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【1月】「幼老統合ケア」を支える学問は何か

2013年1月31日掲載

昨年末12月の所長コラムでは「ロンドンから来た嬉しいメール」と題して、2008年9月30日に書いた私のコラム(2008年11月28日に英訳版を掲載)を読んだ、ロンドンにいるイギリス人女性2人から頂いたメールのことを書いた。それを書いているうちに、その裏にある学問のことにも関心をもったので、年頭のコラムとしてまとめることとした。人間生活に関係する問題は、実践的な問題になればなるほど、その裏にある学問が重要になると考えるからである。

12月の所長コラムにも書いたように、第一生命経済研究所の北村安樹子先生には、「幼老統合ケア」についていろいろ教えて頂いた。その上、『〈幼老統合ケア〉多湖光宗監修、幼老統合ケア研究会編、黎明書房』という本までお送り下さったのである。その本を読んで、私も考えることがあった。本の著者名にあるように、「幼老統合ケア研究会」という研究グループが既に存在していることに、皆さん方も驚かれたであろうし、私も驚いた。

実は私は多湖先生についても、「幼老統合ケア研究会」についても、全く知らなかったので、その本を読んで、既にそのような勉強会がスタートしていることに驚くと共に、感激もした。感激した理由は次のとおりである。

昔は老人も子どもも一緒に生活する三世代家族が一般的で、「老人介護」も「子どもの育児・保育」も一緒に、しかも家庭の中で、自然に学び、家庭文化として伝承されていたことは、どなたも理解されるであろう。老人の介護とか、子どもの育児・保育とかは、「生活の技術」で、お年寄りによって、特に女性によって伝えられてきた文化なのである。

生活の技術に「シワケ」や「遊び」も伝承されるべきものとしてあることは、多湖先生の著書でも指摘されている。現代社会では、少子化とともに生活パターンの変化によって、「シワケ」や「遊び」ばかりでなく、もっと生活に必要な技術の伝承が損なわれていると考えられる。したがって、「幼老統合ケア」を活性化することは、「老人介護」や「こどもの育児・保育」などの生活技術のレベルアップばかりでなく、世代間交流を活性化することにもなるので、それ以外の伝承にも役立つことは充分理解される。

多湖先生の本の冒頭に、一番ヶ瀬康子先生の「〈幼老統合ケア〉の意義」という論文がある。それは、日本福祉文化学会の会長として一番ヶ瀬先生が書かれたもので、大変豊かな内容である。その「日本福祉文化学会」という名前に、私は驚き、同時に感銘も受けた。若ければ早速この学会に入りたいと思ったほどである。それは、人間の特徴が文化をもつ動物であり、「福祉」も人間の文化のひとつとして捉えようとするお考えと拝察されたからである。

人間を学問の対象とする科学は「人類学」として始まったのであるが、人間にとって重要な文化を捉えようとする考えが、初めからあったわけではない。人間の人体生理を対象とする「自然人類学」がまず初めにあって、それから、人間のもつ文化を中心に捉える「文化人類学」が分かれ、長い時間をかけて独立したという経緯がある。

一番ヶ瀬先生は、生活の中で自然に伝承されていた「幼老統合ケア」の実践から、現代社会では、「子どもの保育・育児」と「老人の介護」それぞれを学ばなければならない時代になっていると言われている。考えてみれば、大変重要な考えである。

「幼老統合ケア」に関心をもったおかげで、福祉に関係するこれらの新しい学問の存在とその流れを知った。しかし、この新しい流れの中にも、人間の最大の特徴である「文化」の伝承が入ることは、特に考えなければならない問題であろう。「文化」は人間の実践的な営みに、いろいろな「かたち」で影響することは明らかで、我々は人間に関係する学問では、文化を常に組み込んで考えなければならないと思うのである。しかも、メディア機器の発達した現代では、文化は「情報」であることも特に重要である。

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