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【5月】子どもの貧困と福祉のチャイルドケアリング・デザイン

小林 登 (CRN 所長、東京大学 名誉教授、国立小児病院 名誉院長)

2010年5月14日掲載

要旨:

今回の所長メッセージでは、貧困に関する現状をデータを用いて述べながらいかに貧困が子ども問題と大きく関連しているか触れている。また、かねてより筆者が提唱しているチャイルドケアリング・デザイン(子どもの事を考え、子どもの視点に立って色々な「モノ」や「コト」をデザインする)の福祉におけるその重要性についても言及している。
English

現在、わが国の色々な局面で、「子どもの貧困」という言葉が踊っている。特に、虐待などの福祉関係で。私が「子どもの貧困」という言葉を初めて耳にしたのは、1980年代、国際小児科学会の役員をしていた頃の理事会であった。当時、多くの国際機関や会議で、先進国はもちろんのこと、発展途上国であっても、最貧国との格差は拡大する一方であると言われていた。特に、世界人口の約10%が住むというアフリカのサハラ砂漠南の地域は最貧国の代表で、大きな問題となっていたのである。1日1ドル以下で生活する最貧困層は当地の人口の約40%、字を読めない人口は20%以上、また紛争の被害者も約20%を占め、さらには多くの人がエイズで死亡し、平均年齢が40歳半ばという話であった。

このようなグローバル社会から取り残された地域で、子ども達は貧困のため飢餓状態にあり、教育も受けられず、様々な感染症で生命を失っている。国際小児科学会では、話し合いがもたれ、何が出来るかということが問題になった。取りあえずアフリカ小児科学会を応援し、レベルアップを支援しようということになり、私も会長や理事として、ケニアのナイロビ、コートジボアールのアビジャンに出掛けて講演したり、大統領に会ってお願いしたりしたことを今も思い出す。

日本で貧困、特に子どもの貧困が問題になりだしたのは10年近く前からと思うが、国際機関のOECD(経済協力開発機構)が、メンバー国の貧困率を取り上げ比較し始めたのがきっかけと思われる。比較的豊かな国でも格差が広がり、貧困が問題になっていることが明らかになったのである。特に、わが国では「子どもの貧困」が問題として指摘された。もちろん、日本で問題になる程であるから、他の豊かな国でも同様であることは明らかであろう。しかし、比較してみると、どうやらその程度が思いの外、日本ではひどかったのである。

そもそも「貧困(poverty)」とは、経済的な理由で最低限度の生活を営むことが困難な状態を指すと定義されている。そして、それは「絶対的貧困」と「相対的貧困」とに分けて考えられている。絶対的貧困は、路上生活者とか、飢餓状態にある人達の状態を指し、世界銀行によると1日の所得が1ドル以下と定義されている。相対的貧困とは、ある程度以上の豊かな地域や国の中で考えられる、豊かな人々と比較してみた時の貧困状態を指す。

OECDは、相対的貧困を次のように定義している。すなわち、家庭の受け取っている所得から税金とか社会保険料などを引き、もし社会保障関係の給付金なども貰っていれば、それを加えた収入の合計金額を世帯人員数で調整して、その中央値の半分を貧困ラインとして、それ以下の国民人口の割合を相対的貧困率とするということである。

子どもの相対的貧困率は、貧困ラインに属する子どもが子どもの人口の中にどれだけいるか、その割合で示す。わが国の2007年(調査対象年:2006年)の相対的貧困率は15.7%で、子どもの貧困率は14.2%であった。2000年から10年間を通してみると、OECD30カ国の中で真中より少し高く、OECDの平均を上回っている。低い国はデンマーク、スウェーデン、フィンランド、ノルウェー、オーストラリアであり、高い国はトルコ、メキシコ、ポーランド、アメリカ、スペインである。フランスは低い方から5、6番目、イタリア・ドイツは日本より少々高いということが、最近報告された値である。しかし、日本の子どもの貧困率は高い上に継続的に上昇し、ひとり親家庭の貧困率が特に高く、世界のトップなのである。※1

子どもの貧困が何故問題になるのであろうか。それは色々な調査で、子ども問題と深い関係が示されているからである。アメリカの研究ではあるが、ミズーリ州のある都市で、子どもの貧困率が約60%と高い地域と約2%と低い地域を比較した場合、虐待の発生率は約250倍、10代の若年妊娠率は約30倍、低体重出生率が約4倍、乳児死亡率が約40倍などという恐ろしい報告もある。※2

わが国でも同じような傾向を示している。東京都における子どもの虐待の理由としては「経済的理由」がトップであり、「育児疲れ」の約1.2倍と報告されている。これ以外に「ひとり親」とか「近隣から孤立」、「夫婦間の不和」なども挙げられているが、その裏には「経済的理由」も加わっているのである。その上、「育児疲れ」にも「経済的理由」が深く関係すると報告されている。※3

この結果をみると、なにかわが国の福祉政策のやり方に問題があるのではないかと考えさせられる。国の予算規模からみれば、たとえ借金があるにしても、ある意味では借金でやらなければならないからこそ、子どもに役立つよう、福祉こそ「チャイルドケアリング・デザイン」をしなければならないと思うのである。

われわれの未来を考える上で、未来を築く子ども達の心と体を健康に育てるためには、昔から引き継いできた古い社会の全ての「モノ」と「コト」を「チャイルドケアリング・デザイン」し直さなければならない、ということは以前にも何回か述べた。特に、危機にある子ども達を救う福祉の「チャイルドケアリング・デザイン」は、緊急の課題なのである。



※1: 厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000002icn.html


※2: 子どもの虹情報センター主催のテーマ別研修「家庭への支援」(2010年3月10日)
山野良一氏による講義「家族の貧困問題と子ども」での報告

※3: 東京都福祉保険局「児童虐待の実態II」(2005年12月)
http://www.metro.tokyo.jp/INET/CHOUSA/2005/12/60fck100.htm
http://www.metro.tokyo.jp/INET/CHOUSA/2005/12/DATA/60fck100.pdf (488KB)

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