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【科研報告:日中韓交流授業で探る相互理解】第4回 日韓大学生の交流授業で使用するエピソードの紹介

アンニョンハセヨ! 私たち日本・韓国チーム(第1回 参照)は、本プロジェクトにおいて、日本と韓国の大学生の交流授業を担当しています。韓国は日本から飛行機で90分もあれば渡航することができ、日本の人々にとって身近な国だと言えます。最近では、K-popや韓流ドラマ、韓国料理、化粧品などに興味をもつ読者のみなさんも多いのではないでしょうか。一方で、このように身近な国だからこそ、実は両国の人々が交流する際に「えっ!」と思うような文化の違いに直面することも少なくありません。日韓チームでは、日本と韓国の大学生の交流授業を通して、両国の文化の違いに出会い、互いを知り、互いを尊重しながら共存していくための道筋を、大学生のみなさんと模索しようとしています。

日韓チームの交流授業では、私たちが実際に日韓の文化の違いを感じた経験をもとに作成した2つのエピソードを日韓の大学生に提示し、それに対する両国の学生の感じ方について意見交換を行っています。そのエピソードの1つ目は、成績に関するエピソード(作成者:シム・ヒョンボ)、2つ目は小学校で先生が児童に食べ物をあげるエピソード(作成者:朴聖希)です。日韓の大学生の交流授業の結果については今後発表していく予定ですが、本報告では2つのエピソードの作成の背景について、シムと朴がそれぞれお伝えしようと思います。

成績に関するエピソード:作成の背景(シム・ヒョンボ)

皆さんは、韓国の厳しい大学受験のことを聞いたことはありますか?

韓国の経済成長が著しい時代、1988年のソウル五輪の前後に産まれた私の世代は、高校生の頃は朝7時から18時まで学校で授業を受け、学校で夕食を食べ、19時から22時まで「夜間自律学習」(自習)をする人が多くいました。そして、それが終わったら、学校の前で待機中の送迎バスに乗って塾へ行き、夜中の1時まで勉強をする、という生活を3年間繰り返しました。さらに、体育、美術、音楽の時間はほぼ「自習」時間で、まともに授業を受けた覚えもありません。部活? 友達と遊ぶ? 恋愛? そんな暇などありません! 私の高校の記憶は、野球バットを持って私たちを監視する担任の顔と、参考書の山だけです。つまり、大学入学のために高校生活という青春を犠牲にしたわけです。今の世代は、少し余裕ができたかもしれませんが、ニュースによりますと、子どもの教育にかかる費用はもっと高くなったようです......。

こうなると、人には面白い感覚が芽生えるようです。「私が努力した分のご褒美は必ずもらう」という、よく言えば「あきらめない精神」で、悪く言えば「執着」ですね。

それを垣間見ることができる例が、学校の「成績」です。成績というのは、自分がしてきた努力の評価ですね。なので、個人プレーでの成績はもちろん自分の責任です。しかし、チームプレーだったらどうでしょう? 更に、自分はうまくやったのにチームメイトのミスにより、自分の成績に悪影響が出るとしたらどうでしょう? 皆さんは、ミスしたチームメイトを許すことが出来ますか?

AさんとBさんは、大学2年生で同じ授業を受けています。先生に指定され、発表のチームを組むことになりました。良い点数を取るため、1か月間頑張り、プレゼンの準備をしました。
発表当日Aさんが準備したグーグルドライブを開くと、他のファイルが入っていました。結局時間に間に合わず、発表はできなくなりました。単位は取れるけど、成績は最低レベルになってしまいそうです。
  1. あなた(Bさん)はどんな気持ちになると思いますか。
  2. その場でAさんにどういいますか。その理由を教えてください。
  3. その場でどのように行動しますか(次回も同じ人とチームを組めますか)。

「成績1点で大学と人生が変わるのだ」という教育を受け、高校生以降は他人との協力プレーをした経験が全くなかった私は、相手を許すという行為が出来ませんでした。

大学卒業後、私は日本の大学院に進学することになり、そこで経験する日本の文化のすべてが目からうろこが落ちるようなことばかりでしたが、特に印象に残っているのは「成績」に関する出来事です。

指導教員から大学生のチームレポート回収を任せられたことがあったのですが、あるチームがレポートを提出できないと言ってきたのです。理由は、チームメイトが間違えてレポートのデータを消してしまったということでした。こうなると、チーム全員の成績に影響が出ることは確かなので、私は「大変なことになるな」と思いながら緊張していました。ところが、なんとそのチームの学生たちは、ミスして泣いている子に対して怒るどころか、むしろ慰めながら「私がコピーしていたらよかったのに、ごめん」、「確認しなかった俺も悪いよ」と謝っていたのです! そして、学生たちは私に「単位は取れますよね?」と聞き、成績は悪くなるけれども単位は取れることが分かると、「良かった~」と言い、笑っていました。

それは私にとって、これ以上ないほどのカルチャーショックでした。どうして自分に被害を与えた人の事を慰め、微笑むのだろう...。正直、最初は偽善だとも思いましたが、その後、より多くの日本の方々と交流していくにつれ、これは私のような外国人日本語学習者が、教科書だけでは学べない、日本の「見えない文化」であったことに気付いたのです。もしかしたら私は、頭では日本語を理解していたものの、心では理解できていなかったのかもしれませんね。つまり、日本語で会話をすることはできても、本当の意味で日本語で意思の疎通をすることはできていなかったのかもしれないと、改めて言語に潜む文化と言うものを考えることになった経験でした。

小学校で先生が食べ物をあげるエピソード:作成の背景(朴聖希)

みなさんは、小学校の時に担任の先生からお菓子などの食べ物をもらったことはありますか? 日本では、小学校の先生が給食以外に食べ物を子どもに渡すことはめったにないように思います。それどころか、先生が子どもたちに食べ物をあげるのは「よくないこと」というイメージがあるのではないでしょうか。一人の先生がお菓子をあげてしまうと、そのクラス以外の子どもとの間で不平等が生じてしまう、という考え方があるのかもしれません。あるいは、安全管理上、小学校で給食以外の食べ物を子どもにあげることは禁じられていることもあるでしょう。実際、私自身の日本での小学校経験を振り返っても、小学校でお菓子などの食べ物をもらったことはありませんでした(行事の際の紅白まんじゅうを除いて!)。

私は日本で育ち、日本の文化に慣れ親しみながら過ごしてきました。大学院生の時に韓国へ留学する機会に恵まれ、留学中に、ある公立小学校のクラスで日本文化に関する授業をすることになりました。私はクラスの子どもたちに何か日本のお土産を渡したいと思ったのですが、その一方で、そのクラスだけにお土産を渡したら、他のクラスの先生が不快に思ったり、他のクラスの子どもが羨ましがらないだろうか、学習と直接関係のないものを子どもにあげても良いだろうか、と次々に心配事も出てきました。一人で考えていてもしかたないので、小学校の先生に相談したところ、私の心配は杞憂だったことが分かりました。「子どもたちはとっても喜ぶと思いますよ!」「お土産は何を考えていますか? 日本のお菓子もいいですね!」とおっしゃるのです。それを聞いて私は「えっ! お菓子をあげてもいいんですか?」ととっさに聞き返してしまいました。私のイメージするお土産は、日本らしさを感じられるような文房具等であって、お菓子をイメージしたことはなかったのです。それに、その文房具ですらプレゼントしても大丈夫だろうかと心配していたぐらいなのに、日本では児童に配ることのないお菓子でもよいとおっしゃるので、一層、びっくりしてしまいました。

結局、私が子どもたちにプレゼントしたのは「お寿司の形をした消しゴム」でしたが、「韓国では小学校の先生が子どもたちにお菓子をあげることがあるんだ!」「そういえば、なんで日本の小学校では食べ物をあげないんだろう?」と考えるきっかけになりました。

A先生は小学校の先生です。今日はクラスの子どもたちが集中して課題に取り組んでいたので、A先生は子どもたちにキャンディーをあげました。
  1. あなたが保護者や隣のクラスの担任なら、どう思うでしょうか。
  2. 隣のクラスの子どもはどう思うでしょうか。
  3. このクラスの児童のあなたはどう思うでしょうか。

このエピソードのように、韓国で過ごしてみると、韓国では「当たり前」のことが、日本の立場から見ると違和感を覚える場面がたくさんあります。反対に、日本では「当たり前」のことも、韓国の立場からすると「なぜなの?」と思う場面がたくさんあり、日本の立場からその理由を説明しようとすると、意外にとても難しいものです。

今回はエピソード作成の背景についてお伝えしましたが、次の日韓チームの報告では、 日本と韓国の大学生から出てきた具体的な意見について、お伝えしたいと思います。

筆者プロフィール
沈 炫普 (シム・ヒョンボ)

慶熙大学校大学院・博士課程 在籍中。専門は言語比較文化・韓国語教育。日韓の言語や文化に関心を持ち、日本の大学院に留学。以降、韓国語講師として、言語学習を通した日韓の相互文化理解の為、研究を続ける。現在は、韓国政府の在外韓国人の為の韓国語教科書制作プロジェクトや、BrainKorea21日韓相互文化プロジェクトに責任研究員として所属。日韓の相互文化理解を広める為、個人Youtubeチャンネル「★MoGoMoGo★Korean Culture&History」を運営中。

朴 聖希(パク・ソンヒ)

奈良女子大学・博士研究員 。博士(学術)。専門は比較教育学。韓国の教員養成制度や、教員養成大学の学生の教職意識に関心を持って研究を行ってきた。研究を通して日本と韓国の相互理解を深められるようにすることを目標としている。主な論文に「日韓の教師志望学生における教職選択の特徴」(共著、大阪教育大学紀要 総合教育科学、2023)、「韓国の目的型教員養成体制における小学校教師という職業選択」(アジア教育、2023)がある。
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