怪我したためにプレイできず悔し泣きする仲間を慰めるなど気配りを忘れなかった。また、クレイグ少年は、グループ内の議論や取り決めの場面で自己顕示が強く一方的な部分があったが、ミルズ少年は皆の意見を取り上げる民主的なタイプであった。結局、2人のこうした態度の違いはフォロワーからの人気の面で明暗を分けることになり、クレイグ少年は早い段階で他の子にリーダーの座を明け渡し、ミルズ少年は2つの集団が一緒になって活動し、対立を解消していく過程でも両グループをまとめるリーダー的な存在としてあり続けた。

リーダーシップには、集団の目標を達成するために個々のパフォーマンスを上げる働きかけと、メンバー同士の関係性を調整することの2つの行動が重要であると考えられている(三隅、1978など)。ミルズ少年の場合は、試合に勝つために最善を尽くしてチームを引っ張っていったこと、メンバーを励まし、仲間の意見を聞き入れ民主的にルールを決めたことなど、まさしくこの2つの要素を満たしていたといえよう。

3.リーダーシップに影響を与える集団の質

こうした2つの行動がリーダーシップに必要なのは、現代の日本の子ども集団にもあてはまるようである。例えば、運動系部活動に参加している中学生を対象とした調査(吉村,2005a/2005b)では、主将に統率力があり技術指導が熱心で、部員同士の関係性を調整できるクラブほど、部員の活動への積極性や満足度が高かった。また、この調査では、主将がこれらの行動を満たしたうえで、部員の部活動への態度に対して厳しく接することも重要であると指摘していた。部をフォーマルな集団だとすると、部内には、子どもたちが気の合う仲間同士で形成したインフォーマルな集団が複数存在することがある。集団によって活動へのやる気や部全体の雰囲気に馴染んでいる程度も異なるため、なかには少し距離を置いて参加している一群もあるだろう。中学生ぐらいの子どもにとって、集団への所属意識が満たされているかどうかは、学校生活への適応や精神的な安定にとってとても重要である。そのため、自分がそこに属しているという意識(社会的アイデンティティと呼ぶ)を持つ集団が、部全体に比べて活動意欲が低い場合には、個人としてはもう少し頑張りたいと思っていたりやる気になったとしても、仲間外れにされるのが怖いなどの不安からなかなか取り組みづらい。こうした状況において、主将が厳しさも加えた強いリーダーシップをもって個々の部員と関わることができれば、個々人の活動への意識が徐々に高まっていき、他の部員と一緒に達成感を味わうことも相まって、部としてまとまっていくことが期待できる。

その一方で、個々の子どもたちの活動意欲もそれほど高くない場合には、リーダー役の子がせっかく頑張っても、メンバーの反感を招いてしまう可能性がある。クラブや部に所属する子どもは、程度の差はあるものの自分でやりたいと思って参加していることが多いが、学校でのクラス対抗行事などは、内容によって子どもの得意・不得意もあり、やる気に温度差があるのは否めない。現代に生きる子どもたちのように、空気を読む気遣いを他者に求め、相手が失敗したらその原因を自己責任(堀、2012)として押し付ける風潮のなかでは、リーダー役を務めるには高度な感受性とスキルが必要である。周囲からも人気があり賢明なリーダー向きの子どもほど、こうしたリスクを避けたがり積極的になれない傾向もみられるという(粕谷、2012)。 こうした現状を打開し、子どもたちの中にリーダーになろうとする積極性を高めるためには、まずはリーダー役を担う機会を設けて、やって良かったと思える経験を増やすことが大切であろう。そして、もう一つは、リーダーシップが発揮されるかどうかが集団のメンバーの所属意識や個人的特徴によって異なることを認識し、リーダーに対するフォロワーのあり方についても考え、子どもたちによいフォロワーたることを求めていくことである。後編では、このフォロワーシップに注目し、子ども集団におけるリーダーとフォロワーのよりよい関係性について考えてみたい。


引用文献
  • Costa, P. T., Jr., & McCrae, R. R. 1992 Revised NEO Personality Inventory (NEO-PI-R) and NEO Five-Factor (NEO-FFI) Inventory professional manual. Odessa, FL: Psychological Assessment Resources.
  • Fielder,F.E. 1995 Cognitive resources and leadership performance. Applied Psychology, 44, 5-28.
  • Judge,T.A., Bono,J.E., Ilies,R., & Gerhardt,M.W. 2002 Personality and leadership: A qualitative and quantitative review. Journal of Applied Psychology, 87, 765-780.
  • Judge,T.A., & Cable,D.M. 2004 The effect of physical heighton workplace success and income: Preliminary test of a theoretical model. Journal of Applied Psychology, 89, 428-441.
  • 粕谷貴志 2012 リーダーになりたがる子、なりたがらない子の心理 児童心理,958,36-41.
  • 堀裕裕嗣 2012 スクールカーストの視点から子ども社会のリーダーを考える 児童心理,958,42-46.
  • 三隅二不二 1978 リーダーシップ行動の科学 有斐閣
  • 境賢治・藤原誠・伊賀上哲旭 2011 小学校教諭からみた子どものリーダーシップに関する研究 愛媛大学教育学部紀要,58,145-149.
  • Schneider,B., Ehrhart,K.H., & Ehrhart,M.G. 2002 Understanding high school student leaders: II. Peer nominations of leaders and their correlates. Leadership Quarterly, 13, 275-299.
  • Sherif,M., Harvey,O.J., White,B.J., Hood,W.R., & Sherif,C.W. 1988 The Robber Cave experiment: Intergroup conflict and cooperation. Middletown, CT: Wesleyan University Press
  • Simonton,D.K. 2006 Presidential IQ, Openness, Intellectual Brilliance, and Leadership: Estimates and Correlations for 42 U.S. Chief Executives. Political Psychology, 27, 511-526.
  • 吉村斉 2005a 部活動への適応感に対する部員の対人行動と主将のリーダーシップの関係 教育心理学研究,53,151-161.
  • 吉村斉 2005b 運動系部活動における利己的表現と主将のリーダーシップの関係 心理学研究,75,536-541.
筆者プロフィール
report_sakai_atsushi.jpg 酒井 厚 (山梨大学教育人間科学部准教授)

早稲田大学人間科学部、同大学人間科学研究科満期退学後、早稲田大学において博士(人間科学)を取得。国立精神・神経センター精神保健研究所を経て、現在は山梨大学教育人間科学部准教授。主著に『対人的信頼感の発達:児童期から青年期へ』(川島書店)、『ダニーディン 子どもの健康と発達に関する長期追跡研究-ニュージーランドの1000人・20年にわたる調査から-』(翻訳,明石書店)、『Interpersonal trust during childhood and adolescence』(共著,Cambridge University Press)などがある。
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