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【ドゥーラ TRAINING編】第4回 海外のドゥーラの最新情報:東ヨーロッパ編

はじめに

ロールプレイを用いたドゥーラトレーニング・セミナーの第3回目は、出産育児をテーマとした学び場や語り場を企画運営する名古屋の団体「レキップフェミニン」と出産ドゥーラの団体「一般社団法人ドゥーラシップジャパン」との共催になりました。今回のテーマも引き続き海外のドゥーラの実践について。第1部のゲスト講師は、ドゥーラトレーニング・セミナー第2回に引き続き、フランス在住の出産ドゥーラ、木村章鼓さん。今回はさらに、ドイツ在住の出産ドゥーラのお話も聞くことができました。第2部では、ロールプレイ演習に共に取り組みました。中部地方のブラジル人コミュニティで活躍するブラジル人ドゥーラの方々が多く参加してくださっていたので、こうした演習の中で世界のドゥーラの輪が広がったように感じました。ブラジル人コミュニティで活躍するドゥーラについては、CASE編 第14回で紹介させていただきましたのでそちらも是非ご覧ください。

イベントの概要
日時2019年7月28日(土)
場所ウィルあいち
参加者ドゥーラ、助産師、その他、計23名程度。
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第一部では、木村章鼓氏が海外のドゥーラの動向について講演をしました。この講演については、TRAINNING編 第3回にてご報告させていただきましたので、本稿では、割愛させていただきます。

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木村章鼓氏の講演に聞き入る参加者の方たち

ドイツから来日中の出産ドゥーラ、ロリアン・モンテル氏のお話

日本の出産ドゥーラの状況に関心があったドイツ在住のドゥーラ、ロリアン・モンテル氏と、飯村ブレット氏(TRAINNING編 第2回参照)を通じて知り合い、ちょうどこの時期にモンテル氏が日本を訪れる予定があったため、このイベントにお誘いして下記のミニ講演が実現しました。

西ヨーロッパでのドゥーラの経験

フランスで生まれ育ち、ベルギーでドゥーラのトレーニングを受け、現在ドイツでご活躍されているロリアン・モンテル氏に、ドゥーラとしてのご経験を伺いました。

【ロリアン・モンテル氏】:私がこれからお話しすることは、フランス、ベルギー、ドイツでの私自身の経験をお伝えするものですので、どこかの組織や国の代表としてお話しするものではありませんのでご了承ください。イギリスの事情については、章鼓さんの方が詳しいと思います(TRAINNING編 第3回参照)。

ドゥーラは、妊産婦、カップル、家族のそばに寄り添う立場にあります。共感をもって妊産婦の声に耳を傾け、必要な情報を提供し、希望があれば助言し、医療スタッフから尊重されるようにサポートします。ドゥーラは、妊産婦が本来もっている力が最大限活かされるように、妊産婦が自分の身体と本能を信じられるようになることを目指します。産後であっても、私たちの立場は同じです。母親が望まないのであれば、母乳で育てることを強制しません。私たちはそのメリットとデメリットを説明し、母親が自分で決めたことをサポートします。妊娠、出産、産後というさまざまな段階やそれぞれのニーズがありますが、私が知っているほとんどのドゥーラは、出産ドゥーラや産後ドゥーラというように関わる時期を特定せず、必要な時にいつでも女性とご家族を支援します。

南ドイツでは、ドゥーラが何者であるか、人々の間でほとんど知られていないため、ドゥーラとして働くことには困難があります。出産をサポートする仕事だと説明すると、私が助産師であるかどうかを尋ねられます。医療スタッフの間でもドゥーラは認知されていません。妊産婦さんが「友人」だと説明すれば、医療スタッフは私たちの存在を容認するかもしれません。私の住んでいる地域では、ドゥーラは助産師の職域に侵入するとみなし、ドゥーラのスキルや能力に疑問があると考えている助産師もいるようです。2015年にドイツのドゥーラ協会が行った、ドゥーラのサポートを受けた出産の評価結果によると、科学的な有意性は明らかになっていないものの、(ドゥーラのサポートにより)帝王切開の減少、硬膜外麻酔の希望の減少、自由な分娩体位を選ぶ女性の間での信頼の高まり等が報告されています。ドゥーラのサポートの効果と重要性が広く認識される必要があると思います。
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ヨーロッパの情報を話してくださったモンテル氏と通訳の薬師寺麻利子さん

実際に行われたロールプレイのシナリオ

シーンカテゴリー
時期:分娩期
ドゥーラ・サポート要素:実質的レポート、情報提供、情緒的サポート

登場人物のリストと人数
①産婦、夫、助産師【3名】
②産婦、夫、助産師、ドゥーラ【4名】

状況の説明
初産婦、陣痛は2分半おき、子宮口は7cm開大。努責感が増強し、陣痛発作中はいきみを逃がせなくなっている。さきほど助産師からは、できるだけいきまず力を抜くように言われた。
産婦は必死の様子で呼吸が乱れて不安そうな表情。付き添いの夫はおろおろしている。

初めの一言(この一言からロールプレイをスタートします)
産婦「痛い!どうしてもいきんじゃう!どうしたらいいの」

実際の体験(産婦さんからのコメント)
「陣痛室で過ごしている時、すでに2-3分おきにくる陣痛に対して、助産師が肛門をおさえて痛みといきみをおさえる手技を夫に教えてくれました。私は力みたかったのですがまだその時期ではなく。しかし、夫の手技では十分に効果がなかったので、代わりに助産師がおこなってくれました。やはりプロですね、上手でした。そして陣痛の間隔も狭まり、子宮口全開を確認したため、分娩室に移動、分娩台に上がることになりました。が、なかなか痛みで上がれなかった私を、助産師さんは支えてくれ両脇から抱えられるようになんとか分娩台へ。助産師さんの関わりはそこまでしか覚えていません。あとは必死で、誰の声なのか、どこからともなく呼吸法を促す声が聞こえてきたので、それに合わせました。私の後ろには夫が立ち会い、『頑張れ頑張れ』と立ちすくみながら声をかけてくれました」

この体験にロールプレイで寄り添いました。

ロールプレイ:参加者のコメント
初対面同士のグループかつ初めてロールプレイングに挑戦する人も多く、自己紹介と配役決めで時間がかかってしまい、ロールプレイは①のドゥーラ不在のお産の場合しかできませんでした。②ができず残念に思っていました。 ①では、夫役がひたすらオロオロしていて、妊婦さん役が怒って...みんなで大笑いしたのが印象に残っています。
改めて振り返ってみると、ドゥーラ不在かつ助産師さんが時々様子を見に来るだけの①の状況であると、夫婦ともに初体験なのでオロオロしてしまうし、妊婦さんは自分が不安なのに自分よりも身体的に大変ではない夫もオロオロしてる姿を見たら不安が増すし、イライラしますね。
実際にはロールプレイできなかったので、改めてあの状況にドゥーラがいることを想像してみると、お産の経過について経験も知識もある方が、妻にも夫にも「初めてだからわからないですよね。お2人ともよく頑張ってますよ。赤ちゃんも一緒に頑張ってますよ」などと、同じ場に居て声をかけてくれると、初心者である夫婦同士の不毛な対立は生じないように思いました。
ちなみに私の初めてのお産の時は「ドゥーラ」という存在は知りませんでした。が、もしかしたら夫婦とも取り乱してしまうかもしれないと考え、4人の子を産んだ経験のある姑に陣痛室の段階までは居てもらいました。夫の母は、妊婦である私には「痛いよね」と寄り添い、夫には「あんたも生まれて来れたんだから大丈夫だよ」と声をかけながら、その場にいてくれました。今思えば、ドゥーラ的な存在がそばにいたということですね。総合病院の産科でのお産で、助産師さんは時々来て「そのぐらいの痛みなら、まだだねー」と言い残していなくなる状況でした。 ドゥーラ的存在がいたお産だったからなのか、順調に進み、分娩台に上がってからすぐに産めました。助産師さんが「とっても上手でした~」と言ったのを聞いて、「私はお産が上手なんだ」と思い込めたようで、これまで4回のお産を楽しみ、みな会陰切開なく産めました。夫も、2回目以降はドゥーラ的存在でした。もうすぐまたお産となりますが、今回は「ドゥーラとはなにか」を感じ、考えながらお産に臨みたいです。
佐治愛(ミュージシャン&先日5人目の赤ちゃんを出産された母親)
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様々な国からの参加者が共にロールプレイを行った様子
イベント主催者、大竹かおり氏のコメント

このイベントについて、主催者の大竹かおり氏に改めて、コメントを寄せてもらいました。

私が最初にドゥーラを知ったのは、2013年頃。自分の出産育児経験から次世代に必要な妊産婦支援は何か?と調べていた時に、CRNサイトでドゥーラ研究に関する記事を見たことがきっかけでした。薬師寺麻利子さんとの出会いもこの頃でした。麻利子さんのシアトルでの出産ドゥーラとしての実体験やドゥーラとしてのあり様にとても共感し、自分の住んでいる地域でドゥーラの概念を取り入れた妊産婦さんへの支援を、何らかの形で提供ができないか?との思いを抱いて、今に至っています。今回のワークショップの名古屋開催のご縁を繋いでくださったのも、麻利子さんでした。
名古屋でのワークショップは、様々な国のドゥーラの活動経験、価値観、哲学を知る、とても特別な時間になりました。ドゥーラシップジャパンの木村章鼓さん、ブラジル人ドゥーラコミュニティ・ダーラルスの皆様、ドイツ在住フランス人ロリアンさんから、それぞれのドゥーラ事情について語っていただきました。コロナ前の2019年は、オンライン開催という発想がまだなく、地方で開催するということに意義がありました。東海地区でも少しずつドゥーラの輪が広がりつつあります。個人で活動されている方、グループで活動されている方、いろいろな形でドゥーラマインドをもって母子に関わっている方がいらっしゃいます。微力ながら、私もドゥーラを広めていきたい一人として今回のワークショップが実現でき、場に来てくださった方同士に新たな繋がりがもてたことを本当に嬉しく思いました。 ドゥーラの資格をもっているわけでもなく、職業ドゥーラでもない自分が、ライフワークとしてドゥーラを広めたいと語るということに迷いがありながら、今まで「Doula!」(CASE編 第2回参照)ドキュメンタリー上映会やワークショップを開催してきました。そんな想いを吐露するたびに、麻利子さんは"ドゥーラマインドをもっていれば、職業ドゥーラじゃなくてもドゥーラなんだよ!"と励ましてくれました。
そして、今回のTRAINING編の"概念としてのドゥーラ"という考え方は私にはとてもしっくりくる内容でした。米国シカゴ発のコミュニティベース・ドゥーラモデル(シンポジウム第4回「パネラーによるプレゼンテーション 2」参照)を礎として、"ドゥーラマインドをもった人たちが産前産後の女性たちを支える、そんな地域や社会が拡がっていくこと"という私の当初のイメージが「概念としてのドゥーラ」と繋がった瞬間でした。出産・育児の環境が複雑化、多様化している今だからこそ、社会的・情緒的に女性をサポートするドゥーラの役割は、ますます必要とされているのではないかと感じています。妊娠期から始まり、その人が必要と感じている時期をすべて網羅して、全ての女性が持続可能なケアを受けることのできる仕組みができないか? そのヒントが、「コミュニティベース・ドゥーラ」「社会福祉としてのドゥーラ」そして「概念としてのドゥーラ」にあるのではないか?と感じています。
大竹かおりさん(レキップフェミニン主宰)
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集合写真(前列左端が大竹かおりさん)

まとめ

ドゥーラ普及の中心地といえば海外では米国や英国、日本では東京から、つまり先進国や都市部から始まりました。その間も、普及が進んでいない地方各地で、モンテル氏や大竹氏やブラジル人ドゥーラたち(CASE編 第14回参照)のような、ドゥーラ的な仕事をライフワークととらえて使命感をもって活動する女性が、どの時代でも存在してきました。そうした活動をする女性たちが、独自のコミュニティを創り上げながら、確実に妊産婦や社会に影響を与えていることを今回改めて感じることができました。欧州のモンテル氏も、在日ブラジル人コミュニティのドゥーラである平田ルディミーラ氏(CASE編 第14回参照)も共通して、ドゥーラを広める理由を説明する際に様々なドゥーラ研究の結果(科学的な根拠)を参照していたことも印象的でした。

ロールプレイでは、ドゥーラがいる場合と不在の場合を両方行うことでドゥーラの必要性を実感してもらうというねらいは達成できなかったものの、ロールプレイをきっかけにご自身の出産を振り返ったり、ドゥーラという言葉は使わなくてもドゥーラ的な存在の立ち会いがあった意味を見出すこと、さらにドゥーラ的な存在はその後の出産体験にまで影響を及ぼすことが佐治さんのコメントにより伝わってきました。最適なドゥーラ養成方法についての研究は未だ発展途上ですが、インターネットで情報交換が容易になった今の社会では、国境や文化、時間も超えて、ドゥーラやその周りの他職種の人々がともに学ぶことは十分に可能かもしれません。

【ゲスト講師プロフィール】

loriane_montel.jpg Loriane Montel(ロリアン・モンテル)
ベルギー、フランス、ドイツで出産ドゥーラとして活動。現在はドイツ・ミエティンゲン在住。ヨーロッパおよびロシアのドゥーラ組織と深くかかわりをもつ。
AFA(Belgian Association for Accompanying Education:ベルギー出産付き添い教育協会)認定ドゥーラ。 法人"Loriane Doula "を2015年に設立。
フランス語話者のためのベルギー人ドゥーラ協会(http://doulas.be/wp2/)実行委員
ヨーロッパドゥーラネットワーク(http://european-doula-network.org/)のウェブマスター
ウェブサイト:http://en.lorianedoula.com/

執筆協力:髙橋優子
界外亜由美

謝辞
本イベントはJSPS科研費 16K12135の助成を受けて実施しました。

筆者プロフィール
rieko_kishifukuzawa.JPG 福澤(岸)利江子(ふくざわ・きし・りえこ)

筑波大学医学医療系 助教。助産師、国際ラクテーションコンサルタント。 ドゥーラに興味をもち、2003-2009年にイリノイ大学シカゴ校看護学部博士課程に留学、卒業。 2005年よりチャイルド・リサーチ・ネット「ドゥーラ研究室」運営。

ayumi_kaige2.jpg 界外亜由美(かいげ・あゆみ)

mugichocolate株式会社 代表取締役/クリエイティブディレクター・コピーライター。広告制作会社勤務後、フリーランスのクリエイターを経て起業。クリエイティブ制作事業のほか、「自分らしく、たのしく、親になろう」をコンセプトにした、産前産後の家庭とサポーターをつなぐMotherRing(マザーリング)サービスを企画・運営している。

※肩書は執筆時のものです

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