CHILD RESEARCH NET

HOME

TOP > 研究室 > 東日本大震災の子ども学:子どもの心のケア > 【被災地レポート】第4回 東日本大震災の災害サイクルの特徴

このエントリーをはてなブックマークに追加

研究室

Laboratory

【被災地レポート】第4回 東日本大震災の災害サイクルの特徴

吉田 穂波 (産婦人科医、ハーバード公衆衛生大学院リサーチフェロー、
プライマリ・ケア連合学会被災地支援チーム(PCAT)派遣医師)

2011年5月24日掲載

要旨:

日本プライマリ・ケア連合学会東日本大震災支援プロジェクト(PCAT)では、東日本大震災直後より、多職種連携による総合医療的な医療支援を行ってきました。地震による被害よりも津波による被害がメインとなる場合は、通常の災害支援と異なり、内科的な対応、そして慢性期の医療支援が求められます。また、避難所の生活そのものを見る医療支援・避難所のマネージメント等の公衆衛生的なニーズに予防医学・地域医療という側面から対応する必要があります。日本という福祉先進国で大多数を占める要介護高齢者の重要性を早くから察知し、 避難所内でも自分から患者を探し、診療していくといった掘り起こしタイプの支援を行い、真のニーズに対応することが重要でした。
English
日本プライマリ・ケア連合学会東日本大震災支援プロジェクト(PCAT)では、震災2週間後より、少子化を反映して妊産婦・乳幼児へのケアがすでに不十分であった被災地で、より一層の危機感を抱いて妊産婦さん支援が始まりました。私たちの妊産婦支援プロジェクト(東北すくすくプロジェクト)ではこの2カ月間、継続的に助産師と医師を被災地に派遣し、現地の妊婦さんや産後のお母さんたちのご相談に乗っています。

lab_06_17_1.jpg   lab_06_17_3.jpg
震災2週間後の南三陸町   南三陸町で潰れた三輪車


私も、定期的に現地に行くようになって、今回の震災が今までの一般的な災害と大きく違うことがわかってきました。

今までの経験を覆す、東日本大震災の災害パターンの特徴

まず、地震ではなく津波の被害がメインであったことが大きな特徴です。

一般的な災害サイクルは、超急性期・急性期・亜急性期・慢性期に分けられます。

■超急性期 (災害発生直後)
 Keyword  トリアージタッグ*1
 必要なもの・こと  救助すること
 医療ニーズ・ターゲット  トリアージすること、救命救急医療
 必要な診療科  救命救急科、外科

■急性期 (災害発生後48時間程度)
 Keyword  どうにか避難所に逃げてきた
 必要なもの・こと  衣食住、暖
 医療ニーズ・ターゲット  最弱者、重度ストレスによる急性期内科的障害
 (高血圧・狭心症・脳血管障害等)、津波肺*2
 必要な診療科  救命救急科、内科

■亜急性期 (災害発生後2週間程度まで)
 Keyword  長引く避難所生活・コンディションの悪い中での生活
 必要なもの・こと  生活-個体・個々としての生活、乳幼児・学童・思春期・
 青年・成人・壮年・老年期・超高齢者の生活、障害者の生活
 医療ニーズ・ターゲット  顕在化してくる潜在的弱者-要介護者、障害者、乳幼児、
 高齢者、妊産婦等
 必要な診療科  公衆衛生、内科、精神科、他

■慢性期 (災害発生後2週間以降年単位で)
 Keyword  復興・再構築
 必要なもの・こと  社会そのもの-家族・地域(学校・職場・クラブ)
 医療ニーズ・ターゲット  顕在化してくる社会的弱者-無職者、ホームレス、女性等
 必要な診療科  全ての分野

*1 トリアージタッグ...緑(元気・健康)/黄(数時間以内に要治療)/赤(今すぐに治療)/黒(死亡)の色のタッグをつけることで傷病者の治療優先度を決定することをトリアージ、そのタッグをトリアージタッグと言う
*2 津波肺...溺れたときに肺に入った海水中の病原性微生物や重油などの汚染物資で起きる炎症


lab_06_17_4.jpg
震災4週間後の石巻地区

しかし、今回の災害サイクルの特徴である津波が多くの人の命を奪ったことと、その後の寒さもあって元気な方しか生き残れなかったケースが多かったため、超急性期には緑(健康)か黒(死亡)がほとんどでトリアージの必要性が多くありませんでした。つまり、命を失われたか、生活の基盤を失われたか、のどちらかだったのです。急性期とはいえ、怪我の対応だけではなく、高齢化社会・慢性疾患まん延社会を反映して内科的なケアが必要となりました。また、亜急性期には、高齢化社会、高度福祉社会を反映して要介護者が支援対象として浮き彫りになりました。通常の災害とは違い、今回は災害発生直後から内科的な対応、そして慢性期の医療支援が求められたのです。

また、人の怪我だけではなく避難所の生活そのものを見る公衆衛生的な視点からの医療支援・避難所管理が必要とされました。PCATはもともとプライマリ・ヘルス・ケア(Primary Health Care)という地域医療・予防医療に重きを置いている医師から構成される集団です。家庭医のネットワークの中にはそうした知識にたけた医療者が多く、 避難所のマネージメント等の公衆衛生的なニーズに予防医学・地域医療という側面から対応してきました。 亜急性期に顕在化する潜在的弱者は日本という福祉先進国においては要介護高齢者が大多数を占めていましたので、 日本における地域医療や在宅医療、老人医療というものに身近なPCATメンバーはそうした存在の重要性を早くから察知し、 避難所内でも自分から患者を探し、診療していくといった掘り起こしタイプの支援を行い、真のニーズに対応していったのです。 これは、国際保健の分野で良く知られる地域住民の健康をいかに改善するか、のセオリーと共通するものがあります。

lab_06_17_2.jpg
宮城県災害対策本部UNICEFの國井修先生と

津波だけでなく原発による被害も重なり、超高度福祉大国日本における原子力発電所のレベル7級の事故に続く災害は、今までの想像とは異なる支援方法-つまり、急性期の命を救え!という医療支援ではなく慢性期のケアを必要としたのです。


参考文献:
 ・自然災害発生時における 医療支援活動マニュアル

 ・大規模災害における保健師の活動マニュアル
  ~ 阪神淡路・新潟県中越大震災に学ぶ 平常時からの対策 ~(全国保健師長会)

【被災地レポート記事一覧】
筆者プロフィール
report_yoshida_honami.jpg 吉田 穂波(よしだ ほなみ・ハーバード公衆衛生大学院リサーチ・フェロー・医師、医学博士、公衆衛生修士)

1998年三重大医学部卒後、聖路加国際病院産婦人科レジデント。04年名古屋大学大学院にて博士号取得。ドイツ、英国、日本での医療機関勤務などを経て、10年ハーバード公衆衛生大学院を卒業後、同大学院のリサーチフェローとなり、少子化研究に従事。11年3月の東日本大震災では産婦人科医として不足していた妊産婦さんのケアを支援する活動に従事した。12年4月より、国立保健医療科学院生涯健康研究部母子保健担当主任研究官として公共政策の中で母子を守る仕事に就いている。はじめての人の妊娠・出産準備ノート『安心マタニティダイアリー』を監修。1歳から7歳までの4児の母。
このエントリーをはてなブックマークに追加

TwitterFacebook

遊び

メディア

特別支援

研究室カテゴリ

所長ブログ

Dr.榊原洋一の部屋

小林登文庫

PAGE TOP