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【ドゥーラ CASE編】第12回 国内の開業クリニックにおける病院ベース型出産ドゥーラの実践:前田産婦人科アロマセラピールーム

出産ドゥーラには主に、「自営業型」「病院ベース型」「コミュニティベース(福祉)型」の3タイプがあります(参照:https://www.crn.or.jp/LIBRARY/RONTEN/CONTR_02_03.HTM)。そのうち病院ベース型ドゥーラは、顧客サービスの向上のために産院が独自にドゥーラを養成・雇用するものです。

 

日本で出産ドゥーラは、まだほとんど普及していません。しかし、出産ドゥーラという言葉を表向きに使っていなくても、アロマセラピストなどの非医療職がまさに病院ベース型の出産ドゥーラとして出産に付き添っている産院はあります。中でも、神奈川県平塚市にある前田産婦人科では、アロマセラピスト(出産ドゥーラ)に付き添われた出産件数が今年初めに1000件に達しました。今回は前田産婦人科のアロマセラピストのリーダーである原田香さんに、日本で出産ドゥーラを実践してきた背景や継続のコツについてお聞きしました。

Q1. 貴院と、貴院のアロマセラピストのお仕事について、概要を教えてください。

前田産婦人科の概要:

  • 所在地:神奈川県平塚市
  • 設備(ベッド数): 特別室、和室(家族で宿泊可)、一般室を含めた、計16床
  • 分娩件数: 50~80件/月 (うち、「アロマ分娩」(注:アロマセラピストによるドゥーラサポートのある出産)の件数: 10~20件/月)
  • スタッフ数: 常勤医師2名、非常勤医師4名、助産師15名、看護師9名、アロマセラピスト/出産ドゥーラ10名、産後ドゥーラ4名、保育士2名、その他、受付・清掃・厨房など
  • 患者さんの背景: どちらかといえば裕福な層が多い。20~40代(30代が中心)。多胎妊娠や重度のハイリスク妊娠は受け入れていない
  • 分娩費用: 560,000円〜
  • 「アロマ分娩」の追加料金: +30,000円(基本料金)
  • アロマセラピスト(出産ドゥーラ)への報酬: 時給+分娩手当

ドゥーラの役割を担っているアロマセラピストチームの仕事内容:
毎日3名のアロマセラピストが勤務して、その日の状況に合わせて、アロマトリートメント、カウンセリング、出産ドゥーラの役割などを分担しておこないます。

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写真:陣痛中の産婦さんに付き添う担当助産師(右)とアロマセラピスト(出産ドゥーラ)(左)
Q2. 貴院で出産ドゥーラを導入したいきさつを教えてください。

2007年に当時の院長のお嬢さんがマタニティトリートメントを導入するためにアロマセラピーを学び、その学校の先生にご指導いただいて、アロマセラピストが付き添う分娩である「アロマ分娩」を導入開始しました。当初は、その学校の母体の会社から派遣されたアロマセラピスト2~3人が担当していました。その中には助産師もいたので、特に医療者からの反発もなく導入されたと聞いていますが、ゼロから始めたことなので、きっと周りにはわからない苦労がたくさんあったと思います。

その2年程後に、クリニック直属の私たちが引き継ぎ、現在9年目となりました。初めは24時間のオンコールでおこなっていましたが、セラピストの拘束時間、体調面、給与面、マンパワーの問題、希望する妊婦さん全員に提供できないなど、現実的に厳しい状況に多く直面し、最初の数年は試行錯誤の繰り返しでした。

Q3. 現在実践されているドゥーラサポート(アロマ分娩)の具体的な内容を教えてください。

当院の「アロマ分娩」は、予定帝王切開以外の産婦さんは希望すれば全員可能で、自然分娩、計画分娩、無痛分娩に対応しています。アロマ分娩についての案内は、妊娠中の助産師によるバースプランの聞き取りや母親学級の中でお話しするほか、院内掲示板やホームページなどでもお知らせしています。最近では口コミやリピーターの割合がかなり増えています。

具体的なサポートの内容ですが、妊娠中は、健診で来院の際に健康状態を伺ったり、分娩時に使うために精油の嗜好をチェックしたりします。また有料にはなりますが、希望される方にアロマトリートメントをおこなっています。

出産当日は、分娩の進行状況に応じてサポートをします。分娩第1期(子宮口が10cm開くまでの陣痛の時期)は、とにかく産婦さんに寄り添うことを一番にしています。アロマセラピスト(出産ドゥーラ)はクリニック専属の立場ではありますが、「病院側の人」にはならずに、産婦さんの気持ちを大切にしながら、医療者との仲介役になるよう心がけています。身体的支援では、アロマトリートメントのほか、芳香浴、呼吸法誘導、温冷湿布、ピーナツ型バランスボールなどで、リラクゼーションと痛みの緩和を図ります。

分娩第2期(赤ちゃんが産まれる時期)は、医師・助産師が誘導しやすいように産婦さんをサポートしていきます。アロマの芳香成分は大脳辺縁系→視床下部/下垂体に直接働きかけるので、産婦さんが落ち着いて赤ちゃんを産めるように精油の活用もしています。

分娩第3期(胎盤が出る時期)にも手を握るなどして、最後まで付き添います。

ご出産直後には、分娩台の上で足のアロマトリートメントを行います。傍に赤ちゃんがいて、産婦さんにとってもドゥーラにとっても穏やかで幸せな時間です。

試行錯誤の末、現在では、ドゥーラの働く環境を重視して、アロマ分娩は9~18時の間で行なっています。ただ、オフィスワークのように18時きっかりで退勤できないことも当然あるので、そのあたりは臨機応変に対応しています。明らかに夜遅くまでかかりそうなときは、パートナーにマッサージ法をお伝えしたり、産婦さんの好まれるアロマの香りを残して退出します。

産後入院中には、お部屋に伺って振り返りやお話をしたり、リフレクソロジーをします。ご退院後は、2週間健診や1か月健診時にお話をしたり、希望者にはアロマトリートメントや骨盤調整で体調管理をおこないます。退院後は、クリニック専属の産後ドゥーラがいるので、産後ドゥーラがメインとなり、育児相談、赤ちゃんとのふれあい方、シッターサービス、ベビーマッサージ、ママの交流会でサポートしていきます。

Q4. アロマセラピスト(出産ドゥーラ)に付き添われた出産では、妊産婦さんにどんな効果がみられますか?

2015年に当院の産婦166人(うち有効回答数135)に行なった調査(原田ら,2015)で、「もしもドゥーラがいなかったらと想像したとき=10」として、実際にドゥーラがいたことで「痛み」と「不安感・恐怖心」がどの程度軽減したかを出産後に評価してもらいました。その結果、痛みの評価のスコアは平均2.6、不安感や恐怖心の評価は平均1.1と、それぞれ大幅に改善したことを示す回答が得られました。

また、出産全体を振り返って、満足度を評価してもらったところ、「大変満足」と答えた女性が90.4%、「満足」と答えた女性が9.6%であり、この数字からも、アロマセラピスト(出産ドゥーラ)が付き添うことで、痛みや不安感が大幅に減少するだけでなく、出産体験への満足感が高くなる効果があることがわかりました。

私個人としては、出産ドゥーラはハイリスク、ローリスクに関わらず、希望する妊婦さんすべてにサポートできるのがベストだと思います。以前あったケースでは、健康な妊婦さんが陣痛開始後、急に赤ちゃんの心拍が下がり、緊急の帝王切開になりました。医師や助産師は急いでオペの準備に取りかからなくてはならない中、ドゥーラが分娩台で震える妊婦さんを、ずっと抱きしめていたこともありました。

帝王切開術の減少、分娩時間の短縮、医療介入(会陰切開、吸引鉗子分娩など)の減少については、実際にデータをとったことはなく、実感としても感じていません。

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写真:アロマセラピストがドゥーラとして産婦に1対1で継続的に付き添い、情緒的支援も提供
Q5. アロマセラピストがドゥーラの役割を担うにあたり、必要な知識・スキル・態度について、特別な初期教育や継続教育はしていますか?

体系的な初期教育、継続教育は、特にありません。アロマセラピストは公的資格ではなく誰でも名乗れる呼称ですので、残念ながら知識・技術は千差万別なのが実態です。ただ、当院では、実務経験の豊富なアロマセラピストを採用しています。採用には面接と技術チェックもおこないますが、人柄を重視したいので、ここ数年は紹介による採用がほとんどで、みんなすでにタッチの技術、基礎的な解剖生理学、接遇マナーなどが身についている方ばかりです。

現場実習を繰り返してドゥーラとしてのスキルを身につけるようにしています。疑問があれば先輩ドゥーラや助産師に随時確認できる環境はあります。その他、本やウィメンズヘルスの研修などに参加して周産期の知識を得ています。

アロマセラピストがドゥーラになるために必要なことは、これは私自身がそうありたいという目標でもあるのですが、まずはトリートメント技術が優れていること、助産師レベルの周産期の解剖生理学の知識を習得していること、そして医療者でも家族でもない私たちが存在する意味を考えて行動できる、謙虚な聡明さだと思います。

Q6. 貴院のように、アロマセラピストのような既存の非医療職が産科ケアの現場に入っていくことについてどうお考えですか?現在の課題や今後の目標についてもお聞かせください。

安全で快適で満足できる出産体験となるように産婦を支援することがお産のケアに求められて久しい(厚生労働科学研究妊娠出産ガイドライン研究班, 2013)ですが、安全・快適の価値観は人それぞれで、最先端の医療設備を整えた大きな病院を理想的と考える方もいれば、自宅や大自然の中を理想と捉える方もいるでしょう。また医師、助産師、産婦、ドゥーラなどのお産に関わる職業の立場によっても、その判断は異なると感じています。

しかしながら、日本では99%の妊婦さんが病院やクリニックなどの医療施設で産むことを選択している事実を鑑みれば、医療施設がすべての産婦さんにとって「安全で快適な場所」となり、そこでの出産が「満足できる、いいお産」となればよいと思っています。また、医療者不足である現状も今後も大きく変わらないと考えられる中、トレーニングを受けたドゥーラが産科に入っていくことで医療者の負担を軽減し、妊婦さんと医療の間にあるギャップを埋めることができるドゥーラは、産科ケアの一端を担うヒューマンリソースになるのではないでしょうか。

そのためには、ドゥーラは医療や現場、科学的根拠を理解することによって医療者との共通の認識を備えて協働し、産婦さんだけでなく"助産師のドゥーラ"にもなるように心がけていくと、医療現場に良い循環作用が生まれてくると思います。

Q7. 貴院の院長先生や助産師さんなど医療者は、ドゥーラの存在についてどのように感じていますか?

◊前田産婦人科院長 前田太郎医師
ドゥーラは医療者ではないからこそ、一人の妊婦さんに専念して寄り添うことができます。妊娠中から接して、時間をかけて妊婦さんとの信頼関係を作り上げていくので、出産という緊迫した場面においても、医師や助産師に遠慮して伝えられない妊婦さんの心の内を引き出し、的確に対処することができています。分娩時に妊婦さん自身の気持ちが前向きになることは、医療スタッフにとってもプラスになる面が多く、ドゥーラは当院にとってとても頼もしい存在です。

◊前田産婦人科助産師 井澤佳奈さん
助産師として、陣痛中、一人の妊婦さんにずっと寄り添っていたい気持ちはあっても、実際のところ、雑多な業務に追われているのが現状です。時には、不安そうな顔をした妊婦さんに、「またすぐ来ますね」と声をかけながらも、「次はいつ戻って来られるだろうか」と心が痛くなるときもあります。そのようなときにドゥーラがいてくれると、安心して妊婦さんやご家族をお任せすることができます。

◊ 前田産婦人科助産師 酒井亜紀さん
ドゥーラは産婦さんだけでなく、私たち助産師にとっても心の支えになります。陣痛中の産婦さん一人ではナースコールのタイミングがわからなかったり、遠慮してしまったりすることもありますが、ドゥーラがいてくれると、産婦さんの顔色や声を感じ取って、適切なタイミングでナースコールをしてくれるので、助産師が一人で複数の産婦さんを見なくてはいけない時など、とても安心できます。また、当院では無痛分娩もおこなっていますが、無痛分娩の産婦さんは、「痛みがなくなる」という期待値がとても高いので、陣痛やいきみたい感覚(努責感)を少しでも感じてしまうと、「痛かった」という声に繋がりやすいのですが、アロマ分娩の方はもともと痛みよりも「安心感」を求めて申し込んでいるので、産後の満足度が高くなりやすいと思います。

考察
日本の出産場所の特徴をふまえて

日本の出産場所についての最新データ(厚生労働省, 2016, 下図)によると、99%の出産が医療施設で扱われています。出産の医療化は世界共通の傾向ですが、日本では、ほぼ半数である45%の出産が小規模な診療所(開業医、クリニック)で扱われていること、そして産婦と赤ちゃんの死亡率がとても低いことが、世界の多くの国々と比べて特徴的です。日本では小規模なクリニックであっても超音波装置などの医療機器が整備されていることなどが、小規模施設でも高度な医療ケアを受けながら安全に分娩することが可能である理由として考えられます(OECD, 2017)。

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図1.出生の場所(2016年の出産総数976,978件についての出生場所の内訳)

大規模な病院と比べ、特に私立の小規模なクリニックでは、組織的な判断が素早くできる特長があります。つまり、ドゥーラサポートのような新しい試みに対し、理解のあるリーダー(院長)がいれば、導入も実現しやすいと考えられます。日本で出産をする女性すべてにドゥーラ付き添いの選択肢を提供するためには、大規模な病院が着手すればもちろん大きなインパクトがありますが、小回りの利く個人院から出産ドゥーラを取り入れて実績を増やしていくこともまた日本で有効である可能性を前田産婦人科の例は示していると思います。そして、キーパーソンとなる人がいなくなるとドゥーラプログラムも立ち消えになってしまいやすいのが私立の病院ベース型ドゥーラプログラムの弱みですが(Morton et.al, 2014)、前田産婦人科では10年も継続していることは特筆すべきだと思います。

科学的根拠だけでは実現につながらない

今年2月、「肯定的な出産体験のための分娩期ケア(WHO, 2018)」というWHOのガイドラインが発表されました。全56項目の推奨事項から構成され、そのうち分娩期全期にわたるケアに関する4項目の3つ目は、『産婦本人が選んだ付き添い人が出産全期にわたって付き添うことが、すべての産婦に推奨される』と、ドゥーラサポートが広く推奨されています。そして興味深いことに、この項目の解説では「これについてWHOは過去にもいくつものガイドラインの中で推奨してきた。」「長年にわたる科学的根拠が存在し、私立の産院では常用的に応用されているにもかかわらず、このケアを実施することを躊躇する国々や施策決定者が多いことをガイドライン作成班は認識している。この介入を実施するためには、医療施設の様々なレベルで、実施にかかわる人々を動かすためのプラスアルファの努力が必要になる。」と述べられています。

つまり、「ドゥーラサポートを推奨すべき」ということは多くの研究が明らかに示していても、これだけでは実施には至りにくく、実際の産科現場において「様々なレベル」で「プラスアルファの努力」がおこなわれて初めて実現するという特徴がある、というのです。CRNの小林名誉所長がドゥーラの必要性を日本で提唱してから40年以上が経ち(小林, 1977)、ドゥーラ研究室(https://www.blog.crn.or.jp/lab/03/01/)でも多くのエビデンスを紹介してきました。しかし、そのような情報だけでは出産ドゥーラが日本で自然に普及・定着することは望めないということでしょう。そのような中、前田産婦人科の院長先生、助産師、アロマセラピスト、など様々なレベルの方々の継続的で柔軟な努力があれば、1000件の実績を積むほどの継続も可能だという事実は、日本における希望だと思います。

既存の非医療者の役割を拡大する試みを

出産ドゥーラという言葉を使うか使わないかにかかわらず、前田産婦人科でおこなわれているような出産付き添いのアロマセラピストの方々の実践は、まさに病院ベース型の出産ドゥーラであり、原田さんの出産ケアの哲学もまさに出産ドゥーラのものだと思いました。例えば、妊娠期から産後まで継続的にかかわること、出産中は1対1でずっと付き添うこと、会話・手を握る・抱きしめるなどアロマセラピー以外のケア行動を積極的におこなっていること、夫が効果的に付き添えるようにコツを伝えたりして産婦だけでなく家族もケアの対象としていること、オンコールの難しさから、実際に付き添えない時間にもドゥーラのケアを産婦が感じられるような工夫をしていること、周産期ケアの知識を身に付けようとする姿勢、黒子として医療チームが円滑に機能するように配慮しながら働くことなど、すべてドゥーラの実践です。

ただ、前田産婦人科では、「出産ドゥーラ」という新しい職業名を使わず、「アロマセラピスト」という非医療職の中でも日本の社会でよりなじみのある職業として産科に入り、出産ドゥーラの役割を自然に追加しました。このことも、出産ドゥーラ導入をスムーズにした要因かもしれません。アロマセラピスト以外にどんな職業があるでしょうか?欧米では両親学級を専門に行うチャイルドバース・エデュケーターという職業が、ドゥーラに近い職業として典型的ですが、日本ではこの職業も普及していません。しかし、日本でも、例えば鍼灸師、マッサージセラピスト、カウンセラー、看護助手などの職業も、出産ドゥーラを担うことができるかもしれません。また、完全に医療現場側のスタッフになりきっていない看護学生や助産学生がドゥーラの役割を担うアイディアとも共通します(Jordan et.al, 2008; Paterno et.al, 2012)。医療者ではないからこそ産む女性に寄り添うことができるという強みがあります。

また、病院ベース型のドゥーラは、自営業型などの他のタイプのドゥーラサービスに比べると産婦さんの費用の負担が少なくて済むことが多く、ドゥーラにとっても雇用が安定するという長所があります。産婦さんがドゥーラについて調べたり探したりしなくても産院から提案してもらえる良さもあります。その反面、ドゥーラが「病院側」のルールや価値観を優先し産婦の味方になり切れないためか、結果としてドゥーラ効果が弱まる可能性が指摘されています(Bohren, et.al, 2017)。しかし、原田さんたちはそうならず、あくまで産婦に寄り添い医療者との仲介役となることを目指している点は特に素晴らしいと思います。

ドゥーラに資格や社会的地位があればあるほど、あるいは、長期で高度なトレーニングを積めば積むほど産婦への効果が増す、というエビデンスはありません。これまでの研究からは、ある程度の事前トレーニングは必要そうだが、その先はむしろ逆かもしれないと示唆されているほどです。一方、ドゥーラの専門性の有無やレベルが職種間連携に与える効果についてはエビデンスがほとんどありません。前田産婦人科の事例は、ドゥーラにアロマセラピストとしての専門的な知識やスキルがあることで、職業的アイデンティティの確立や医療者からの尊敬や信頼につながり、その結果として自立したドゥーラ実践が可能になっているように見えました。ドゥーラの専門性について、doing(何ができるか)やknowing(知識)というより、ドゥーラのbeing(あり方、原田さんの言葉をお借りすれば「謙虚な聡明さ」のような態度)に着目した研究は国際的にも今後期待されています。

まとめ

前田産婦人科のような先駆的で地道なモデルを参考に、日本で今後、大小さまざまな規模の産科施設で病院ベース型ドゥーラの付き添いサービスが自由に柔軟に取り入れられていくことを願っています。それは、ケアを受ける妊産婦さんや家族へのサービスを向上させるだけではなく、医療者も含めた皆が恩恵を受ける結果につながるはずです。


執筆協力:界外亜由美


【プロフィール】

前田産婦人科
昭和55年に湘南の地平塚市に開業して以来、地域に根ざした産婦人科専門医院として、優しさ、親しみやすさ、奉仕の精神で、産婦人科医療を提供しています。自然分娩、麻酔科医による無痛分娩、アロマ分娩など、多様化する妊婦さんのニーズにお応えして、快適で楽しいマタニティライフをスタッフ一丸となって全力でサポートしていきます。
アロマセラピスト/ドゥーラ:古尾谷佐江子、佐藤一美、ジョーンズ歩、吉村美紀、宮崎真由美、斉藤由香里、小林真樹、藤田真古、今井章子、原田香
住所:神奈川県平塚市松風町13-37
ホームページ:http://www.dr-maeda.co.jp/

原田香(回答者)
lab_03_44_04.jpg (前田産婦人科アロマセラピスト、マタニティセラピストスクール主宰)
イギリスにてITECの国際資格を取得。St.Mary's University (London)などで2年間、代替補完療法を学びました。イギリスと日本のサロン・スパ、そして産婦人科・緩和病院などで臨床を積み重ね、病院内のメディカルサロンの立ち上げ、自然派コスメLUSHやパークハイアット東京のスパなどにおけるマタニティトリートメント導入にも携わっています。妊産婦ケアに代替補完療法を取り入れた統合医療を目指しています。

*アロマ分娩に関するお問い合わせは、前田産婦人科 原田さんへご連絡ください。


    参考文献
  • Bohren, M.A., Hofmeyr, G.J., Sakala, C., Fukuzawa, R.K., Cuthbert, A. (2017). Continuous support for women during childbirth, Cochrane Database Systematic Review, 7, CD003766, DOI: 10.1002/14651858.CD003766.pub6.
  • Elizabeth T Jordan, E.T., Van Zandt, S.E., Wright, E.D. (2008). Doula care: Nursing students gain additional skills to define their professional practice. Journal of professional nursing, 24(2):118-21.
  • 原田香,吉村美紀,佐藤一美.(2015).産婦人科領域でのアロマセラピストの可能性 : 分娩時の和痛トリートメントとその効果.Aromatopia: the journal of aromatherapy & natural medicine, 24(6), 55-59.
  • 厚生労働科学研究妊娠出産ガイドライン研究班(編). (2013). 科学的根拠に基づく 快適で安全な妊娠出産のためのガイドライン. 金原出版.
  • 厚生労働省.(2016).平成28年度人口動態調査上巻 出生.第4.8表 市部-郡部・出生の場所別にみた年次別出生数百分率.https://www.e-stat.go.jp/
  • 小林登.(1977).ドゥーラとしての小児科医.小児科診療,40,1188.
  • Morton, C.H., Clift, E.G. (2014). Birth ambassadors: Doulas and the re-emergence of woman-supported birth America. Praeclarus Press. Texas, USA.
  • OECD. (2017). OECD data: Japan. http://data.oecd.org/japan.htm
  • Paterno, M.T, Van Zandt, S.E., Murphy, J., Jordan, E.T. (2012). Evaluation of a student-nurse doula program: An analysis of doula interventions and their impact on labor analgesia and cesarean birth. Journal of midwifery & women's health 57(1):28-34.
  • World Health Organization (2018). WHO recommendations: intrapartum care for a positive childbirth experience. Geneva: World Health Organization; Licence: CC BY-NC-SA 3.0 IGO.
筆者プロフィール
kishi_prof.jpg 福澤(岸) 利江子

筑波大学医学医療系 助教。助産師、国際ラクテーションコンサルタント。 ドゥーラに興味をもち、2003-2009年にイリノイ大学シカゴ校看護学部博士課程に留学、卒業。 2005年よりチャイルド・リサーチ・ネット「ドゥーラ研究室」運営。
kaige_ayumi.jpg 界外亜由美

mugichocolate株式会社 代表取締役/クリエイティブディレクター・コピーライター。広告制作会社勤務後、フリーランスのクリエイターを経て起業。ドゥーラと妊産婦さんの出会いの場「Doula CAFE」など、数々のドゥーラの支援活動も行っている。
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