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【データで語る日本の教育と子ども】 第5回 コロナの今だからこそ「規則正しい生活」のプラス面を考えよう

木村 治生(CRN主席研究員)

2020年5月22日掲載

新型コロナウイルスへの感染を予防するため、多くの学校で休校や分散登校の措置が取られています(2020年5月時点)。この状況では、子どもたちの生活リズムがどうしても乱れがちになります。しかし、規則正しい生活を送ることは、心身の健康にとってプラスであるだけでなく、学習にもいい影響を与えます。学校に通えない状況においても、毎日の生活リズムを整えることは重要でしょう。そこで今回は、「規則正しい生活」が学習にもたらすメリットについて、データから考えてみたいと思います。

1 「規則正しい生活を送っている子は成績が良い」は本当か?

■生活習慣と成績の関連
最初に、生活習慣と学校の成績の関連を確認しましょう。以下では、東京大学社会科学研究所(ISS)とベネッセ教育総合研究所(BERD)が共同で実施している「子どもの生活と学びに関する親子調査」(2018年実施)のデータを用いて解説します。分析の対象としたのは、小学4~6年生の親子3,149組、中学生の親子2,746組です。

表1は、両者の関連を示しています。数値は、否定的な行動に対する「まったくない」の比率です。ですから、数値が高いほど、生活習慣が身についていることを表しています。これを見ると、ほとんどの項目で成績上位層のほうが規律を守っていて、生活習慣が身についていることが分かります。たとえば、「朝ごはんを食べない」は、小学4~6年生も中学生も上位と下位で10~15ポイント程度の差が見られます。こうした食習慣に限らず、「次の日の学校の準備をしない」「家族に朝起こしてもらう」「歯をみがかない」「身の回りを整理・整頓しない」「お金のむだ使いをする」「インターネット・SNSのルールやマナーを守らない」など、日々の生活を営むうえで必要な習慣を身につけているかどうかは、子どもの成績によって異なっています。

表1●生活習慣「まったくない」(%)
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図1は、表1で用いた10項目を使って生活習慣が身についている程度で高群、中群、低群の3グループに分け、成績を示しました。高群がもっとも生活習慣が身についている子ども、低群が身についていない子どもです。ここからも、高群ほど成績上位層が多く、両者に関連があることが明確に表れています。「規則正しい生活を送っている子は成績が良い」は、データから見る限り「本当だ」ということができそうです。

図1●成績(生活習慣別)
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2 生活習慣が身についている子どもは学習習慣もよい
図2●1日の学習時間(生活習慣別)
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■生活習慣と学習時間の関連
それではなぜ、生活習慣が身についている子どもほど成績が良いのでしょうか。ここで、一つの仮説が考えられます。それは、「学習習慣への好影響」仮説とでも呼べるものです。

早寝早起きをしたり、インターネットやSNSなどの使用ルールを守ったりして、規則正しい生活を送っている子どもは、そのぶん学習時間も十分に確保しているのではないかと推測できます。そこで、生活習慣が身についている程度の違いによって学習時間がどう異なるかを確かめてみました。図2を見ると、高群ほど1日の学習時間が長い傾向が表れていて、中学生に顕著です。中学生では低群が1時間36分であるのに対して、高群は2時間3分と30分ほど長いことが分かりました。とくに、宿題や家庭学習の時間に差が出ています。

■生活習慣と学習方法の関連
さらに驚くのは、生活習慣の獲得の程度によって、学習方法がかなり異なるという点です。表2は、学習に効果的だと考えられる学習のやり方について、生活習慣別に肯定率を算出したものです。ほぼすべての学習方法について、より規則正しい生活を送っている高群の子どもの数値が高くなっています。たとえば、「計画を立てて勉強する」の高群と低群の差は、小学4~6年生では33.6ポイント、中学生では29.7ポイントで、両者には倍ほどの開きが見られました。

ここで、もう一つの仮説が想起されます。それは、時間をコントロールしたり、規律を守ったりして規則正しい生活を送るのに必要な能力が、学習方法を工夫したり、より効果的な学習の仕方を試行錯誤したりする能力と、共通なのではないかというものです。「共通能力」仮説とでも名づけられる考え方ですが、実際に、生活習慣と学習方法には、学習時間よりも強い相関が見られます(表2)。この考え方に基づけば、生活をコントロールする力を身につけること自体が、主体的に学習する力を高めることにつながっているということになります。

表2●学習方法(生活習慣別)

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3 生活習慣と学習習慣の共通因子としての家庭環境

■保護者のかかわりの影響
「学習習慣への好影響」仮説にしても、「共通能力」仮説にしても、規則正しい生活を送ること、さらにはそれを可能とする能力を高めることは、学習行動にプラスであり、結果として成績に象徴される成果(アウトカム)に有益であるのは間違いありません。子どもが安心して学習に向かうために、家庭が子どもの生活習慣に配慮したり、学校が「早寝早起き朝ごはん」運動のような生活習慣づくりに力を入れたりするのは、好ましいことだと考えられます。また、子どもたちの自立に必要な力は、学力だけではありません。子どもたちが主体的に生活をマネジメントするうえで必要な力は、さまざまな領域で最大限の力を発揮するうえでの基盤になるものです。

そして、そうした力は、大人のかかわり、とくに保護者のかかわりが大きな影響を与えます。生活習慣の確立にも、学習習慣・学習方法の確立にも、両方に共通で影響を与えている重要な因子があります。それは、保護者のかかわりです。しかも、学習内容や方法を教えるような直接的な関与よりも、子どもの主体性を尊重し、やりたいことを応援するような間接的な関与の効果のほうが大きいことが、データからうかがえます。表3は保護者のかかわりを2つにわけて、生活や学習との関連(相関係数)を示したものです。

表3●保護者のかかわりと生活や学習の関連(相関係数)
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「主体性を尊重するかかわり」は、子どもの良いところを認めて応援し、大人と対等に扱うような関与の仕方を表しています。また、「学習への直接的なかかわり」は、勉強の内容や方法、面白さを教えるような関与を表しています※1。いずれのかかわりも、成績との相関は決定的に大きなものではありませんが、「主体性を尊重するかかわり」のほうが若干、係数の値が高いことがわかります。図3では、主体性を尊重するかかわりの多さによってグループを3つに分け、成績の違いを見てみました。小学4~6年生でも中学生でも、そうしたかかわりの多い高群ほど、成績上位の比率が高い結果になっています。

図3●成績(主体性を尊重するかかわり別)
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そして、主体性を尊重するかかわりは、表1で見た生活習慣と0.2程度、表2でみた学習方法と0.4程度の相関があります。過度に関与するのではなく、子どもの主体性を生かして、必要なタイミングで支援するような保護者の姿勢が、生活や学習をマネジメントする子どもの能力の育成にプラスになっているといえそうです。

4 新型コロナウイルスを乗り越えて

子どもが学校に通えない状況では、家庭が子どもの生活のケアをせざるを得ません。しかし学校も、WebやSNS、電話などを通じて、子どもに規則正しい生活を送ることの大切さを伝え、生活習慣が乱れていないかを確認してみてはどうでしょうか。休校措置によって、家庭の状況がダイレクトに子どもに影響しています。子どもを十分にケアできる家庭とそれができない家庭では、教育格差が広がりました。子どもにとって学校という育ちの場が重要であることを、改めて痛感します。学校に通うことは、子どもたちの規則正しい生活を支え、教育格差を緩和する機能を持ちます。教育行政に携わる職員の方々や指導にあたる教員の方々には、その社会的使命を胸に刻んでいただけると嬉しく思います。そして、子どもが学校に戻ってきたら、学習面だけでなく生活面の支援も、家庭と連携して推し進めてほしいと思います。

一方、保護者は、ただでさえこのたいへんなときに、子どもにとっての家庭の重要性を示すデータを突き付けられることは苦痛かもしれません。しかし、日々の生活習慣の安定が、学習を含めたさまざまな活動のベースであることは事実です。子どもにあれこれ指示をするのではなく、子ども自身が生活のあり方を考えて見直し、自分で生活をコントロールする力を育てるようなはたらきかけを意識してほしいと思います。

そして、それが難しい状況にあるときは、学校や公的な相談機関、近所や職場の人、親類などを頼ることも大切です。保護者だけが抱えるのではなく、子育てを社会で分担することが、子どもにとっても多様な価値観に触れ、自立していくことにつながります。子どもの主体性を尊重するような関与は、保護者だけが行うのではなく、周りの大人が協働して行うことだと思います。このような時だからこそ、つながりを意識することが重要です。

 
  • ※1 「主体性を尊重するかかわり」は、「いいことをしたときにほめてくれる」「失敗したときにはげましてくれる」「やりたいことを応援してくれる」「自分を大人と対等に扱ってくれる」「自分を頼りにしてくれる」の5項目について、「とてもあてはまる」を4点、「まああてはまる」を3点、「あまりあてはまらない」を2点、「まったくあてはまらない」を1点として合計し、20~5点に分布するよう得点化した。「学習への直接的なかかわり」は、「勉強の内容を教えてくれる」「勉強の方法を教えてくれる」「勉強の面白さを教えてくれる」の3項目について同様に合計し、12~3点に分布するように得点化した。

◎この記事で扱った調査は、下記ウェブサイトをご覧ください。
https://berd.benesse.jp/special/childedu/

筆者プロフィール
Haruo_Kimura.jpg 木村 治生(きむら・はるお)

CRN主席研究員、ベネッセ教育総合研究所主席研究員。
ベネッセコーポレーション入社後、子ども(乳幼児~大学生)、保護者、教員を対象とした意識や実態の調査研究、学習のあり方についての研究、教育市場(産業)の調査などを担当。文部科学省や経済産業省、総務省から委託を受けた調査研究にも数多く携わる。東京大学客員准教授(2007年、2014~16年)、追手門学院大学客員研究員(2018年~)、横浜創英大学非常勤講師(2018年~)、文部科学省「中高生を中心とした子供の生活習慣づくりに関する検討委員会」委員(2013年)、「中高生を中心とした生活習慣マネジメント・サポート事業」における選定委員会委員(2017年)、光り輝く「教育立県ちば」を実現する有識者会議委員(2014年)、富山県学力向上対策検討会議アドバイザー(2014年)、草加市子ども教育連携推進委員会専門部会委員(2014年~)など。専門は社会調査、教育社会学。
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