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国際シンポジウム「お母さんと子どものために ~私たちができること~」開催レポート

篠原 都 (特定非営利活動法人HANDS マーケティング・オフィサー)
中村 安秀 (特定非営利活動法人HANDS 代表理事 / 大阪大学大学院人間科学研究科 教授)

2009年9月18日掲載

要旨:

2009年7月4日(土)、国連大学ビル ウ・タントホールにて、国際シンポジウム「お母さんと子どものために~私たちができること~」が開催された。本シンポジウムを通じて世界の女性と子どもに関する課題を市民と共有し、私たち一人ひとりに何ができるか考え、関心を行動に移すきっ かけを作りたいという共通の目的のもと集まった。この本シンポジウムの模様を、アンケートなどを通じた参加者の声と併せて紹介しながら振り返る。

はじめに

2009年7月4日(土)、国連大学ビル ウ・タントホールにて、国際シンポジウム「お母さんと子どものために~私たちができること~」が開催されました。主催はお茶の水女子大学グローバル協力センター、共催が国連人口基金(UNFPA)東京事務所と特定非営利活動法人HANDSと、大学・国連機関・NGOという立場の異なる3機関が連携し企画されたユニークなイベントでした。途上国を中心に保健システムの改善をめざして活動するHANDSをはじめ、各機関とも保健や教育の分野で国際協力、国際支援を行う立場であり、本シンポジウムを通じて世界の女性と子どもに関する課題を市民と共有し、私たち一人ひとりに何ができるか考え、関心を行動に移すきっかけを作りたいという共通の目的を持っていました。

その期待にこたえ、当日は約390名もの参加者でホールは満席になりました。参加者の8割は女性、特に20代と20歳未満が半数を占めていました。大学生や大学院生、高校生のほか、会社員、NGO関係者、教員、国際協力機関や大使館関係者に加え、無料託児サービスを設置したことから小さな子ども連れの夫婦の姿や親子での参加も見られました。また当日は秋篠宮妃殿下にもご臨席いただき、おことばを頂戴する貴重な機会もいただきました。

このように若い層を中心に多くの人びとの関心を集め、参加者からの大きな反響を感じることができた本シンポジウムの模様を、アンケートなどを通じた参加者の声と併せて紹介しながら振り返ります。

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第1部「世界の現場を知る」

UNFPA東京事務所長の池上清子さんがモデレーターを務め、第1部では、世界の国々で女性や子どもたちの置かれている状況をまず知るということから、各パネリストより現場での体験や活動について発表がありました。

<NHK国際部記者  西川光子さん>

西川さんは、アフリカのチャドで目の当たりにした過酷な出産状況について取材映像を用いて報告しました。

チャドは世界でも妊産婦の健康状態が最も悪い国の一つで、年間7,000人近い女性が妊娠や出産が原因で死亡していると言われています。映像で紹介されたのは、日本では考えられない出産の現状です。ある女性は、元気な女の子を産んだ2時間後には病院を出て、ぬかるんだ道を30分かけて自宅に戻ります。ベッド不足で入院ができないためです。彼女の母は上の娘が自宅出産で命を落としたことから、それでも病院で産ませたかったと言います。地方の保健所はなお深刻で、入院施設が無いどころか、器具も無いため工作用のハサミが使われることもあり、分娩台も18年前から変わらない状況です。一方首都の国立病院でさえも、帝王切開の途中で停電が起き懐中電灯に頼りながら手術が行われる事態です。

圧倒的な医療人材不足、インフラ整備の問題、そして政情不安という状況が、チャドの母子の健康状況改善という課題に大きくのしかかります。西川さんのレポートから、途上国が現在抱える根本的な問題が浮き彫りにされました。

<NPO2050 理事長  北谷勝秀さん>

続いて北谷さんからは、40年前に夫人がインドネシアで双子を出産された際の体験談が話されました。ジャカルタで一番という評判の病院ではあっても、当時は途上国で医療設備がほとんど整っていない中での双子の出産ということで、さまざまな不安に直面されたそうです。帝王切開の輸血用血液を北谷さんご自身で配達された経験も語られました。

また現在支援を行う活動地域の途上国女性の社会的地位や健康上のリスクとして、80%の女性が自分の意思とは無関係に10代前半から結婚させられる状況であること、14、15歳から妊娠し、流産や低出生体重児出産などが続き20歳過ぎには体がボロボロになることなどが紹介されました。先進諸国が手を差し伸べることで、リプロダクティブ・ヘルス・サービスが行き届き、適切な教育を受けられ、彼女たち自身がどうすべきかを学んでいくことで命を落とすことは少なくなるが、その前に立ちはだかるのは、貧困や女性差別の問題、先進国指導者の無関心であるとの意見が出されました。

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第1部パネリスト

<希望の学校 代表  駿渓(スルタニ)トロペカイさん>

アフガニスタンのカブールで生まれ育ち、現在は日本に帰化してアフガニスタン女性への支援を続けている駿渓さんは、母国の歴史背景と社会文化を通じて女性をとりまく状況を紹介しました。国民の99%が信仰するイスラム教では神の前での男女の平等、教育や労働、結婚相手の選択など、女性にもさまざまな権利が与えられていますが、実際は男性優位の社会の中で女性は弱い者、守るべき存在と見なされています。結婚もほとんど父親に決められ、離婚や再婚も自由に許されないなど常に従属的な立場に置かれています。

歴史上では何度か女性の地位や権利が見直される社会改革の機会が訪れましたが、そのたびに原理主義者や宗教指導者の反乱や暴動によって潰され、さらには女性自身が被害や抑圧にあうこともありました。特に1992年に始まった長い内戦では、教育を受けた女性の半数が殺されるという惨事が起き、続くタリバン政権時代はさらに状況は悪化し、国の背骨と言われる教育の基盤、国の財産と言われる子どもたちの夢、すべてが失われました。今でも子どもの4人に1人が労働しており、1日中働いても1ドルくらいしか手に入らない状況だそうです。

アフガニスタンの復興と再建は女性無しでは不可能と駿渓さんは語ります。「女性たちが自分の権利を主張し守っていくこと、母親の役割の重要性を理解することが重要であり、そのために必要なのが教育。教育によって人間は賢くなり、自分の意見をはっきり言えるようになる。そんな母親によって育てられた子供たちがアフガニスタンの社会と歴史を変えていくことができるでしょう。それが私たちの大きな夢です。」

<NPO法人HANDS  溝上芳恵さん>

溝上さんからは、ブラジル・アマゾン遠隔地で実施中の保健改善プロジェクトを通じて、女性の社会進出や役割、日常の生活や悩みが紹介されました。ブラジルでは都市部の経済発展の陰で地域格差や所得格差が拡大し、貧しい地域では女性たちも厳しい状況におかれています。しかし社会保障が手厚く、本当に厳しい貧困家庭の支えにもなっています。またマッチョイズム(男性優位主義)の影響もあり、女性が社会の中枢でリーダーシップを示すことは少ないですが、警官や貧しいコミュニティでのリーダーなどの中堅的な立場では重要な役割を果たしています。

HANDSの活動でも、コミュニティヘルスワーカー(CHW)という保健活動を行うスタッフとして女性も多く活躍しています。遠隔地に住む母親も、川からの水汲みを始めとする家事全般、育児などで忙しく立ち回りつつ、社会を良くするためにと保健改善活動についても協力をしてくれます。

また遠隔地の日常を映した映像を流し、電気も水道も無い暮らしでも楽しく生活している様子や、現地の女性から実際の悩みとして子どもの教育や夫などの家族問題が伝えられました。国際協力を行う立場として「大変そうだから何かをするのではなく、相手が何を必要としているのかを考えながら活動する」と、外部者の視点ではなく現地の当事者の視点に立った開発援助の必要性について述べました。


市民の強い関心が伝わるディスカッション

発表後のディスカッションでは、会場から多くの質問が寄せられました。

「女性と子どもが住みやすい世界にするために、私たち日本人、一般の人ができることがあるか」と全体テーマにつながる質問に対し、パネリスト全員からの意見が述べられました。「関心と思いやりの心をぜひ行動に移してもらいたい。メッセージを回りの人に伝え、呼びかけ、少しでも途上国のお母さんの命を救う国民運動を盛り上げてほしい」「安全に産み、子どもの成長を見守っていきたい、という母の思いはどの国でも同じ。日本でこんなことが起こったらということをまず想像してみる。私も報道し続ける」「みんな地球の子ども。だから人間はお互い助け合うべき。お互いの助け合いと協力によって、世界は平和になると信じている」「援助が押しつけにならないよう、一歩引いて考えてみることも必要である」などの意見が出されました。

締め括りに、モデレーターの池上さんから、世界の母子を取り巻く課題解決に向けて3つのキーワードが挙げられました。一つは、保健システムを変えていかなくてはならないということ。医師、保健師、医療の現場をどう改善できるかという点。二つ目は女性の識字率、教育が重要であること。教育を受けてその先の収入を上げていくことで、女性が社会の中で開発にかかわっていくことができるということ。三つ目として、母と子だけでなく、母子を取り巻く大きな枠組みを考える必要があること。治安、経済、紛争、早婚の問題、その背景の貧困、さまざまな問題がすべてリンクしていると、まとめられました。

それぞれの立場から現場の実態を伝えたパネリストの発表に対し、会場からは「書籍を読んで得る知識とは一味違った刺激を受けた」「国際協力において、現地の人びとと共に活動すること、人やチームワーク、枠組み作りなどのソフトの資産を現地で築くことがいかに重要かを知った」「聞くだけでなく、行ってみる必要性を感じた」「現地の状況を知り周りに伝えることも大事だが、国際関係を知ることも大事だと気づかされた」「これまでの自分の無知・無関心を恥ずかしく思った」など多数の意見をいただきました。


●第2部「日本の現場:私たちができること」

第2部は「日本にいる私たちができること」をテーマに、専門家2名と、大学の在校生・卒業生4名をパネリストに迎え、HANDS代表理事で大阪大学大学院教授の中村安秀によって進行されました。

<お茶の水女子大学 教授  内海成治さん>

内海さんは2002年から毎年訪れているアフガニスタンでの国際協力経験から自身が学んだことを話されました。戦乱で大きな打撃を受けた町で、野外やテントの中の冷えたビニールシートの上で学習する子どもたちに机と椅子の支援を行った際、日本では当たり前の状況に子どもたちが喜び感謝を述べる様子が不憫に思われ悲しくなりました。それ以降、国際協力は困難な状況にある人々が奪われた生活を取り戻すためのお手伝いで、私たちの普通の生活を分かち合うことだと考えてきました。しかしある講義で「アフガニスタンにとっての普通の生活とは、日本と同じか」と学生に問われたことで、初めて「机と椅子」は子どもたちにとって一番必要なことだったろうかと思い至りました。
その学びから、人々を支援するときに必要な視点は、何がその人に一番必要なのかを考えることであり、熱い思いを持つことだけでなく英知が必要であること、調べて考え、多くの人から話を聞くことが何よりも大事であると伝えられました。

<日本家族計画協会クリニック 所長  北村邦夫さん>

北村さんからは、日本の思春期の若者が抱える性問題の深刻な現状とその中で自分が果たすべき使命を熱く語られました。2003年の世界人口白書では「思春期の若者の健康と権利への投資は次世代に大きな利益をもたらす」と言われていますが、日本は若者のリプロダクティブヘルス/ライツという点では他国に比べ遅れています。避妊などの性教育が十分に行われていない、女性主体の避妊具(ピル)の入手にお金がかかる、中絶の容認・婚外子を良しとしないという社会状況ゆえに、現在高い中絶率や反復中絶、HIV感染者・AIDS患者数の増加が問題となっています。このような事態、日本の若者を取り巻く社会を変えるために何よりも必要なのは「教えること」であり、それが自分のすべきことであると訴えました。


●学生たちの熱い気持ちが形になる

続いて、「何かしたい」という思いから一歩踏み出した現役の女子大学生や卒業生から、それぞれの活動体験や考えが発表され、「私たちに何ができるか?」について活発な意見が交わされました。

津田塾大学4年生の畑川悠子さんは、インドの売春街とそこで働くセックスワーカーとその子どもたちを支援するNGOを訪問しました。彼女たちの8割は他国から人身売買され、2割は生活のためにやむなくしている」、経済的に余裕が無くなれば女性の誰もがなりうる職業であると知り、彼女たちと実際に話をして受けた衝撃をストレートに語りました。そして、自分にできることとして、本シンポジウムでの発表も然り、「現地で学んだことを忘れずに他の人に伝え続ける」ことと述べました。

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奈良女子大学3年生の佐藤恵依子さんは
、絵を描くのが好きなことから、絵本を作りネパールの子どもたちに読み聞かせ活動をしています。ネパールの貧困層の子どもたちに識字教育の機会を作りたいという思いから作られる絵本は、カラフルで仕掛けもあり楽しく字を学べる配慮がされています。佐藤さんからは、クリック募金(Webサイトで指定の箇所をクリックすると、スポンサー企業等から特定の団体へ寄付がされる仕組みの募金)や寄付などすぐにでもできる関わり方と、好きなことを支援につなげることが示されました。

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お茶の水女子大学3年生の豊永優美さんは
、大学の多文化交流の実習として、韓国での国際交流事業や東南アジア青年の船に参加しました。その中で、自分の価値観は相手と同じでは無いこと、国際協力は国や文化を理解するだけでなく相手を理解することが大切だと気付いた経験について話しました。またドキュメンタリー映画の上映会を大学で主催したことやこれからの夢についても語ってくれました。

東京女子大学を卒業後、国際協力の仕事を経て昨秋お母さんになられた西村幹子さんは、母の視点から考えを述べられました。日本社会では自分の子どもだけ良ければ良いという考え、子どもに依存した関係が見られる中で、自身がケニアやパキスタンで見てきたのは、大家族の中で自分の子ども以外の子どもも同じように育てたり、子どもたちを取り巻く社会問題を自分のこととして取り組んだりする母親たちの姿でした。そこから、自分の子どもの母としてだけでなく、国際社会の中で母として生きる道があるのではないかということ、また途上国に関心を持つ上では国際社会全体の構造的な問題を知ることが重要であると呼びかけました。

皆さん、厳しい世界の現実を見聞きして自分に一体何ができるのかと悩んだ末に、自分ならこれができるという結論を出されていたのが印象的でした。

若い人たちの活気ある発表に対し、会場からは多くの称賛の声があがっていました。「どんなに小さなことでもスタートしていくことが大切だと実感させられた」「同じ学生として、もう少し早くこんな考えを持っていたらと悔やむこともあったが、今からでも自分にできることがあると自分を励まし頑張ろうと思った」「自分と同じ大学生の話を聞いて、彼女らのような経験を積みたいと思った」と同年代の心に熱い思いを灯らせただけでなく、世代を超えてもそのエネルギーは伝わったようです。「学生の方々の問題意識の高さに驚かされた」「若い学生さん達の熱い思いと真剣さに打たれた」「若い人たちに元気をいただいた」

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●私たちができること、すべきこと

本イベントの開催を通して、市民の開発途上国への関心の高さ、途上国の人たちと共に何かをしたいという思いをもつ若い人が多いことを知りとても頼もしく思いました。期待以上に、このイベントが多くの人たちの行動の契機になれたのではないかとも感じています。

その一方で、大学・国連機関・NGOにはそれぞれ、彼らの思いを形にするためにこれから何をすべきか?という課題がつきつけられました。アンケートでは、多くの方から各発表者の持ち時間が少なかったとのご意見と共に、次回への期待や参加の意思も強く訴えられていました。

HANDSとしても、この国際シンポジウムの若い情熱と熱気の中から、大きな宿題をもらいました。「私たちができること」を手探りで求めている多くの人に出会いました。その大半は、次世代の国際協力を担うはずの若い人たち。

小児科医である中村は、メディアの方から「診療している写真はありませんか?」と尋ねられたときには、「どんな国にも医者や看護婦がいます。彼らが自国の人びとの健康を守る主役なのです。」と答えてきました。「絵になる写真」の代わりに、アフリカやアジアの現実の厳しさを知ってもらうためには、私たちの努力の成果とともに、国際協力の困難さにも言及する必要があると思います。たとえば、予防接種ひとつをとってみても、ワクチンを供給するだけは不十分です。当然、灼熱の環境の中でワクチンを保存するための冷蔵庫が必要になります。清潔な接種を行うためには、消毒薬や注射針も必要になります。使い捨ての注射器や注射針を使いこなせるようになれば安全で清潔な予防接種は可能ですが、今度は廃棄物の問題が生じます。途上国の辺ぴな農村の保健所で医療廃棄物をどのように処理すればいいのか、私たちはいま新しい課題を抱えています。

国際協力の本当の姿を知ってもらうには、「子ども1人分のワクチンが○○円で買えます」というメッセージではなく、私たちがいままで国際協力として行ってきたことと、現在直面している課題をきちんと伝えたうえで、解答のない課題をともに共有していくことが重要だと痛感しました。国際協力の実績を一方的に発表するのではなく、NPOの立場から「私たちができること」を手探りで求めている多くの人たちと「対話」できる場を提供していきたいと思います。

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シンポジウムは、受付を始め学生ボランティアの協力で運営された

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ホール外では、各協力団体からブースを出展。学生たちも積極的に参加した




■国際シンポジウム「お母さんと子どものために~私たちができること~」
2009年7月4日(土) 会場:国連大学ビル ウ・タントホール

主催:お茶の水女子大学 国際本部 グローバル協力センター
    http://www.ocha.ac.jp/
共催:国連人口基金(UNFPA)東京事務所
    http://www.unfpa.or.jp/
    特定非営利活動法人HANDS
    http://www.hands.or.jp/

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