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【仲間関係のなかで育つ子どもの社会性】 第11回 青年期の子どもと向き合う:ドイツの若者向け施設で思うこと

酒井 厚(首都大学東京 都市教養学部 准教授)

2015年10月 2日掲載

要旨:

中学・高校生ぐらいは、子どもが大人に対して反抗的になったり、場合によっては非行の道に進んでしまうリスクが高まる時期である。周囲の大人は、この時期の子どもたちとどのように向き合っていくべきなのか。今回は、私が昨年末に訪れたドイツの若者向け施設の様子を紹介しながら考えてみたい。

Keywords:
青年期, 非行, ドイツ, 若者の家
1.青年期の非行

私自身の経験からも思うのだが、中学・高校生ぐらいは、親や教師といった身近な大人に反発し、「大人はわかってくれない」と反抗的な態度になってしまうことが多い時期である。それまで好きだった遊びがやけに子どもっぽく思え、大人びた音楽やファッションに興味をもち(ベネッセ教育総合研究所, 2014)、理想の大人像を探し求めるようになる。親の目を盗んで学校をさぼり、高校生の頃からライブハウスで音楽活動を続けていた人がプロのミュージシャンになったなどのエピソードは、この時期の子どものあこがれとも映るだろう。その一方で、子どもによっては"さぼり"などの不良行為の枠に収まらず、犯罪行為に及んでしまう場合もある。わが国の統計を見ても、非行少年率のピークは15-16歳であり、近年では再犯者率が増えて、初犯者が低年齢化(平成26年度では13歳以下が1位で、14歳以下が2位)する傾向にある(警察庁生活安全局少年課,2015)。

少年非行では、共犯率が成人の2.3倍と高いのも特徴である。未成年の子どもがタバコや酒に手を出すのはやはり仲間からの手ほどきや圧力によるところが大きい(Sieving et al., 2000)。中学生を対象にした研究によれば、喫煙を始めるきっかけは喫煙仲間の影響を受けるからであるが、その仲間から外れても新たな喫煙仲間を自ら選ぶようになってしまい喫煙がやめられないとも報告されている(Ennett & Bauman,1994)。少年非行に関しても、仲間の影響から非行行為に及んでしまった子どもが、その仲間と縁が切れたとしてもまた違う非行集団に組み込まれてしまうという悪循環が存在することは十分考えられるだろう。

この時期の子どもたちが非行の道に進まないようにするにはどんな点に気をつければ良いのか。また、非行に及んでしまった場合に大人はどのように関わるべきなのか。今回は、私が昨年末に訪れたドイツの若者向け施設の様子を紹介しながら考えてみたい。

2.若者の家

昨年の12月に、私は勤務する大学の学生を引率するためドイツの大学を訪れ、バーデン・ビュルテンベルク州の都市であるビーティッヒハイム=ビッシンゲンの「若者の家(Jugendhaus)」を見学する機会に恵まれた。若者の家は、市の支援を受けて運営されている青少年支援団体が行う活動の一部であり、子どもたちが放課後を過ごす場所として提供されている。とくに私が訪れたこの若者の家は、近くの小学校で働くスクール・ソーシャルワーカーが兼務しており、充実した施設とスタッフで運営されている。施設には、年頃の青年が興味をもつたくさんのものが揃っており、例えば友人とバンドを組んでいる子どもたちが演奏できるスタジオは複数あり、予約をすれば自由に使うことができる。有料ではあるが、演奏した音源を加工する設備も整っていて、自分たちの演奏でCDをつくることもできる。これ以外にも、ダンスや演劇を練習・披露するステージがあり、皆が食事をするラウンジにはテレビゲームを楽しむための巨大な画面が置いてあり、もちろんスポーツを楽しむための天然芝の運動場やクライミングボードが用意されている。自動車を修理するための充実したガレージもあり、ここは普段は近隣の学校の機械系の授業でも使用されているが、若者の家を卒業した若者が休日に自分の愛車を整備しにやってくるとのことであった。

ビーティッヒハイム=ビッシンゲンは人口規模が小さい町であり、大都市のように若者がたくさん集まる土地ではないから、彼らの好奇心を満たす場所や機会が十分に用意されているわけではない。だからこそ、若者が好奇心を満たせる場所が身近にあるのは、彼らの欲求を満たしストレスを発散する助けになっていると思われる。年頃の彼らが興味をもつ活動は非行につながる可能性もあるから、近くの大都市に出かけて危険な目に遭うリスクを防ぐ要素になっているともいえるだろう。また、スクール・ソーシャルワーカーは、彼らにとって自らの悩みや将来の生活について話す重要なパートナーであり、若者の家には、若者がやりたいことに取り組めるように誘う懐の広さと、彼らが道を外さないように緩やかに見守る姿勢が感じられる。

3.非行少年と向き合う大人たち

私がドイツで訪問したもう一つの施設は、シュツットガルト市にあるワーク・アンド・ボックス・カンパニー(Work and Box Company)である。シュツットガルト市は、ビーティッヒハイム=ビッシンゲンから電車で25分ほどに位置する大都市であり、メルセデス・ベンツのダイムラーやポルシェの本社のある工業地域である。ワーク・アンド・ボックス・カンパニーは、市や市の職業安定所、各種の基金から援助を受けている非営利団体施設であり、教育学の分野で専門の資格をもつ4人のスタッフで賄われている。対象は、16歳から21歳までの非行経験者であり、1年間を通じて、主にボクシングによる自己制御のトレーニングや、機械修理や農業実習など就労を目指した支援、社会生活の指導や刑事訴訟手続きの際の同伴などを通じた地域社会への再統合が図られる。

私がお邪魔したのが平日の午後の早い時間帯だったこともあり、施設には青年が1人いるだけであったが、トレーナーが彼にボクシングを教える様子を見ることができた。このトレーナーは少年院で非行少年の更生指導をしていた経験があり、彼曰く、更生プログラムとしては攻撃的なために敬遠されがちなボクシングこそ、若い彼らのエネルギーをルールに則って発散させるのに重要であるという。このトレーニングでは、ボクシングがうまくなることよりも、ボクシングを通じて考え方や感情のコントロールを学ばせることに主眼がおかれる。例えば、一直線にひかれた一本の長いロープの上を前進し続けるトレーニングでは(写真1)、ボクサーはトレーナーに左右からミットではじき出されそうになるのをこらえて、ファイティングポーズをとったままロープを外れることなく進まなければならない。スパーリングの時には、トレーナーがミットでボクサーを叩き挑発しながらも自分の体の前で構えていたミットを突然に下げた時に、ボクサーは自分のパンチを止めることができるかどうかが試される。このトレーニングは、下手をすれば本当に殴られてしまうのであるから、トレーナーに勇気と相手への信頼がなければ続けられない。言い換えれば、こうしたトレーナーの体当たりで献身的な姿勢が、非行少年であるボクサーが相手を信じることの礎になっていくとも言える。非行の発達に関する研究(Moffitt, 1993)によれば、幼い頃から反社会的行動を繰り返し青年期以降の非行へと継続する一群があり、彼らには、家庭環境が悪く親との愛着関係が不安定であり、自尊心が低いという共通した特徴があると報告されている。この施設に通う青年の中にも、家庭環境が悪く小さい頃から悪さを繰り返しているケースは少なくない。ここでボクシングを通じてトレーナーと築く信頼関係は、社会に出てから他者を信頼することや自分に自信をもつための大切な礎になると言えるだろう。

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写真1 1本のロープを進み続ける練習.壁には、手前から奥にかけて非行からボクシングを通じて立派な成人になっていくストーリーが描かれている.


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写真2 建物の外観には、偏見と闘い続けたボクサーであるモハメド・アリが描かれている.

4.地域で子どもを育てるということ

今より30年ほど前、多民族国家で移民が多いアメリカでは、住民同士の付き合いの希薄さや居住地域への愛着の低さが様々な社会的問題につながるとして、社会関係資本(social capital)や集合的効力感(collective efficacy)という概念が生み出された。なかでも集合的効力感に基づく研究では、近所で青少年が悪さをしているときに注意する住民が多いほど、また住民同士が信頼しあっているほど、その地域は犯罪の発生率が低いことが示されている(Sampson et al., 1997)。

住民同士が信頼し合い地域のために活動する意欲は、子どもの成長を見守る上で当然ながら重要である。しかし、私が今回の訪問で感じたのは、若者の健やかな成長のためには、地域に公的な援助により賄われる若者向けの施設があり、専門的な教育を受けたスタッフが関わる環境が必要ということである。地域の教育力の低下(文部科学省,2005)が懸念される今の日本においても、公的な援助をもとにして、若者が集まりたくなる場所を地域に用意する努力をしていくべきであろう。


引用文献

  • ベネッセ教育総合研究所 2014 第2回放課後の生活時間調査 子どもたちの時間の使い方[意識と実態] ベネッセ教育総合研究所:東京
  • Ennett S. T., & Bauman, K. E. 1994 The contribution of influence and selection to adolescent peer group homogeneity: The case of adolescent cigarette smoking. Journal of Personality and Social Psychology, 67, 653-663.
  • 警察庁生活安全局少年局 2015 少年非行情勢(平成26年 1~12月)
    https://www.npa.go.jp/safetylife/syonen/hikoujousei/H26.pdf
  • Moffitt, T. E. 1993 Adolescence-limited and life-course-persistent antisocial behavior: A developmental taxonomy. Psychological Review, 100, 674-701.
  • 文部科学省 2005 「地域の教育力に関する実態調査」報告
    http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo2/003/siryou/06032317/002.htm
  • Sampson, R.J., Raudenbush,S.W., & Earls, F. 1997 Neighborhoods and Violent Crime: A Multilevel Study of Collective Efficacy. Science, 277, 918-924.
  • Sieving, R.E., Perry C.L., Williams C.L. 2000 Do friendships change behaviors, or do behaviors change friendships? Examining paths of influence in young adolescents' alcohol use. Journal of Adolescent Health, 26, 27-35.
筆者プロフィール
report_sakai_atsushi.jpg 酒井 厚 (首都大学東京 都市教養学部 准教授)

早稲田大学人間科学部、同大学人間科学研究科満期退学後、2002年に早稲田大学において博士(人間科学)を取得。山梨大学教育人間科学部を経て、現在は首都大学東京都市教養学部准教授。主著に『対人的信頼感の発達:児童期から青年期へ』(川島書店)、『ダニーディン 子どもの健康と発達に関する長期追跡研究-ニュージーランドの1000人・20年にわたる調査から-』(翻訳,明石書店)、『Interpersonal trust during childhood and adolescence』(共著,Cambridge University Press)などがある。
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