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【1月】今、「子ども大学かわごえ」の意義を考える

本年冒頭の所長メッセージでは、「子ども大学かわごえ」を紹介することにした。川越市にある東京国際大学、尚美学園大学、東洋大学の3つの大学が、それぞれ教室を子ども達に開放して、大学生に行っているのと同じ様に子ども達に講義や実習を行ったりするのだそうである。この運動に対しては色々な考え方があるだろうが、私は教育の「チャイルドケアリング・デザイン」のひとつ、しかも重要なひとつになり得ると思った。

 

ここで言うチャイルドケアリング・デザインとは、子どもの安全・安心に配慮するのは勿論のこと、子どもの事を考え、子どもの立場に立って、子どもへの優しいまなざしでデザインするという意味であり、「子ども学」"Child Science" のひとつの大きな柱である。現在の「子ども問題」"children's issues" を考えると、チャイルドケアリング・デザインしなければならない「モノ」や「コト」がたくさんある。子どもが遊ぶ玩具・遊具・公園は勿論、教材・学校・教育方法・教育制度などのチャイルドケアリング・デザインは直ちに考えなければならない。その為にも、色々な立場の研究者が一緒になって学際的な研究を展開する必要がある。

「子ども大学かわごえ」は、東京国際大学副学長の遠藤克弥先生(教育学)を中心として、川越市民も会員となって支援出来るようになっているそうである。子ども達の中から希望者を募り、小学校・中学校では教えられていない事をまず教えるという。例えば「飛行機はなぜ空を飛ぶの?」、「なぜ人間は死ぬの?」など、「なぜ?」と思っていることをテーマに、大学の先生が子ども達にわかり易く講義する。それによって子ども達は、自然や社会の仕組み、人の心や体の不思議がわかるようになり、自分の人生の計画も立てることが出来るようになるのである。

21世紀のトレンドとして、社会の在り方は共生・共創の時代、学問もまた学際性・環学性が強調される時代だという。子ども問題が多発し多様化している現在、学際的に子ども問題を考える必要があるとして「子ども学」を提案し、「日本子ども学会」も設立した私にとって、「子ども大学」の発想は、大学人が子どものことを考え始めたという点でまず評価したい。保健・心理・保育・教育系は別として、多くの大学教官は子どものことをあまり念頭に置いていないのではなかろうか。それは、六本木ヒルズの事件を見れば明らかである。あの問題が起こって以来、工学系の人もより子どものことを考えるようになった。「子ども大学」は、いかなるジャンルの大学教官にとっても、子どものことを考える場として大きな役割を果たすことになろう。

当然のことながら、大学生の中には子どものことを考え、将来子どもに関わる仕事に就こうと思っている学生も多い。そういう学生には、是非「子ども大学」に参加して子どもの世話をしてもらいたい。幸い、「子ども大学かわごえ」では若い人々の参加希望者が出ているそうであるが、参加することは学生にとって大きなメリットになろう。特に、色々な勉強をしている学生が集まり話し合うことの意義は大きい。それぞれの専門によって子どもの捉え方も考え方も違うであろうし、一緒に子どもの世話をすることによって、お互いに学び合うことも大きいはずである。

もうひとつ考えてもらいたいことは、地域に必ず存在する、子どものことに一生をかけている保育・教育の専門家達のことである。そういう人々との意見交換の機会も是非つくって頂きたい。そうすれば、「子ども大学」の運動が地域全体の動きとなることは間違いなく、地域社会をチャイルドケアリング・デザインすることにもつながる。

最近の子ども問題をみると、なにか地域に「ガタ」がきているように思える。「子ども大学」で子どもに関係する色々な専門家の力が結集され、運動が展開することになれば、弛んだタガも締め直すことが出来るようになるかもしれない。

目をキラキラと輝かせて、ロボットや宇宙船、動物や植物の話に耳を傾けている子ども達の姿が目に浮かぶ。こうした子ども達の中から、将来ノーベル賞学者も出るかもしれない。この「子ども大学」の運動がより発展し、日本全国に広がり、連合体のようなものが形成されれば素晴らしいと思う。それはきっと、子ども問題解決の大きな力になると思うからである。
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