CHILD RESEARCH NET

HOME

TOP > 研究室 > 東日本大震災の子ども学:子どもの心のケア > コラボ・スクール女川向学館

このエントリーをはてなブックマークに追加

研究室

Laboratory

コラボ・スクール女川向学館

要旨:

津波で家を流され、学ぶ場を失った子どもたちが、「震災があったから、志望校に行けなかった」「地震のせいで、夢をあきらめた…」こうした悔しさを抱いてほしくない、と始まったのがコラボ・スクール女川向学館です。「震災というつらく悲しい試練を乗り越えた子は、誰よりも強く優しくなれるはず」という想いに共感した全国の方々から、寄付金や募金、ボランティアで支援をいただくとともに、行政や学校などと協働しながら、被災した地域全体で子どもたちを支えています。そして復興を支える未来のリーダーを、東北の地から輩出することを目指しています。

夕方4時すぎ。学校帰りの小学生をのせたバスがコラボ・スクール女川向学館にやってきました。元気にバスを降りた子どもたちは、友達と黒板にお絵かきをしたり、ふざけ合ったり、スタッフに話しかけたり。女川向学館の中で思い思いに、のびのびと過ごします。そしてチャイムの音がなると、挨拶とともに放課後の学習の時間の始まりです。

コラボ・スクール女川向学館は、NPOカタリバが運営する放課後学校です。女川向学館がある宮城県女川町は東日本大震災で大きな被害を受けた町です。住居倒壊率は82.6%と被災地で最も高く、多くの町民が家を失いました。

津波で家を流され、学ぶ場を失った子どもたちが、
「震災があったから、志望校に行けなかった」
「地震のせいで、夢をあきらめた...」
こうした悔しさは抱いてほしくない、そんな思いから始まったのが、コラボ・スクール女川向学館です。仮設住宅や避難所などで暮らし、落ち着いて勉強する場所を失った子どもたちのために、2011年7月より、避難所として使われていた小学校を借り、英語や数学など学習指導を行っています。

「震災というつらく悲しい試練を乗り越えた子は、誰よりも強く優しくなれるはず」
そんなNPOカタリバの想いに共感した全国の方々から、寄付金や募金、ボランティアという形で支援をいただくとともに、行政や学校などと協働しながら、子どもたちを支えています。組織や役割を超えて、様々な立場に立つ人がコラボレーションしながら創り上げる新しい放課後学校が、コラボ・スクールです。

2011年7月にコラボ・スクール第1校目、女川向学館を開校し、同年12月からは岩手県大槌町でも大槌臨学舎を運営しています。今回は、私が働く女川向学館をご紹介させて頂きます。

放課後の学習の場

女川向学館は、第一に放課後の学習の場という機能をもっています。

女川向学館には、小学校1年生から中学校3年生の子どもたちが通っており、2012年度は、合わせて約200名の子どもたちが通っていました。授業は週2回、習熟度別にクラスに分かれて学習に取り組みます。学校の先生方に授業の進め方や教材の相談などをしながら、子どもたちが主体的に学習に取り組める場を目指しています。

放課後の居場所

女川向学館は、学習の場であるとともに、放課後の居場所でもあります。

子どもたちの生まれ育った女川町は、震災から2年間、変わり続けています。津波による被害から、瓦礫の撤去、更地になり、そして現在はかさ上げの工事が行われています。かつて自宅であった場所は、今も変わり続けている、それが女川の子どもたちにとっての日常です。

多感な時期に、常に変わり続ける故郷の風景を学校の窓から眺める、私にはそんな経験はないので、彼らの気持ちをきちんと理解できているとは言えません。でも、震災以前の風景、震災直後の風景、今の風景、それぞれに思いがあり、その思いを抱えながら変わり続ける風景に向き合うことが、容易いことではないことは確かです。

「震災前、帰り道である学校の坂を下ったところにあるJR女川駅の前で、友達と話すことが、とても楽しかった。」
女川の中学生から聞いた話です。学校の坂を下ったところは、津波の被害をうけ、現在は更地になっています。JR女川駅も復旧していません。

震災後、女川の子どもたちは、学校と自宅をバスで移動しています。女川向学館までの移動もバスです。放課後に友達と話しながら歩いて帰る、そんな当たり前だけど、ささやかな幸せである日常もまだ戻ってきていないのです。

そんな女川の子どもたちにとって、女川向学館は放課後に友だちに会える場所です。「放課後に友達と一緒に勉強が頑張れる場があることがうれしい」と言っている子もいました。


lab_06_56_01.jpg
女川向学館は、放課後の居場所


また、若くて元気な職員・ボランティアと話すことで、子どもたちにとって心が落ち着く場所になっています。保護者や先生に言えない悩みを相談する子どももいます。女川向学館のスタッフは、女川はもちろん、全国から集まった、教職志望の大学生、社会人経験者、様々なバックグラウンドを持ったメンバーです。自分の少し未来を歩むお兄さん・お姉さん的な存在のスタッフだからこそ、気持ちを打ち明けてくれることがあります。また、スタッフに自分の未来を重ね、自分の将来に希望をもつ、そんなきっかけにもなっています。

悲しみを強さへ

毎年3月、コラボ・スクールの中学3年生向けに、「やくそく旅行」という合宿旅行を行っています。「やくそく旅行」は、自分を見つめ直し、自分の未来を考える旅行です。

今年の「やくそく旅行」のテーマは、「震災復興に向けて、いま私ができること」。
この合宿旅行で、子どもたちは自分が出会った課題に対して、当事者として向き合い、社会で活躍する人生の先輩に出会いました。

始めは、「今はまず勉強を頑張る」と、どこか消極的だった子どもたちも、出会いを通して、「今自分にできることは何か」、震災復興の当事者として、懸命に考え抜きました。その話し合いは夜遅くまで続きました。現在も復興に向けて自分にできることを、子どもたちは模索しています。

復興への道のりは決して短いものではありません。 大人も子どもも、復興に向けて模索する毎日です。しかし、「困っている人がいたら、次は自分が助けてあげられる人になりたい。」そんな思いを、子どもたちから聞くたびに、子どもたちの心が懸命に前に進もうとしていることを感じます。

私たちは、子どもたちが悲しみを強さに変え、復興を支える希望となっていけるよう、日常の学びの場を通して、子どもたちに寄り添いながら今日も取り組んでいきます。


lab_06_56_02.jpg
子どもたちとの対話を大切にしながら、日々取り組んでいる


コラボ・スクールHP http://www.collabo-school.net/
筆者プロフィール
川井 裕子(NPOカタリバ 女川向学館職員)

大学卒業後、東京の自動車関連企業に勤務。2012年2月よりNPOカタリバの職員として、女川向学館に勤務。現在女川町在住。
このエントリーをはてなブックマークに追加

TwitterFacebook

インクルーシブ教育

社会情動的スキル

遊び

メディア

発達障害とは?

研究室カテゴリ

アジアこども学

研究活動

所長ブログ

Dr.榊原洋一の部屋

小林登文庫

PAGE TOP