はじめに
この記事は、10年以上前(ドゥーラ LABO編の連載の終了後)に取り組んだ未出版論文の部分訳に加筆したものです。ドゥーラサポートは、周産期にある女性とその家族のための非医療的・継続的な支援であり、産婦の個々のニーズに応じて情緒的、身体的、社会的、情報的、擁護的、実質的な側面が統合された支援として提供されます。そして、それぞれの側面について、そのような支援が必要になった社会的背景があります。この記事では、ドゥーラサポートを構成する要素や背景について、海外の論文を系統的に調べた結果や考察を詳しく紹介します。さらに、ドゥーラの必要性の裏付けとなる社会的背景やドゥーラサポートと効果のメカニズムについても理論モデルの仮説を提示します。
文献検討の方法
2007年1月にCINAHL(看護系)、MEDLINE(医学系)、PsycINFO(心理系)の他、OCLC Article First(全分野)やCochrane Library(医療保健分野全般)の論文データベースを使って「ドゥーラ」という言葉がタイトルやキーワードに含まれる文献を検索したところ134件が見つかりました。執筆当時から過去10年間(1997-2006年)に英語で書かれたものに絞り、重複、エッセイや書評、匿名のものは省きました。研究論文はそのデザインにかかわらず、症例報告や質的研究、メタアナリシスなども含めました。その結果得られた38文献を分析しました。
「ソーシャルサポート」や「付き添い者」などのキーワードも含めればもっと多くの論文が得られた可能性がありましたが、今回は「ドゥーラ」の構成要素に限定して知りたかったため敢えて含めませんでした。また、2018年現在、再度検索すればより最近の現象を反映した別の文献が得られ、この記事に示す結果とは差が生じる可能性があることをご承知おきください。
得られた文献を下記のように分析しました。各文献内で「ドゥーラ」について定義している部分を特定した上で、①ドゥーラは何をするか(what)、②ドゥーラを特徴づける言葉、形容詞(how)、③サポートを提供する時期(when)、④誰がドゥーラになれるか(who)について抜粋し、パーセンテージで示しました。また、ドゥーラサポートの理論モデル、ドゥーラの定義でよく引用される第一人者や、ドゥーラが必要とされた社会的背景(why)についても抽出しました。
結果
用いられた文献の特徴得られた38論文は、計20件の研究(3件のランダム化比較試験[RCT]、5件の準ランダム化試験、5件の質的研究、2件の質問紙調査と症例報告、3件のメタアナリシス)と、18件の非研究文献(6件のプロジェクトレポート、12件の総説記事)から成りました。研究が行われた場所は38件中25件が米国、2件がメキシコ、ブラジル、中国、ポーランドが1件ずつ、他の8件は複数国をまたぎました。米国の25件のうち11件は社会的ハイリスク集団(移民、マイノリティ人種、若年、刑務所内、産後うつ、合併症妊娠、被災地など)を対象にしていました。査読のある雑誌に掲載された論文が27件、コクランレビューが2件、本の章が2件であり、論文のクオリティは全体的に良質と考えられました。平均22件の文献が各論文内に引用されていました。
ドゥーラが必要になった社会的背景ドゥーラが必要になった背景として、「出産の医療化(38文献中20件、53%)」と「慣れない病院での孤独(陣痛室で付き添いがいないことだけでなく、初対面のスタッフ、医療機器、専門用語なども含む)(同15件、39%)」がもっとも多く挙げられました。他には、無痛分娩の使用(出産への恐怖心の存在や、産痛緩和法など出産への気構え・準備不足傾向の可能性)、スタッフ不足(医療制度の悪化)、パートナー立ち会いの増加(パートナー自身も妊娠・出産に不慣れ・不安であり、立ち会っても産婦を導く役割は担えない)、医療テクノロジーの進歩(分娩の進行具合の監視が機器で代替できるようになると医療者が産婦に実際に付き添う必要性が低くなる、医学的な専門用語の複雑化など)、女性が主張できないこと(社会における女性や子どもの地位が低いこと、赤ちゃんが無事に産まれれば女性自身の希望やニーズは贅沢やわがままであるとみなされがちであること、医療制度の中で患者の立場が弱いこと、忙しいスタッフへの遠慮など)、移民の増加(言葉や文化の壁が加わること)、妊産婦の背景の多様化(文化的・社会的背景に配慮した個別的なケアが特に求められる)、被災(緊急性や心のケアへのニーズが増す)などがありました。これらの要因は特に国によらず共通の要因でした。
ドゥーラサポートに対するニーズ上記の要因により、ドゥーラサポートのニーズは「情緒的」「身体的」「情報的」「社会的」「擁護的」なものに分けられました。表1にそれぞれの内容を示します。
表1.ドゥーラサポートのニーズ情緒的なニーズ | 不安、満足できる出産体験をしたい、安心したい、守られたい、自己コントロールしたい、パートナーも安心感を得たい、うつ予防・対処、自尊心を保ちたい |
身体的なニーズ | 医療介入の少ない自然な出産をしたい、痛みを緩和したい、母乳育児をしたい |
情報的・認知的なニーズ | 出産の進行状況を理解したい、母親になる準備をしたい |
社会的(人間関係的)なニーズ | 助けてくれる人が身近にいない、言葉の壁がある、医療を受けるアクセスが限られている、若い、プライバシーに配慮してほしい |
擁護的なニーズ(アドボカシー) | 文化を尊重してほしい、健康格差の問題(社会的な立場が弱いなど) |
「情緒的(38文献中76%)」「身体的(同55%)」「情報・認知的(同52%)」「社会的(人間関係的)(同24%)」「擁護的(同21%)」「指導的(同13%)」「その他、特別なテクニックなど」に分けられました。表2にそれぞれの内容を示します。また、図1は、ドゥーラサポートの社会的背景、ニーズ、要素をまとめて示しました。
表2.ドゥーラサポートの内容(キーワード抽出)情緒的支援 | 励ます、大丈夫だよと請け合う、褒める、敬意を持って接する、優しい言葉づかい、相手を理解する・感情を表現させる・相手の態度や行動をありのまま受け入れる、共感・同調・慈しむ、お産の振り返り・お産の記憶を消化する、相手のがんばりに気付き認める、落ち着かせる、傾聴する、気持ちよくさせる、愛する、注意を払う・注目する、カウンセリング、アイコンタクト、その他 |
身体的支援 | 非薬理学的な快適手段(産痛緩和)、マッサージ、体位の工夫、体位変換を助ける、タッチ、温冷罨法、手を握る、飲みもの・食べものをすすめる、身体的な接触、水圧などを利用した安楽法シャワー・お風呂、バースボール、指圧・ツボ・圧迫、着替えやシーツ交換、トイレや排泄の介助 |
情報的・認知的支援 | 情報提供、認知的支援、出産経過の説明、質問に答える、授乳方法についての情報提供・相談、医療用語の説明、専門的な言葉を使わない、家族計画についての情報提供・相談 |
社会的(人間関係的)支援 | 社会的支援、出産に立ち会う、母親・家族・医療スタッフ間のコミュニケーションを促すor手助けする、交流・会話、チームを作る、通訳、母子の絆づくり・新生児との初めての接触を助ける、地域のサービスを紹介する、静かな環境づくり、妊婦健診につきそう・一緒に住む、家庭訪問・刑務所訪問 |
擁護的支援 | 擁護(アドボカシー)、本人のニーズや希望を理解する、意思決定のプロセスを助ける、社会的ハイリスク集団(DV被害者、刑務所にいる女性、性的虐待被害者、薬物依存患者)の支援、相手の信条・信念を尊重する、相手の文化を尊重する、秘密を守る |
指導的支援 | 指導的支援、出産が進みやすいように手助けする、授乳支援、出産準備・バースプランを手伝う、アドバイス、分娩時の呼吸法・いきみ方、変化に適応するための指導、育児及び親になる準備を助ける、その他 |
その他特別なテクニックなど | リラクゼーション、音楽、イメジェリー法・イメージづくりを助ける、アロマセラピー、写真を撮る、その他(家事、感染予防策、ホメオパシー、お花を飾る、医療通訳サービス、女性の好きなものを用意する、実質的サポート、膝の圧迫法、スクワット、歩行介助) |

ドゥーラの特徴
ドゥーラの特徴を表す最も多く見られた形容詞は「継続的(continuous)(38文献中87%)」「女性(female)(同68%)」「経験豊かな(experienced)(同42%)」の3つでした(表3参照)。「個別的(individualized)・1対1」「いつでもそこにいる(available)」「人間性豊かな(humanistic)」「人間関係に基づく(relationship-based)」「出産を人生経験の鍵と認識する」「良く知っている(knowledgeable)」「慈しむ(nurturing)」という形容詞もドゥーラを特徴づけていました。
「女性に仕える(women's servant)」「母親の母親(mothering the mother)」という初期のラファエルやクラウスらによる定義で使われた言葉は近年でも使われていました(Raphael, 1973; Klaus et al., 2012)。ドゥーラが提供するものを言い表す言葉としては「支援(support)(38文献中63%)」「付き添い(accompany)(同34%)」「補助(assistance)」「ケア(care)」「助け(help)」がよくみられました。
38件中24件(38文献中63%)の文献でドゥーラは「訓練を受けている(trained)」と形容されました。また、5件(38文献中13%)で「ドゥーラは有償で働く/雇われる」という記述がありました。ドゥーラが実際に「非専門家(lay/unprofessional)」であるか「プロ(professional)」であるかその中間(paraprofessional)であるかの見解は様々でした。非医療者(non-medical)としての位置づけは典型的で、それを形づけるものはドゥーラの行為、認知機能(意思決定など)、自律性(責任など)、専門的なトレーニングの有無などが挙げられました。
表3.ドゥーラを特徴づける形容詞初期の定義に使われた言葉 | 女性、経験豊か、仕える人・奴隷、母親の母親(mothering the mother) |
その他、ドゥーラを特徴づける言葉 | 継続的、個別的/1対1、いつでも利用可能、陣痛を乗り切れるように助ける、出産を人生経験の鍵と認識する、知識豊か、人間性豊か、慈しむ、人間関係に基づく、医療者や家族の代わりではない、文化的な架け橋、夢と現実の架け橋、あり方、温かい、オープン、フレンドリー、客観的、家族を中心とした、エンパワー、病院環境に慣れている |
提供するサービスのタイプ | 出産支援(labor support)、付き添い、補助、ケア、助け、ガイド、立ち会い、安心、コーチ |
専門家としての位置づけ | トレーニングを受けた、一般人/非専門職、有償で働く/雇用される、専門職、専門職の助手 |
医療現場における役割 | 医療行為はしない、医療的な意思決定はしない、医療的な責任は負わない、医療者としてのトレーニングは受けていない |
周産期にある妊産婦はすべての文献でドゥーラサポートの受け手として挙げられましたが、妊産婦のパートナーも支援の対象とされていました。他にも家族、友人、妊産婦の支援システムに含まれるすべての人を対象とするという考えもありました。
ドゥーラサポートのタイミング出産時が最も多く、次いで産後(特に産褥早期)、そして妊娠期、育児期を含む文献もありました。
ドゥーラになる人とは非専門職としてのドゥーラについては、妊産婦の友人、家族(男性である夫・パートナーも含む)、出産経験のある人、が挙げられました。病院のスタッフ以外と限定する文献もありました。誰でも(anyone)ドゥーラになりうる、という記述もありました。
一方で、ドゥーラ役割を担う人として医療者に期待する文献もありました。助産学生、看護師、看護学生、ドゥーラ組織によって認定された人などが、ドゥーラと呼ばれうる人として挙げられました。
ドゥーラサポートのモデル社会的ハイリスク集団(マイノリティ人種、若年、移民など)を対象に、対象集団と同じ社会的背景をもつドゥーラが支援を提供するコミュニティベース・ドゥーラ・モデルが4文献で使われていました。また、病院ベースのドゥーラモデルについては、産院の医療スタッフとドゥーラの多職種連携が強調されることが特徴的でした。他、実際の社会では自営業型のドゥーラ(プライベート・ドゥーラ・モデル)が多く活躍しています。
今回含まれた文献の中で、「米国モデル」vs.「ホフマイヤー(Hofmeyer)モデル」という新たな分け方がダンデックやシェルプにより示されていました(Dundek, 2006; Shelp, 2004)。米国モデルはより包括的で、情緒的支援だけでなく身体的支援やガイダンスやコミュニケーション促進やアドボカシーも含みます。一方、ホフマイヤー(注:初期のドゥーラの産後うつへの効果に注目したRCT研究をおこない影響を与えた南アフリカの精神科医)のモデルは情緒的支援のみ(主に、慰安、褒めること、大丈夫ですよと請け合うこと)を強調している、というものです。この区分に従うと、多くの文献は米国モデルにあてはまりました。 ドゥーラ分野の主要な専門家これまでドゥーラ研究室の中でも多く紹介されてきた、ダナ・ラファエル、マーシャル・クラウスとジョン・ケネル、ペニー・シムキン、エレン・ホーネットなどによる文献や言葉が多く引用され、ドゥーラの組織としてはDONA Internationalが出産ドゥーラと産後ドゥーラの代表的な養成機関として最も頻繁に挙げられました。
参考までに、主な専門家によるドゥーラの定義を表4に示します。
表4.ドゥーラ分野の主要な専門家による「ドゥーラ」の定義ダナ・ラファエル | 「ギリシア語で「奴隷」を意味し、出産したばかりの家庭で、食事や他の子どもたちの面倒をみたり、赤ちゃんの世話をしたりする女性を指す」 *1 |
マーシャル・クラウス&ジョン・ケネル | 「ギリシア語で「女性のケア提供者」という意味で、女性とその夫・パートナーに出産の間はずっと(その後も適宜)、情緒的・身体的支援を提供する、経験豊かな出産の付き添い者」 *2 |
ペニー・シムキン | 「情緒的支援、身体的な安寧、非臨床的なアドバイスの提供について養成され経験を積んでおり、女性とパートナーにガイドと支援を出産中を通して継続的に提供する」 *3 |
エレン・ホーネット | 「出産中の支援について特別なトレーニングを受けた女性で、ギリシア語で『女中』を意味し、出産付添者、出産支援スペシャリスト、出産補助者ともいわれる」 *4 |
DONA International(国際北米ドゥーラ協会) | 「母親ができる限りもっとも健康で満足のいく経験ができるよう手助けするために、妊娠中、出産中、産後すぐの時期に継続的な身体的・情緒的・情報的支援を提供する、トレーニングを受けた専門職」 *5 |
考察
情緒的支援を核とした多側面の相互関連ドゥーラサポートのニーズも内容も「情緒的」「身体的」「社会的」「情報的」などに区分されましたが、これらは密接にかかわりあっています。たとえばアイコンタクトをひとつとっても、「大丈夫ですよ」という情緒的支援にも、「聞いていますよ」とコミュニケーションを促す手段にも、「話してみるべき」という指示にも、「あなたの味方です」という擁護的なメッセージにもなります。
特に、情緒的支援のニーズや内容は、身体的支援や情報提供などの他の側面に比べて最も多様な言葉で表現され、他の側面にも広く関連しているようでした。さらに、ホフマイヤーモデルは情緒的支援のみで成り立つなど、やはり情緒的支援はドゥーラサポートの最も中心的なものだと考えられます。
「指導的」「擁護的」支援の要素は実践現場にどうフィットするか今回のカテゴリーを作る上で「指導的(instructive)支援」(例:アドバイス、提案、出産や育児の準備を助ける)の位置づけについて、情報的支援のカテゴリーと合体させるべきかどうか迷いました。実際には、指導的な支援は、育児を手伝ったり一緒に考えたりなど情報提供以外の側面にも及びます。また、「アドボカシー(擁護的支援」については独立させる考え方も、他の側面の中に含むという考え方もあり、これについても迷いました。
これはドゥーラの実践現場での立場について「非専門家」vs.「専門家を目指す」という対立にもかかわるセンシティブな問題でもあるようです。例えば最近のDONA Internationalの倫理指針の中では、ドゥーラは妊産婦に対して「ドゥーラの役割範囲内で何かを提案したり情報提供を行う場合であっても、適用前にかかりつけの医療者に確認することを条件にしつつ勧めなければならない」と推奨しています(DONA, 2016)。また、ドゥーラがおこなうアドボカシー役割についても、「(アドボカシーとは)ドゥーラが妊産婦の代わりに主張したり、妊産婦のために意思決定することではなく、『支援』『情報』『仲介』あるいは『交渉』という言葉が最もよく言い表している」と記述されているように(DONA, 2016)、ドゥーラは専門家に対して決してでしゃばることのないようにとても慎重な姿勢を表明しています。
専門家ではないドゥーラが、不適切なアドバイスをして妊産婦に悪影響を及ぼしたり担当医などの専門家の邪魔をすることは避けなければいけません。しかし、ある程度のアドバイスや提案(と受け止められうるような会話)、産婦と医療者のコミュニケーションを直接的に促進することは、妊産婦にかかわる上で避けられない自然な支援行為ではないでしょうか。ドゥーラサポートの指導的・擁護的ニーズと支援内容の要素を現場でどのように位置づけるかは、今後も慎重な検討が必要といえます。
「経験ある」女性の「経験」とは初期の定義以来、ドゥーラは「経験豊かな女性」と形容されてきましたが、その「経験」が何を指すのかは今回の分析でも決定付けることはできませんでした。ドゥーラの特徴の記述に「経験豊か(experienced)」という形容詞を用いた16文献中、その経験の内容を「出産経験」を指したものが6文献、「他の女性を支援する経験」を指したものが3文献、経験の内容を特定しない文献が7件でした。実際に介入研究だけを見ると、研究のためにドゥーラを養成した際に、「出産経験をもつ女性」と条件を特定したものは見当たらず、「他の女性を支援する経験をもつ」ことが条件とされていました。このことから、自身の出産経験はドゥーラにとって必須ではなく、他の女性を支援する経験の方が実際的に勝る傾向が見られました。また、経験の内容を特定しない文献も多かったことから、「出産経験」と「支援経験」の2種類にとらわれない、「人生経験」など人間性の成熟(三砂, 2014)に必要な経験などを広く指す可能性も考えられます。
ドゥーラサポートのメカニズム(仮説)ドゥーラサポートは主に出産中に陣痛に対処するために提供され、その効果はとても多様で、強力で、長期にわたることが過去の研究で明らかになっています(Bohren et al., 2017, およびドゥーラ研究室LABO編)。しかし、そのメカニズムはまだ解明されていません。図2および図3は、今回の文献検討をもとに考えられた、ドゥーラサポートがない場合とドゥーラサポートがある場合のメカニズムの(あくまで)仮説です。図3のオレンジ色の部分がドゥーラサポートの要素です。ドゥーラサポートがない場合にはある場合と比較して、メカニズムが悪循環に陥いる可能性があり、反対にドゥーラサポートがある場合には良い循環が生まれやすいと考えます。
ドゥーラサポートのメカニズムについては、レベッカ・デッカー氏の概念モデルも提案されています(http://evidencebasedbirth.com/the-evidence-for-doulas/のconceptual model for continuous labor supportを参照)。

結論
今回の文献検討により、ドゥーラサポートの6つの側面(情緒的、身体的、情報的、社会的、擁護的、指導的)と、ドゥーラサポートが必要になった社会的背景が明らかになりました。ドゥーラサポートは昔から世界中で存在しますが、その構成要素や社会的背景も多くが世界共通であることもわかりました。
図4はまとめの図として使っているものです。ドゥーラサポートの側面(4-1)、必要性(4-2)、サポートの構成要素(4-3)を対応させて表現しています。ドゥーラサポートは1対1の継続的な人間関係をベースとした支援であるため、社会的側面は全体をカバーするように置いています。情緒的側面(心)はドゥーラサポートの核として中心に置き、他の側面と部分的に重ねることで相互に関連する様子を表現しました。「指導的」側面は近年の動向を鑑みて前面に出すことを控えました。一方、擁護的側面(アドボカシー)は、ドゥーラになる女性の多くに「社会を良くしたい」という動機があること、社会的に不利な立場に置かれた女性ほどドゥーラの効果が高いというエビデンスがあること(Zhang et al., 1996)、現代の社会や医療制度において健康格差や社会的弱者アドボカシーの問題が大きいことから、重要な領域として独立させました。ニーズ(ドゥーラが必要となった背景)については、女性・子どもの優先度が低いこと(WEF, 2017)や少子高齢化社会で親になる世代が育児に不慣れであることなど、日本の特徴を加味しています。
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現在でも、ドゥーラサポートの各要素の関連具合やメカニズムは仮説にとどまり、ドゥーラの効果を最適化する方法(例:支援のタイミング、各要素の比重、ドゥーラ養成の最適な方法について)も、科学的なエビデンスが得られていないままです。ただ、この10年ほど、ホルモン生理学(オキシトシンやカテコラミンなどの作用機序)に基づく出産のメカニズムの研究などが急速に進んでいます。ドゥーラサポートのメカニズムは、関連分野の科学の進歩に伴い、徐々に解明されていくかもしれません。今年初めにはWHOがコクランレビューなどの科学的なエビデンスを根拠として出産ケアの新たなガイドラインを発表し、その中でドゥーラサポート(産婦本人が選んだ支援者による継続的な付き添い)が強く推奨されるなど(WHO, 2018)、今後もこの分野の研究が深まる可能性が期待されます。今後の科学の進歩を注視していきたいと思います。
謝辞今回の記事について共有のリクエストをしてくださり、表の一部翻訳をおこなってくださった赤星由美子さんをはじめ、日本の産後ドゥーラの方々に御礼申し上げます。
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- *5:DONA International. What is a doula. https://www.dona.org/what-is-a-doula/ (2018.3.30アクセス)
(用いられた38文献には*を付記しています。)
表4.定義の引用文献: