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【ドゥーラ CASE編】第5回 ドゥーラと文化:世界を旅する木村章鼓さん(考察回)

福澤(岸) 利江子  (東京大学大学院医学系研究科助教)

2015年3月13日掲載

前回は、世界65カ国を訪問し、4カ国でドゥーラとして活動し、様々な文化や国を知る木村章鼓さんに「国や文化が異なればドゥーラサポートは異なるのか?」というテーマをメインにお話をうかがいました。今回は、日本在住の母親であり、この連載の執筆協力者であり、日本で誕生しつつある産後ドゥーラの方々を良く知っている界外亜由美さんによる質問をもとに、ドゥーラと文化 *注について考察を添えます。

世界中で妊産婦にドゥーラサポートは必要

界外:木村さんはドゥーラサポートにとっての文化の違いについて「突き詰めていくとすごくユニバーサルであり、またエッセンシャル(必要不可欠)なものだと感じています。」とおっしゃっていました。また、「ドゥーラに求められるケアは、純粋に'寄り添い'なのだと思います。」と。これらについてどう思われますか。

福澤:もともと1970年代初期に、Dana Raphael博士(医療人類学)は実際に世界中を調査し、古今東西存在する母乳育児の支援者としてドゥーラの概念を紹介しています(Raphael, 1973)。その後、母乳育児にとどまらず安産の鍵としてドゥーラサポートは世界中で発展しました。国や文化が異なってもドゥーラサポート(妊産婦さんへの寄り添い、心をこめたケア)の真髄や必要性は等しい、ということを、実際に世界中を見てこられた木村さんがおっしゃるとやはり説得力があります。考え方やアプローチ方法にバリエーションはあるものの、ドゥーラサポートは不要、妊産婦に心を込めたケアは必要ない、と考える国や文化はない、ということは言えるのではないでしょうか。また、妊産婦に「冷え」は大敵、という伝統的な考え方は、日本で広く根付き実践されていると思います。「冷え」について西洋中心の科学ではエビデンスが発達してきませんでしたが、最近ではエビデンスに基づき冷え症看護に関する研究活動をするこのような研究会(http://hiesho.kenkyuukai.jp/special/?id=9010)もあり、興味深い文化的特徴です。日本人の木村さんが異国の地で自国の文化に根付いたケアを提供することで、日本人の妊産婦さんがどんなにリラックスできることかと思います。ドゥーラは文化を無視してユニバーサルになるのではなく、個々の妊産婦さんにとって馴染んだ文化的風習を、地理的条件を超えてあえて呼び起こしつなぐ役割を果たしているのかもしれません。

出産のより良い選択肢とは。
ドゥーラの多くはやはり自然出産が良いと考える?

界外:木村さんは、「知識・情報不足から母子の安全にとってメリットがあるか分からない選択肢を選ぼうとしている時、例えば、健康な妊娠経過にもかかわらず予定帝王切開を希望したり、それに対してご本人がまったく疑問を抱いていない時は難しさを感じます」とおっしゃっていました。一方で、私の友人に和痛分娩で出産した人がいます。彼女は「せっかく人類が発見した技術だから、その恩恵を受けて産みたい」と言っていました。それについてどう思われますか。私の知っている日本の産後ドゥーラたちも、より自然であることが好ましいと感じている人が多いような気がします。

福澤:自分自身の価値観は脇に置いておき、相手の価値観を優先する、というのがドゥーラのあるべき姿だ、といろんな文献で言われています(Dundek, 2006; Gentry, Nolte, Gonzalez, Pearson, & Ivey, 2010)。同時に、木村さんのように、葛藤も感じるというのも、世界中のドゥーラの悩みのようです(Salt, 2002;Klein et al., 2009; Tumblin, 2007)。私自身は、日本には「自然はいいね」という価値観が先進国にしては深く根付いているという文化的特徴があること(だからこそ妊産婦は社会的なプレッシャーを感じて苦しみやすいこと)をふまえると、(ご本人が納得することが一番大事だと思うので、色々な考え方の女性がいる方が良いし、色々な方法があるべきではと思うのですが)下記は大事にしています。つまり、無事に妊娠・出産を乗り越えられるだろうかと不安な妊産婦さんと家族にとって、自分と赤ちゃんに備わった力を心から信じてくれる人がそばにいて応援してくれるというのは、決して悪いことではないと思うのですがいかがでしょうか。

現場では、目の前の妊産婦さんと赤ちゃんの幸せを願うことがドゥーラサポートの最優先事項であり、支援者の価値観を押し付けるべきではありません。妊産婦さんは支援者を喜ばせようとしてご自分の考え方を変える必要はありません。同時に、支援者は目の前の妊産婦さんに共感することを大事にしながらも、多角的・長期的・客観的な視点で「妊娠・出産のケアはどうあるべきか」を追求し続けることはとても大事です。ドゥーラに限らず周産期ケアにかかわる支援者にとっては、母子の命を救うために技術を生かしたいという思いと、母子に備わった力を最大限に生かしたいという思いのはざまで、葛藤が起こりやすいと考えられます(Hall, Tomkinson, & Klein, 2012)。この葛藤については、近代社会全体が抱える問題ともいえます。人生で一番心細い思いをしている時期にある妊産婦さん個々人に背負わせることのないように、社会全体で取り組むべき問題だと思います。

個や境界を越える感覚

界外:私が木村さんや日本の産後ドゥーラに共通して感じているのは、個や境界を越える感覚です。「Q-良いドゥーラとは、どんなイメージですか?」の質問で、木村さんがおっしゃっていた「共感能力」と同じことかもしれません。ドゥーラになる人は、他人の幸せが自分の幸せと直結している、そんな風に感じているような気がするのです。こういった感覚について、どう思われますか?ドゥーラは自分と他人の隔たり(境界)が人よりも少ないような気がするんです。

福澤:確かに、共感能力と言うよりは、もっと広いのかもしれません。第2回でHarman監督も、良いドゥーラに一番大切なのは心からの思いやり・共感(compassion)だとおっしゃっていました。同時に、相手の嫌がることはしない、相手のプライベートなスペースに入り過ぎない気づかいも、優れたドゥーラは上手でなければいけないので、良いドゥーラはそのあたりの「境界を上手にわきまえる&操ることに長けている」と言えるのかもしれません。それは豊かな人生経験や社会経験を経て習熟するものですので、まさに成熟した女性なのだと思います。

助産師と産科医

界外:木村さんは助産師さんをとても尊敬していることがよく伝わってきます。私の知っている日本の産後ドゥーラたちも、助産師さんのことを尊敬している方が多いです。一方で産科医のことが今回はあまり話題にならなかったことが不思議だと感じるのですが、どう思われますか?

福澤:木村さんの今回のインタビューでは、産科医のことが何も出てこなかったのは、確かに意外だったかもしれません。私から補足しますが、木村さんは国内外の産科医の先生との出会いに強く影響を受けてきたため、医療が高度に進んだ時代に生きているという恩恵と、それによって選択肢が広がっている事実を有難く受け止めているという基本スタンスで活動されています。ここでは、木村さんが海外にいるので事情が異なるという説明が必要でしょう。海外の多くの国では、木村さんのように助産師を担当に選ぶ場合には、経過が異常にならない限り産科医に会うことはほとんどないので、そのような背景から産科医の話が出なかったのかもしれません。私自身も、臨床現場ではドゥーラ的な産科医にも出会ったことはもちろんたくさんあります。医療者のほとんどはドゥーラ的要素を多かれ少なかれ兼ね備えていて、状況、立場など、いろんな条件でどれだけ前面に出てくるかどうかの違いだけなのではと思います。産科医は父親のような役割、助産師は母親のような役割で、妊産婦には両方が大事です。日本では産科医不足が話題になり、数という量的なことだけが注目を集めがちですが、妊娠・出産のケアにおける産科医の役割について、とても大事な職業として、質的にも理解を深めなければと常々感じています。

まとめ

世界各国を旅するドゥーラである木村さんへのインタビューから、文化が異なってもドゥーラは妊産婦に寄り添うことで支援する、という原則はユニバーサルである可能性があることがわかりました。妊産婦が心からリラックスできるよう、異国の地にあっても自国の文化の価値観や風習をあえて呼び起こすような役割をドゥーラが果たしているのかもしれません。ドゥーラの文化差は研究がまだ十分にされていない分野です。今後さらに理解が深まれば、欧米で発達したドゥーラの知識を日本にどう生かすかを考える時のヒントもたくさん得られると期待されます。



*注:ここでの文化とは、単に国、民族、地理だけに限定せず、職業集団が作る文化など、様々な「集団」が世代を超えて作り出す考え方、態度、行動を想定しています。(参考:オックスフォード辞典"culture")


lab_03_30_06.jpg  木村章鼓 (Kimura, Akiko)
 イギリス在住。ドゥーラ&バースファシリテーター。エディンバラ大学大学院 医療人類学(Medical Anthropology) 修士。エディンバラにてバースティーチャー養成コース受講。SBTA(Scottish Birth Teachers Association)資格取得。元助産師のアデラ・ストックトン氏によるドゥーラ養成講座の全課程を修了、ドゥーラの資格を取得。メロディークリスタル式ヒーリング法1級&2級修了。プラクティショナーとクリストロジーのマスター資格取得。BOLDメソッド バース・ファシリテーター資格取得。訳書に「自己変容をもたらすホールネスの実践―マインドフルネスと思いやりに満ちた統合療法」。約65カ国を訪問し、世界のお産に興味を持つ2児の母。周産期医療に携わる助産師・看護師・医師のための専門誌『ペリネイタルケア』( http://www.medica.co.jp/m/perinatalcare )(メディカ出版)にて連載中。自らを「ノマドゥーラ」(「ノマド」 とは遊牧民のこと)と呼ぶ。
木村さんのドゥーラ活動についての詳細は、以下をぜひご覧ください。
http://nomadoula.wordpress.com/
https://youtu.be/oREQHaTV0Z0

(執筆協力:界外亜由美)



    【参考文献】
  • Dundek, L. H. (2006). Establishment of a Somali doula program at a large metropolitan hospital. J Perinat Neonatal Nurs, 20(2), 128-137.
  • Gentry, Q. M., Nolte, K. M., Gonzalez, A., Pearson, M., & Ivey, S. (2010). "Going beyond the call of doula": a grounded theory analysis of the diverse roles community-based doulas play in the lives of pregnant and parenting adolescent mothers. J Perinat Educ, 19(4), 24-40. doi: 10.1624/105812410x530910
  • Hall, W. A., Tomkinson, J., & Klein, M. C. (2012). Canadian care providers' and pregnant women's approaches to managing birth: minimizing risk while maximizing integrity. Qual Health Res, 22(5), 575-586. doi: 10.1177/1049732311424292
  • Kennell, J., Klaus, M., McGrath, S., Robertson, S., & Hinkley, C. (1991). Continuous emotional support during labor in a US hospital. A randomized controlled trial. JAMA, 265(17), 2197-2201.
  • Klaus, M. H., & Kennell, J. H. (1997). The doula: an essential ingredient of childbirth rediscovered. Acta Paediatr, 86(10), 1034-1036.
  • Klein, M. C., Kaczorowski, J., Hall, W. A., Fraser, W., Liston, R. M., Eftekhary, S., . . . Chamberlaine, A. (2009). The attitudes of Canadian maternity care practitioners towards labour and birth: many differences but important similarities. J Obstet Gynaecol Can, 31(9), 827-840.
  • Salt, K. N. (2002). Doula dilemmas. International Journal of Childbirth Education, 17(3), 18-20.
  • Tumblin, A. (2007). How I teach evidence-based epidural information in a hospital and keep my job. J Perinat Educ, 16(4), 68-69. doi: 10.1624/105812407x242932
筆者プロフィール

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福澤(岸) 利江子

東京大学大学院医学系研究科家族看護学教室 助教 助産師、看護師、国際ラクテーションコンサルタント。 ドゥーラに興味をもち、2003-2009年にイリノイ大学シカゴ校看護学部博士課程に留学、卒業。 2005年よりチャイルド・リサーチ・ネット「ドゥーラ研究室」運営。 Community-Based Doula Leadership Instituteアドバイザリーボードメンバー、社団法人ドゥーラ協会顧問、ニチイ産前産後ママへルパー養成講座監修。 研究分野:「周産期ケアの国際比較」「ドゥーラサポート」



界外亜由美
ライター・コピーライター。広告制作会社で旅行情報誌や人材採用の広告ディレクター・コピーライターとして活動後、フリーランスとなる。また、ドゥーラと妊産婦さんの出会いの場「Doula CAFE」の運営など、ドゥーラを支援する活動も行っている。
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