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【ドゥーラ CASE編】第2回 映画から学ぶ、イギリスのドゥーラ(前編)

福澤(岸) 利江子  (東京大学大学院医学系研究科助教)

2014年9月26日掲載
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はじめに

イギリスのドキュメンタリー映画『DOULA! 』についてご紹介します。「出産ドゥーラ」編と「産後ドゥーラ」編の2部構成になっており、「出産ドゥーラ」編では、実際の出産シーンを中心に、ドゥーラが3組のカップルを妊娠中から出産、産後まで支援する姿に迫ります。「産後ドゥーラ」編では、母親になったばかりの女性とその家族をドゥーラが実質的・情緒的にサポートする様子が収められています。すでに2,000〜3,000人のドゥーラがいるイギリスで、ドゥーラたちが誇りをもっていきいきと活動している姿が印象的な映画です。
Harman監督への質問を通して、イギリスのドゥーラの役割や背景を探りつつ、日本のドゥーラとの共通部分や違いについて、2回にわたって考えてみたいと思います。


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Harman監督にイギリスのドゥーラについて質問しました

Q1. なぜドゥーラの映画を撮ろうと思ったのですか。

Harman:以前に5組のカップルの妊娠〜産後を追った映画を撮ったのですが、公開初日、ある観客に「ドゥーラを撮るべきだ」と言われて、「ドゥーラって何?」と尋ねた覚えがあります。その後、ドゥーラについて学び、多くのドゥーラと出会い、関心は深まったのですが、ドゥーラについての作品を撮りたいとは確信できずにいました。そんな時、あるドゥーラに誘われて出産現場に同行したのです(この時の映像は『DOULA!』の最初の出産ストーリーとして収めています)。ドゥーラが出産現場に立ち会う様子を目の当たりにし、衝撃を受けました。その時「これはすごい映画になる」と確信したのです。



Q2. イギリスでドゥーラが必要とされるようになった社会的背景について教えてください。

Harman:【出産ドゥーラ】イギリスでは医学的に低リスクの妊産婦は皆、陣痛が始まると助産師が担当します。病院から派遣される助産師の立ち会いで自宅出産を選ぶ女性もいますし、病院やバースセンターで出産する女性もいます。しかし担当助産師とはおそらくその時が初対面で、妊娠~出産~産後にかけての支援は継続していません。なのでドゥーラがいれば、夫婦と特別な絆を作り、欠けている継続的なケアを提供できます。ドゥーラは、とても必要とされるエモーショナルサポートや実質的なサポートも提供します。忙しいバースセンターや病院では、助産師は同時に複数の産婦を担当するので、産婦は必要な時だけ、たまたま手の空いた助産師(next available midwife)が担当し、それ以外の時間は独りまたはパートナーと2人だけで過ごします。助産師は時々来て経過をチェックしますが、ずっと一緒にいてはくれません。多くの産婦やパートナーは出産中とても不安を感じますので、ドゥーラがいることで安心できます。
【産後ドゥーラ】イギリスでは、産後1か月間は地域で活動している助産師(多くは初対面)が2〜3日おきに家庭訪問し、その後もクリニックなどに所属する保健師(看護師か助産師の免許をもつhealth visitor)に相談したりケアを受けたりすることはできます。しかしそれ以外は、母親がすべて自分でなんとかしなければいけません。多くの母親は、親になったばかりの時期に、とても孤独と恐怖を感じながら過ごしています。産後ドゥーラが必要とされる理由はそこにあります。特に父親が2週間弱の育児休暇しか取れなかったり、実家が遠方の場合、ドゥーラは孤独や恐怖を埋めてくれる他の誰にも代わることのできない存在となっています。



Q3.イギリスではドゥーラはどれくらい認知されているのでしょうか。また、クライアントとどのようにして出会うのでしょうか。

Harman:イギリスのほとんどの女性はドゥーラについて知りません。妊娠中の女性は、ドゥーラと直接知り合いだったり、ドゥーラのサポートを受けた友人を通して、ドゥーラについて知るようです。時々、新聞にドゥーラの記事が載ることもありますが、一般的には口コミや、ドゥーラ団体のウェブサイトや、検索サイトで地元のドゥーラを検索してドゥーラを見つけるようです。



Q4. イギリスで出産ドゥーラを依頼する女性はどれくらいいますか。

Harman:イギリスでは2,000〜3,000人しか活動中のドゥーラがいないので、ドゥーラに付き添われた出産は全体 *1の1〜2% に満たないのではないかと思います。



Q5. ドゥーラの料金・報酬について教えてください。政府や関連団体からの補助金はあるのでしょうか。また、ドゥーラの仕事で生計を成り立たせることは可能ですか。報酬が少ない場合、ドゥーラであり続ける動機はどこにあるのでしょうか。

Harman:私が出会ったほとんどのドゥーラは、お金以外のモチベーションでドゥーラをしています。彼女たちは心の底から情熱的に、産前から産後にかけて女性を支援することに関心があるのです。報酬額は地域によって異なりますが、認定トレーニングを受けたドゥーラの場合、出産ドゥーラの料金設定 *2 は約£500 〜 800(約85,000〜136,000円)くらい、産後ドゥーラは1時間£20〜25(約3,500〜4,000円)くらい *3。認定を受ける前のドゥーラ訓練生は無償が多いようです。多くのドゥーラは、産前教育や胎盤保管サービス *4など、他の出産関連の仕事からの収入で補うことで生計を成り立たせています。フルタイムのドゥーラとして生計を立てている方は1か月に2〜3人のクライアントをもっているようです。繰り返しになりますが、ドゥーラたちはお金が目的ではなく、ドゥーラをすること(doula-ing)を愛しているから続けているのです。

Q6. 『DOULA!』に登場したのは富裕層向けのドゥーラだと思いますが、ティーンエイジャー・移民・低所得者などの社会的弱者に対するドゥーラプログラムもあるのでしょうか。現在、日本でも格差問題が進行しているのでお聞きしたいです。

Harman:『DOULA!』で描かれているのは自分で対価を支払えるクライアント、つまり彼らは比較的、裕福です。ドゥーラの料金を自分で払えない人々のためには、Doula UKのような団体による助成制度があります。また、地方自治体が貧困など社会的に不利な立場にある家庭を対象に、ドゥーラを派遣することもあります。私の住むサセックス州でも、自治体がティーンエイジャーやひとり親家庭に派遣するドゥーラがいます。『DOULA!』に登場したSallyもそのひとりです。また、ヨークシャー州など、NHS病院基金(「National Health Service:国営の医療サービス」管轄の公的病院基金)からドゥーラを派遣する試みが実施されている地域もあります。これがうまく行けば、他の地域でも、実質的かつ心のこもったドゥーラのサポートを、今よりもっと多くの人に届けられるでしょう。



Q7. ドキュメンタリーでは授乳サポートを重視していましたが、イギリスの産後ドゥーラの主な役割について教えてください。『DOULA!』に登場したSallyは、国際ラクテーション・コンサルタント(母乳育児のアドバイスを行うための専門資格)などの資格をもっているのでしょうか。

Harman:産後ドゥーラは母親のすべての側面をサポートします。つまり、料理・簡単な掃除・上の子どもたちのお世話・洗濯なども行い、母親が休養したり、赤ちゃんと十分な時間を過ごしたりできるようにします。エモーショナルサポートも重要です。母親が泣きたかったら肩を貸す、話を聴く、励ますなど。授乳サポートも行います。産後のサポートの内容は、とにかく母親のニーズ次第です。国際ラクテーションコンサルタントなどの専門資格をもっている人もいれば、これまでの授乳支援経験にもとづいたアドバイスをする人もいます。



Q8. 映画に登場するドゥーラは、なぜドゥーラになろうと思ったのでしょうか。また、トレーニングを経てドゥーラになったのでしょうか。

Harman:イギリスのドゥーラは、Doula UKなどの団体の認定トレーニングを受講してドゥーラになります。トレーニングを受けなくてもドゥーラと名乗ることはできますが、多くのドゥーラはトレーニングを受けて認定を受けています。養成プログラムは、組織により、数日間のものもあれば、最近では1年間かけるものもあります。トレーニング後、数か月間(人によっては何年間も)は、指導役のドゥーラに支えられながら活動するようです。私が出会ったドゥーラたちは、出産に魅了されてドゥーラになったようです。ほとんどのドゥーラは母親(出産経験者)で、妊婦の大変さや怖さを本当に理解していて、人生の節目にいる女性をサポートしたいと心から願っているのだと思います。多くのドゥーラにとって、ドゥーラになることは「"calling"(使命)」のようなもの。ここで言う"calling"という言葉は、宗教的というよりも、スピリチュアルな意味合いで使っています。好きだからしていることで、そうしなければと感じているのです。



Q9. イギリスまたは他国のドゥーラに関する情報があれば教えてください。

Harman:イギリスにはDoula UK、Nurturing Birth, Developing Doulasなど、いくつかのドゥーラ関連団体があります。アメリカには2つの主な団体であるDONA International とCAPPAがあります。他にも規模は小さいですがTo Laborなどの団体がいくつかあります。doulamatch.netなど、ドゥーラと妊婦のマッチングサイトもあります。


各組織へのリンク:
Doula UK http://doula.org.uk
Nurturing Birth http://www.nurturingbirth.org
Developing Doulas  http://developingdoulas.co.uk
DONA International  http://www.dona.org
CAPPA  http://www.cappa.net
To Labor   http://www.tolabor.com
doulamatch.net  http://doulamatch.net

Q10.最後に、良いドゥーラになるために重要なことはどんなことだと思いますか?

Harman:私見ですが、ドゥーラにとって最も重要なのは、心からの思いやりをもつことです。赤ちゃんを迎えようとしているすべてのカップルを大事に思うこと。相手の状況に共感し、それぞれのニーズに応えること。親は一人ひとり異なります。出産も一つひとつ異なります。産後期間も一つひとつ異なります。ですから、ドゥーラはどんな状況や人にも思いやりを示せるように、とても柔軟でなければならないと思います。出産から産後数週間という重要な時期に最高のケアを確実に受けられるように、それぞれの親のニーズに応えることが大切だと思います。

次回「映画から学ぶ、イギリスのドゥーラ(後編)」に続く。



(インタビュー翻訳協力:舟之川 聖子)
(執筆協力:界外亜由美)


【作品情報】

タイトル/『DOULA! The Ultimate Birth Companion』(邦題:ドゥーラ!究極の出産付添人)
上映時間/60分(出産ドゥーラ50分+産後ドゥーラ10分)
制作国/イギリス
制作者/ Toni Harman & Alex Wakeford
制作年度/2010年
日本語訳(字幕):岸利江子 飯村ブレット 福澤浩昭

★公式ページ(日本語)http://doulafilm.com/japanese

「出産ドゥーラ」編と「産後ドゥーラ」編、それぞれの予告編動画(日本語字幕付)が閲覧できますので、ぜひご覧ください。レンタル・購入も可能です。上映会や図書館に設置する場合のライセンスも購入できます。

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 Toni Harman(右) & Alex Wakeford(左)

トニー・ハーマン

ベテラン映画制作者兼監督。現在の専門は出産に関する実録ドキュメンタリー映画の制作。 最近の作品には「DOULA!」「出産の自由を求めて」「マイクロバース」など。

アレックス・ウェイクフォード

ベテランの映画制作者兼カメラマン。長編映画を初め、短編映画、コマーシャル、実録ドキュメンタリーなどを手掛ける。3年前にトニー・ハーマンと共にワン・ワールド・バースを設立、出産に関するドキュメンタリーを世界中に公開している。

筆者プロフィール

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福澤(岸) 利江子

東京大学大学院医学系研究科家族看護学教室 助教 助産師、看護師、国際ラクテーションコンサルタント。 ドゥーラに興味をもち、2003-2009年にイリノイ大学シカゴ校看護学部博士課程に留学、卒業。 2005年よりチャイルド・リサーチ・ネット「ドゥーラ研究室」運営。 Community-Based Doula Leadership Instituteアドバイザリーボードメンバー、社団法人ドゥーラ協会顧問、ニチイ産前産後ママへルパー養成講座監修。 研究分野:「周産期ケアの国際比較」「ドゥーラサポート」



界外亜由美
ライター・コピーライター。広告制作会社で旅行情報誌や人材採用の広告ディレクター・コピーライターとして活動後、フリーランスとなる。また、ドゥーラと妊産婦さんの出会いの場「Doula CAFE」の運営など、ドゥーラを支援する活動も行っている。
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