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【比較から考える日中の教育と子育て】 第1回 中国のひとりっ子とおこづかいの金額

渡辺 忠温(中国人民大学教育学院博士後)

2013年5月31日掲載

要旨:

ひとりっ子政策のもとで増加した中国のひとりっ子たちは経済的・物質的に甘やかされているため、わがままで社会性がない、と考える人は多い。本稿では、中国のひとりっ子の経済的な面での実情について再検討するために、中国の延辺、北京、山東、上海の四つの地域の小学生、中学生、高校生を対象に行ったおこづかい調査の結果を紹介し、ひとりっ子の問題を考える上で、家庭の経済環境など、兄弟数以外の要因について考慮することの重要性について指摘する。
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ひとりっ子に対して、「甘やかされて育てられている」という印象を持つ人は決して少なくない。家族みんなに溺愛されることで、金銭面でも物質的にも多くの物が与えられ、その結果、わがままで、社会性がない子どもに育つ、といった見方である。筆者自身も実はひとりっ子であり、親がその点を非常に気にしていたのは知っている。

ひとりっ子政策の結果として、人口出生率が1.8程度にまで低下(さらに低いとする見方もある)した中国では、そうしたひとりっ子の教育、子育ての問題は社会的な問題と言っていいだろう。実際、若者の問題について語られる際に、「中国ではひとりっ子政策の影響で...」といった言葉で、理由が説明されることも少なくない。

中国のひとりっ子世代の子どもの性格については、今年(2013年)1月10日のScienceにオーストラリアの研究者による実験結果の報告が掲載された(Cameron, Erkal, Gangadharan and Meng, 2013)。研究者たちは、被験者(実験参加者)をひとりっ子政策前に誕生した2グループ、政策開始後に誕生した2グループの計4グループに分け、お金の交換や投資に似た経済ゲームを行わせた。その結果、ひとりっ子政策開始前後のグループ間で、主に人とのコミュニケーションの部分で大きな違いが認められたという。研究者たちは、ひとりっ子政策開始後に生まれた子どもたちが、わがままで、他人を信用せず、またリスクや競争を嫌い、消極的で悲観的で責任感もなく神経質、といった傾向を持つことを指摘している。ずいぶんな言われようであり、また、筆者の中国の若者に対する印象は、これとは違ったものなのだが、こうした結果が一般的に語られるひとりっ子に対する印象と合致している点は否めない。

ところで、経済的・物質的な「甘やかし」の面については実際の状況はどうだろうか。中国のひとりっ子たちは、兄弟姉妹のいる子どもたちと比べて、本当に多くのおこづかいを与えられているのだろうか。

日本と中国、韓国、ベトナムの研究者が共同で各国の子どもたちのおこづかいの実態について大規模な調査・分析を行なっている(e.g., Yamamoto, Takahashi, Sato, Takeo, Oh & Pian, 2012)。私も中国国内のデータの分析について、協力させていただいたのだが(支出に関しては渡辺・片・高橋・周(2012)を参照)、子どもたちのもらうおこづかいの金額について分析を行なっている際に、ふと思いついて兄弟のいる子どもとひとりっ子の間で、おこづかいの金額を比較してみた。

結果について述べる前に、簡単に調査の概要を説明しておく。この調査は、2002年に延辺、北京、山東、上海の小学生、中学生、高校生計2,586人を対象に行ったアンケート調査である。質問項目には、おこづかい(お年玉なども含め)のもらい方や使い方の実態、また親や友だちとの間でのお金のやりとりなどについての考え方も含まれる。その中で、一ヶ月に子どもたちがもらうお金の金額についても調査している。調査対象の家族構成(%)は以下の表のようになる。調査の対象となった子どもたちの中では、延辺、北京、上海においてひとりっ子の割合が高く、山東のデータで兄弟姉妹のいる子どもが多い。


表1 兄弟姉妹の有無(%)
北京 山東 延辺 上海
 家庭の中の
 兄弟姉妹の人数
 ひとりっ子 62.89  39.23  62.86  72.28 
 子ども二人 7.84  18.40  26.80  17.21 
 子ども三人 13.73  13.69  3.40  5.93 
 四人以上 15.55  28.67  6.94  4.59 


表2は、兄弟姉妹の有無と、一ヶ月にもらうおこづかい金額との関係をまとめたものである(金額の分布が正規分布になっていないので、平均ではなく、金額の低い方から並べていった時に、各地域の全体の分布の中で25%、50%(中間値)、75%にあたる子どもの受け取る金額を示している)。


表2 家族構成と手に入れるおこづかい金額(人民元)
北京 山東 延辺 上海
25% 50% 75% 25% 50% 75% 25% 50% 75% 25% 50% 75%
 ひとりっ子 20.0  50.0  157.5  10.0  20.0  60.0  90.0  180.0  300.0  20.0  60.0  200.0 
 子ども二人 9.5  50.0  200.0  12.8  50.0  200.0  95.0  200.0  300.0  7.0  20.0  90.0 
 子ども三人 5.3  32.5  100.0  11.9  30.0  100.0  120.0  170.0  250.0  8.8  25.0  107.5 
 四人以上 10.0  25.0  100.0  10.0  25.0  65.0  60.0  110.0  150.0  13.5  50.0  150.0 


この表から見て取れるのは、ひとりっ子のもらっている金額が必ずしも兄弟姉妹のいる子どもに比べて多くはないということ、また、地域によって分布に特徴があるということである。

まず、兄弟姉妹の有無と金額の関係についていえば、上海を除けば、全体的に見て多くの金額をもらっているのは、兄弟姉妹が1人いる家庭の子どもである(つまり、回答者自身も含めて二人兄弟)。また、三人兄弟であっても、特に山東のデータにおいてはひとりっ子家庭に比べてやはりもらっている金額は多い。 また、地域差について言えば、上海においてひとりっ子がもらっている金額が多く、逆に山東では、兄弟姉妹が2人から3人、4人以上と増加するにつれて、金額が減っている。北京と延辺については、兄弟姉妹の数にかかわらず、平均的にもらっているように見える。

では、なぜ兄弟姉妹がいる子どものおこづかい金額がひとりっ子よりも多くなっているのか?この調査では、親の収入(金額)までは調査していないので、あくまでも推測だが、私は、兄弟姉妹がいる(二人以上の子どもを持つことができる)家庭は、そもそも裕福な家庭なのではないかと思う。中国において二人以上の子どもをもつ場合の罰金(社会扶養費)については、各地で金額や条件が異なっているが、北京の場合で言えば平均年収の2倍~8倍にものぼり、家庭の経済状況がかなり良好でなければ支払えるものではない。家庭が裕福であれば、その分子どもに渡されるおこづかいの金額も多くなるだろう。つまり、金銭的な面については、むしろ家庭の経済的環境に注目すべきで、ひとりっ子か兄弟姉妹がいるかという点はあまり関係がない可能性がある。

もちろん、調査の限界もある。中国の全ての地域について調査したわけでもなく、また中国全体の人口から見れば、2,500人のデータが十分に全体を反映していない可能性はあるだろう。また、子ども自身による自己記述式のアンケート調査がどのくらい実情を正確に反映しているかについて、疑問をもたれるかもしれない。しかしながら、この結果を見るとき、我々がひとりっ子の教育・子育てについて考えていく上で、これまで考えていたひとりっ子の印象を、再考してみる価値はあるかもしれないと思うのである。特に、実証的な調査を行うなど、より丁寧な議論を行なっていく必要があるだろう。

本稿では、主にひとりっ子の経済的な側面について述べた。ひとりっ子の問題は経済的な面にとどまらない。その他の面については、また機会があれば、稿を改めて論じることにしよう。



(注)分析に用いられたデータは2001年度共愛学園前橋国際大学共同研究費、2003-2005年度科学研究費補助金(基礎研究(B)(1)(海外)(課題番号:15402044))、2006-2009年度科学研究費補助金(基礎研究(B)(1)(海外)(課題番号:18402042))の研究費補助を受けて進められた調査結果の一部である。

    《参考文献》
  • Cameron, L., Erkal, N., Gangadharan, L, and Meng, X. (2013). Little Emperors: Behavioral impacts of China's One-Child Policy. Science, 10 Jan. 2013
  • 渡边忠温, 片成男, 高桥登, 周念丽(2012). 中小学生的消费生活与金钱支付方式比较研究----以北京、上海、山东、延边四地区为例 郑州师范教育, 1(3), 13-22.
  • Yamamoto, T., Takahashi, N., Sato, T., Takeo, K., Oh, S., & Pian, C. (2012) How Can We Study Interactions Mediated by Money as a Cultural Tool: From the Perspectives of "Cultural Psychology of Differences" as a Dialogical Method. In J. Valsiner (ed.) The Oxford Handbook of Culture and Psychology. Oxford University Press.
筆者プロフィール
Watanabe_Tadaharu.jpg渡辺 忠温(中国人民大学教育学院博士後)

東京大学教育学研究科修士課程修了。北京師範大学心理学院発展心理研究所博士課程修了。博士(教育学)。
現在は、中国人民大学教育学院で、日本と中国の大学受験の制度、受験生心理などの比較を行なっている。専門は比較教育学、文化心理学、教育心理学、発達心理学など。

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