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【比較から考える日中の教育と子育て】 第5回 日本と中国の学校における先輩後輩関係

渡辺 忠温(中国人民大学教育学院博士後)

2013年9月24日掲載

要旨:

本稿では、中国と日本の学校の中での先輩-後輩関係について論じる。筆者自身の経験とともに、日本と中国の高校生を対象に行なった異文化理解授業の中から、先輩-後輩関係についての高校生の考え方や日常生活での先輩との交流の様子を紹介する。
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1 中国的な先輩後輩関係へのとまどい

6月の卒業シーズン(中国の大学は9月が新学年のスタートである)になると、師門(同じ先生のもとで学ぶ(学んだ)学生たちの集団)の集まりが増える。また、卒業して地方に就職した学生が、出張などで北京に来ると、それに合わせてみんなで集まり、食事したりする。お互いの近況やら今後のことを話しあったりして、まるで久しぶりに遠い親戚や家族に会うような感じで、居心地がいい。

ただ、昔のことを振り返ってみると、そうした中国の先輩後輩の関係に、最初のうち(8年前)私はかなり違和感があった。今でこそ後輩(師弟、師妹)から「師兄」と呼んでもらえることも多いが、最初のうちは「渡辺」と呼び捨てだった(友だちや仲間うちでは「さん」も付けない*1)。また、後輩からいろいろ意見されることも多く、特に最初のうちは中国での生活に慣れておらず、中国語もほとんどできなかったので、後輩から叱られることもたびたびあった。

日本の社会はよく「タテ社会」だと言われる(中根,1967)。上司と部下、先輩と後輩の間の関係や付き合い方は、同じ年齢や同期の人間、友だちとの付き合い方とは少し違う。特に上下関係の中で、(年齢や地位について)上の人間に対しては礼儀をもって接しなければならないとされる。言葉のうえでも、上下関係の重視という特徴は明確である(敬語など)。友だち同士や同学年どうしの間柄とは違って、先輩に対しては、意見をする際にも多少の遠慮があったりするのではないだろうか。

そうした日本的な厳しい先輩後輩の上下関係の中で生活してきた私のような人間から見れば、中国の学校における上下関係の曖昧な先輩後輩関係は、最初のうちはとまどいでしかなかった。「ひょっとして自分が外国人だから馬鹿にされているのだろうか?」と思ったこともあった。しかし、次第にわかってきたのは、どうやら中国の先輩後輩関係は、先輩が誰であれ、そういうものらしい、ということである。今になって考えれば、「渡辺」と呼び捨てにされていたこと自体が、彼らが私を「師門」の一員として、また「仲間」として扱おうとしてくれていたことを示しているように思われる。そして「家族的な」中国の先輩後輩関係の居心地の良さが心から実感できるようになった留学2年目ぐらいから、私も後輩から「師兄」と呼ばれるようになった。

こうした経験から考えると、学校の中での先輩後輩関係には、日中間で明確な違いがあるように思われたが、これが単に私だけの思い込みなのかどうかについては、あまり自信がなかった。また、大学ではそのような先輩後輩関係だとしても、高校や中学でもそうなのかどうかは、当初はよくわからなかった。

2 先輩-後輩関係についての日中高校生の考え方

2011年の10月から11月にかけて、中国人民大学附属中学(北京)と関西高等学校(岡山)の間で異文化理解授業を行った際に(交流授業の内容については、石下・水口・渡辺・楊(2012))、ちょうどそうした先輩と後輩の関係が日中の高校生の間で話題になった。4回の交流授業が行われたが、その授業の一部で、先輩-後輩関係について2つ(日本の高校生は3つ)の質問をなげかけてみた。

(1)学校の中で普段先輩と会う頻度

日中の高校生に、「学校での実際の生活や勉強の中で、先輩との交流の機会はどの程度あるでしょうか?普段頻繁に先輩たちとあいさつしますか?」という質問に答えてもらった。回答は各国のグループ内(中国5グループ、日本7グループ)で討論の時間を設けたあとで、各グループごとに記入してもらった(回答内容は表1~表2参照)。いくつか内容的にほぼ同じ回答も見られたため、同様の回答はまとめた上で、そのグループ数を書いてある。

表1 先輩と会う頻度・あいさつ(中国)
回答
グループ数
 会う頻度 
 先輩と会う頻度は多くない
 違う建物にいるので、先輩とはあまり知り合いにならない
 先輩が高3になると忙しいので会わない
 あいさつ 
 知っている人にはあいさつするが、知らない人にはあいさつしない
 相手によってあいさつするかどうか決まる
 先輩とは何も話さない
 誰が先輩か見かけでわからないので、あいさつしない
 先輩も自分たちも少し冷たいので、あいさつしない

表2 先輩と会う頻度・あいさつ(日本)
回答
グループ数
 会う頻度 
 部活で会う
 休憩時間・移動時間に会う
 部活している人以外は、それほど会わない     
 廊下でたまにすれ違う程度
 あいさつ 
 先輩に会ったらあいさつする
 文化部は部活でのみあいさつする
 先輩だけでなく先生や大人にもあいさつする
 誰であっても、人に会ったらあいさつする

結果を見ると、中国の学校の高校生の場合には(少なくともこの高校の場合には)、学校内で先輩と会う頻度も少なく、会っても知り合い以外は特に挨拶を交わしたり話をしたりすることもないようだ。また、そもそも「先輩-後輩」という関係があいさつや交流をすべきかどうかの判断基準にはなっていない。むしろ「知っている人かどうか」、「(人間関係のうえで)冷たい人かどうか」など、相手の性格や相手との関係が重要であることがここから分かる。

日本側の学校の高校生の場合には、いくつかのパターンがあるようだ。ひとつは体育会系の部活動(野球やサッカーなどのスポーツの部活動)に入っている場合。この場合は部活動で頻繁に先輩に会い、また部活動以外でもあいさつをすることが多い。もうひとつは文化系の部活動(美術部や音楽関係の部活動など)に入っている場合で、この場合には部活動ではあいさつするが、それ以外ではあまりあいさつすることもないようだ。また、部活動に入っていない生徒の場合には、先輩と交流する機会も限られたものになるようだ。日本の社会で生きていく上で、年長者や後輩との人間関係は重要であるが、こうしてみてみると、部活動、特に体育会系の部活動は高校生にとって、(日本での)そうした年長者や後輩との付き合い方を学ぶ、重要な場になっているのかもしれない。もちろん、高校生段階で先輩や後輩との付き合いが少なくても、大学に入り、社会人になっていく中で、そうした付き合い方を学んで行く機会は多いと思われる。

(2)先輩-後輩関係とは さらに、もう少しストレートに先輩-後輩関係についての考えを聞いてみるために「みなさんは先輩と後輩の関係とはどのようなものだと思いますか?(例えば、友好的な関係なのか、尊重すべきものなのか、上下関係なのか、など)」という設問も設けた(回答は表3~表4参照)。
表3 先輩-後輩関係とは?(中国)
回答
グループ数
 相手との関係のよさ・知り合いかどうかによる
 尊重・尊敬の対象
 同学年の生徒と変わらない
 友好的で親しいもの
 上下関係ではない
 付き合いにくい

表4 先輩-後輩関係とは?(日本)
回答
グループ数
 友好的でかつ怖いもの
 フレンドリーになる時もある
 尊敬・あこがれの存在
 先輩は怖いもの
 友だちとは違う特別な関係
 立場が上か下か
 言葉づかいに注意が必要
 先輩の言うことには従わなければならない
 後輩は先輩を尊敬しなければならない

この問いに対しては、中国ではやはり多いのが「関係のよさ、知り合いかどうかによる」といった回答であった。「同学年の生徒と変わらない」という回答からみても、年齢や学年の違いは彼らの人間関係においてさほど重要なものではない。一方で「尊重・尊敬の対象」といった回答もあることからわかるように、敬意をもたないわけでもなさそうである。このあたり、日本人的に「先輩-後輩の区別があって、それによって自分が相手に対してどういう態度を取るべきなのかが決まる」という順序で考えれば、「同学年の生徒と変わらない」のに「尊敬」というのは一見矛盾しているように見える。しかし、中国の高校生にとって、まず重要なのは「相手がどんな人物か」のようである。そう考えれば、思考の順序としては「相手を尊敬できる」のは「自分よりも少しだけ年齢が上で、経験を積んでいるから」で、だからこそ「親しく付き合う(距離を置いて敬う、のではない)」のではないだろうか。

他方、日本側の高校生の先輩に対するイメージは、「先輩は怖いもの」といった回答が多い。また、「友だちとは違う特別な関係」「上か下か」など明確に上下関係を意識しているのも、中国の高校生の回答には見られない特徴である。同時に「先輩の言うことには従わなければならない」「後輩は先輩を尊敬しなければならない」といった具合に必ず守らなければならない規則、礼儀作法のようなものが存在することも分かる。

この点について、「日本では、先輩との人間関係でどのような決まり事があるでしょうか?できるだけ具体的に説明してください。」という設問も日本側の高校生にだけ設けておいた(回答は表5参照)。結果を見ると、「先輩の言うことは絶対」といった回答が明らかに多い。また「先輩には必ずあいさつ」、「敬語を使う」、「礼儀正しくする」といった回答も多く、全体的には先輩に対しては態度や行動の上で、尊敬を示し、その意見には従うといった感じである。

表5 先輩と接する時の決まりごと(日本)
回答
グループ数
 先輩の言うことは絶対
 先輩には必ずあいさつする
 文化部は決まりごとがない
 敬語を使う
 礼儀正しくする
 日頃から仲良くしていることが重要
3 先輩-後輩関係をめぐる日中の違い

まとめれば、中国については、高校生までの段階では、学校の中での先輩-後輩関係が非常に薄く、また高校生は先輩-後輩関係を「上下関係」としては認識していない。それに対して日本の高校生は、先輩との間で上下の区別を明確につけ、先輩との接し方のうえでも、決まりごとがあり作法がある。ただし、部活動への参加の仕方などによって、先輩後輩関係の厳しさにはバリエーションがありそうである。

サンプル数が少なく、また日中各1校のみの調査なので、どの程度各国全体の高校生の考え方や生活を代表しているか、については疑念をもたれるかもしれない。特に、日本側の高校は、上下関係の規律が厳しいと思われる運動部の活動が盛んで、また男子校でもあるため、日本の高校生の平均的な上下関係に対する意識よりもさらに厳しいものになっている可能性はある。ただ、日中の高校生たちは相手の国の高校生の先輩-後輩関係に対する考え方がなかなか理解できず、また不思議でしょうがなかったようである。

たとえば、日本側の「先輩は怖いものです」という意見に対しては、その後の交流で中国側から「どうして怖いのですか?あなたが先輩になったら、その時も怖くなるのですか?」という質問や、同じく「先輩は怖いものです」という回答にただただ驚いて「まさか・・・。」と絶句してしまうグループもあった。また、日本の高校生は、先輩との間で「友好」と「尊敬」が同時に成り立つ、ということが今回の交流の初期にはどうしても理解できなかったようである。実際、2回目の授業では「友好的なもので(友好的な関係を築いている)先輩を尊敬することが出来るのですか」といった質問が投げかけられている。このことは、これらの日中の高校生による議論が、それぞれの国における先輩後輩関係についての「社会通念」、当然そうあるべき「常識」のようなものをめぐって行われていることを示しており、大まかなところでは回答にもそうした「常識」が反映されていると考えてよさそうである。

そうした日本の高校生も、4回の授業を通じて、「最初の中国のイメージはすごく上下関係が厳しそうで怖いイメージがあったけど、友好的で親しい関係と聞いて思いやりがあるということが分かりました。」「上下関係がないのは日本では考えられないのでびっくりした。でも、学年を気にせず仲良くなれそうなのでそれもいいと思いました。」といったように、理解に変化が見られる。

ただし、注意が必要なのは、中国で「友好的」「仲良くなる」と言った場合に、日本的な意味での「友好的な関係」とはまた異なっている可能性があるという点である。中国の人間関係は、「家族」になることで親密さの度合いを増す。学校の中の先輩-後輩関係についても同じであり、同じ先生の下で学ぶ学生は、先輩を「師兄/師姐」と呼び、後輩を「師弟/師妹」と呼ぶ。もちろん、「長輩(先輩)」、「後輩」という言葉もあるのだが、学校の中の先輩後輩関係についてはあまり使われない。少なくとも、大学以降盛んになる先輩後輩関係については、「家族的な関係」に類似したものなのであり、高校段階においてもおそらくそうした意味での「親しさ」が「友好的」な関係の原型になっている可能性はある。一方、日本の先輩後輩関係において「兄弟のように親しい」先輩や後輩はいるかもしれないが、先輩や後輩がみな「兄弟姉妹」とはならないであろう。

今月は、日本と中国の学校の中における先輩後輩関係に関連して、私自身の経験と、交流授業でのやりとりの一部を紹介した。同じ学校の中での「上下関係」といっても、教師と生徒の関係、校長と教師の関係については、先輩後輩関係とはまた違った面があると思われる。それら、先輩後輩関係以外の上下関係についても、また機会があれば論じてみたい。

謝辞:執筆にあたっては、関西高等学校石下景教先生、中国人民大学附属中学楊傑川先生より貴重なご意見をいただきました。心より感謝申し上げます。

(異文化理解授業については科学研究費補助金(基盤研究(B)22330190)の助成を受けて行われた。)


*1 中国人の名前は日本人の名前より短く、姓と名前合わせて二、三文字のことも多い。したがって、私の名前も姓が「渡」、名前が「辺」だと勘違いされていることもある。また、姓ではなく、フルネームで呼びかけることも多い。なお、学校の中で「師兄」、「師姐」といった呼び方をするようになったのは最近になってからのことで、以前は名前で相手のことを呼んでいた、と言う人もいる。
<文献>
  • 石下景教・水口一久・渡辺忠温・楊傑川(2012). 対話型授業実践による日中集団間異文化理解の試み 中国語教育学会10周年・高等学校中国語教育研究会30周年記念合同大会予稿集, 39-42.
  • 中根千枝(1967).タテ社会の人間関係 単一社会の理論.講談社現代新書.
筆者プロフィール
Watanabe_Tadaharu.jpg渡辺 忠温(中国人民大学教育学院博士後)

東京大学教育学研究科修士課程修了。北京師範大学心理学院発展心理研究所博士課程修了。博士(教育学)。
現在は、中国人民大学教育学院で、日本と中国の大学受験の制度、受験生心理などの比較を行なっている。専門は比較教育学、文化心理学、教育心理学、発達心理学など。

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