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中学生の非行傾向行為と親子関係、友人関係

要旨:

中学生の時期は非行が増加する時期であり、学校現場でも日々対応に追われている。本論では、中学校でみられる「タバコを吸う」「学校をさぼる」「万引きをする」などの行為を非行傾向行為と名づけ、研究成果をもとに、中学生の非行傾向行為の実態および親子関係、友人関係との関連について述べた。

Keywords: 非行傾向行為、中学生、親子関係、友人関係、リスク要因

中学生の時期は非行の好発時期である。警察庁(2015)のまとめによると、平成26年の刑法犯少年の検挙人員は4万8,361人であり、年齢別では14歳が1万140人、15歳が1万991人、16歳が1万9人であり、14歳から16歳が非行の好発時期である 。その後、17歳6,977人、18歳5,279人、19歳4,965人と減少している。学職別検挙人員は中学生が高校生を上回っており、中学生の時期に非行が多いことがわかる。刑法犯少年のうち、万引きや自転車盗などを含む初発型非行 *1が6割を占める。

学校現場において、非行傾向は特に問題となっており、教師は日々その対応に追われている。日本においては初発型非行が多くを占めており、非行は深化していくこともあることから、非行の芽を摘むためにも中学校現場での非行傾向行為に焦点をあてていく必要がある。本稿では、中学校現場でみられる非行を非行傾向行為と名づけ、非行傾向行為と特に親子関係、友人関係について述べる。

中学生の非行傾向行為の経験率

中学生の非行傾向行為の経験率はどのくらいなのだろうか。中学生を対象にした調査 *2(2011年12月下旬に東京都内の中学校5校の1年生~3年生1,836名に実施)から、非行傾向行為の経験率は、「タバコをすう」が5.1%、「病気などの理由がないのに学校をさぼる」が11.7%、「親にかくれて酒やビールを飲む」が6.2%、「子どもだけで夜おそくまで街の中で遊ぶ」が22.3%、「店の品物をお金を払わずにもってくる」3.2%、「よその人の自転車を盗んだり、かってに使ったりする」が2.7%、「家のお金を親にだまって持ち出す」が4.6%、「親の許可なく外泊する」が3.3%であった。

非行のリスク要因

非行のリスク要因は、家庭の社会経済的地位が低いこと、親子の要因、友人の要因、学校の要因、個人の要因など多様である。海外を含めた非行の先行研究から、親子関係では、虐待や一貫しないしつけ、親の子どもへの監督(子どもが放課後どこにいるか、誰といるか知っている、持ち物を把握しているなど)が低いこと、親子関係が悪いことや、家族間葛藤などが非行のリスク要因であることが明らかになっている。友人関係では、逸脱した友人の存在、学校の要因では、学業での失敗、学校不適応、学校を退学することも非行のリスク要因である。個人の要因では、多動、攻撃性、衝動性の高さなどがある。非行には、児童期に開始されるもの、青年期に開始されるものがあるが、青年期の非行には友人関係の影響が強いことが明らかになっている。

中学生の非行傾向行為と親子関係、友人関係

上記で示した「タバコを吸う」「万引きをする」などの非行傾向行為の経験がある子どもの親子関係について検討したところ、非行傾向の経験のある子どもは、親子関係が親密でない、家庭内の暴力が多い、親による子どもの監督が少ないことが明らかになった。

中学生の非行傾向行為に及ぼす要因は、非行のある友人がいることの影響が強い。特に、2年生の女子では、友人と親密であることや同調行動が多いといった友人関係の良好さも非行傾向行為に影響を及ぼしていた。中学生の友人関係は、共通性や類似性を重要視し、グループへの同調行動が強い(向井,2014)という特徴があることから、非行のある友人がいることが、本人の非行傾向行為に影響を及ぼす。しかし、3年生になると友人関係の影響はみられなくなる。3年生になると受験があるため、受験を考えたときには、非行はリスクのある行動であるため、友人関係のもち方が直接影響を及ぼさなくなるといえる。

非行に与える友人の影響は強いことから、非行傾向行為のある子どもの特徴を、非行のある友人の存在があるかどうかで分類してタイプごとの特徴を明らかにした。結果、自分も友人も非行のある子どもの特徴として、親子関係が親密でない、家庭内の暴力が多い、親の監督が少ない、セルフコントロールが低いという特徴がみられた。しかし、友人関係は親密であり、友人関係の同調行動が多かった。家庭に問題が多いため、非行のある友人との間に居場所を求めてつながっていると考えられた。

一方で、非行のある友人がおらず、単独での非行の子どもの場合、特に、男子で親子関係が親密でなかった。また、友人関係も親密でなく、抑うつが高いという特徴がみられた。この群に当てはまる子どもは、女子より男子の方が家庭の問題も多く、対人関係も親密な関係をもてておらず、内面的にも不適応を起こしている可能性が考えられた。

非行のある友人がいるが、自分は非行をしていない子どもの特徴として、親子関係が親密であること、親による監督が高いこと、セルフコントロールが高いことがあった。これらの要因は、子どもが非行に至らない防御要因といえる。親の日々の関わりは、非行傾向行為の防止において特に重要だと考えられる。


  • *1 初発型非行とは、万引き、オートバイ盗、自転車盗及び占有離脱物横領をいう。本格的な非行への入り口と指摘されることもある。
  • *2 この1年間の経験を尋ねている。1回でもある生徒を経験ありとした。

    引用文献
  • 警察庁少年生活安全局(2015)少年非行情勢(平成26年1月~12月)警察庁 https://www.npa.go.jp/safetylife/syonen/hikoujousei/H26.pdf
  • 向井隆代(2014)友達と仲良くなりたい 櫻井茂男・浜口佳和・向井隆代(著)子どものこころ-児童心理学入門 有斐閣アルマ

  • 参考文献
  • 無藤隆・小保方晶子(2007)非行の芽生えを探る 酒井朗・青木紀久代・菅原ますみ(編著)子どもの発達危機の理解と支援-漂流する子ども- 金子書房
筆者プロフィール
小保方晶子(白梅学園大学准教授)

お茶の水女子大学博士後期課程修了(博士)。専門は発達心理学、臨床心理学。主要な著作に、「非行のリスク要因としての家族-心理学の立場から」渡辺秀樹・竹ノ下弘久編著 『越境する家族社会学』学文社2014年2月、「中学生の非行傾向行為の先行要因--1学期と2学期の縦断調査から」心理学研究 77(5), 424-432, 2006(共著)、「親子関係・友人関係・セルフコントロールから検討した中学生の非行傾向行為の規定要因および抑止要因 」発達心理学研究 16(3), 286-299, 2005(共著)などがある。
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