CHILD RESEARCH NET

HOME

TOP > 論文・レポート > 子育て応援団 > 【ニュージーランド子育て・教育便り】第49回 算数や数学の力とは

このエントリーをはてなブックマークに追加

論文・レポート

Essay・Report

【ニュージーランド子育て・教育便り】第49回 算数や数学の力とは

要旨:

ニュージーランドでの数学や算数の学習では、掛け算と割り算を同時に習うなど、関連するいくつかの知識や解法を同時に習うことが多くあります。またそれぞれの子どもの考え方を共有するような学習方法も多く取り入れられています。子どもの数学というレベルでは正答は一つに決まりそうなものですが、ニュージーランドの数学の教え方をみていると、数学の力とは何を指すのか考えさせられます。

2人の我が子たちが学校で学習してくる様子を見ていると、ニュージーランドの数学の教え方が日本とは大きく異なっていると感じます。日本では教科書があり、教える知識の順序も考えつくされており、一つ一つの概念をしっかりと身に着けていくことができるように教えてもらえると思います。一方のニュージーランドでは、教科書がなく、教える知識の順序の大まかな流れはあっても、先生による差や学校による差も大きいように思います。筆者は、ニュージーランドの複数の学校、学年、先生を経験してきましたが、個人的に最も大きな違いを感じる点は、新しい知識を教える時に、反対の概念や複数の考え方を一度に教えることが多いことです。これは、多様な考え方を尊重するというニュージーランドの在り方なのかなとも思います。

掛け算・割り算に入る前の学習

ニュージーランドの小学校では最初に数字の書き方を習ったあと、1から10までの数え方を習います。その後、10から1まで逆に数えたり、この数を20に増やしたり、スキップカウンティングといって2、4、6、8、と1つ飛びに数えたり、2つ飛びに数えたりといった学びに続きます。この期間は、場合によっては1年以上かかり、かなり丁寧に時間をかけて行われています。その後、足し算や引き算を習い、掛け算や割り算へと入っていきます。

掛け算と割り算

さて、掛け算の段階にくると、日本では2の段を習い、3の段を習い、4の段を習い、といった具合に、とにかく九九を暗記できるまで徐々に数を上げて習得していったと記憶しています。しかし、ニュージーランドでは、掛け算と割り算は同じ概念だからという理由で同日に習います。以前、娘の担任の先生から「今日は掛け算と割り算を教えました」と言われた時に、驚いて「え!? 両方一度にですか?」と聞き返したことを未だに思い出します。「そうですよ。2枚のお皿に3個ずつドーナツが乗っていたら全部で6個である(掛け算)。ということは、6個のドーナツを2枚のお皿に分けたら3個(割り算)なので、掛け算と割り算は同じです」と説明されました。

また掛け算と割り算を同時に習うだけではなく、はじめは、2の段、5の段、10の段 を習得し、その後3の段、4の段、6の段を習得、最後に7の段、8の段、9の段、11の段、12の段を習得するという流れになります。そのようなわけで、1年かけて数を数えていた日々から、急に掛け算と割り算について、同時に複数の段を一緒に習うことになります。3年生の息子は現在まさに、掛け算と割り算の2の段、5の段、10の段を一気に習得中です。娘の時の経験があったにもかかわらず、一度に掛け算と割り算の宿題を持ち帰ってくると、私の方が相変わらずびっくりしてしまうような状態です。

report_09_487_01.jpg

今週の宿題。少し前に習った足し算・引き算の問題も含まれている。

娘の小学校時代を思い返すと、学習が少し進んで、掛け算や割り算の文章題になった時にも、頻繁に対の概念を使って習っていました。

6つの柵の中に7匹ずつ羊がいます。全部で何匹でしょう?
42匹の羊が6つの柵の中にいます。同じ数ずつ羊を入れると1つの柵の中には何匹入るでしょう?
(実際に、羊の例はよく文章題にでてきます。その他にもフェンスを立てる時の支柱の数を求めるなど、日本では目にしなかったような実生活に基づいた問題が多くあります)

このように、対となるような解き方であったり、似ている考え方を一回の授業の中で紹介するというあり方は、掛け算と割り算の時だけでなく、乗数と平方根を習った時、代数を習った時、三角形の辺や角度の求め方を習った時も、また高校に入って対数を習うときにも、かなり共通しているとのことでした。

グループ内で考え方を発表したり、互いの考え方を尊重する

また、先ほどの6個のドーナツを2枚のお皿に配るという問題を例にとると、6÷2=3という割り算で考えることはすぐに思いつく考え方ですが、別の考え方でも説明できれば、それは間違いとは言えないので、グループで話し合うということもよく行われていました。例えば、掛け算の考え方で2×〇=6と考えて、〇に当てはまる数字を出すという考え方もあり得ます。あるいは、6個のドーナツを1つずつ引き算で引いていって0になるまで分けていっても間違いではないわけです。娘の小学校では高学年になると、このようなことをグループで話し合うということもよく行われていました。暗算の仕方しかりで、「12+9を12+10-1と考えてもいいし、12+8+1と考えても良い」というようなことを、誰が間違っている、正しいというのではなく、お互いの考え方を認め合ったり、その良さを尊重したりしながら学びます。計算に関しては電卓の使用が認められることも多く、そこまで正確性は重視されていません。

子ども時代に習うような数学というものは、数字ではっきりと正解・不正解がわかるような学習分野の代表格のように私は思ってきましたが、こうしたニュージーランドの数学の教え方に触れると、数学の力と言っても色々なものを指すのだなと思います。一見すると、反復練習が少なかったり、計算の正確性を重視していないので、難易度が低く見えるかもしれませんが、こうしたプロセスの中で、考え方をいくつも考えることができるようになったり、お互いの考え方を尊重して数学を解いている姿を見ると、これはこれで高度な思考能力が育成されて いるように思います。数学が好きな娘を見ている限り、このように複数の考え方や概念を素早く提示されることはとても楽しいことのようです。一方で、先生の説明を聞いているうちに「混乱してきた!」となる子も非常に多く、考え方の共有に至らない子どもが多いこともまた事実のようです。

息子が掛け算と割り算を一気に習っている姿を見ながら、しっかり習得できるのか、将来役に立つ数学の力もまた身に着くのだろうか、と気をもみながら見守っています。

筆者プロフィール
村田 佳奈子

東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。幅広い分野の資格試験作成に携わっている。7歳違いの2児(日本生まれの長女とニュージーランド生まれの長男)の子育て中。2012年4月よりニュージーランド・オークランド在住。
このエントリーをはてなブックマークに追加

TwitterFacebook

インクルーシブ教育

社会情動的スキル

遊び

メディア

発達障害とは?

論文・レポートカテゴリ

新着記事

アジアこども学

研究活動

所長ブログ

Dr.榊原洋一の部屋

小林登文庫

PAGE TOP