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【ドゥーラ TRAINING編 】第2回 バースエデュケーターとドゥーラの共通点と相違点

はじめに

2019年夏、海外のゲストを講師に迎え、ドゥーラトレーニング・セミナーを開催しました。このセミナーは、毎回テーマを変えて、ゲストの講演後にロールプレイを行うものです。大きな目的は、ドゥーラを概念として普及すること。「第1回 ドゥーラが概念として普及するために」で詳しく説明しましたが、ドゥーラサポートは、その効果が強力なエビデンスによって実証されている割に、実社会で普及していないと言われています(WHO, 2018)。費用や収入の問題、産科に非医療職のドゥーラが入りにくい現状、日本でのドゥーラの実例が少ないため関心はあっても導入を躊躇してしまう施設が多いことなどが原因です。そこで、ドゥーラ研究室では、その解決策として今後は【ドゥーラを(職業というより)概念として広める】ことをより強調することにしました。概念(コンセプト)として「誰でもドゥーラになれる」という前提でドゥーラサポートを追求することで、家族や親戚、友人として出産に付き添うなど誰もが妊産婦やその家族を支援しやすくなり、「ドゥーラ的な人」が社会に増えやすくなると考えます。また、ビジネス以外の目に見えにくい価値を社会が再認識することで、職業ドゥーラにとってもプラスになることを願っています。その一歩であるドゥーラトレーニング・セミナーでは、実践的な学びを得るためにロールプレイを行います。ドゥーラトレーニングのロールプレイとは産科ケアの現場を「疑似体験」を通して学ぶものです。失敗しても妊産婦さんを傷つけることのない安全な場所で、妊産婦や家族、医療者など、それぞれの役になって演じます。演じるたびに、「どんな気持ちになったか?」「なぜそうしたか?」等、気持ちや理由にフォーカスしたふり返りを行います(詳細は第1回参照)。

第1回は、「バースエデュケーターとドゥーラの共通点と相違点」をテーマにし、バースエデュケーターでありドゥーラとしても活動する飯村ブレット氏をゲスト講師にお迎えしました。飯村氏はニューヨーク出身で、第一子出産の経験をもとに米国のご友人と「出産教育センター(CEC)」を設立。約25年間の日本での活動を経て、現在は米国に住みながら米国と日本を中心に一人ひとりに合った出産を実現するための両親学級などを開催し、その中で出会った妊産婦さんの出産に付き添うこともあります。そんな飯村氏に「バースエデュケーターとドゥーラの共通点と相違点」について語っていただいた後、ロールプレイによるドゥーラトレーニングを行いました。

イベントの概要
日時2019年7月1日(金)
場所筑波大学
参加者学内の学部生(2年生)~大学院生(博士課程学生)、助産師としての臨床経験が豊富な方、ドゥーラに関心のある方、出産ドゥーラ、教員など。20名程度。
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講演の概要

バースエデュケーターとは
皆様はバースエデュケーターがどんな職業かご存じでしょうか。まず前提として、飯村氏は医療者ではありません。日本では、女性が妊娠すると、かかりつけの産婦人科や地域の保健センターなどで助産師や保健師などの医療者による両親学級を受けると思います。米国では、両親学級でお産について教えることを専門にした職業、バースエデュケーターが普及しており、このバースエデュケーターによる両親学級を受講する妊産婦も多くいます。

【飯村氏】:バースエデュケーターの主な仕事は、両親学級で、妊婦さんとそのパートナーに、お産の知識を提供することです。特に、女性が、お産に向けて変化していく体や自分の考え、生き方に合ったお産を選べるよう、情報を提供しながらサポートします。バースエデュケーターには妊娠期、出産、産後、新生児期の、科学的知識に基づいた身体的・情緒的・情報的な支援についての知識が必要です。妊産婦と家族が健康で自然な出産ができるように教育します。また、妊産婦が医療制度の中で本人が望む妊娠・出産体験を得られるようにかじ取りをし、本人に合った担当医選びを手助けしたりもします。出産やクライアントである妊産婦のこれまでの歴史や文化的背景にも精通し、アドボカシー(権利擁護)支援をおこないます。正確な最新の知識を提供できるように研究や実践について常に勉強が必要です。

私には子どもが2人いますが、第一子の妊娠中に参加した両親学級にとても感動しました。教えてくださった方が医療関係者ではなく、フリーランスだったため、ルールにとらわれず、自由に発言されていたのです。その方に憧れ、私もバースエデュケーターの道を選びました。私が教え始めたのは今から約25年前ですが、米国では出産のことを教えるために特に資格などは求められていなかったため、私自身、初めの2年は無資格でしたが、その後はICEA(International Childbirth Education Association:国際出産準備教育協会)の認定資格を得て4年毎に更新しています。現在は、何らかの団体から資格を取得して、バースエデュケーターとして活躍する人が多くなっています。

ドゥーラとバースエデュケーターの共通点と相違点

自分に合った両親学級や出産付き添い者を選ぶことは、妊婦さんにとってすごく大事です。そして、それを実現しやすくしてくれるのが、バースエデュケーターやドゥーラです。では、バースエデュケーターとドゥーラの共通点と相違点は何でしょうか?

飯村氏はバースエデュケーターがメインですが、ドゥーラでもあります。ドゥーラはお産に付き添う人、バースエデュケーターは両親学級を行う人です。バースエデュケーターは主に妊娠中に教育者として関わりますが、ドゥーラとしてお産に付き添い、出産直後まで直接的なケア提供者として支援することもあります。その後、産婦さんが自宅に帰ってから家庭訪問をする産後ドゥーラの役割も含め、妊娠中から産後まで、これらは本来、職業名は異なっても一続きの職業なのです。

例えば、外国人の妊婦さんにとって、慣れない海外での出産はとても不安です。妊娠や出産や母乳育児は本来とてもプライベートなことですが、習慣も言葉も慣れない国でそれらを経験しなくてはならないとき、不安を理解して継続的に寄り添ってくれる人の存在が特に必要です。

【飯村氏】:ドゥーラは、妊娠中に2、3回くらい妊婦さんと会います。両親学級のような枠組みはなく、直接会う中で出産時に「何をしたいか」、「何をしてほしいか」など、多方面にわたる、とてもプライベートな話をします。出産に関する情報を教えたり説明することもあるので、その点はバースエデュケーターと似ているかもしれません。ちなみに私は、バースエデュケーターをしていた時、受講者であった移民の方にお産の付き添いを頼まれたことから、自然な流れでドゥーラになったんです。
日本では25年前はドゥーラはほとんどいなくて、外国人の産婦さんに対しては、助産師などの医療者は言葉や文化の壁のために最低限のかかわりしかできないことが多く、外国人妊産婦をまるごと理解しそばで親身に見守ってくれる人はほぼいない状態でした。その中で、少しでも共感してくれる雰囲気の人がお産の場に入ると、産婦さんはすぐにリラックスできて、出産も順調に進みました。これは産婦さんにとっても医療者にとっても大事なことですね。だから私は日本で、外国人の方の妊娠・出産に多く付き添ってきました。彼女たちはいろいろな国の、いろいろな文化をもった妊産婦さんたちです。多くの人にとって、海外での経験はとても大切です。自分の国から一歩外へ出ると、初めて自分の国を客観的に知ることができるからです。良いところも悪いところも。そうすると視野が広がって、出身国以外の人に対する理解も深まると思います。
【萩野文氏(参加者/海外で出産をした日本人/ドゥーラ)】:私がアメリカで出産したときは、アメリカ人の助産師と日本人ドゥーラに付き添ってもらいました。日本人ドゥーラはお産の通訳のために依頼したのがきっかけです。実際お産のときに言葉のことを気にせずにいられたから、意識の全部をお産に向けられました。
それに加えて、日本人の感性を理解してくれる人がいることが通訳以上の安心感を与えてくれたのは、今振り返っても驚きの体験でした。たとえば、水中出産でのお産の最中にお風呂に浸かっていたときのこと。私にとって快適な湯温だけど助産師が熱くない? としきりに心配してくれるので、快適と感じているのはおかしいのかな? と迷ってしまっていたら、ドゥーラが「日本人はこのくらいの温度が好きなのよね」と伝えてくれてホッとしたということがありました。前提となる肌感覚を知ってもらった上で医療的に適切な対応をしてもらいたいけれど、自分では当たり前すぎて前提が違っているなんて考えも及ばなかったので。
そんな風に「自分を理解してくれている」と感じるドゥーラの小さな声かけや仕草の積み重ねでどんどん心がほぐれていき、自分の感覚を大事にしながらお産ができたと感じています。
ドゥーラの活動経験より

日本では、バースエデュケーターやドゥーラが病院の産科に入って仕事をすることはまだ一般的ではありません。病院では医療職者や看護職が既にいるため、そこに非医療職の新しい職業が介入するには初めはいくつもの壁があります。米国ではいかがですか?

【飯村氏】:米国では、その辺りは一般的になってはいますが、もちろん難しいこともあります。その一つに、妊産婦さんの守秘義務が挙げられます。米国では、妊産婦さんとドゥーラとの間で必ず守秘義務について契約書を交わします。そして、たとえばこんな場面でも守秘義務は守られます。
産婦さんはなるべく自然な出産を望んでいたにもかかわらず、出産中の経過に応じて医療者が産婦さんに対して、「(陣痛促進剤などの医療的な)処置をしましょう」と、産婦さんが望まない提案をしたとします。その際、産婦さんは「はい」としか言えないことが多いのです。その理由は、気持ちが混乱してしまっていることもありますが、もし自分の本音を医療者に伝えることで医療者の気分を悪くさせてしまった時、その後の対応に影響があるのではないかと不安になるためです。悪影響が自分だけでなく、赤ちゃんにも及ぶことも心配します。だから、我慢をして関係を保とうとするんですね。日本では特にその傾向が強いと思います。
そんな時には(緊急時でない限り)、医療者に少し席を外してもらい、産婦さんの考えを理解しているドゥーラが産婦さんと数分間でも、「あなたはどうしたいの?」と話すだけで、その後の展開が違ってきます。ただし、医療者がいる場で産婦さんの個人的な志向などをドゥーラが話すわけにはいきません。その情報は秘密だからです。さらに、「ちょっと待ってください」とドゥーラが介入することで、産婦さんの立場を悪くすることもあるかもしれません。だから、産婦さんが自分から医療者に「ちょっと時間をください」と言うことが大事です。ドゥーラの役割は、産婦さんにその言葉を思い出させてあげることだと思います。お母さんは、自分と赤ちゃんを守るためにいろいろな我慢をしているので、そのことをくみ取ってあげるのがドゥーラの役割だと思います。
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飯村ブレット氏と参加者のドゥーラ&フォトグラファーの児島由季子さん

実際に行われたロールプレイのシナリオ

シーンカテゴリー
時期:分娩期
ドゥーラサポート要素:情緒的サポート、実質的サポート、アドボカシー支援

登場人物のリストと人数
①産婦、夫、上の子、助産師 【4名】
②産婦、夫、上の子、助産師、ドゥーラ 【5名】

状況の説明
経産婦で上の子は3歳。病院の規則で、陣痛室には子どもは入れない。病棟前の廊下で、産婦と離れなければいけない上の子が大泣きしている。夫が上の子を待合室の祖母のところに預けるために説得し連れていこうとしている。助産師は少し離れたところでその様子を見ている。

初めの一言(この一言からロールプレイをスタートします)
産婦が困った表情で上の子に「ごめんね」

実際の体験(産婦さんからのコメント)
「第3子を出産した際、上の2人は病棟前までしか入れず、私と離れる際に、大泣きであった。その状態を助産師さんは見ていたが、声をかけてくれることもなく、自分も離れるのが悲しくて、上の2人に申し訳ない気持ちで、悲しかった」。

本当はしてほしかったこと(産婦さんからのコメント)
「泣いている上2人に声をかけて欲しかった。『頑張ってるね』と助産師さんからも認めてあげて欲しかった」。

この体験にロールプレイで寄り添いました。


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ロールプレイ:参加者のコメント
私は7月1日と7月2日の両日のセミナーに参加しました。1日目のセミナーでは、大学生が参加者の中心でした。ロールプレイでは、産婦役の留学生が「なんでダメなの!」と助産師に詰め寄ったり、医療の知識がほとんどない看護学生が「助産師さん、なんとかしてあげてよ」と家族の立場で懇願したりして、助産師役の参加者が気の毒に感じました。一方、2日目のセミナーの参加者は、ドゥーラや助産師など、産婦のケアのプロたちがほとんどでした。リアルな演技の産婦役、レボゾというカラフルな布で産婦を包み寄り添うドゥーラ役、穏やかに産婦や家族に声を掛けリードする助産師役などの熱気にあふれていました。同じシナリオを使ったロールプレイでも、参加者が違うと、雰囲気が違うのだなと感じました。ロールプレイは、お産の経験レベルにかかわらず、参加者間でいろんな立場について楽しく学びあえる、サステナブルな学習方法だと思いました。
杉本敬子(助産師、筑波大学 助教)
飯村ブレット氏よりロールプレイセッションについてのコメント
ロールプレイでは各参加者がすべての役を演じるチャンスがあり、演じた経験についてコメントし合うことができて素晴らしかったです。自信がなさそうに見えた学生さんも、積極的に参加している様子に驚きました。このトレーニングの学習効果をもっと高めるためにはもっと時間をかけることを提案します。グループ内で振り返って終わりではなく、各グループでどんなことをしたかを全体で共有し、振り返り、比ベ合い、世界中で共通するような大事なポイントについて全員で話し合うための時間が十分にあれば、さらに学びが深まったと思います。
まとめ

バースエデュケーターは産前教育(妊娠中の両親学級)をおこなう仕事と一言で言っても、非医療者の立場で情報提供、アドボカシー支援、実質的サポート(身体的支援)、情緒的サポートなど多面的な非医療的支援を妊産婦とその家族に継続的に提供するという点でドゥーラととても似ていることがよくわかりました。特に、少人数のクラスであればあるほど個別的な対応となります。相手のニーズに合わせて、妊娠中にはバースエデュケーターとして、出産時にはドゥーラとしてかかわることもある飯村氏のご経験を知ることを通して、この2つの職業は、強調点は異なっても、職業的な境界はかなり緩そうに見えました。

今回は初めてのドゥーラトレーニング・セミナー開催で、時間不足などの課題は残りました。一方で、留学生や出産ケアに無関係な学生さんも参加しましたが、各グループに助産師やベテランドゥーラの方が一人以上入ってくださったことで皆が楽しく参加することができました。日本人ではなく、日本の医療現場の文化を知らない留学生が助産師役に「なんでダメなの!」と詰め寄るあたりは、飯村氏の「通常、特に日本では妊産婦さんは我慢している」という指摘を裏付けるものでもあり、『海外の動向を学ぶ』という今回の目的もかなえられた実り多いトレーニングイベントになりました。


【ゲスト講師プロフィール】

lab_03_48_05.jpg 飯村ブレット
認定バースエデュケーター(ICCE)、ドゥーラ。1997年に東京で出産教育センター(Childbirth Education Center:CEC)を設立。これまでに日本を含む80ヶ国、2,000組以上のカップルが両親学級や育児クラスに参加している。米国出身の日本永住者。現在は米国マサチューセッツ州在住。
ウェブサイト:https://www.facebook.com/ChildbirthEducationCenter.CEC/
http://www.birthinjapan.com/


執筆協力:界外亜由美
写真撮影:児島由季子


謝辞
本イベントはJSPS科研費 16K12135の助成を受けて実施しました。


    参考文献
  • World Health Organization (2018). WHO recommendations: intrapartum care for a positive childbirth experience. Geneva: World Health Organization; Licence: CC BY-NC-SA 3.0 IGO.

筆者プロフィール
rieko_kishifukuzawa.JPG 福澤(岸)利江子(ふくざわ・きし・りえこ)

筑波大学医学医療系 助教。助産師、国際ラクテーションコンサルタント。 ドゥーラに興味をもち、2003-2009年にイリノイ大学シカゴ校看護学部博士課程に留学、卒業。 2005年よりチャイルド・リサーチ・ネット「ドゥーラ研究室」運営。

ayumi_kaige2.jpg 界外亜由美(かいげ・あゆみ)

mugichocolate株式会社 代表取締役/クリエイティブディレクター・コピーライター。広告制作会社勤務後、フリーランスのクリエイターを経て起業。クリエイティブ制作事業のほか、「自分らしく、たのしく、親になろう」をコンセプトにした、産前産後の家庭とサポーターをつなぐMotherRing(マザーリング)サービスを企画・運営している。

※肩書は執筆時のものです

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