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【ドゥーラ TRAINING編】第5回 医療系学生とのドゥーラロールプレイ演習

はじめに

2019年12月に開催された第34回日本国際保健医療学会学術大会(http://jaih34.umin.jp/?fbclid=IwAR3eHiu60XpVoTucyWhiNdSmQOVzeviPaWk1lF9n8J_zdiPYEqhm6voBGd4)(会場:三重大学)において、学生部会による学生企画「助産師の役割と限界~妊産婦自身の力を引き出すために必要なこと~」として講演・ロールプレイによるセッションが行われました。日本国際保健医療学会学生部会(以下jaih-s)は医療系の学生を中心に医療以外の文系の学生も所属し、国際保健の様々な課題について学ぶコミュニティです。今回の学生企画の実行委員だった菅田彩さん(筑波大学医学群看護学類1年生=当時)にお話を聞きました。


Q:今回のドゥーラの企画を開催しようと思った動機を教えてください。
菅田:
国際保健の現場において母子保健は大きな課題の残る分野であり、学生部会の企画メンバーの中でも関心が高かったため、テーマとして母子保健が採用されました。妊娠・出産は新たな生命の誕生という神秘的で普遍的であるという一面と、国や文化、宗教によって"常識"が異なり、それに伴う健康上の課題も多岐にわたるという特殊な面の両方をもち合わせています。日本の産科現場では、混合病棟の増加や医療者不足などの問題から助産師が十分に妊婦さんに関わることができていないこと、健康な妊産婦も医療の中でお産が進むと妊産婦自身の力を十分に引き出すことが難しいことが課題であると考えました。そのため、助産師が十分にケアに関わることができていない日本の母子保健の現状と、海外の妊娠・出産ケアにかかわる支援者の活動や役割についてお話を伺い、妊産婦自身の力を引き出すために必要な支援について考えたく、本企画の開催に至りました。

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日本国際保健医療学会学生部会の実行委員メンバーによる進行の様子(左:菅田さん)

イベントの概要
日時2019年12月7日 15:00〜17:00
場所三重大学
参加者母子保健に興味のある医療従事者や学生 約30名

講演内容

前半は「助産師の役割と限界~妊産婦自身の力を引き出すために必要なこと~」というタイトルで、日本・途上国・先進国のそれぞれについて妊娠・出産ケアにおける課題や研究について、筆者が解説しました。その上で、出産ドゥーラがそれらの課題にどのように関わり貢献できるのかを、ドゥーラの歴史的背景や理論モデルを示しながら問題提起をしました。

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前半に国際母子保健の課題とドゥーラサポートについて情報提供する筆者

後半に、6~7名ずつのグループに分かれてロールプレイ演習を行いました。シナリオは、「かかわりに困難を感じた事例」について収集した研究データを編集して複数作成したものから、毎回1例を取り上げて使用しています。

実際に行われたロールプレイのシナリオ

シーンカテゴリー
時期:分娩期
ドゥーラ・サポート要素:情報提供、アドボカシー、情緒的サポート

登場人物のリストと人数
①ドゥーラがいない想定:妊婦、夫、医師、助産師あるいは看護師【4名】
②ドゥーラがいる想定:妊婦、夫、医師、助産師あるいは看護師、ドゥーラ【5名】

状況の説明
初産婦。自然分娩を希望していたが、破水して入院した時にレントゲンを撮り「赤ちゃんの頭が大きい」という理由で帝王切開を勧められている。医師の前で手術の同意書にサインをする場面。夫と助産師もその場に同席。

初めの一言(この一言からロールプレイをスタートします)
産婦:特に質問もなく、「わかりました」と同意書にすぐにサイン。しかし医学的な知識もなく、よくわからない気持ち。帝王切開を勧められるとは思っていなかった。

実際の体験(このデータを提供した産婦さんからのコメント)
夫とはじめての赤ちゃんと一緒に頑張りたかったので、自然分娩を希望していました。破水して病院に行ったら、しばらく待たされた後に担当医でない医師が来て、名乗らずに子宮口をチェックし、言われるがままレントゲンを撮り、頭が大きくて自然分娩では難しそうとのことで、帝王切開を勧められました。よくわからないので「帝王切開でいい」と返事しました。出産後、なんだか寂しい気持ちになりました。帝王切開に切り替える時の気持ちの整理にもっと時間をとってもらいたかったし、専門家にもっと話をしてもらい、納得して手術同意書にサインをしたかった。訳もわからずに進んでしまった感じでした。周りの方に迷惑をかけないよう、悪く思われないよう、そんな風に生きてきたので、帝王切開を提案されたときもわがままを言えずに素早くサインしてしまいました。同じサインするにしても、もっと医師に話をじっくり聞いて納得してからであったら、大分後々の心の状態が違っていただろうと思います。

2人目を生むときに、やはり自然分娩をしたいと思い、帝王切開経験者の自然分娩をしている大きめの病院を探して問い合わせたら、「そんなことは普通しませんよ」、と厳し目に言われて、なんだかまた寂しくなったのを覚えています。そして、2人目の妊娠で診察してもらった年配の男性医師に、「あなたは1人目の妊娠中に太りすぎたから自然分娩できなかったんだね」と今更言われました。長男を出産した時の医師からの指導でも、そんなに逸脱して体重増加を指摘されていたわけでもないし、もしそうであっても、帝王切開のリスクがあることなんて全然教えてもらっていなかったので、今になって自然分娩が出来なかったのは自分のせいだと言われて、自分を責めてしまいました。出産からだいぶ経った今は、そもそもそこまで自然分娩にこだわる必要もなかったかとか、とにかく無事に生まれたからいいかなどと思っていますが、気持ちが穏やかになるにはかなり時間がかかりました。関わった医師の無神経さが気になりました。たとえ私の体重管理が悪かったことが本当に原因だったとしても、それをわざわざ言う必要はなかったのでは、と思います。

この体験にロールプレイで寄り添いました。

ロールプレイ:菅田さんのコメント
このシナリオで、私は助産師役を演じました。初めにドゥーラがいない場合(①)を演じた時、医療者が淡々と帝王切開のリスクとその必要性を夫婦に説明し、同意書を突きつけてしまったことで、夫婦には同意を迫られているように感じられ、その選択肢以外はないと思ってしまったのではないかと感じました。その反面、忙しい臨床の現場において、医療者の視点でリスク面を考えると、帝王切開以外の選択肢が考えられないのであれば、どうしても言葉や雰囲気にその考えが出てしまうと思いました。同意を迫ってしまったことについても、そうするしかないだろうとも思いました。きっと夫婦にとっては帝王切開という選択肢が嫌というわけではなく、訳のわからないまま物事が進んでしまい、出産が他人にコントロールされて自分のものではなくなってしまったように感じたことから、ネガティブに捉えてしまい、そのやるせない気持ちが医療者へ向かってしまったのだと思いました。インフォームドコンセントをはじめ"納得"のいく医療の提供については、耳が痛くなるほど言われており「そんなこと当たり前でしょ」と思っていましたが、理想と現実の狭間には多くの葛藤があるから、こんなにも声を上げ続ける必要性があるのだとわかった気がしました。
ドゥーラがいる想定(②)でやってみると、夫婦の表情が曇った時にドゥーラが助け舟を出してあげることができ、言いにくかったことや聞きにくかったことを声に出すタイミングができました。ドゥーラがいない場合(①)の時には、医療者に「質問や不安な点はありますか?」と聞かれても、「帝王切開するしかないのだものね」と夫婦で目を合わせてしまい、夫婦と医療者の距離がなかなか埋まらず、不安要素を引き出すことができませんでした。しかし、夫婦との信頼関係が元からできていて妊娠・出産の状況を良く知っている存在(=ドゥーラ)がいることで、夫婦の表情の曇った時には心中を察知し、「質問があれば聞いていいんですよ」と促してくれたので、ハードルが下がって医師に質問しやすい雰囲気になったと感じました。
今回のロールプレイ演習では、妊産婦、医療者、ドゥーラなど様々な立場を演じることで、妊産婦へのケアとして求められていることや必要な支援の効果を実感することができたのではないかと思います。私は将来助産師になりたいので、ロールプレイ中には「どうやったら助産師がドゥーラのように寄り添いを体現できるのかな?」と考えることができました。ドゥーラを実際に導入できれば万事解決かもしれませんが、導入していない場合でも、ケア提供者は自分が関わるお産を産婦さんにとってより良いライフイベントにしてもらうために努力を怠ってはいけないと思います。
また、ドゥーラを演じることで、「医療者の言いたいこともわかるけれど患者の気持ちもわかる」という板挟みも経験できたと思いました。演習中に自分が取った行動はきっと医療者として振る舞う時にも役立つと感じます。医療者と患者の間に立ち、両者の考えや気持ちを汲み取った上で、医療者が自分なりにその場の打開策を考えることができれば、考えるプロセスを通して、より良い医療者として成長できると思います。
菅田彩(筑波大学看護学類1年生=当時)
ロールプレイ:他の参加者による感想
実際に妊婦や家族、助産師や医師など立場の違う役割になってみることで、妊婦さんの抱える悩みや不安を少し感じることができたのが良かったです。妊婦さんや家族の不安や悩みにも寄り添い、産前産後まで包括的にケアしていくドゥーラ的役割を、医療者である助産師や医師もできる限り取り入れていけたらいいなと思いました。
(医学生)
まとめ

今回はまだ医療者になっていない学生さんたちに出産ドゥーラの必要性や役割について伝え、共に考える貴重な機会をいただきました。正直なところ、臨床現場を知らず産科の知識もほとんどもち合わせない学生さんたちに、どのくらい効果的な演習ができるだろうか? ロールプレイが成り立つだろうか? と少し不安に思っていました。ところが、まだ医療についてほとんど学んでいない1年生の学生さんでさえ、このような深い学びを得たことを通して、若い人々の力と可能性に驚き、大きな希望を感じました。このようにロールプレイの臨場感や振り返りの学習効果が高まったのは、臨床経験の豊富な助産師さんなどが各グループにいてくださったことが大きかったと思います。また、非医療系の学生さんも非医療者の立場でオープンな意見を共有してくださったことも、医療者だけで学ぶよりも、医療者側の先入観に気づいたり産婦さんや家族の気持ちを理解したりする上でとても重要でした。

出産ドゥーラというと自然分娩の付き添いの印象が強いかもしれません。しかし、出産ドゥーラの大きな役割の一つが医療化された出産における医療者と妊産婦さんの橋渡しであることを考えると、帝王切開を受ける妊産婦さんの不安や心細さに寄り添うドゥーラサポートのニーズは、経腟分娩をする産婦さんと同等かそれ以上といえます。帝王切開の術前説明のシナリオが、ドゥーラサポートについて学ぶ格好の題材になることも、今回の勉強会で確認されました。帝王切開については、TRAINING編の今後の連載回で改めて、帝王切開を受けた女性へのケアに特化した勉強会の開催報告をいたします。

執筆協力 菅田彩
界外亜由美

謝辞
本イベントはJSPS科研費 16K12135の助成を受けて実施しました。

筆者プロフィール
rieko_kishifukuzawa.JPG 福澤(岸)利江子(ふくざわ・きし・りえこ)

筑波大学医学医療系 助教。助産師、国際ラクテーションコンサルタント。 ドゥーラに興味をもち、2003-2009年にイリノイ大学シカゴ校看護学部博士課程に留学、卒業。 2005年よりチャイルド・リサーチ・ネット「ドゥーラ研究室」運営。

ayumi_kaige2.jpg 界外亜由美(かいげ・あゆみ)

mugichocolate株式会社 代表取締役/クリエイティブディレクター・コピーライター。広告制作会社勤務後、フリーランスのクリエイターを経て起業。クリエイティブ制作事業のほか、「自分らしく、たのしく、親になろう」をコンセプトにした、産前産後の家庭とサポーターをつなぐMotherRing(マザーリング)サービスを企画・運営している。

※肩書は執筆時のものです

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