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【ドゥーラ LABO編】新型コロナウイルスの流行と出産付き添い

福澤(岸)利江子 (筑波大学医学医療系 助教)

2020年5月22日掲載

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界中で流行し、妊娠中の女性は特に心配が募っていると思います。厚生労働省や日本産科婦人科学会は「妊産婦の皆様へ」という文書の中で、妊娠中だから感染しやすかったり重症化しやすいわけではないことと共に、COVID-19感染予防対策として、妊婦健診が減ったり出産中の付き添いが禁止される可能性についても触れています(日本産科婦人科学会, 2020)。健診を減らし出産付き添いを制限することで感染率や重症化が予防できるという科学的根拠は特になく、これらの方針はむしろ、医療施設の人手不足や院内感染への恐れによるものです(Dekker, 2020)。限られた医療資源を上手に使い、特に、人々の命を救う役割を担う医療者を保護するのは、社会の人々を守るためだという共通理解がとても重要です。

新型コロナウイルス流行のために生じる状況により、現場の出産ケアが大きく変化することが考えられます。例えば、平時だったらそばにいて腰をさすったり手を握ったりしてくれる助産師などの医療者が、今回の感染予防対策のために患者とのかかわりを必要最小限に抑えなければいけなかったり、業務増大や人手不足のために産婦さんのそばにいられる時間がさらに減ってしまうことは十分にあるでしょう。初産婦さんの場合は初めての出産でわからないことが多く、不安がもともと大きいものですが、経産婦さんであっても、前回の出産と異なる状況に戸惑いや不安が増すこともあるかもしれません。不安は出産を進行させるホルモンに大きく影響を与えます。

心配なのは、これまで夫などの出産中の付き添いが許可されていた場で、COVID-19を心配して陣痛室や分娩室への入室・付き添いを禁止するということは、エビデンスに基づいて考えると、コクランレビュー*(Bohren et al, 2017)で示されたような下記の効果の裏返しが起こる可能性があります(Dekker, 2020)。つまり、これまでの研究から下記のことがわかっていますが

17か国の研究対象者15,858名を含む計27件の無作為化比較試験をまとめたレビュー(メタアナリシス)の結果
出産中に継続的な付き添い支援を受けた女性は、受けない場合と比べて:
  • 自然な経腟分娩が8%増える
  • 出産体験への不満足が31%減る
  • 出産中の鎮痛剤使用が10%減る
  • 分娩時間が平均41分短くなる
  • 帝王切開率が25%減る
  • 吸引分娩・鉗子分娩が10%減る
  • 部分麻酔の使用が7%減る
  • 産まれた赤ちゃんのアプガースコア**低値が38%減る

Bohren, M.A., Hofmeyr, G.J., Sakala, C., Fukuzawa, R.K., Cuthbert, A. Continuous support for women during childbirth. Cochrane Database of Systematic Reviews 2017(7)

これは裏返せば、継続的な付き添いが受けられない出産では、上記の良い面が失われる可能性があるということです。具体的には、自然な経膣分娩が減る、出産体験への不満が増える、鎮痛剤の使用が増える、分娩時間が長くなる、帝王切開や吸引・鉗子分娩が増える、部分麻酔の使用が増える、赤ちゃんの出生直後のアプガースコア低値が増える可能性があります。これらのアウトカム以外にも、出産付き添いの効果には、産後うつの減少、陣痛促進剤使用の減少、母乳育児の増加など様々なものが知られていますので、出産付き添いを中止すれば、それらのアウトカムにも影響を及ぼす可能性があります。よって、出産中の付き添いを禁止する際には、上記の弊害の可能性についてもできる限りの対策を行うことが重要だと思います。

世界のこのようなパンデミックの状況の中で、妊産婦を守り、出産付き添いの効果を保つためにどんなことができるでしょうか? 近年の国際的な考え方として、出産の付き添いは、ぜいたく品ではなく、人権ともいえる必需品です(WHO, 2018)。この原則は新型コロナウイルス流行時も変わりません。WHOは先月、妊産婦に向けたCOVID-19に関するQ&Aコーナーで、「COVID-19陽性や陽性疑いを含むすべての妊産婦が、妊娠中、出産中、産後に良質なケアを受ける権利がある」と表明しています。妊娠期、分娩期、産後、新生児期のケア、そして心の健康を守るケアです。産婦本人が選んだ人による付き添いを推奨することも明記されています(WHO, 2020)。英国産婦人科学会では、COVID-19感染予防対策下の産婦への付き添いについて、無症状の付き添い者1名による出産付き添いを推奨し、付き添い方について具体的なガイドライン(https://www.rcog.org.uk/en/guidelines-research-services/guidelines/coronavirus-pregnancy/)を発表しています。米国の疾病予防管理センター(CDC)は、産婦にエモーショナルサポートをおこなう出産付き添い者は必須の支援者だとして、1名は入室を許可すること、さらに、それ以外の人ともビデオ通話などで交流できるような仕組みを推奨しています(CDC, 2020)。これらの指針に共通するのは、「出産付き添い者は単なる面会者や訪問者ではなく、支援チームの必須メンバーである」という考え方です。

ビデオ通話による遠隔の出産付き添いについては、実際に海外では、「リモート・ドゥーラ」「ヴァーチャル・ドゥーラ」「デジタル・ドゥーラ」という言葉が生まれ、急速に発達・普及しています。実際にそばにいることはできなくても、遠隔からインターネットや電話を使ってスマートフォンやタブレットなどを介して産婦さんを見守る方法です。ドゥーラとして働く人に限らず、夫・パートナー、友人など、産婦が選んだ付き添い者すべてが使える方法です。ドゥーラの支援は身体的支援(タッチ、腰をさする、体位を支えるなど)だけではありません。安心感を与えるための情緒的な支援(励ます、見守る、聴く、褒めるなど)、産婦と赤ちゃんの人権を守るためのアドボカシー(意思決定を支える、味方になる)、情報提供(医療用語などをわかりやすく説明する、医療者や家族とのコミュニケーションを助ける)なども重要な役割です(Bohren et al, 2019)。

もちろん遠隔でおこなうケアには限界があります。たとえば、出産は本来、知性や言葉でするものではなく脳の原始的な部分を使っておこなうものなので、大脳新皮質を使った知的な活動はできるだけ抑えたいものです(Simkin, 2020)。安産のためには産婦さんは、スマホよりもお産に集中する必要があります。動画だけ・音声だけでは、十分な言語表現なしには状況や気持ちが十分に理解できない・伝わりにくいなど、産婦とドゥーラの両方にとっての難しさがあります。出産は何時間、何十時間にもわたる長いプロセスなので、オンラインでサポートを受けるタイミングの難しさもあります。そのため、遠隔ドゥーラサポートでは、とにかく産婦のニーズ、ペース、タイミングに合わせた支援が最も大事になります。

ですから、既に実施している施設もおありと思いますが、日本の出産施設においても、新型コロナウイルスの感染対策のために面会制限をおこなう場合には、上記で紹介した負の効果の可能性を最低限にするために、例えば産婦が望む付き添い者と出産中も遠隔で自由に会話しやすいようにインフラを工夫する(プライバシーを保ちつつ、大きな画面に相手を映せるようにする、あるいはスマートフォンやタブレットをハンズオフで使いやすい設備を備える、安定したインターネット環境)、付き添い者がいなくてもおこなえるような産痛緩和・リラックス法を充実させる(バースボール、クッション、温罨法、音楽、アロマなどを備えるか持参を促す)など、できるだけの工夫をし産婦に配慮することが大切だと思います。これらを行わない場合と比べると、安産にも出産満足度にも大きな効果が得られ、ひいては支援者の満足感ややりがいにもつながると思います。

新型コロナウイルスの大流行を今回乗り切ったとしても、後に再燃したり、別の新たな感染症が今後流行する可能性は否定できません。これから生まれる世代ができるだけ健康な免疫機能を備えるように努力することは、目の前の感染対策に精一杯取り組むことと同じくらい重要な、産科関係者の役割です。近年の研究により、経膣分娩や、出産直後に母子が肌と肌を合わせて触れ合うこと(早期母子接触)、そして母乳育児によって、母親から新生児へ良性の菌が受け渡されることが、赤ちゃんの免疫機能の発達にとても重要な役割を果たすことが海外で注目されています(Quin & Gibson, 2020)。実際に今回の新型コロナウイルスの流行を受けて、海外では、産後の早期退院だけでなく、病院外での出産や、母乳のみで赤ちゃんを育てることへの関心が高まっているそうです。これからの産科・新生児医療には、母児の救命と感染対策という課題に加え、赤ちゃんの免疫機能を高めるために自然出産や母乳育児を尊重するという、一見両極端な目標をバランスよく両立することが、一層求められていくのかもしれません。

今回の新型コロナウイルスの流行により、日本の社会では在宅勤務やテレワークなど、「働き方改革」が図らずも強制的に進行しています。ドゥーラの普及は、新職種であるドゥーラが病院内に立ち入ることが難しいということがこれまで障壁になっていましたが、今回の危機は、ドゥーラにも働き方の選択肢を広げるチャンスになりえるかもしれません。遠隔支援のスキルは出産中だけでなく、妊娠中や産後の家庭訪問にも、とても役立つはずです。また、ドゥーラになるための勉強も遠隔でおこなう方法がさらに発達すれば、都市部に限らず色々な地域でドゥーラが増えやすくなります。遠隔支援はあくまで応急処置であり、対面のケアの良さをすべて補うことは不可能であっても、これまでの研究から得られた知見と海外の動向、身近な妊産婦さんの実際の声を支えに、日本でこれまでおこなってきた良いケアを継続し、新たな状況に柔軟に対処していけるよう願っています。


追記:
2020年5月2日と5月15日に「新型コロナウィルス流行下の出産 ~付き添い者に必要な知識とスキル」というZoomセミナーを開催し、米国ニューヨークで出産ドゥーラとして活躍する伊東清恵さんからお話を伺いました。下記のリンクから、セミナーの動画と資料がご覧になれます。
https://motherring.net/journal/193/


  • * 治療と予防に関する科学的根拠に基づく医療情報を世界展開で発信する組織、「コクラン共同計画」が作成するシステマティック・レビュー。
  • ** 出生直後の新生児の健康状態を示す指数で、新生児仮死の指標である。10点満点で、点数が低いほど健康状態が良くないことを示す。

参考文献(下記のオンラインソースはすべて4月10日にアクセス)


筆者プロフィール
kishi_prof.jpg 福澤(岸) 利江子(ふくざわ・きし・りえこ)

筑波大学医学医療系 助教。助産師、国際ラクテーションコンサルタント。 ドゥーラに興味をもち、2003-2009年にイリノイ大学シカゴ校看護学部博士課程に留学、卒業。 2005年よりチャイルド・リサーチ・ネット「ドゥーラ研究室」運営。
kaige_ayumi.jpg 界外亜由美(かいげ・あゆみ)

mugichocolate株式会社 代表取締役/クリエイティブディレクター・コピーライター。広告制作会社勤務後、フリーランスのクリエイターを経て起業。ドゥーラと妊産婦さんの出会いの場「Doula CAFE」など、数々のドゥーラの支援活動も行っている。

※肩書は執筆時のものです

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