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いつでもなんでも挑戦できる中高生のための秘密基地 b-lab

中高生自らが主役となる場づくり

2015年4月、東京都文京区に区内初となる中高生のための施設「文京区青少年プラザ b-lab(ビーラボ)」がオープンしました。中高生が自主的な活動を通じて自らの可能性を広げ、社会性を身につけた自立した大人へ成長する場として文京区が開設したものです。区内の高校に通学していた生徒により名付けられたb-labという愛称はBunkyo laboratory(研究所・実験室)の略称で、そこには「中高生自らが主役となる未来をつくれるように」という願いが込められています。

「中高生のための秘密基地」というコンセプトのもとオープンして約半年で来館者数はのべ1万人を超え、学校とも家庭とも塾とも違う中高生の新しい放課後の居場所として認知されつつあります。

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「居場所」からはじまるステージ

今、全国で子どもたちの放課後の居場所づくりが推進されています。これまで文京区には中高生を主な対象とした施設はなく、区内でも中高生が安心して放課後を過ごすことのできる場所を求める声が高まっていました。文京区では教育センターの老朽化に伴う移転を機に中高生の放課後の居場所を目的とした施設の設置が検討され、青少年プラザの構想が練られました。

文京区の掲げる運営方針は以下の通りです。

  1. 「何かやってみようかな」を応援する
    中高生の自主的な活動を応援するとともに、新たなことに挑戦する前向きな想いを受け止めることで、中高生が自らの可能性を広げていきます。

  2. 様々な人との関わりから社会性を育む
    中高生が、地域の人をはじめとする様々な人との関わりにより、新たな人間関係を構築していく中で、自らの見識を広げ社会性を身につけていきます。

  3. 地域の中の自分を自覚する
    中高生が、地域の人との交流を通じて、地域の中における自らの存在を自覚し、社会参加のきっかけをつかむ場とします。

この文京区青少年プラザの施設運営を認定NPO法人カタリバ(以下「カタリバ」という)が受託しました。

カタリバは2001年の設立以来、「生き抜く力をすべての子ども・若者へ」という理念のもと"高校生の心に火を灯す対話型のキャリア教育プログラム「カタリ場」"を全国各地の高校に届けてきました。また震災後は宮城県女川町と岩手県大槌町の2地域で被災地の子どもたちのための放課後の学校「コラボ・スクール」を展開、行政と連携しながら子どもたちの学習支援と心のケアを行っています。自律・共生・イノベーションという3本の柱を軸に、生まれ育った環境等の機会の格差に関係なく、すべての子どもたちの主体性を引き出し、可能性を開花させることを目指し活動している認定NPO法人です。

文京区の掲げる青少年プラザの運営方針にカタリバのヴィジョンが合致し、行政とNPOが協力して誕生したのが"中高生のための秘密基地"b-labです。

わたしたちが中高生に提供するのは単なる居場所ではなく「新しい放課後の居場所」です。ただ時間を過ごすためだけの場所から新しい何かと出会う場へ。そして中高生が自分の足でこれからの道を歩んでいくようになるためには、いつでもなんにでも挑戦できて、失敗してもよい場であることが大切だと考えています。b-labには中高生が自然にこうしたステップを踏んでいけるようなシステムがちりばめられ、家庭や学校という限られた生活圏から一歩を踏み出し、次のステージと出会う場として機能しているのです。

中高生スタッフと育むナナメの関係

b-labでは学生インターンやフロアキャストと呼ばれる社会人・学生によるボランティアスタッフも積極的に運営に関わり、中高生との交流を深めています。いつもの友人といつものように時間を過ごす中高生の日常に、新しいきっかけを届けるのが彼らの仕事です。

館内では、定期的に開催される学習支援のための「マナビ場」や、中高生の興味・関心に応じてテーマを設定し未経験者や初心者を応援する「はじめて講座」などのレギュラーイベントだけでなく、近隣大学や専門学校、企業、地域団体との外部連携によるイベントも多く開催されています。そうしたイベントに参加することで、中高生がさまざまな背景をもつオトナと接することができるのもb-labの大きな特徴のひとつです。

また、こういった企画の多くで「中高生スタッフ」が活躍しています。「中高生スタッフ」とはさまざまなイベントの企画・運営に関わるメンバーで、8月にキックオフした第4期中高生スタッフ(任期:2015年8月~12月)は総勢32名となりました。中高生自らが自分たちの手でb-labを創っていくというこのコミットの深さが、他の施設とは異なるb-labの強みでもあります。

中にはb-labのオープン前から動いていたプロジェクトもあります。その中心が「フリーペーパープロジェクト」です。これまでにフリーペーパー『Cha!Cha!Cha!』を4号発行。次号は2016年3月に25,000部の発行を予定しています。文京区内の全中学高校に配布されるこのb-lab公式フリーペーパーの企画立案をしているのがフリーペーパープロジェクトの中高生スタッフです。

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『Cha!Cha!Cha!』の大学生編集長と中高生スタッフ


中高生の活動を応援するマガジン『Cha!Cha!Cha!』のコンセプトはChance/Challenge/Changeの3つの"Cha"を応援するというもので、中高生スタッフの立案した企画を実現するために大学生デザイナーがサポートするという形で制作されてきました。このフリーペーパーの制作過程自体が中高生スタッフにとってのChance(機会)であり、Challenge(挑戦)であり、その活動の中で中高生自らの主体性が促され、そこにChange(変化)がうまれます。また、学生デザイナーがともに活動することで、親や先生とのタテの関係や友だちとのヨコの関係とは異なる「ナナメの関係」が育まれます。適度な距離感をもった一歩先をゆくオトナとの出会いは中高生に適度な刺激を与え、その背中を押す役目を果たします。

オトナは中高生にどこまで関与するか

b-labでは自ら企画を立ち上げる中高生も現れ始めました。第4期中高生スタッフからは4つの自主企画がスタートしています。文京区内の路地裏にあるお店を取材して地図にまとめる「路地裏MAP」、b-lab館内で配布するフリーペーパーを制作する「ミニフリぺ」、中高生だけで映画を作りたいという「映画プロジェクト」、高校生のリアルな実情をレポートし社会に訴えたいという「A to Z」。

そんな中高生のもつ「想い」をカタチにしていく中で、サポートをするわたしたちオトナも大きな壁にぶつかることがあります。

まずは、中高生の心の火を灯し続けるということの難しさ。
中高生スタッフという役割には強制力がありません。b-labに来るか来ないかは本人の自由で、中高生にとって、b-labでの活動はそもそも「やらなくてもいい」ことなのです。活動を続けるか続けないかは本人の意志次第だと言えます。学校や部活、塾といった日常生活とは別に、強制力のない活動を続けていくことは実はとても難しいことです。ただ、そこにくすぶっている火種があるということを、わたしたちオトナは忘れてはならないのだと強く感じています。

また、チーム内での協同も大きな課題のひとつです。
今回b-labで立ち上がった4つの自主企画はすべて複数人によるチームで活動しています。もともと強い想いをもったリーダーがいて、その想いに共感したメンバーが集まり結成したチームもあれば、なんとなく話し合っていくうちに心に火が付き、想いが生まれたチームもあります。しかしながら、中高生ひとりひとりにそれぞれの想いがあり、その想いにズレが生じることは珍しいことではありません。

実際に、あるチームでは意見の食い違いが生じています。共通のテーマに興味をもって集まってはみたものの、その志向の違いはそう簡単に埋まるものではありません。連携しながら別々に活動するという手もありますが、「一緒にやりたい」という想いの強いチームでもあり、現時点ではメンバーの意志を尊重し、作業が進まずとも全体の合意を目指して話し合う日々が続いています。

ここで難しいのがそのサポートをしているオトナの在り方です。成果物の完成というゴールを目指し、ある程度の主導権をオトナが握るのか、それとも本人たちの希望通りにチームの主体性にまかせるのか...。中高生の自主企画という位置付けは、b-labの中でも特に強制力のないものとなります。言ってしまえば、成果物が完成しなくてもなんの問題もないわけです。もちろん、本人たちは完成というゴールを目指し日々話し合いを続けているのですが、思うように話がまとまらないのが実情です。

「みんなで仲良く楽しく進めていこう」という気軽な気持ちからスタートしたこのプロジェクトの中で、自分を語り始めた中高生たちは少しずつ本音を吐き出すようになってきています。本音がぶつかり合うことで生じる衝突があります。チームでのやり取りを見ていると、中高生が日常の中でこういう衝突を避けて生きていることが垣間見えます。衝突を避けようとする子、衝突から何かを得ようとする子、それぞれのやり方で協同していこうとするその姿勢自体が、貴重な経験となっているようにも思えます。ただ、成果物の完成をゴールとするなら、もっとオトナが介入し、指示を出すべきなのかもしれないと思うことがあるのも事実です。

目標としていたものを完成させることによって得られるであろう達成感と自己効力感は、彼らにとって大きな糧となるはずです。しかしながら、もしその目標を達成できなかったとしても、友人と本気で向き合い衝突すること、今だからこそできる失敗を経験することによって得られる何かが、ここにあるようにも思うのです。

「何をしてもいい、何もしなくてもいい」場所

学校とも塾とも違う新しい放課後の居場所。何をしてもいい、何もしなくてもいいこの場所が「中高生が何かと出会い、一歩を踏み出すきっかけの場」となることをわたしたちは目指しています。まずはここに「居場所」があることを、ひとりでも多くの中高生に知ってもらうこと。そして、ただ「いる」だけだった場所で何かに気付いてもらうこと。その気付きから一歩を踏み出した中高生を、ここb-labから社会につなげることができればとても嬉しく思います。

そして、まだ見ぬb-labを巣立つ中高生たちが新たなオトナとして、いろいろな場所で子どもたちとナナメの関係を育み、その心の火種に火をつけていってくれたなら...、そんな素敵な連鎖がこのb-labから生まれることを、わたしはこっそりと願っています。

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文京区の成澤区長と中高生



文京区青少年プラザb-lab
http://b-lab.tokyo/

参考:文京区
http://www.city.bunkyo.lg.jp/kyoiku/seshonen/seisyonen/seisyonenplaza.html

筆者プロフィール
かまゆきみ(認定NPO法人カタリバ b-labスタッフ)

文京区在住の一児の母。 平成24年5月より2年間、文京区教育改革区民会議の委員を務める。 その中で文京区青少年プラザの開設を知り、その後、運営を受託した認定NPO法人カタリバに入社。中高生の自主性を重んじる文京区の運営方針に賛同し、地域住民のひとりとしてb-labの運営に携わる。
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