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「学び」を通して、居場所と未来をつくる~コラボ・スクール女川向学館~

要旨:

コラボ・スクール女川向学館は、仮設住宅や避難所などで暮らし、落ち着いて勉強する場所を失った子どもたちの学びの場を守るため、2011年7月に生まれました。震災から2年以上たった今でも、子どもたちをめぐる環境に大きな変化はありません。そんな中、「学び」を通して、子どもたちの居場所と未来をつくろうと日々取り組んでいます。
女川の子どもたちをとりまく環境

さて、前回レポートさせて頂いてから、約5か月が経ちました。

今回は、女川の子どもたちをとりまく環境と、それに対する女川向学館の取り組みをご紹介します。

現在、女川町の中心は、かさ上げ工事の真っ最中。復興に向けて少しずつ進んでいます。しかし、女川の子どもたちをめぐる環境に大きな変化はありません。今も学校へバスで通学して、狭い仮設住宅での生活も続いています。部活動を終えた中学生は、バスの出発時間にあわせて、駆け込むようにバスに乗ります。時間を気にせず、部活動に思い切り打ちこんだり、帰り道、友だちと将来の夢や恋愛などについておしゃべりをしながら歩いて帰る。そんな当たり前だけど、かけがえのない日常はまだ戻ってきていません。

女川向学館でこんな場面がありました。

自習に来たという男子中学生たち。女川向学館に着いて30分以上経っても、勉強にとりかかる様子もなく、休憩スペースで楽しそうにカードゲームをやっています。
「何しにきたの?ずっとそうやっているの?」
そんな私の言葉に対し、彼らはこう返してきました。
「だって、こうやって友達と集まれる場所がないんだもん。」

また、こんな場面も。

自習室でひたすらボーッと座っている女子中学生。
「どうしたの?」
そんな私の言葉に、彼女はぽつりとつまらなそうに言いました。
「家に帰りたくないから。自分の場所がないんだもん。」

こんな場面に出会うたびに、私は女川の子どもたちが置かれた環境を思うとともに、彼らにとって、一番必要なものは何かを考えます。

「学び」を通した居場所

女川向学館は、女川の子どもたちの放課後の居場所です。女川向学館に来れば、放課後も友達に会える、自習をするための自分だけのスペースをもつこともできる、声をかけてくれる大人もいます。

では女川向学館は、子どもたちにとって、「ただの居場所」であってよいのか?

私たちは「ただの居場所」の一歩その先を目指しています。未来を切り拓く、生き抜く力を持つ大人になってほしい、そのために「学び」を通した子どもたちの居場所をつくることを目指しています。

自分の手で、学びの場をつくる

先日、女川向学館の自習室が「自習室委員会」の手によってリニューアルされました。「自習室委員会」は生徒有志の集まりです。何度も話し合いを重ね、女川向学館の職員に提案をした結果、リニューアルされた自習室は集中しやすくなったと評判です。特にテスト前は大盛況でした。リニューアルした点は、ルール、そしてレイアウトです。ルールは、昨年度、卒業生がつくったものを、より大切なことが伝わるように簡潔に表現を変更しました。

当初、「自習室委員会」の生徒の中には、普段、自習室で勉強をせず携帯を見ているような、「自習室は、自由でおしゃべりもできる空間にしたい」という意見をもっている生徒もいました。しかし、話し合いを重ねた結果、生徒たちが考えた自習室のコンセプトは、「静か」「集中できる」「人に迷惑をかけない」でした。本当は自由がいいけど、今の自分たちには、ルールがないと自習室が成り立たなくなってしまう、そう気づいたそうです。

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自習室のリニューアルについて話し合う自習室委員会メンバー

テスト終了後も積極的に自習室を活用する生徒たちの中に、「自習室委員会」で当初「自習室は、自由でおしゃべりもできる空間にしたい」という意見を持っていた生徒の真剣に勉強する姿もありました。先日のテストで、頑張った教科できちんと結果を出すことができたその生徒は、自分たちがつくったルールを守りながら、自習に励んでいます。

卒業後も帰って来られる居場所

高校進学と共に女川向学館を卒業した生徒が、高校生になった今も時折、女川向学館を訪れます。女川向学館でテスト勉強をしたり、別々の高校に進んだ同級生と再会したり、後輩と話したり、また女川向学館のイベントのお手伝いをしてくれることも。

今も女川向学館に立ち寄る、ある卒業生の言葉です。
「女川向学館がなかったら、志望校に合格しなかったかもしれない。 受験の時、女川向学館があったから、勉強を頑張れた。 応援してくれる先生たちがいて、一緒に勉強を頑張る仲間がいる女川向学館は、自分にとって、とても温かい場所だった。」

女川では、まだ学ぶ場所も子どもたちの居場所も十分ではありません。 私たちコラボ・スクール女川向学館は、ただ勉強する場所でもなく、ただ目的もなくいる場所でもなく、「学び」を通して、自分に自信をもてたり、自分の可能性を見つけられる、そんな居場所を目指して日々取り組んでいます。

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「学び」を通して、子どもたちの居場所と未来を届ける活動を目指している


コラボ・スクールHP http://www.collabo-school.net/
筆者プロフィール
川井裕子(NPOカタリバ 女川向学館職員)

大学卒業後、東京の自動車関連企業に勤務。2012年2月よりNPOカタリバの職員として、女川向学館に勤務。現在女川町在住。
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