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子育て支援システムのチャイルドケアリング・デザインを考える

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【1月】子ども問題解決のために
子育て支援システムのチャイルドケアリング・デザインを考える

今、話題になっている「子ども問題」(child issues)を考えてみると、子ども虐待から始まって、不登校・非行・犯罪など、その数は数えきれないであろう。子どもの生活のあらゆる面で、多様なかたちで現われていることは御存知の通り。家族、保育園、幼稚園、学校を場とする育児・保育・教育の中で、そして妊娠・出産・育児という生命のバトンタッチの流れの中で、さらには乳児・幼児・学童・青少年(思春期)と成長・発達する中で、子ども問題がいろいろと現われているのである。「少子化」もある意味で、直接的、間接的に子ども問題に関係している。2011年(平成23年)の年頭に当り、この様な問題を解決するには、どうしたらよいか考えてみたい。

当然のことながら、子ども問題解決には、その要因をまず明らかにしなければならない。筆者が折にふれているように、その要因は豊かな社会、特に物質的な豊かさの陰の部分にある様にみえる。と同時に、人間が進化の流れの中で育てた、優しい心、思いやりの心、共感の心を使わなくても良いほど、社会が豊かになった事が、要因ではないかとも考えられるのだ。

豊かな社会というと、生活廃棄物の山、産業廃棄物の山、公害・自然破壊の現状から始まって、肥満・糖尿病などの健康問題まで、いろいろと問題点が目に浮かぼう。しかし、それだけではない。われわれの心までも蝕んでいる。豊かさを求める心は肥大化して、物質万能主義になり、拝金主義をおこし、金のためなら弱者でも利用しようとする規範低下さえ見られる。しかも、貧困問題さえが、この豊かな社会にも現われ、格差問題として、貧しくても心豊かな生活が消えてしまっている。

この様な現在の多様な子ども問題を解決するには、社会のモノやコトを、どのようにしてチャイルドケアリング・デザインしたらよいのだろうか。勿論、私のいう「子ども学」(Child Science)がまず必要になるが、それは育児学、保育学、教育学、心理学、成長科学、小児科学などが柱になろう。しかし、それだけでは解決の道はないことは明らかで、社会学、文化人類学、経済学、法律学など、子どもの生活に関係する自然科学、人文科学などを全て統合して当たらなければならないことは明らかである。

したがって、「子ども学」は、当然のことながら余りにも多岐にわたるため、残念ながら現時点では体系づけられているとは言えない。それぞれの子ども問題によって、関係学問の組合せは異なるのも当然と言えよう。しかし、それは自然科学と人文科学とを統合した文理融合科学であることには間違いない。子ども学は、全体的、包括的、そして統合的な子ども人間科学なのである。

現在の情報化社会の理念や技術をもってすれば、学問を縦横につなげることも不可能な時代ではない。そのために、筆者はChild Research Net(CRN)を立ち上げ、また日本子ども学会(The Japanese Society of Child Science)も組織化したのである。子ども問題を解決するにも、さらには「子ども学」の理念体系を形成するにも、この様な話し合いの場は必須と思うからである。子どもに関係するいろいろな学問を学んだ研究者、実践者の話し合いの中で、「子ども学」の在り方は、おのずと体系づけられると思うのである。

しかし、豊かさの陰として失われた優しさの心を取り戻し、子どものことを考え、子どもの未来を心配して、物事をチャイルドケアリング・デザインするには、少なくとも次の点が重要と考えている。

第1は、女性の発想である。女性は、わが子の生命を宿し、母乳を与え育てる生物的いとなみの力を持っていて、男性が持ち得ない発想があると思うのである。その基盤には、優しさがある。

第2は、子どもを育てるには、それぞれの地域特異性がある事も重要であると思う。したがって、地域に合った子育て支援システム、すなわち、地域に根づいた育児・保育・教育のシステムを組織化しなければならない。

現在、わが国の各地で行われている公の子育て支援システムは、いずれも行政のやり方を含めて必ずしもうまく行われていないように見える。もしうまく行われているならば、子育て問題はすでに解決しているはずであるが、逆に悪化している現実からみても明らかであろう。

第1の女性の発想を生かす、第2の地域特異性を持つ子育て支援のチャイルドケアリング・デザインは、どうしたらよいだろうか。なかなか難しい問題であるが、既存のシステムを利用する方法もあると筆者は考えるようになった。読売新聞大阪本社の事業のひとつである「子育て応援団」に関係してきて気付いた事である。日本全国津々浦々に様々なかたちで、子育て支援NPOなどがあり、その多くは女性のアイデアによって女性たちが作ったもので、自然発生的なものが少なくない。男性のやっているものでも、奥さんのアイデアでNPOを作ったという子育て支援の方法に出会ったことさえある。全国にひろがっているそれを、何とか活性化するのもひとつの方法ではないかと思うのである。

活性化するひとつの方法として、行政自身が直接手を出すのは止めて、極言すればであるが、そういったNPOを何らかのかたちで支援するのである。そうすれば比較的少ない予算でも、上手く機能するようになるのではないかと思う。

文化人類学者マーガレット・ミードのお弟子さんのひとり、D.ラファエル女史は、如何なる文化の中でも、先進国では昔、伝統文化の社会では今でも、女性が自身で考え出した女性の助け合いシステムがあった、あるいはあるという。ギリシャの「ドゥーラ」はその代表で、妊娠・分娩・育児という生命のバトンタッチをする女性を、エモーショナル・サポート(優しく勇気づけること)を柱に、支援する人が昔からいるのである。今、私達は、21世紀にマッチした、豊かな社会のドゥーラ・システムを確立する時にあるといえる。

(「ドゥーラ」 "doula" については、CRNの「ドゥーラ研究室」をご覧ください。)

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