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妊婦の心に寄り添う、妊娠・出産中のアロマセラピーの可能性と安全性

注:この記事は、2020年1月21日(火)に筑波大学東京キャンパスで行われた勉強会「産科アロマセラピストから学ぶ院内出産ドゥーラの実践」における講演をもとにしています。当イベントの報告記事はドゥーラ研究室TRAINING編内でご報告します。

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はじめに

筆者は、出産ドゥーラとして神奈川県平塚市にある前田産婦人科で、アロマセラピーを使いながら出産に付き添っています(【ドゥーラ CASE編】第12回参照)。現在、前田産婦人科では5人のアロマセラピーの資格をもつ出産ドゥーラが在籍して、アロママッサージや芳香を取り入れて産婦さんの痛みや不安感の緩和を促しています。陣痛の合間にふっと香るアロマによって、落ち着きを取り戻せたという声もよく聞かれ、出産の満足度アップにつながっています。

妊娠・出産中にアロマセラピーを活用することの効能

アロマセラピーとは、植物から抽出した香り成分(精油、エッセンシャルオイル)を使い、心身のトラブルを穏やかに回復させ、健康や美容に役立てていく自然療法です。約1,500種類あるといわれる精油のうち、実際にセラピーで使うものは多くても100~200種類です。7つの系統(花、柑橘、ハーブ、樹木、スパイス、樹脂、オリエンタル)に分かれ、抗菌作用や鎮静作用、抗炎症作用などといった多岐にわたる機能性作用をもちます。

妊婦さんにアロマセラピーを活用するにはいくつかの注意点があります。ただ、アロマセラピーが広まりつつある今、そのリスクばかりが取り沙汰されている反面もあり、その有用性を経験上感じている筆者からすると、非常に残念な気持ちになります。妊娠中のアロマセラピーについては後述いたします。

出産中には、好きな香りをかぐことで、ゆっくりと呼吸ができ、少し落ち着く産婦さんもいます。精油の香りはホルモンに働きかけて、ストレスの少ない環境を整える作用があります。産婦さんの手を握るなど人のあたたかさにプラスして、より快適なお産を行うために香りの可能性を合わせることで、不安を抱えるお母さんたちを安心させることができ、ドゥーラとして新たな可能性を見つけ出すことができるように感じます。

出産中の具体的な使用法としては、足浴はお勧めです。足浴の場合、直接、精油をお湯に入れると足がピリピリしてしまうため、天然塩や無水エタノールなどに精油を垂らしてからお湯に入れるようにします。産婦さんの不安感を軽減する比較研究で、陣痛時にローズ油を入れた足浴とお湯だけの足浴を比較した場合、ローズ油入りの方が不安な気分がかなり軽減されたという結果もあります(1)。芳香で使用する場合は、ディフューザーで炊きっぱなしにするよりも、試香紙などにつけて、要所で使う方が効果的です。呼吸法の誘導では、すっきりした感じの香りを私は選んでいます。オキシトシン、エンドルフィンなどのホルモンによって出産が進んだりストレスが減ったり痛みが軽くなるので、自然分娩では、分娩に対して大脳辺縁系優位で精神集中ができる環境を作って、それらのホルモンの分泌を促すことが大切です。香りという情報は直接、大脳辺縁系の方に伝わるので、香りの作用でそういったホルモンを分泌させやすい環境を作ることができるのかなと思います。当院で、ドゥーラによるどんなケアが痛みや不安に効果があったかをアンケートで尋ねたところ、やはり、手技法、いわゆるマッサージが最も高評価でしたが、精油の香りを嗅ぐだけでも、痛みや不安が軽くなった、という回答も多かったです。

精油の作用機序

アロマセラピーについて理解を深めていくために、精油の作用機序を簡単に述べていきたいと思います。精油をセラピーとして使うためには、①吸入あるいは②経皮によって取り込む方法が国内では主流です。

  1. ①吸入法は、主に芳香浴として吸気とともに精油成分を取り込む方法で、鼻腔から吸った精油成分の情報を嗅覚で脳に伝えます。嗅覚は視覚・聴覚などと異なり、「本能の脳」と呼ばれる大脳辺縁系に伝わるという、とても大きな特徴をもちます。大脳辺縁系は視床下部と密接な関係をもち、視床下部は自律神経系や内分泌といったホルモンの司令塔であるため、香りを嗅ぐことによってこれらにも刺激を与えることができます。アロマセラピーには、月経前症候群の症状緩和などの効果のエビデンスもある一方、感覚刺激、組織刺激、化学物質過敏症、気道過敏症、小児の過敏症などへのリスクもあります。その中でも特に、頭痛が起こる可能性が高いといわれています。使用濃度や頻度を上げることで頭痛が起こることもあるため、香りを試す際は、施術者から頻繁に声をかけるなど確認が大切です。

  2. ②マッサージのような経皮的な方法については、ほとんどの精油成分がバリア機能をもつ皮膚の表面から真皮へと浸透することができるといわれています。皮膚から浸透した成分は、一部は角質層や真皮に貯蔵され、残りは真皮層の毛細血管の血液循環へ入り込み、それぞれの組織や臓器に働きかけ、最終的には、尿・便・呼気・汗により体外に排出されます。これ以外にも、まだ可能性としての考え方ですが、大阪大学の永井克也先生が提唱されている理論によると、皮膚を通った精油が血液ではなく、神経を通って自律神経に働きかけているのではないかという説もあります(2)。皮膚から浸透した成分を、皮膚に存在する「嗅覚受容体」でキャッチし、自律神経の求心性神経から中枢神経へ送り出しているということです。嗅覚受容体は、香り成分と結合する受容体であり、鼻腔以外の臓器、皮膚にも存在しているといわれています。皮膚へのリスクとしては、一時刺激性接触皮膚炎やアレルギー性接触皮膚炎が挙げられます。もし、反応が起きたらキャリアオイル(植物油)で皮膚表面の精油を乳化させてふき取ってから、石鹸をつけて水で洗い流すと良いそうです。

妊娠中のアロマセラピーのリスクと有用性のバランス

妊娠中に精油を使うことで胎児に悪い影響が出るのではないか、流産するのではないかと不安を抱く方もいますが、安全な使い方をすることで、赤ちゃんへの影響がなく、お母さんも心を落ち着かせることができます。真正ラベンダー、ペパーミント、オレンジのうち好みの香りを10分嗅ぐことで妊婦さんのストレスが減少したという研究データもあります(3)。ほかにも、様々なマイナートラブルにも効果がある精油があるため、特に助産師さんには知っておいていただくことがよいでしょう。

書籍やネットなどで妊娠中の禁忌の精油として、精油名がずらっと並んでいるものを見受けますが、根拠に乏しく首をかしげてしまうことがあります。アロマセラピーの専門書にも記されていますが(4)、一般的に活用されている精油であるなら、それを「経皮的に」使用しても流産早産のリスクが生じたというエビデンスは実は一つも存在しません。過去に精油が起因した妊婦さんの痛ましい事故は、半世紀以上前にペニーロイヤル油という通常のアロマセラピーでは用いない精油をそのまま「飲用」したことによるものです。

アロマセラピーによるリスクは、飲んだり、料理に入れたりすることで高くなり、逆に植物油などに1%濃度に希釈**してマッサージをしたり、芳香浴で使用することで大幅に軽減されます。妊娠中は妊娠週数も考慮します。4~15週までの間は催奇形性の起こる時期なので、アロママッサージなど経皮的な使い方は避けるようにして、芳香浴のみにします。16週以降は胎児毒性の観点から刺激成分や毒性成分(ケトン、フェノール、フェノールエーテル、アルデヒドなど)が高濃度で含まれている精油は使用しないようにします。同じ種類の精油でも精油メーカーによって含有量にはばらつきがあるので、精油を購入される際には成分分析表を確認するとよいでしょう。妊娠中のアロママッサージは、安全面に考慮した手技で、20週以降の妊娠高血圧症や切迫早産などの症状がない健康な妊婦さんを対象とします。その上で前述の禁忌成分の含有が少ない精油を選べば、リスクをむやみに恐れることなく活用していただけると思います。

**1%濃度希釈=植物油5mlに対して精油1滴
出産ドゥーラとして出産にアロマを活用して

私は出産ドゥーラ、アロマセラピストとして産婦人科に勤務して十数年経ちますが、これまで快適なお産のためのエッセンスとしてアロマセラピーを積極的に活用し、そのベネフィットをたくさんの方にお話してきました。その中でよく「出産によい精油は何ですか?」という質問を受けます。まず大前提として、精油は薬ではないので、万人に効果のあるものは存在しません。アロマセラピーは自然療法なので、その効果は香りを受け止める受け手の個性にも大きく委ねられます。かくいう私も、ドゥーラになりたてのころは、精油の選択を分娩促進作用や鎮痛作用という機能性ばかりに捕らわれて、産婦さんの個性、個体差への理解がまったく足りていませんでした。その結果、「香りがきつく感じられた」、あるいは逆に「ぜんぜん香りの記憶が残らなかった」という評価をいただいたこともありました。

それからは、精油を選ぶ際には、何よりも産婦さんの個性を優先して選んでいます。妊娠中に時間をかけて、精油の好み、生まれ育った環境、趣味、睡眠の質、アロマセラピー歴、既往症などをていねいに聞きながら、一緒にいくつかの精油を選んでいきます。そして出産の当日は、その中からブレンドしてマッサージオイルを作ったり、試香紙にたらして芳香や呼吸を導いたりします。ただ、アロマセラピーに精通していないと、このような選択の仕方は難しいと思うので、その場合は産婦さんに精油の好みを①好き・②嫌い・③好きでも嫌いでもない、の3段階にわけてもらい、①を中心に、ときには③からも合計3本ほど選んでもらう方法もあります。そのうちの1本はスッキリとした香りを選んでおくと、陣痛中に気持ちが落ち込んだり、パニックに陥ったりしたときに、ガラリと空気を変えることができる気がしています。

また精油の中には、ときに粗悪品が売られていることがあります。精油メーカーの善し悪しを見分けるのは正直難しいのですが、極端に安いものは避けるようにします。それから○○グレード(医療グレード、食品グレード、高品質グレードなど)と謳っている商品も信頼できないことが多い印象です。精油は「100%天然だから」「オーガニックだから」「高品質だから」安全と言い切れるものではなく、どのような精油でもルールに則り、その人に合わせて使うことが重要です。そこで初めてアロマセラピーの可能性が広まってくると思います。

ワークショップでのQ&A

Q:つわりは妊娠初期に起きて20週までに終わることが多いと思いますが、つわりの時こそアロマの香りを嗅いだら、気持ちが悪いのを軽減されるのではないかと思いました。ですがお話を伺うと、妊娠初期の妊婦さんの健診ではアロマルームには行かず、希望されてもお断りするという感じなのでしょうか?
A:アロマケアの定義によりますが、経皮的なトリートメントに関しては行っていません。ただし、芳香浴については、紙に垂らして差し上げるといったことは行っています。つわりの方には、アロマの香りを嗅いで落ち着く方と、アロマの香りさえも受け付けないという方に見事に分かれるので、受け付けない方には当然行いません。アロマの香りでリラックスできる方にはご希望があれば試香紙で差し上げたりします。香りの選び方は、一応教科書には柑橘系やジンジャーなどが良いと書かれていますが、本当に人それぞれなので、その方がお好きな香りを差し上げるのがいいと思います。

Q:出産が例えば20時間かかっても、1人のドゥーラが最後までずっと付き添うのですか?
A:当初は1人のドゥーラが最後まで付き添っていましたが、そうすると、ドゥーラの方が身体的にも精神的にもかなり拘束されてしまうため、現在は曜日制にしています。そのため、分娩が2日かかる場合は、次のドゥーラと交代します。

Q:私は、アロマセラピストとして自宅でアロマサロンを経営しつつ、産婦人科で産後トリートメントの依頼をいただいて行っています。前田産婦人科では、産後のアロマトリートメントはしていますか?
A:行っています。産後の入院中に一度、無料で30分間受けていただくこともできます。

Q:私がトリートメントを行っている産院では、産後の入院日数がだんだん短くなり、前は産後3日目や4日目にアロマトリートメントをしていたのに、最近ではほとんどが産後2日目あたりです。前田産婦人科での産後トリートメントの時期について教えてください。
A:ガイドラインとして産後何日目以降というのは決めていないです。ただ、出産翌日では結構辛かったり、帝王切開の産後はうつぶせになるのも辛かったりするので、それぞれの褥婦さんのご希望や状態に合わせています。

Q:産後のトリートメントで何か大事にしている事や、産後のトリートメントの特徴があれば教えてください。
A:産後入院中に足のマッサージを無料でおこなうのですが、褥婦さんたちの体調には十分気を配ります。たとえば足の浮腫に左右差がある場合やまだ血圧が高い方などがいたら、助産師さんに確認をします。最終的な判断は医療者にお任せしますが、もちろん私たちも一定の知識が必要だと思います。あとは入院中、疲れているのに眠れない方が多いので、短い時間でも熟睡できるような手技をつかいます。


    参考文献
  • (1) Kheirkhah, M., Vali Pour, N. S., Nisani, L., & Haghani, H. (2014). Comparing the effects of aromatherapy with rose oils and warm foot bath on anxiety in the first stage of labor in nulliparous women. Iranian Red Crescent medical journal, 16(9).
    https://doi.org/10.5812/ircmj.14455
  • (2) 永井 克也. 自律神経による生体制御とその利用, 化学と生物, 2013, 51 巻, 3号, p.160-167.
    https://doi.org/10.1271/kagakutoseibutsu.51.160
  • (3) 宋美玄ら. 妊産婦におけるアロマ吸入によるストレス軽減効果の検討. アロマテラピー学会誌, 2014, Vol14(1) p52-57.
  • (4) ロバートティスランド. 精油の安全性ガイド第2版. フレグランスジャーナル社, 2018, p253.


執筆協力:髙橋舞衣
界外亜由美
福澤利江子

筆者プロフィール
kaoru_harada.jpg 原田 香(はらだ・かおる)

前田産婦人科アロマセラピスト、マタニティセラピストスクール主宰、出産ドゥーラ 。 ロンドンと日本でアロマセラピストとしての経験を重ねる。2009年より、現職、前田産婦人科アロマセラピールームにて、出産ドゥーラチームで1,350件(2021年現在)の出産をサポートしてきた。また妊産婦ケア専門のアロマセラピスト養成スクールを主宰。院内サロンの立ち上げ、LUSHスパやパークハイアット東京などでマタニティトリートメント技術指導にも携わる。ITEC認定アロマセラピスト、DONA認定バースドゥーラ。

前田産婦人科アロマセラピールーム
http://www.cur-corpore.com
マタニティセラピストスクール
https://maternity-school.com

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